お昼休み
ろくいち
お昼休み
「やっとお昼だよぉ、おべんと食べよ〜」
4限目が終わり、ミクが弁当を持って、マキとモカのところに来て、机を合わせた。
「あれ、いつもと机の位置違くない?」
マキは不思議に思ったが、2人は「たまにはね」と言って向かい合わせに座った。
「まぁなんでもいいよ。お腹すいた」
「そうだ、聞いてよ!」
雑談の途中で、ミクが唐突に話し始めた。
「この間、美容院に行ったんだけどさ──」
「へぇ病院行ったんだ」
(ん?)
マキは、モカの相槌に若干の違和感を覚えた。ミクは、そうではなかったのか、そのまま話し続けた。
「そしたらお母さんが駐車に失敗しちゃってさ」
「え、注射で失敗したの? 大丈夫か?」
(んん??)
またしても、マキは違和感を覚えたが、ミクとモカで話が続く。
「それで、どうしたの?」
「いやぁ、美容師来るまでそのまま──」
「病死……車で……そのまま!?」
モカは、驚きと同情の入り混じった表情を浮かべている。
(これ、美容院と病院の聞き間違えのやつじゃん。こんなベタなこと本当にあるんだ)
マキは、事態を把握し、モカに伝えようとした。
「ねぇモカ、びよういんていうのは──」
「そんなことよりさ、彼氏ほしいよね」
こんどはモカが突然話を切り出した。
(え、そんなこと!? あんたその勘違いした状態で、そんなことって!?)
「ほんとそれ! でもやっぱり彼氏には身長差が必須条件じゃない?」
「わかるわぁ。慎重さがない男はダメだわ」
(わかった、これ。こいつらわざとだ)
「180以上ないとむりだよねぇ〜」
(ミクは身長のこと言ってるよね)
「大丈夫か? 20以上離れてると会話が成立しないらしいけど……」
(モカはIQの話してんな)
「へぇそうなんだぁ」
(ミク、あんたのIQが低いってバカにされてんだよ。気付いてんのか。打合せなしでやってんのか?)
カチャカチャン──おいマジかよ──
向こうで男子が箸を落としたようだ。
モカが、はっとして口を開いた。
「ねぇ、今あっちで……」
モカがミクに目配せする。
「なに?」
「箸を落とした──」
モカがミクを見ながら、意味ありげにゆっくり喋る。
(あ、落とした音したって言いたいやつだ、これ)
マキは気づいたが、ミクの勘は鈍かった。
「みたいだね。男子って落ち着きないよねぇ」
あぁ。モカはガックリと頭を落とした。
「え、ごめん。なんだった?」
ミクは少し戸惑ったが、すぐに別の話を始めた。
「でもさ、お箸といえば、最近お母さんが家事を手伝えってうるさいんだよね」
「あぁ、ご存命のときに?」
(いや、死んでんのはお前の中だけだよ)
「お皿洗いって一番めんどくさいじゃん」
「簡単なのから始めたら?」
「簡単なのって?」
「そりゃ洗濯でしょ。入れてスイッチ押すだけなんだから。こんな簡単なのに……」
モカは、一旦言葉を止めて、ミクを見た。
「洗濯しないなんて──」
ミクは、さっきのやらかした雰囲気を察し、考え込んだ。
「洗濯しないなんて……。洗濯……。洗濯し……。──選択肢ない!」
モカはそっと右手を掲げ、そこにミクが思いっきりハイタッチを決めた。
「なにしてんだよっ!」
マキの声が響き渡り、教室が静まり返る。
キーンコーンカーンコーン──
しんとした教室に、昼休みの終わりのチャイムが鳴る。
マキの弁当は、8割残っていた。
お昼休み ろくいち @88061
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