第5話捜査開始

三月五日、おれは大貫と一緒に春日井駅にやってきた。

神宮校長の身辺調査のため、まずは神宮校長の家へ行くことにした。神宮校長の家の場所は大貫が知っていた。神宮校長の家は牛山にある、オレと大貫は上飯田線に乗って牛山へ向かった。

「ところで、どうして神宮校長の家を知っていたのですか?」

「ああ、実は三ヶ月前に一度来たことがあってな、その時は校長の家で飲みに付き合わされたよ。」

それは神宮校長が新任の先生を迎えた時に必ずやる行事で、オレの担任の水島も経験している。水島先生いわく、神宮校長とコミュニケーションをとって親しくなるという、神宮校長の考えらしいが、本当は独身でさみしいのではないかと先生たちの間では囁かれている。

牛山駅で電車を降りたオレは、大貫の案内で神宮校長の家へと向かう。

住宅地の路地を進むと白塗りの大きな家に到着した。

「あれが神宮校長の家だ。」

「大きいですね・・・、この家に一人で住んでいるのは、確かにさみしくなるな。」

オレがそう思いながら見ていると、家の前に車が停まった。

「だれか来る、隠れろ」

オレと大貫は電柱の陰に隠れた、車から降りてきた人はメガネをかけていて、赤色のネクタイと黒のスーツを来た男だ。年齢は四十代から五十代前半くらいだろうか・・・。

男はそのまま神宮校長の家の中に入っていった。

「あの人、何しに来たんだろう・・・?」

「気になるのは解るが、今は調査が最優先だ。とにかく聞き込みから始めよう。」

オレと大貫は住宅地を歩きだし、道行く人に神宮校長のことについて聞き回った。

そして神宮校長の隣の家に住んでいる人と出会った。

その人は朝熊あさくまさんといって、神宮校長とは顔馴染みである。

「ああ、神宮さんか。あの人は近所じゃ、ちょっとした金持ちとして有名ですよ。何でも市の偉い人と友だちとかという噂があります。」

「それで殺人予告状が来てから、神宮校長はどんな様子でしたか?」

「いつもと変わりませんでしたよ、特に表情が暗いとか動揺している様子はありませんでした。」

オレは疑問を持った、重大な事件が起きるかもしれないこの状況で、いつも通りの心境でいられるわけがない。

「でも、小学校は二度の予告状で生徒先生のだれもが混乱しています。そのことをわかっているのですか?」

「そこまではわかりませんが・・・、神宮さんは今年度末で校長を止めて、とある学生寮の管理人に就職するそうなので、今さらじたばたしても本人はなんともないと思っているんじゃないかな?」

なるほど・・・、あくまで学校の中では気にしているということか。

「わかりました、お話聞かせていただきありがとうございました。」

「いいよ、そんなこと。卒業式が中止になって、こっちも悲しくなるよ。」

朝熊さんはそう言うと自宅へ帰っていった。

「神宮校長は内心では小学校のトラブルなどどうでもいいということか・・・。」

「こうなると神宮校長も怪しいなあ・・・」

「神宮校長がですか・・・?でも彼は実際に殺人予告状を送られた側ですし、もし仮に神宮校長の自作自演だったとして、そんなことをした理由がわかりません。」

「例えば・・・、神宮校長には人前には決して明かせない秘密があって、それをカムフラージュするために、あえて自分に殺人予告状が送られてきたことをでっち上げて、みんなの気をそらそうとしている。」

