第4話今度は卒業式

二月二十七日、オレが朝食を食べていると東阪さんが帰って来た。この日東阪さんは、緊急の事件があったということで午前三時頃に出ていったのだ。

「お帰りなさい、何かあったの?」

「今は言えないけど、ニュースを見ればわかる。」

そう言って東阪は自室へと行ってしまった。

オレは朝食を食べ終えると、テレビのニュースを見た。その内容にオレは唖然とした。

「昨夜午後九時頃、神宮政道の自宅に再び殺人予告状が届きました。その内容は・・『卒業式の日に巣立ちする鳥たちの羽をりに行く、鳥ちの悲鳴ひめいが楽しみだ』・・という内容で、卒業生を殺すという内容が示唆しさされていると警察は考えています。この予告状は神宮家のポストに投函とうかんされていたことから、警察は入学式中止の予告状を出したのと同一犯の可能性があると見て捜査を進める方針です。」

新たな予告状が届いた・・・、しかも今度は卒業式を狙っている。

「犯人の目的は何だろう・・・」

オレはますます犯人がだれなのかわからなくなった・・・。

今日は日曜日、オレは犯人について今までの記録を整理しながら考えていた。

すると真理がオレに声をかけてきた。

「学戸、あなたに電話よ。大貫という方から」

「大貫さんから!?」

オレは驚いて電話に出た。

「もしもし、大貫さん?」

「そうだ。お前、今朝のニュース見たか?」

「うん、また殺人予告状が来たんだ。今度は卒業式だってさ」

「そのことについて話し合いたいんだ、また家に来てもいいか?」

「今日は親がいるからダメなんだ、それじゃあ『まきば』で会えませんか?」

まきばはオレの家の近くにある喫茶店きっさてんである。

「いいよ、それじゃあ十時に集合ということで。」

「それじゃあ。」

オレは電話を切ると自分の部屋から財布さいふを持ってげんかんに出た。

「ねえ、さっきの電話に出た大貫さんって人、知り合いなの?」

「うん、大人だけどオレの相棒だよ。」

「変な人じゃないよね?」

「学校の用務員だから心配しなくていいよ。」

驚いて何も言わない真理を置いて、オレはまきばへ向かった。







まきばについてカウンター席に座ると、マスターの蔵野くらのさんが声をかけてきた。

「あれ?今日は一人で来たのかい?」

蔵野さんとは顔馴染かおなじみで、前から吉野夫妻よしのふさいと一緒にまきばには来たことがある。

「うん、あのオレの隣の席を空けてもらってもいいですか?これからお客さんが来るんです。」

「かしこまりました、ご注文も後の方がよろしいですか?」

「うん、お願いします。」

オレが席についてから十分後、大貫がやってきた。

「もう来てたのか、おくれて悪かったな。」

「ううん、オレもついさっき来たから気にしないで。」

オレはクリームソーダ、大貫はカフェラテを注文した。

「それじゃあ話そうか、昨日の殺人予告状について。」

「うん、犯人は入学式だけじゃなくて卒業式も、中止に追い込もうとしている。犯人の動機は、神宮校長へ何かしらのうらみが一番高い。」

「でも、二回も予告状を送るってハッキリ言って変だ。予告状通りに実行するのは、現実的じゃない。」

「ということは予告状の目的は、おどしということだな。」

「それと予告状は決まって神宮校長の自宅のポストの中に入っている、これが不自然だな。」

「不自然とはどういうことだ?」

「神宮校長個人への恨みならまだしも、入学式を襲撃する予告なら学校にするのが自然じゃないか?」

「確かにそうだが・・・、おれとしてはそもそも、犯行前に予告状を出すこと自体に違和感を感じる。」

「大貫さん、どういうこと?」

「考えてみろ、お前が仮に犯罪をするとしてみんなに言いふらしたり、大声でやることを叫んだりするか?」

「それはしないな。」

「だろ?予告状を出すのはそれと同じことだ、そうなると犯人の目的は・・・?」

「・・・犯罪というよりも、混乱を引き起こそうとしている・・・?」

「そうだ、岡部。これはもしかしたら、愉快犯ゆかいはんの可能性も出てきたぞ。」

愉快犯とはただ人たちを脅したりして、混乱する人たちを見て楽しもうとする犯人だ。

「愉快犯だと、犯人は神宮校長の家の近くにいる可能性があるな。」

「そうだな、そこのところを踏まえて捜査をしてみよう。」

それからオレと大貫は、注文したクリームソーダとカフェラテを飲んだ。

「それで話を変わりますが、大貫さんは春日井市の教育長に関する陰謀いんぼうについてご存じですか?」

「陰謀・・・?何のことだ?」

「その教育長は田中というのだけど、次の市長選挙で市長の座を狙っているんだ。そのために裏で金を集めさせているらしい。」

「ほぅ・・・、田中の名前なら聞いたことあるな。教育施設の改善に力を注ぐと選挙で言っていたが、もしそれが本当ならとんでも無いやつだ。」

「それで、その田中は先生たちから金を集めさせているそうなんだ。その金をいろんな人に渡して、自分への票を集めているんだよ。」

「おいおい、それが本当なら公職選挙法違反こうしょくせんきょほういはんじゃないか。」

「うん、それでこれはもしかしての話なんだけど・・・、神宮校長と田中は裏でつながっているんじゃないかって思うんだ。」

「確かに本当なら事件になるな、だがそれはあくまで予想にすぎない、確証のある証拠が無かったらただの陰謀論いんぼうろんで終わるぞ。」

オレは大貫の言うとおりだと思い、この意見を引っ込めた。

そしてオレはクリームソーダを飲むのであった。







