第47話 わちゃわちゃ
〈ちょっと、そんな事はどうでもいいから〉
[早くー]
【分かってる…はあ……私の名前は
・・・・・・・・・
〈ふっ…!〉
【…笑ったわよね】
〈…い、いや…ふはっ!〉
【ねえ、笑ったわよねぇ!】
≪落ち着けって…≫
[あはははは!]
≪お前も露骨に笑うな!やべぇ、コイツラのせいで…ははっはははっ…!ああ、違うって…≫
{………}
全員笑い出してしまった…我と、
【あんたたち……おじさんも我慢してるでしょ。もーーー!子供の頃から自己紹介の度に、毎回毎回こういう反応されるから嫌だったのよ!あと主人格もうるさい!】
[あはは…『
【『
〈どのみち…そのまんまじゃん…ふふっあはは…!〉
{待て、なんかやばいから…その名前を連呼するな…}
【うるさいわ!誰の名前がやばいだ!】
[あははははははっ]
≪くくっ…ははは……!≫
【あーっ!うるさいわ!!】
…………………………………………
…………………………………
……………………………
………………………
…………………
……………
………
そうして全員が落ち着くまでしばし。怒った苺名が一度全員を黙らせたが、それでも未だご立腹である
【そりゃ怒るわ】
≪はー…はー…≫
【全く…人の名前で笑わないで欲しい…】
≪いやぁ…なんか面白くてな…にしてもなんでそんな名前になったんだ?≫
〈とはいえ、明らかに狙ってるわよね『苺名』は…〉
[≪ぶっ…!≫]
【!!】
≪わりぃわりぃ…≫
[くっくっ…]
【………】
どうやら、この二人はまだ余韻が残っていたようだ。
【…実家が田舎で、苺農家だったのよ】
{なるほど、好きの度が過ぎた結果ってところか}
〈そんなことでなの?〉
【赤吾っていう名字も、その時の先祖が苺に自らを投写して付けた…らしいわ】
{『赤』い『
【…?それは知らないけど…そうじゃないかしら?】
〈…なるほど〉
≪それなら一応筋は通るか≫
【因みに私は3代目らしいわ】
≪は?どういうことだ?≫
【『苺』が名前に入ってる人、先祖に少なくとも2人いるんだって】
[何その家系、面白過ぎない?]
【私からしたら笑い事じゃないんだけど】
{しかも少なくともってことは、他にもいるのか?}
【かも…?】
{かもってなんだよ}
≪どういうことだって≫
【いやね、私も分からないのよ。その辺曖昧というか…】
〈ちなみにそのご先祖様って女の人?〉
【……私のおじいちゃんが『
〈わお…〉
{なんか…何とも言えないな…}
【…そうね】
≪まあ…あれだ、ジェンダー平等が進んでる家ってことだろ?≫
[たしかに]
【下手なお茶濁しはいいわ】
〈ところでさ、それってあれで知ったの?小学校の時にやった…何だっけな〉
【名前の由来を聞いてくるって宿題のこと?】
〈そうそれ〉
【そうよ。というかそんなのよく覚えて…ああ、また思い出しちゃった…あの頃のいじりは…】
〈ん?〉
[やーい、いちごー]
【それだよっ!てかやめろぉ!!】
{小学生みたいな事するな、高3だろ}
【…ほんと笑うのやめて?私、軽いトラウマみたいになってるんだから】
[任せてもらっていいよ!]
【あんたが一番心配なのよ、脳筋バカ】
{脳筋バカ…}
[脳も筋肉ってこと?それは…究極の肉体美じゃないか!]
【〈≪{……(駄目だコイツ、俺(私)(あたし)の予想以上に救いようがない野郎だ)……}≫〉】
そう言えなくもない…のか…?
〈(主人格も、コイツの言う事は無視した方がいいわ)〉
(そうか…)
【…イマイチ信用できないわね。いっそ名前じゃなくて、別の呼び方してくれる?】
[僕は高校では一番信用あったよ!「お前って素直だよな」って…]
≪(たぶん今までの調子だと、ただ単純ってことでバカにされてるだけだろうな…そいつも言葉を選んだな。それにしてもこいつ、よく今まで詐欺とかに引っ掛かったりせずに済んだな。…いや、離島じゃそういうのも無かったのかもな。それでこんなマヌ…ポジティブ思考の世間知らずに育っちまったのか…哀れな奴…まあ、ある意味幸せか)≫
以上、金門の長考であった。離島暮らしだとしても、流石にここまで来ると本人の性質が多分にあるだろう。それと詐欺もない訳ではないだろう
≪つまりあだ名ってことか≫
【うん…まあ、そうね?】
≪あだ名って付けようとして付くものでもないけどな≫
【必要な措置よ、私の精神の安寧のために】
〈うーん、『アズ』とか?〉
≪なんか響きが微妙だな≫
[じゃあ『アズアズ』は?]
