第2話相棒はタイガー

翌朝の二月十四日、オレはみんなと一緒にリビングで朝食を食べた。

といっても昨日オレに事件のことを訪ねた東阪さんはいない、仕事の出勤が早いからだ。

リビングのテレビに、昨日の事件がニュースで流れていた。

「春日井市西小学校の校長に殺人予告状、ターゲットは入学式の子どもたち。」

テレビ画面の右上にニュースの字幕じまくでそう書かれていた。

「ねぇ、学校から何か知らせとかってないの?」

トーストを食べるオレに山中さんが質問した。

「今のところは何も、というか山中さんもこの事件に興味あるの?」

「そういうわけじゃないけど、SNSでもかなり話題になっているから聞いただけよ。」

そりゃそうだ、事件の段階になっていないとはいえ、子どもを狙う犯人からの殺人予告状はかなりの衝撃を覚えるだろう。

オレは朝食を食べ終えると、ランドセルを背負って登校した。

「ちょっと君、私と一緒に来て」

突然背後から声をかけられて振り向くと、近所の内村うちむらさんが声をかけてきた。

「内村さん、どうしたんですか?」

「今日から集団登校することになったから、一緒に来なさい。」

「わかりました、もしかしてあの殺人予告状の影響ですか?」

「ああ、昨日早急で町内会議が開かれて、事件が解決するまでは、集団登下校することになったんだよ。」

こうしてオレは五人のみんなと、内村さんたち三人の大人と一緒に学校へ向かった。

教室に向かう途中、校長室から何人かの大人が話し合う声が聞こえた。

オレは校長室のドアに耳をかたむけた、するとこんな声が聞こえた。

「それであなたに恨みを持っている人物に心当たりはありますか?」

「うーん・・・、あまり覚えは無いですね。」

「あなたの家の郵便受けに入っていたということは、あなたと近い関係の人物である可能性もあります。」

「家に呼んだ覚えのある人は何人かいますが・・・、その人たちとトラブルになったことはありません。」

「となるとこれは愉快犯の線も考えられますね・・・、とにかく神宮さんと何かしらのつながりがあることにまちがいありません。」

「とにかく捜査を進めてください、私も情報提供をおしみなくするつもりです。」

どうやら神宮校長と警察官が事件について話しあっているようだ。

「やっぱり犯人についての予想は、オレと同じだ。となると次は事情聴取だな。」

「おい、何をしている」

突然誰かがオレのかたに手を置いた、その低い声にオレは聞き覚えがある・・・。

オレは恐る恐る振り返ると・・・、そこにいたのはタイガーこと大貫虎二だった。

「あ・・・あの、ちょっと何を話していたのか気になって・・・」

「早く教室に行くんだ!!」

大貫さんからトラが吠えるような声が聞こえた。

オレは耳を塞ぐ、そして校長室のドアが開いた。

「何かあったんですか!?」

神宮校長と二人の刑事が出てきた。

「あ・・・、大変失礼しました。この生徒が校長室での会話を盗み聞きしていたので、注意したんです。」

「ごめんなさい・・・」

大貫に合わせてオレは神宮校長に謝った。

「全く、生徒とあろうものがそんなことをするもんじゃあない。しかも君は学級委員長じゃないか、自覚が足りないんじゃないのか?」

神宮校長はネチネチとオレを責めた。

「まあ、今回が初めてだから大目に見てやってください。」

「まあ、大貫君が言うならいいが・・・」

「あれ?もしかしてお前大貫か?」

「ん?あっ、獅子牡ししおか!?」

大貫の知り合いらしき刑事・山上獅子牡やまがみししおは懐かしさで笑顔になった。

「いやあ久しぶりだなあ、刑事を引退して用務員になったと聞いていたが、この学校にいたとはなあ。」

「そう言えば大貫さんは、元刑事でしたね。お知り合いですか?」

「はい、警察学校からの付き合いです。」

「あの、あなたが虎二さんですか?あの『犯人狩りのトラ』と言われている・・・」

もう一人の刑事が言った。

「獅子牡、お前の後輩こうはいか?」

「ああ、鹿野秀介かのしゅうすけだ。おい、あいさつしろ。」

「初めまして、鹿野です!大貫先輩に会えて光栄であります。」

鹿野は大貫にあいさつすると、元気に敬礼した。

「いいあいさつだが、先輩は止めろ。おれはもう引退したんだ」

「ああ、すみません」

「それじゃあおれたちは仕事に戻る、お前も仕事がんばれよ。」

山神と鹿野は捜査のために学校を後にした、オレも急いで教室へと向かった。








昼放課になり学級委員長の仕事を終えたオレは、校庭の隅でこれからの捜査について計画を練った。

「とにかくまずは校長の身辺調査だ・・・、神宮校長の住所は調べてあるからいいとして・・・、教頭先生からの聞き込みと・・・」

「おい、お前」

突然、大貫さんに声をかけられてオレは驚いた。

「大貫さん・・・、どうしたんですか?」

「お前・・・、もしかしてと思うが、あの事件について考えていないか?」

大貫さんに考えていることを見抜かれて、オレはさらに驚いた。

「どうしてわかったんですか?」

「その目だ、刑事だった時のおれと同じ目をしていた。」

「うん、そうだよ。オレがこの事件の真実を明かすんだ」

「ふざけたことを言うな!!」

再び大貫は怒った。

「いいか?小学生が探偵気取りで関わると、命を失うかもしれないんだぞ!現実の事件というのは、そういうことが多い。だから簡単に足を突っ込むな!」

「探偵気取りじゃねぇ!!」

オレは大貫さんに負けないくらいの大声で言った。大貫は言い返されてとても驚いた。

「オレは本気で事件を解き明かしたいんだ、誰かわからない奴のせいで入学式が中止になるなんてオレはイヤだ!今年入学する新一年生と進級するオレたちのために、入学式は必要なんだ・・・」

