ファフニールクエスト ~囚われの姫と助けに向かった勇者が○○しないと出られない部屋に閉じ込められる~

いずも

コモリキリンの洞窟にて

「この先に邪竜オレノヨメニスールがいるんだな」

 勇者がセーブポイントの前でお祈りを済ませてから言った。



「ああそうさ。ま、邪竜なんざ俺の斧で真っ二つにしてやるぜ」

 勇者の仲間で勇敢なる戦士ゲイル・イチモクサンニが自慢の斧を振りかざす。



「あら、だったらアタシは魔法でトカゲの丸焼きにでもしちゃおうかしら」

 同じく仲間の大魔道士ビッテ・イル・チョットーチが得意の魔法で指先に火を灯す。

 いつもは犬猿の仲の二人だが、同じ目的のために協力する時はいつも息が合っている。ちなみにそれを指摘すると思春期の中学生並みに怒る。



「み、皆さん、なんでそんなに余裕なんですか……。国の兵士たちが束になっても勝てなかったっていう邪竜を相手にしようっていうのに……」

 同じくヒーラーで修道女見習いのトーコ・ジ・ツ=ハオは戦いの前に緊張と恐怖を隠せないでいた。



「俺たちは今までどんな修羅場も困難もくぐり抜けてきた。たとえ相手がボッタクリオカマバーの筋骨隆々ママさんでも、四股してたのがバレた時の可愛子ちゃんたちでも、宇宙からのタコ型侵略者でも、残機のある限りクリアしてきたじゃないか」

「だいたい勇者様が悪いですよね。最後のなんて停めてある宇宙船に酔っ払って立ちションしたのが原因ですし。あと残機って言うのやめてください」



「さあ、みんな行くぞ! 邪竜を倒して囚われの姫君を救いに行くんだ!」

「「おおーっ!!」」「お、おーっ」

 勇者たちは洞窟の最深部へと進んだ。



「「「「え」」」」

 そこに居たのは。

 お城ほどの大きさの、あまりにも巨大な邪竜だった。



「あっ、これ到達レベル間違えたわ」

 勇者は絶望していた。



「グルルル……ガァァァ!!!」

「ひっ、ひぇぇ!」

 邪竜がその巨体を揺らしながら近づいてくる。

 勇敢なる戦士ゲイル・イチモクサンニは外を目指して洞窟を駆け抜けていった。



「ちょ、あいつ……って、ダメ。こ、腰が抜けて……」

 大魔道士ビッテ・イル・チョットーチはその場にしゃがみこんでしまう。ひんやりとした感触が彼女のお尻を襲う。洞窟はジメジメしているから足元には気をつけねばならない。



「くっ、しんがりは俺が務める。トーコはビッテを連れて逃げるんだ!」

「で、でもそれじゃ勇者様が」

「なに、心配するな。俺にはまだ生き残れる術があるから大丈夫さ。――まだ、俺の名前というフラグが回収されていない!」

 そう言って勇者は修道女見習いのトーコ・ジ・ツ=ハオの背中を押す。



「さて、格好つけて残ったもののどうし――」

「――げぷぅ」

 邪竜は勇者のセリフを待つことなく、一息で丸呑みしてしまった。



「――ん、ここ、は……」

「お目覚めですか」

「……? はっ!? あ、あなたはサラ姫! ご無事でしたか。あなたを助けに来た勇者で、アイタタタッ」

「まだ動いてはいけません。それとも、私の膝の上はお気に召しませんでしたか」

「姫様の膝枕とはつゆ知らず、そんな滅相もない。それより、ここは」

「ここは邪竜オレノヨメニスールの腹の中ですわ」

 なんと 勇者は 邪竜の 腹の中に いる。



「姫様の無事を確認できたのは喜ばしいことですが、何とかしてここから抜け出さなければ……」

「私も出口が無いかと探してみたのですが、勇者様が落ちてこられた上の穴以外には何も見つけられませんでした……うっうっ」

 サラ姫は泣き崩れる。



「私が来たからにはもう大丈夫です。この身が滅びようとも必ずや姫様をここから救出してみせます」

「まあ……でも、それはいけません」

「な、なぜ」

「ここを出る時は勇者様とご一緒でなければ……ぽっ」

「サラ姫……わかりました。必ずや二人でここを抜け出しましょう!」



「ふむ。調べてみましたがここはどうやら『○○しないと出られない部屋』という場所かもしれません」

 一通り腹の中の構造物を見て回った勇者はそう結論づけた。



「○○しないと出られない部屋、ですか……?」

「そう。かつてバズった創作のジャンルです。創作物を扱うものとして無理やりな展開を自然に作り出すことのできる魔法のようなシチュエーションなんですが、偏った方向性に展開することが多くなり、次第に廃れていきました。起源をたどれば精神と時の部屋に相当するのではないかと今勝手に思いつきました」