【それ発音がしにくくないかしら】
[そんなことないでしょ。舌足らずなだけじゃない?]
≪『アズアズ』…でもたしかに少し詰まる気もする…(いや待て、どこぞの悪魔学校にそんなやつがいた気が…なんだっけな)≫
【名字を使ったのが良くなかったかも】
≪発想を変えてみるか≫
[アズアズも悪くないのに…]
【えーと、じゃあ名前なら…】
〈なら、『いっちゃん』ね〉
【……え】
またまた沈黙が。一込も癒音もお互いに『え?』という困惑した表情が見て取れる
〈あだ名ならこれしかない〉
【えぇ…】
〈だったら、他に何があるの〉
【いや、そんな…普通に『もな』で良くない…】
{うーん…いかにもなあだ名だが、悪くはないんじゃないか}
【ちょ、丁波さんまで…】
≪いや、もうなんかそれでしっくりきちまったわ≫
[もとの名前そのものがあだ名みたいなものだし『いっちゃん』でも大丈夫じゃない?]
【私的にはあまり納得いかないのだけど…そんな大河ドラマの主人公にいそうな…】
≪逆にその感覚が良く分からんが…『苺名』だと嫌なんだろ?≫
【ええ…まあ……いやだから】
{まあ親に貰った名前が嫌というのもだがな}
【仕方ないじゃない…おじさんは、こういう名前だったとしても平気なの?】
{うーん…それはなぁ}
【そういうことなの】
〈とにかく、『いっちゃん』で決定ね〉
【あ、勝手に】
≪そうだな。宜しくな、いっちゃん≫
[よろしく〜]
【あぁぁ…また黒歴史がぁ…】
{……まあなんだ、気にしなければ大丈夫だ…}
【私が一番気にしてる事なのよ…】
我からもよろしく頼む、いっちゃん
【主人格にまで…(そもそも『いっちゃん』の『い』の字も無いのに…)】
[そういえば、僕への態度も、もうちょっと甘くてもいいのにな]
【おいこら。なんか含みを感じるんだが?ん?】
[ひえ]
〈気のせいよ。こいつにそんな知能は詰まってないわ〉
【…それもそうね】
[なんなんだろうなぁこれ…]
…結局のところ皆、『
[(苺だけに…なんて)]
【(いっちゃんかぁ…ああ~…)】
* * *
{……ん?空が明るくなってきてるな}
【え?】
会話に熱中して、いつの間にか一晩が過ぎようとしていたらしい。窓の外を見ると、空は既に白み始めている
≪もうこんな時間なのか≫
[僕たち一晩も話してたの?]
〈そういやまだ途中じゃん。はやくはやく〉
【分かってる。で、後何だっけ】
≪スキルと転生したきっかけな。そういや何してたかも聞いてなかったな≫
【あー皆言ってたわね。私の当時は大学2年生で、切っ掛けは交通事故】
≪フィーネと同じだ≫
{ここに来てベタなやつか}
[ベタ?]
【まあそうなんだけど…私の場合は、交差点の横道から車がね…】
{視界が悪い場所だったってか}
〈あれだ、交通安全指導でめっちゃ言われるシチュ〉
≪よそ見でもしてたのか?≫
【どうだろう、歩きスマホとかはしてなかったんだけどなあ…。ともかく、そしたらいつの間にか草原にいて、横にあった手紙を読んで転生したって事を知ったの。そこに付与されてたスキル『情報工』についても書かれてたわ】
{神みたいなのとの邂逅は無くていきなりか?}
[へーそのパターンもあるんだ]
〈それも気になるけど出来れば今度にしない?もう起きてる人もいるから時間ないよ〉
…本当だ。少しばかり遠くに、人影が一つ見える
{もう朝か。この歳になると時間の流れが早いなぁ…}
≪おっさんいくつなんだ?≫
{もう41だったよ。腰も痛かった…そう言えば、それが無くなったのが今みたいになって良かった事かもな}
≪そんな体で異世界行ったのかよ≫
【何だか切実…じゃなくて。今日は自己紹介だけ終わらせましょう。癒音もそんな急かさないで】
〈わかったから、ほら〉
[じゃあ『情報工』から?]