翌日の二月二十八日、オレが教室に入ると菊乃が声をかけてきた。

「ねえ、一昨日おとといのニュース見た?」

「ああ、見たよ。卒業式も無くそうとしているそうだね。」

「あたし、犯人が許せない・・・。何であたしたちの入学式だけでなく、卒業式も無くそうとするのよ・・・。」

菊乃は涙を拭きながら言った、オレはその姿が見ていられなかった。

「ふーん、まあ卒業式も入学式も中止になったところでおれたちには何の問題もないから気にしないけど?」

神田が呑気そうに言った。

「あんたねぇ・・・」

ケンカの予感がしたオレは、怒る菊乃をあわてて止めてなだめた。

「とにかくオレと大貫さんで事件の真相を解きあかしてやる。」

「本当に?本当に犯人は捕まるんだよね?」

菊乃はオレにせがんできた、そこまでプレッシャーをかけられるとオレの心が重くなるんだよな・・・。

「う、うん。必ず捕まるさ」

菊乃はオレから手を離すと、安心した顔で自分の席へと戻っていった。

学校の中はすっかり入学式と卒業式の中止の噂で持ちきりだった。

「卒業式も中止かな・・・?」

「予告状の犯人はだれ?」

「もしかしたら、だれかの親かもしれないぜ。」

放課後になるとこんな会話が聞こえるようになった、早く解決しないとますます大きな騒ぎになる。

解決のためには、やはり神宮校長の身辺調査が必要だ。

オレはそんなことを考えながら歩いていると、給食準備室と階段の間にある空間で神宮校長と美野島がコソコソと何か話していた。

『田中に出す金の用意はできたか?』

『はい、今のところ二百万円は集めました。』

『二百万円じゃ全然足りない、最低でも一千万円は必要だ。わしが五百万出すから、お前も五百万用意しろ。』

『五百万円ですか・・・、ここまで大金となると私としては用意するのは不可能です。』

『何を言うか、用意できなければワシとお前の将来がどうなってもいいのか?』

小さい声だけど、神宮校長は美野島を脅している。美野島は何も言えずにモジモジするばかりだ。

『それは困ります・・・』

『だったらなんとしてでも、五百万円を用意するんだ。いいな?』

そして神宮校長はその場を去っていった、美野島は全身の緊張が解けてほっとしている。

「やっぱり神宮校長と美野島は裏でつながっていたんだ・・・、でも神宮校長と美野島はどうして一千万円なんて大金を用意しようとしているんだろう?」

オレはすぐにこの話を大貫にしたくて、急いで用務員室へ向かった。

「大貫さん!」

「おお、岡部。どうしたんだ、そんなに慌てて?」

「実はさっき、神宮校長と美野島さんが話しているのを見たんだ。」

「なんだって!?」

オレは大貫にさっき見たことを話した。

「そうか・・・、神宮校長と美野島は裏でつながっていたのか。」

「どうして一千万円が必要なのかな・・?」

「そこは調べてみないとわからないな、まずは身辺調査の計画を立てよう。」

オレと大貫は計画について念入りに話し合った。

「あっ、もうすぐ戻る時間だ。それじゃあ」

「おう、またな。」

「ちょっといいかな?」

オレが用務員室から出ると、美野島がオレに声をかけてきた。

「どうしたの?」

「さっき用務員室から出るのを見たけど、何をしていたの?」

「えっと・・・」

オレは言葉に詰まった、用務員室は用務員しか行かないので理由が思い浮かばない。

すると大貫が扉を開けて、美野島に言った。

「美野島先生、どうしましたか?」

「大貫さん、実は岡部くんが用務員室を出るのを見ましてね、何をしていたのか聞いていたんですよ。」

「ああ、そうでしたか。実は作業を手伝ってもらっていたんです。自分から手伝ってくれたんですよ、本当に素晴らしい学級委員長だ。」

大貫は手放しでオレをほめた、美野島はオレと大貫を疑いの目で見つめていたが、「そうですか」と言ってその場を去った。

「ありがとう、大貫さん。」

「岡部・・・、悪いがしばらく用務員室に来るのは止めた方がいい。美野島はおれたちを探っている。」

大貫は真剣な表情で言った、オレはうなずいて返事をした。








そして三月になり、卒業式が近づいてきた。

この時期は学校での色々な行事や日々を思い出す。

しかしオレの学校は卒業式の中止が噂となり、それどころではない。

事件の捜査のため、オレと大貫は三月五日に本格的な神宮校長の身辺調査をすることになった。

しかしその前日の三月四日、また事件が起きた。

「岡部くん、ちょっといいかしら?」

真理が心配そうな顔でオレに言った。

「どうしたの?」

「今朝、新聞を取りに行ったらこれが入っていたの。あなたてなんだけど、切手も消印けしいんも無いみたいで・・・。中身は先に見たけど、岡部くん何か知ってる?」

そう言って真理はオレに封筒ふうとうを渡した。

「これって・・・」

オレはまさかと思い、直ぐに封筒を開けて中身を見た。



『オレを追いかけると、消えることになる。』




封筒の中はこの文章がなぐり書きされた紙が一枚だけだった・・・。

「やはりオレと大貫が、犯人を追いかけていることが知られている・・・。」

オレは難しい顔で考え込んだ。

「どうなの、岡部くん?」

「・・・知らないよ、オレは何もしていない。」

「ならイタズラかしら・・・、それだけならいいけど怖いわ・・・」

真理はおでこに手を当てて悩んだ。

オレは犯人への闘志がますます高まった。






















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