「なるほど……」



「しかしここはカクヨム。それもアニバーサリーの企画であるKACで不健全なネタなど行われるはずもなく、もしそのような不埒な作品があれば恐らく運営から掲載停止処分を食らうはず。ですからここではそのような下衆な展開を期待してやってきた輩など一刀両断にしてしまうのでご安心ください」

「まあ、一安心ですわ」



「とはいえ○○しないと出られない部屋に閉じ込められるのは初めてのこと。いったい何をしたら出られるというんだ……?」

「とりあえず何でも試してみてはいかがでしょう。勇者様がいれば何だって出来そうな気がします!」

 サラ姫はドレスを腕まくりして握りこぶしを作る。華奢な腕だが力強く、本当になんでも出来そうな気がしてくる。



「とりあえず二人で出来ることをしてみましょう」

「ええ。――やっ! ……これは違うみたいですね」

 二人で組体操してみたが何も起きなかった。



「じゃんけんポン。あっち向いて……ホイッ」

「ああっ、また負けた! 姫様はお強いですね」

「勇者様が弱すぎるのでは? ふふっ」



「アルプスいちまんじゃーくー……ところでアルプスってなんですの?」

「山です。アルプス山脈は山の山々という意味になります」

「そうでしたのね。私、ゴムタイヤ支持・リニアサイリスタモーター駆動の高速鉄道システムのことかと思っていました」

「ああ、鉄道技術研究所で研究されたリニアモータの駆動システム、ALPSのことですか。姫様は博識ですね。では東芝が開発した多核種除去設備Advanced Liquid Processing System、通称アルプスのことはご存知ですか」

「福島第一原子力発電所の放射性汚染水処理に用いられている多核種除去装置のことね。父の、いえ国王ホウ=ビヲトラセール16世のやることに私が口出しをするつもりはありません」

 なんと博識な姫だろう。勇者はますます彼女に惹かれていった。



 それでも彼らの健闘むなしく、部屋から出られる気配は一向にない。

「くそっ、どうしたらいいんだ!」

「ああ、このまま腹の中で一生を終えるのでしょうか……胃液にゆっくりと溶かされていって、邪竜の栄養素となって消化されるだけの人生になるなんて……」



「腹の中……そうか。わかったぞ! 姫様、ここから出られる方法がわかりました!」

 勇者の中でとある秘策を思いついた。



「はーい、どーも~」

「勇者とー」

「姫でー」

「「ひめゆうゆうひめです!!」」



「ちょっとちょっとー姫様、なんですか『ゆうひめ』って。せっかく僕が『ひめゆう』って姫様を先に並べたのに」

「いやいや、そこは姫たるもの殿方を立てないと。勇者様こそ『ひめゆう』ってなんなんですかー」



「いやー、僕のことなんかより姫様のことをみんなに覚えて帰ってもらいたいからに決まってるじゃないですか。ほら、お笑い芸人には『かつみ・さゆり』……これは例が悪いな。『女と男』とかいるじゃないですかー」

「え、おかっぱとめがね? 知らないですわ」

「絶対知ってるやつ~」

「芸能レポーターのモノマネでプチブレイクしてるとか知りませんわ」

「絶対知ってるやつのやつ~」

「女と男の男が知らない女一般人と結婚したなんて知りませんわ」

「それ絶対女の方が嫉妬するやつ~」



「まあ私は結婚するなら知らない男と政略結婚よりラブなロマンスを繰り広げた相手と結婚したいですわ」

「え~、そんなやつどこにいてはるんですかーキョロキョロ」

「まあ、では私の目の前にいる愛しき方は私が誰かに取られても構わないと」

「……そんなわけないだろ(渋い声)。姫様、結婚しよう」

「勇者様……喜んで」

「では王様のところへ挨拶に行きましょう。って出られないやないかーい!」



「「どうも、ありがとうございましたー」」



 しばらくすると腹の中が震えだした。

 そして、どこからともなく声が聞こえる。



『なんじゃこのしょーもないネタは! くだらんオチは! ……あっ』



 下った。

 オチた。

 落ちたのだ。



 デウス・エクス・マキナもびっくりの唐突な展開により邪竜は急激な腹痛に襲われた。

 ずっと便秘気味だった邪竜の腹から汚染水の放出のように凄まじい勢いで二人は排出された。



 邪竜オレノヨメニスールは后候補を寝取られたことにより死んだ。死因はNTR死である。



「さすが勇者様。あの、ところで勇者様のお名前は……?」



「カン・チョーです」

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ファフニールクエスト ~囚われの姫と助けに向かった勇者が○○しないと出られない部屋に閉じ込められる~ いずも @tizumo

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