オレは大貫に思いを伝えた、でもまた怒られるだろうな・・・。

オレはそう思っていた、しかし大貫はオレの肩に手を置くと優しく言った。

「今どき、学校のことを思ってくれる小学生なんていないよ。君には感心するが、君だけで事件に関わるのはよくない。」

「そうだよね・・・」

「じゃあ、手を貸してやるよ。」

「えっ・・・?」

大貫が言った突然の一言にオレは言葉が出なかった。

「おれとお前で捜査をするんだよ、そしてこの事件の犯人を見つけて警察に知らせる。そうすればお前も納得するだろ?」

まさか大貫が手を貸してくれるなんて、予想もしていなかった。オレは恐る恐る大貫に質問した。

「本当に力を貸してくれるの?」

「ああ、そうだと言っている。」

「ありがとう・・・、よろしくお願いします。」

オレは大貫と握手をした、心強い味方を持ってオレは嬉しくなった。

「ところでまだお前のちゃんとした名前を知らないな、名前は?」

「岡部学戸といいます。」

「そうか、改めてよろしくな。」

こうしてオレと大貫は入学式を守るべく、一緒に事件を解決することになったんだ。





それからオレは大貫と毎日会って、事件の推理と捜査の計画を立てることを決めた。

二月十五日、放課後にオレは大貫のいる用務員室へと入っていった。そして大貫と相談した。

「あれから犯人について考えたけど、やっぱり犯人の目的は神宮校長を陥れることにあると思うんだ。」

「そうだ、入学式を中止にしてもその責任が発生するからな。」

「犯人は神宮校長の近くにいて、神宮校長を憎んでいるか、もしくは何かしらの理由で排除しようとしている。」

「そうだ、そうなるとこの学校の先生たちも容疑者になる。」

「教頭の美野島みのしま先生はどうかな?」

「うーん・・・、美野島はあんまり校長のこと悪く言わないなあ・・・」

「とりあえず、神宮校長について聞き込みしてみよう。何か手がかりが解るかもしれない。」

そしてオレと大貫さんは職員室に入って、先生への聞き込みを始めた。

職員室に入ろうとした時、大貫さんが言った。

「岡部が聞くと怪しまれるから、私が質問する。岡部は聞いたことをメモに書いてくれ。」

オレはポケットからメモ帳とシャーペンを取り出した、そして職員室に入ったオレと大貫は、まず福平先生ふくべいせんせいに質問した。

「神宮校長について何か知らないか?」

「さあ、何もわかりませんね・・・。それにしても大貫さん、神宮校長のことが気になるのですか?」

「ああ、あんな事件に巻き込まれてしまって、正直同情しているよ。」

「神宮校長と言えば・・・、もしかしてあのことが・・・」

細野ほその先生が何かを思い出した。

「何か知っているのか!?」

「黙っていたんですけどね・・・、放課後になると神宮校長は校舎裏で誰かと電話しているんですよ。私は図工で使う木材を補充している時にそれを見かけました。時刻は午後一時二十五分頃かな。」

「細野さんも見たんですか?」

保健室の明子あきこ先生が言った。

「明子さんも見たのですか?」

「ええ、私は保健室へ向かう途中で校舎の中から見ました。見たのは午後一時三十分くらいかしら、どんな電話なのか気になったので、校長に聞いたんです。」

「それで校長はなんて言ったんだ?」

「奥さんと話したと言っていましたので、それ以上は詮索しませんでした。」

「そうか、ありがとう。」

大貫さんはそう言うと岡部のところへ戻ってきた。

「今までの会話、メモしたか?」

「うん、放課後に校長が校舎裏で誰かと電話している。それはとても気になるな」

「今はもういないから、明日現場を見てみよう。」

そしてオレと大貫さんはその日の調査を終えた。









二月十六日、放課後。

オレと大貫さんは校舎裏で張り込みを始めた、時刻は午後一時二十二分。

「あっ、神宮校長だ!」

車の物陰からオレと大貫は神宮校長を見ていた。

神宮校長は辺りをキョロキョロすると、スーツのポケットからスマホを取り出して電話をかけた。

「もしもし、私だ。次の会合の予定は・・、ああわかった。いつもありがとうな、これで私の老後は安泰だ・・・、それじやぁこれからの計画は慎重にな。それじゃあまたね。」

神宮校長は電話を切ると、校舎の中へと入っていった。

「やっぱり、何かしら電話をしていましたね。」

「老後は安泰とか計画は慎重にと言っていたな、神宮校長は間違いなく何かしらの計画に関係しているのかもしれない。」

「計画ってなに・・・?」

「わからない、でもかなり大きな陰謀が渦巻いている気がするな・・・」

オレと大貫さんは何か見えない所で、大きな計画が動いている気がした。

「おや、二人とも。そこで何をしているのかな?」

突然、美野島先生が声をかけてきた。

「えっ!?いや、ちょっとその辺を歩いていたんだよ・・・」

オレは慌てて言い訳をした。

「いや、私は庭の作業の用意をしていました。岡部くんには手伝ってもらっていました。」

大貫が冷静に言い訳すると、美野島はため息をついて言った。

「いいですよ、私はただ通りかかっただけですから・・・。」

そう言うと美野島先生は去っていった。

「ありがとう、大貫さん。」

「・・・要注意だな。」

大貫さんは真剣な顔で言った。

「ん?何にですか?」

「あの美野島にだ、美野島は確実におれたちを探っている。」

「美野島が・・・」

オレは驚いて声が出なかった、どうやらかなり大きな計画が影でうごめいているようだ。













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