大貫の言うことにオレはおどろいた、もし大貫の言うとおりならこの事件、全てが変わるかもしれない。

「うーん・・・、オレは正直大貫さんの言っていることは信じられない。だけど大貫さんの言っていることも、間違っていないと思う。」

「まあ、事件の捜査はいろんな可能性を考えていくからな。ようするに結末は一つではないということだ。」

オレは大貫のように事件を見る目が無いことを実感した。

それから何人か聞き込みをしてみたオレと大貫だったが、収穫がなく今日は引き上げることになった。

帰りの電車でオレは大貫に言った。

「大貫さん・・・、オレはこの事件の真相を解くことができるのか不安だよ」

「おいおい、何を今さら弱気になっているんだ?不安なのは解るが、自分でやると決めたんだから最後までやりとげるんだろ?卒業式と入学式を待っているみんなのために」

大貫は元気づけるように言った、その顔はトラを思わせるかのような怖い顔ではなく、だれかを元気づける顔になっていた。

「うん、弱気になってごめんなさい・・」

「いいよ、おれだって昔は弱気になったことくらいある。」

互いに恥ずかしく笑うオレと大貫を乗せて、電車は走るのだった。







翌日の三月六日、牛山の神宮政道じんぐうまさみちの家。

神宮はここ最近、自分を狙っている人がいると気が気でしょうがなかった。

その事実は仲間の美野島から聞いて知った。

「奴らは卒業式の中止をなんとか阻止しようとしている、その中で私たちの計画を突き止めてしまうおそれがある。」

まさか悪事をカムフラージュするつもりでしたことが裏目に出るなんて思わなかった。

神宮は教育長の田中に金を渡して、田中の選挙を助ける。その代わりに神宮は田中のつてをたどり学生寮の管理人となることで、老後の将来を安泰させようとしている。

しかしもしそいつらが神宮の目論みを突き止めて警察が動いたら、神宮の未来は破滅だ。

なんとしてでも、そいつらを黙らせなければならない。

神宮はさっそく鷹山佐武郎たかやまさぶろうに電話した。鷹山は神宮の親戚の子どもで、十九歳のニート。

鷹山は世間では五本の指にはいるほど有名な大学を卒業しているが、本人は全く働く気など無く、部屋で引きこもる生活をしていた。

なので親戚の家でお荷物になっていたのを引き取ったが、神宮家でも鷹山は相変わらずだった・・・。

そこで神宮は鷹山に金を渡して、計画に協力してもらおうと考えた。鷹山は金さえ渡せば大抵のことはしてくれた。

だから今回も鷹山を使えばいい、神宮は二階にある鷹山の部屋へと向かった。

「鷹山、ちょっと手を貸してくれ!」

「なんだよ・・・、うるさいなあ」

神宮がノックをしながら言うと、ドアを開けて鷹山が現れた。

ボサボサの髪に高校生だった時のジャージーを着て眠そうな態度、まさに引きこもりだった。

「鷹山、新しい仕事だ」

「今度はどんな仕事ですか・・・?」

鷹山はあくびをしながら言った。神宮はイラッとしながらも要件を言った。

「私たちのことを調べようとしているやつらがいる、美野島と一緒にやつらを見つけて黙らせろ。」

「え〜っ、面倒だな・・・」

鷹山は脇腹をかきながら言った。

「やれと言ったらやるんだ!やらないなら、ここから出ていってもらおう」

「わかりました・・・」

鷹山は神宮に従った、ここを追い出されては彼に行く当てはない。

「それで、具体的に何をすればいいのですか?」

「作戦の発案は美野島に任せて、お前は美野島の指示通りに動けばいい。」

すると玄関のインターホンが鳴った、神宮が出ると美野島がいた。

「おお、よく来てくれた。」

「神宮様、今日はお話しがあって参りました。」

美野島は上がると神宮と鷹山と一緒にリビングへ入った。

「美野島、まず話しというのを聞かせてくれ。」

「はい、まず我々の計画について調べている者たちについて詳しいことがわかりました。」

「者たちということは、二人以上いるということか?」

「はい、二人います。まず一人目は岡部学戸おかべがくと、そしてもう一人は大貫虎二おおぬきとらじです。」

「なんだって!?」

神宮は目が飛び出るほどに驚いた。

「そんな・・・、わが校の生徒と用務員が・・?」

「はい、この二人がわれわれを調べ回っているのです。」

「どうしてそんなことをするのだ?」

「おそらく・・・、入学式を中止にしたことを真に受けて、それを阻止しようと活動していると思われます。」

「ええい、余計なことを・・・。今すぐに止めさせるんだ!」

「かしこまりました、ですがもう脅迫状は使えません。これ以上出すと、さすがに怪しまれます。」

「そうか・・・、じゃあどうすれば・・?」

「あの、いっそ捕まえてしまうというのはどうだ?」

鷹山が意見を言った。

「神宮さん、その方は?」

「ああ、紹介がおくれたな。家で預かっている親戚の息子で鷹山というんだ。」

神宮に紹介され、鷹山は美野島にあいさつした。

「鷹山、それは誘拐ということだが、やる気はあるのか?」

「はい、ただ協力が必要だからそこの所はお願いします。」

「よし、それじゃあ誘拐作戦と行こう。」

神宮は右手で膝を叩いた。

「誘拐となると狙うのは岡部一人の方がいいでしょう。」

「そうだな、それでいつやるんだ?」

「明日の放課後、私が水島に頼んで岡部を呼び出します。そこを鷹山と私で捕まえて、私の車に乗せていって、貸倉庫に閉じ込めます。」

「それで、オレは何をやればいいんだ?」

「あなたには岡部くんの捕獲をしてもらいます。失敗はできませんよ、いいですか?」

「ああ、わかった・・・」

鷹山は上手く行くかどうか緊張してきた。

そして美野島が家を出て直ぐに、電話が鳴った。

「もしもし、神宮です。」

「神宮さん、約束の金は用意できましたか?」

電話の声を聞いて神宮は緊張した、声の主は教育長の田中の秘書をしているからだ。

「はい、何とか用立てています・・・」

「ふむ・・・、もう三月だが間に合うのか?」

「必ず間に合わせて見せます。」

「もうすぐ次の市長選だ、それまでに一千万円用意しないと、お前の面倒は見れん。」

「承知しています、必ずや田中先生のために用意しますので・・・」

「では失礼する」

電話がきれると神宮はほっと胸を撫で下ろした。

「神宮さん、今の電話は?」

「ああ、学校の関係者だよ。それよりもお前は、早く作戦の準備をしなさい。」

「へ〜い」

鷹山は自分の部屋に戻っていった。







午後七時三十分、オレがみんなでご飯を食べていると、仕事から東阪さんが帰って来た。

「東阪さん、お帰り。」

「ああ、ご飯できていたんだ。おれも食べるよ。」

そして東阪は食卓に参加した。

「そういえば、何か取材しているのか、とてもいそがしそうだな。」

「そうよね、一緒にご飯を食べることあまりないもんね。」

遥輝と真理が言うと彼は言った。

「ああ、今とんでもないネタをつかみかけているんだ。悪いけど、このネタについては口外できない。」

「それって、知ったら命に関わることじゃないか?あまり危険な目に遭わない方がいいぞ。」

「そうよ、戸締まりとか細かい用心をした方がいいわよ。」

遥輝と真理は東阪さんに忠告した。

「ご忠告ありがとう、おれは大丈夫だから心配するな。」

東阪ががんばって捜査をしているのを見て、オレも負けてられないと思った。






















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