2 鏡の中では

「よし、多分佐倉井は気づいてくれたぞ」


 阿賀川先生は、鏡の外を見ながらガッツポーズを取った。

 気づいてくれたのかなあ。こっちは見てたけど、気づいたわけじゃなくてふざけてピースサインしただけじゃないといいけどなあ。


 スター☆トンゴロン先輩と佐倉井さんと青柳さんが階段を上がっていくのを僕らは見送った。

 そう。僕たちは階段の踊り場にある鏡の中に閉じ込められているのだ。


「どうしましょう」

「ええと」


 サオリン先輩のお母さんと、スター☆トンゴロン先輩のお母さん、僕のお母さんはさっきからスマホの画面を見てる。


「まあ、落ち着きましょうよ」


 サオリン先輩のお母さんが、なぜか落ち着いている。


「そうですねえ。元気を出さなければ」


 三人とも、なにを検索してるんだろう。


「ご覧くださいませ? 〈異空間〉〈囚われた〉〈脱出するには〉で、こんなに予測変換が出ますのよ? こんな目にあっているのは、わたくしたちだけじゃないということですわよ、これは!」


 スター☆トンゴロン先輩のお母さんは、おそろしいことに気づいたようだ。

 そんな検索したことないけど、いつの間にか世の中は、一般人がやたらと異空間に閉じ込められるのが当たり前になっているようだ。

 そうなの?


「先生、どうですかこれ?」


 僕のお母さんも何か見つけたらしく、慌てている。


「〈ミラー夫人〉って、さっきカオルさんのお母様に化けていた奴じゃありませんか?」

「えっ、ネットで顔が割れているんですか?」


(プラニセイバー)


 さっき先生はあの怪人にそう呼ばれてた。

 もしも先生がプラニセイバーなら、そりゃ驚くよ。そうなのかな。


「ちょっと怪しいですけど、この動画に。とても似てますよ」

「脱出方法もありましたわよ!」


 インターネットってすごいなあ。


「鏡の外側から手のひらをつけてもらって、そこに手を合わせると出口が開くらしいですわ」

「……でも、誰もこちらに気づいてくれてませんよねえ……」

「いや、さっき佐倉井がこっちに気づいた風なんですよ」

「そうだといいけどなあ」

「こら、マコ、なんてこと言うの」


 お母さんになぜか怒られた。


「希望を捨ててはだめよ」

「そう。こんなときはいいことだけ考えなきゃ」


 お母さんたちが三人ともこんなに前向きだったなんて。


「このサイトだって、……あら、凍結されてる?」

「怪人に気づかれたのかしら?」

「何ていう動画だったんですか?」

「ええと、『ザムザムちゃんねる』」

「……ザムザム?」


 先生、何か知ってるのかな。


「……とにかく、誰かが通りがかったらこっちを見るように仕向けなきゃな!」


 うまくいくかなあ。

 どうやってこっちを向いてもらおうか。


 そうだ。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る