学級委員探偵と用務員刑事 ・入学式への予告状

読天文之

第1話入学式中止!?

「ふぁ〜っ・・・、やっと期末テストが終わったよ。昨日は勉強しすぎたな・・・」

まだ寒い二月十三日の午前十一時五分。

愛知県春日井市立西小学校あいちけんかすがいしりつにししょうがっこうの四年一組、期末テスト終了後の教室でオレ・岡部学戸おかべがくとは、眠そうに体を伸ばした。

そこへ菊乃きくのナミが明るく声をかけた。

「委員長、今日の昼放課にドッジボールをしようよ!」

「おう、いいよ」

オレはこのクラスの学級委員長をしている、頭が良くて成績せいせきもこの学年クラスでは一番、でも運動はあまり得意ではない。

だからドッジボールも本当は参加したくないのだが、クラスの学級委員長として断るわけにはいかないから参加するのだ。

「さて、黒板を消しておこう。」

学級委員長の仕事は黒板の清掃とチョークの管理に、先生からのプリントがあれば生徒達に配るなどいろいろある。大変だけどオレはそれをそつなくこなすことができる。

そして給食と掃除が終わると、みんなの楽しみである昼放課の時間になった。

オレが校庭に来るとすでにクラスの九人が集合していた。

「遅いぞ、委員長!」

神田重郎かんだじゅうろうが言った。四年一組ではオレのことを委員長と呼んでいる。

「ごめん、それじゃあやろうか。」

五人ずつ分かれてAチーム・Bチームの二つのチームができた。

オレはBチームに入った。

試合が始まったが、岡部はボールを取ることができずに、必死に逃げ回るだけだった。

「委員長、運動だけは苦手だなあ」

Aチームの生徒たちが、ボールを追いかける岡部を見て笑った。

そしてボールは菊乃の手に渡ったが、菊乃はボールをオレに渡した。

「委員長も、投げてみてよ。」

「えっ、当てられるかな・・・?」

「だいじょうぶよ、きっと当たるから」

菊乃の言葉は当てにならないが、期待されているならやるしかない。

岡部は思いっきりボールを投げた、ボールはねらいとは大きく外れた方向へと飛んでいき、学校の花壇にいた男の頭に当たった。

「あーっ!やってしまった・・・」

「それどころじゃねえよ!よりによって、タイガーに当ててしまうなんて・・・」

ガキ大将の神田が青い顔でふるえた。他のみんなもふるえたまま後退りしている。

みんながタイガーと呼んでいるこの男の名は大貫虎二おおぬきとらじ、この学校の用務員ようむいんをしている。

用務員というと学校では地味なイメージだが、大貫は体格が大きく目はトラのように鋭いことから、『先生よりこわい用務員』とみんなの間で恐れられている。

大貫さんの恐ろしい話はいくつかあり、例えば去年の夏休みのある日、午後六時ごろにこの学校の校庭で四人の中学生が花火で遊ぶという事件があったのだが、それを見かけた大貫さんが四人に猛スピードで向かっていき、あっという間に四人を殴り、全員捕まえたという。

その見た目と名前のとらが合わさったことで、今では『タイガー』とみんなは呼んでいる。

そんな大貫さんがオレのところへボールを持ってきた。

オレもみんなも大貫さんを前に動けなくなっている。

「このボールを投げたのはだれだ?」

大貫さんが質問すると、オレは「ぼくです」と手を上げて名乗った。

ここにいただれもが「やられる!」と思っていた。

「気をつけて遊べよ」

大貫はそれだけ言うと岡部にボールを渡して、花壇へと戻っていった。

オレは緊張が解けて、その場にへたりこんだ。

「なぐられるかと思ったけど、よかったな委員長。」

「やっぱり大貫は怖いよ、大貫より背が高い人なんて見たことないもんな。」

「ぼく、お父さんから聞いたことあります。大貫はかつて刑事だったって。」

永松勝呂ながまつすぐろが言った、彼のお父さんはPTAの会長をしている。

「その時から『犯人狩りのトラ』と言われて、警察の間では知る人ぞ知る人だったそうです。」

「確かに刑事かヤクザの方が似合うよな。」

オレとみんなは花壇で土を掘っている大貫さんを見ながらそう思った。










二月十八日、オレはいつも通りに教室に来た。

今日もいつも通りに過ごしていく・・・かに思っていたけど、この日は教室に行く途中に担任の水島みずしま先生からこう言われた。

「今日は校長先生から緊急朝礼があるから、みんなに声をかけておいて。」

オレは教室に入ると机に荷物を置いて、ランドセルをロッカーにしまうと、みんなに大きな声で言った。

「今日は緊急朝礼があります、速やかに廊下に並んでください!」

「委員長、緊急朝礼ってなんだよ?」

神田がオレに質問した、しかしオレは内容を知らない。

「水島先生からそう言われたんだよ、とにかくみんな早く並んで」

「教えてくれたっていいじゃないか・・」

神田は文句を言いながらもみんなと一緒に列にならんだ。

朝礼の時にみんなを並ばせて先頭に立って歩くのも委員長の仕事だ。

オレはみんなを並ばせると、やってきた水島先生に並んだことを報告した。

そして水島先生の後ろをついていきながら、体育館へと向かった。

体育館では他のクラスがきちんと列に並んでいた。

オレは行儀よく並びながらも、頭の中ではなぜ朝礼が行われたのか考えた。

「朝礼は毎週月曜日のはずだ、ということはやはり何か緊急事態があったのかな?」

そして朝礼が始まった、校長の神宮政道じんぐうまさみちが舞台の上に上がりマイクを片手にみんなに告げた。

「えー、全校生徒諸君、そして教師の方々。今回は緊急に知らせなければならないことが起きましたので、今回緊急朝礼をさせていただくことになりました。みなさん、大変残念ですが・・・今年の入学式は中止させていただきます!」

