〈閑話〉その…

あと一文字…何故…


「だから、持って帰れって毎回言ってるのに」


そもそもあんたが邪魔しなければいいのだ。逆にどうして、残りのたった『3』を書かせてもらえないのか?


「別に?」


質問なのに、疑問形で返さないでくれ。ほんとに…もう言う通りにしよう、次回からタイトルだけ持ち帰り課題にしよう


それで、また緊急か


「如何せん、この時期は変化が大きいんでね。あと1年くらいは付き合ってもらうよ」


そうか…


「あのS116達の件…シュイロだね、シュイロ達の件、何とかしといたよ」


シュイロ…ふむ、これを見る限り、内在する人格が全員分目覚めて、初のミーティングを行ったようだな。その言い様だと、方針が決まったのか


「もう、残りは事後処理だよ」


…仕事が早い。それに事後報告だったか…


「君に報告する義務もないでしょ。それに最終的にこういう形で伝えられれば良い訳だし」


それもそうだ。…ところで今回ばかりは本当に急いでくれないか?この後の用事で移動中なのだ


「オープンキャンパス?」


…知っていたか


「君、呼び出すと毎回電車の中だよねぇ」


神界はすちの地球より時間の進みが遅いのだろう。前回はそれで終点の駅室に寝かされていたのだから、今日はそうもいかないのだ。頼むから


「正確には、君達が早いのだけどね。まあでも神界より遅い時間軸は存在しないから、そう考えるのであれば間違って…」


頼む、と言った


「頼まれただけだよ?…流石に冗談よ。君達人間の超短寿命を無駄にする訳にはいかないからさ」


自分は、100年は生きてやるぞ


「頑張りな。どの道、私のうたた寝の時間にも満たない」


いちいち腹が立つな…。そうだ、このシュイロ達の件だ


「見終わった?」


粗方はな。所どころ倍速にしたゆえ


「じゃあ、もう分かった?」


分かった?…方針がか?いいや…これを見ても、そういったことは汲み取れないと思うが…


「了解。それじゃ、改めて端的に説明する」


よろしくお願いする


「記録を最後の場面まで巻き戻して。もうちょっと前…そう」


ここか。主人格の名前決定の部分だな


「ここ。私は、シュイロには元々人格付与はしていない」


何…?じゃあこの自我は…


「後付けだね」


しかし、であればこれはどういうことだ。苺名はメトロンから、シュイロの自我についてやその他の情報を提供されたと、序盤に発言しているが


「その他については事実で、シュイロのとこはグレーかな。元々全員を統制する機構だとは伝えているけど、完全にAI的で自我を持つとは言っていないから、そこだけ記憶を改竄してる」


記憶をか…?それは倫理的に問題は無いのか?


「無い。それはあの子達の正体に由来するから、そういった概念には当て嵌めなくていいの」


正体だと


「先は内緒。あの子達と一緒に、自分で答えを探し出してほしい」


…分かった。こうなっては、もうヒントすら与えるつもりは無いだろうからな


「分かってきたじゃない」


露骨なのだから、誰でも諦めざるを得ない


「…今度からは、こんな改竄は出来なくなるけどねぇ…」


ん?何だって?


「何が?とにかくね、副人格としてのステータスを与えた苺名にしか諸々の詳細は伝えてないし、まだ思い出すのも先だったから改竄自体、簡単だったよ。そして方針ね」


ああ。あの者達を、これからどういう処遇にするのだ?


「はじめは抹消の選択肢もあった」


…………どうして


「…でも勿体ないよね。何よりそうはさせたくはないから、順位は最下位だった」


…流石のメトロンでも、そうはしなかった事に安心している


「今まで、同じ事は何度もしてきたのだけどね」


何故、ここでそれをぶっ込んでくるのだ…何がしたくてこうも不安を煽るというんだ…


「お互いの価値観の問題さ。実際所詮、その程度だからさ。私も、それらも」


はぁーー…………もういい。それ以上深淵を覗きたい気分でもないから、進めてくれ


「いいでしょう。あの子達は…『現世化』することにした」


『現世化』


「そ。知らないよね」


当然であろう。聞いたことも無い


「知ってる。『現世化』っていうのは、…例えば、世界プログラム上の守護者を、一時的な処置のために現世に呼び出す時とかに使われる手法としても使われる」


…用語が既に分からないのだが


「この世ならざる…実体を持たないものに実体を伴わせる、ってところ。そうだね、悪魔召喚にでも例えてな」


悪魔か…あいつらは悪魔だった…?


「急にIQ下がるね」


何だと


「あくまで手法だから、応用範囲は多岐に渡るわけ」


悪魔だけにか?


「?」^_^


新感覚やめるんだ、笑顔で首をかしげるな


「やっぱり人って馬鹿だねー」


それ以上はやめるんだ。少なくとも、自分個人のエピソードを、人間全体の枠に当てないでくれ


「良いんだよ?」


なんでそうなる。どんな回答だ


「それより、もっと大事なのはいいの?」


ん…?


「もう、次の駅だけど」


……しまった!降りなければ…!


「馬鹿だねぇ」


シャラップ!早く戻してくれ


「いや、最後に一つ」


急いでくれ!


「『現世化』に処置が決定して、記録媒体が『EMU』に完全に切り替わった。これまでのような半自動解説機能は失われるから、これからは自分で情報を取捨選択しないといけないよ」


…なんだ…そんな大事なことは先に言ってくれないか


「あんなコピペは出来なくなるからね」


人聞きの悪い。行為としてコピー&ペーストであるのに相違はないが、それも外界から考察することしか出来ない自分よりも、より当事者であるシュイロの見解を優先した結果に過ぎない


「そんな建前はいいからさ。これから自分で情報を正確に挿入出来るようにしてよね」


大丈夫だ、多少はこの活動も板に付いた


「それ、自分で言うものでは無いと思うけどね」


まあな…。そういえば、エピソード毎のタイトルも自分で考えなければならないな。ともかく、良くも悪くも作品の自由度が上がるということも意味しているようだ


「正確と言える範囲内しか許容しないよ」


承知している


だが、そうか…それにも慣れなければいけないが、そうとして『思考と思念の違い』やら、あの中々興味深い話は聞けなくなるのか…残念だ


「代わりに、理解しづらい単語なんかは脚注に簡単な記載が載るはずだから、執筆時はそれを参考にするといいよ」


承知した


「じゃ、また今度」


ああ、毎度どうも

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