7、湧き水公園 その4
この湧き水公園での旧友との再会を経て、この黄色い車の導きにより起こった出来事はもはや偶然ではないという事実を俺は受け入れざるを得なかった。この車を通して親父は何かを俺に伝えようとしているのだ。
「お前にまだ話してないことがあった」
「えっ? どんなこと?」
俺の突然の言葉に翠が驚いて声を上げた。
「俺の親父のことはお前に殆ど話したと思うが、まだ話してないことがひとつだけある」
婚約者である翠には自分自身のこと、家族のことを出来るだけ知っておいてもらいたいと、どんなことも打ち明けてきた。が、口にすることさえ嫌になる程の忌まわしい記憶が俺の中にまだひとつだけあった。親父と喧嘩をするのは日常茶飯事だったが、それはそんな親父との喧嘩の中でも一番最悪で最低なものだった。あの喧嘩を境に俺と親父の不仲は決定的になったのだ。思い出すことすら憚られるその記憶を俺はずっと胸の奥に仕舞ってきた。
酷く強固な金庫の中へぶち込み、頑丈に鍵を掛け、絶対に開けられないようにした。そうすることで俺はその忌まわしい記憶を頭から消し去ることに成功したのだ。しかし、その鍵が緩む出来事があった。他でもない、黄色い車による一連の出来事である。親父は愛車を使って俺の記憶を少しづつ蘇らせたが、いよいよその開かずの金庫の扉をも開けようとしている。その忌まわしい記憶と向き合うことを拒んできた俺だったが、ここまで来たらもはや避けられないことを悟った。
しかし、今の俺には一人でそれと向き合う勇気はない。翠は俺のどんな話も受け入れてくれた。大抵の人は引くような話でも真剣に聞いてくれ、受け入れてくれた。俺はそんな翠のことを信頼している。だから、その忌まわしい記憶を打ち明けることに決めた。共有することで何かがまた変わるかもしれない、そんな期待もあった。
「まともな人間が聞いたらドン引きするような最低な話だ。それでも平気か?」
すると翠は驚く程まっすぐな目で俺をじっと見つめながら言った。
「大丈夫だよ、どんな事でも受け入れるよ。全部話して」
「……翠……」
素直な彼女の言葉に返す言葉が見つからず、俺は暫く押し黙ってしまったが、意を決して語り始めたのだった。
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