「えっー!?」

校長の衝撃的内容の発表に、オレもみんなにつられて声を上げた。

「入学式が中止・・・、これはただごとじゃないぞ。」

そして校長はなぜ入学式が中止になったのかを説明した。

「みなさん、どうして入学式が中止になったのかを説明いたします。実はこの学校に殺人予告状が届いたのです。」

「殺人予告状って・・・、マジかよ?」

「えー、怖いよ」

オレの周りから小さな声でみんなの恐怖が伝わってくる。

そして校長はみんなの前で自宅に届いたというその殺人予告状を読み上げた。

『この学校の入学式の日、子どもたちを血祭りにあげてやる。入学式が赤い血で染まることを楽しみにするがいい。』

「殺人予告状か・・・、どうしてこんなものを送りつけたんだ?」

そもそも犯罪者は相手に犯行を予告するようなことはあまりしない、ということは犯人の狙いは入学式の中止なのか?

そして朝礼は終わり、オレはみんなと一緒に教室へと戻ってきた。

水島先生が教卓に立ち、改めて入学式の中止について説明した。

「えー、みなさん。先程校長先生の説明どおり、今年の入学式は中止となりました。これは生徒たちの安全を守るための決断です、残念ですがわかってください。」

オレは「はい」と返事をしたが、内心はこの事件のことについて考えていた。






二時間目の放課、次の授業の用意をしていると菊乃が声をかけた。

「ねえ、岡部くん。本当に入学式は中止になるの?」

「今のままだとね・・・」

「入学式、楽しみにしていたのに・・・」

菊乃の顔はさみしそうになった。

「うん、そうだね。それにしてもまさかあんなことになるなんて・・・」

オレは今でも入学式中止の発表が信じられない。

「おいおい、入学式なんてどうでといいだろ。おれたちもう四回も参加しているんだからよ。」

神田がオレと菊乃にむかって言った。

「何よ、入学式がなかったら進級した実感がないじゃない。」

「そんなの二年生までの話だろ、それよりも体育館で規律正しくしているの、面倒なんだよな。」

「そりゃ入学式なんだからしょうがないでしょ?」

「おれ、今年の入学式はドタキャンしてやろうと思っていたけど、中止になるなら丁度いいや。」

「神田くん、やっぱり何か企んでいたな」

オレはため息をついた、神田はオレのクラスでは一番の問題児で、時々悪巧みをしてはそれを実行する。そのせいでオレが迷惑を被ることもある。

「とにかく岡部くん、この事件を調べてよ。お願いします!」

菊乃が頭を下げてお願いした。

どうしてかというと、オレは学級委員長としてこのクラスで起きた事件を、度々解決してきたからだ。

しかし今回の事件は教室で起こる事件とは明らかに違う、簡単には解決しない・・・。

「無理だよ、今までとは違う。」

「ほら、委員長も無理と言っているから、あきらめなよ菊乃」

神田が言うと菊乃は悔しそうな顔でオレから離れた。

でもオレは、オレだけでこの事件について調べることを決めた。







午後五時を回った頃、オレは家に帰宅した。

「お帰りなさい、学戸。今日の夜ご飯は唐揚げにしようかと思うけどいいかしら?」

「いいよ、それで」

オレは吉野真里よしのまりにそう言うと、自分の部屋へと向かった。

その途中で那谷筆夫なたひつおが画を書いているのを見つけた。

那谷さんは売れない画家で、今はコンクールに出す作品を書いている。

「おっ、学戸くんお帰り。」

「那谷さんただいま、その絵は次のコンクールに出すの?」

「おう、でもイメージとどうも違うんだよね・・・」

那谷さんは悩みながら絵を書き続けた。

「学戸くん、お帰り。」

次に会ったのは山中栞やまなかしおりさん、女子大生で今は夢である看護師になるためにがんばっている。

「ただいま、今日の夜ご飯は唐揚げだそうです。」

「あらそう、楽しみだわ」

山中さんは自分の部屋へと入っていった。

オレはちょっと変わったとこに住んでいる、ここにいるのは性別も仕事も夢も違う人たちが共同で暮らしているシェアハウスだ。

オレの両親は仕事で海外出張のため、年に会えるのは三回ほどしかない。だからシェアハウスの管理人をしている吉野家よしのけに、両親がオレを預けたんだ。

居候いそうろうみたいなもんだけど、真理と父の遥輝はるきには世話になっているし、ここで暮らす人たちからいろいろな話が聞けるので退屈はない。

オレが宿題をやろうとすると、地元新聞の記者をしている東阪孝介あずまざかこうすけがやってきた。

「岡部くん、君の学校に殺人予告状がきたということなんだけど、生徒たちの反応はどうだった?」

「みんな驚いていた、信じられなかったよ。」

「なるほど・・・」

東阪はメモを取った、おそらく明日の新聞に載るな。

「ところで殺人予告状はどうやってきたの?学校宛に直接来たの?」

「岡部くん、気になるの?誰にも言わないなら教えてあげる」

「うん、教えて。」

「あの殺人予告状は、神宮さんの家のポストに直接入っていて、今日の早朝に発見されたそうだよ。」

オレはここで疑問を持った、どうして学校じゃなくて神宮さんの家に手紙を送ったのか?

「ありがとう、それじゃあね。」

「おう、また何か聞きたいことがあったら行くよ。」

東阪が自室に行くと、オレは宿題そっちのけで事件について考えた。
















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