夢の記憶
つくお
夢の記憶
こんな夢を見た。
ある男が同僚を訪ねて一緒に酒を飲む。最初こそ楽しくやっているが、男が共通の知り合いである女性の話を持ち出すと雰囲気はいきなり険悪になる。
その女性は男の元恋人であり、今では同僚と付き合っているのだ。
男は挑発的な言葉を投げつけ、ねちねちと同僚をなじる。最初は耳を貸さない同僚だが、男が恋人の品性を貶めるようなことを言うと思わず手が出てしまう。
男はそれをきっかけにしてポケットに忍ばせていたナイフを取り出す。相手が先に手を出すのを待っていたかのようである。
男は自分でも何をするつもりなのか分かっていない。気がつくと血だらけのナイフを握って立っている。傍らには大量の血を流して倒れる同僚の死体がある――。
それが近頃よく見る夢だった。
このところ、わたしは連日警察に話を聞かれていた。職場の同僚が殺されるという痛ましい事件が起き、不本意ながら容疑者になっていたのだ。
殺された同僚は、単に仕事仲間であるという以上に友人だった。間違ってもそんなことをするはずがなかった。
彼が殺された日にわたしがどこで何をしていたか、警察は何度もしつこく問い質した。
わたしには答えることができなかった。その日のことが記憶からすっぽり抜け落ちてしまっていたのだ。どれだけがんばってみても思い出せなかった。
散々尋問され、疲れ果てて眠るとまた同じ夢を見た。
夢に登場する人物は顔がはっきり分からなかった。二人の間で話題にされる女性についても同じだった。むしろ夢に見るたびに輪郭がぼやけていくようだった。
いずれにしても、警察に訊かれていることとは何の関係もないと思った。
だから夢の話はしなかった。
夢の記憶 つくお @tsukuo
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