【そうね。その時の手紙によると、『情報工』は、専用のスキル『データバンク』でプログラミングしたものを、現実に呼び出すらしいわ】
{つまり、2つスキルでセットか?}
【ええ】
〈そんなスキルもあるのね…〉
≪…イマイチ想像できねぇな≫
【うーん…こればっかりは難しいわね…じゃあ例えば、生前興味があってやってた簡単なプログラミングを、その手紙に書いてあった簡単な説明の通りに試してみたら、ホログラムの家とか、家具を作れたり、他に魔法なんかもプログラムできた】
≪おい待て…それって大体何でもできるってことじゃねぇか。とんでもなく万能なんじゃないか?≫
【実際、大抵の事は何とかなったわよ。どこに行こうがテントとか要らなかったし、言うなればマインクラフト気分だったわ】
〈あ、マイクラやってたの?〉
【全然】
〈なによ〉
「……んぅ…ふわぁ…」
[あ、フーちゃん起きた?]
≪誰か起こしたか?≫
〈声出ないんだから、そんな訳ないでしょ。すぐ人疑うのやめた方がいいわよ〉
≪悪い…(普通に説教された…てかなんかさりげにフィーネの呼び方変わってないか…?)≫
【そろそろか…しょうがないから、今日はこれで終わりましょうか】
{なあ、俺らって夜しか活動できないのか?}
【それなんだけど、どうやら昼間は主人格が強いみたいなのよ。だからこうやってちゃんと話せるのは夜だけだと思う】
≪夜行性の動物みたいだな≫
[猫ってかわいいよね、よく実家の縁側で野良猫が丸くなってた]
【また話が脱線してる…】
もう気にしない方が良いのではないか?いっちゃん
【そうね…あーその呼び方なんかムズムズする…】
〈何それ、いいなー。詳しく聞かせて〉
[もしかして猫好き?]
〈(コクリ)〉
[そっかー。…島にいる猫とは仲良かったし、もう以心伝心だったと言っても過言じゃないね。野村が餌を欲しがってるタイミングだとか、すぐに分かったよ]
≪待て、野村って誰だ≫
{(餌…)}
[異世界に行っても、ちっちゃい影みたいな猫飼ってたんだよ。多分魔物だけど]
≪駄目じゃねえか≫
[いやいや大人しかったよ。出会った時…]
『ん?なにこれ』
『フー…』
『猫だ、かわいいー、触っていい?』
『シャッ』
『わっと…』
『シャー!』
『こら、めっ!でしょ』
『フギャッ』
[…ていう感じで仲間になってもらったんだ]
≪それ大丈夫か?潰れた音がしたが…≫
[平気平気、あの時はちょーっとだけ力を入れ過ぎたけど、その猫、本当に影で実体が薄いらしかったから、背中がグニャってなるだけだったよ]
{それは…異常ではあるだろ…}
[仲間にしてからも僕が言えばちゃんと聞いてくれたよ。いやー前世の時から思ってたけどやっぱ僕って猫に好かれるんだね]
【(聞いたとこだと…)】
〈(前世は餌目当てで…)〉
≪(異世界では怖がられてたんじゃねぇか?)≫
自慢げな実を横目に、またまた息の合う仲の良い3人であった
「ん…」
【また話が脱線した…もうフィーネが起きそうだから、ここまでにしない?ちょうどキリもいいし】
{それもそうだな}
〈……あ待って、思い出した〉
【何を】
〈ナギサ・メトロンが主人格を創って、あたしたちを集めたのは皆憶えてるよね〉
{そりゃまあ…}
【そうだけど】
〈でも主人格の名前って知らない〉
≪あぁー、確かにな。そういや主人格の自己紹介がなかったか≫
【そう言えばそうね。一応聞いときましょう】
我に名はない。強いて言うなら、識別番号は『S116』だ
{無いのとそう変わらないな…}
[『主人格』でいいんじゃない?]
〈一人だけ名前無いのも可哀想じゃん〉
[じゃあ僕たちで付けるの?クロとか?]
≪猫から離れろ≫
【それじゃあ、その識別番号をもとに考えてみましょうか】
…我に名を付けるのか?わざわざそんな…
【どうせならあったほうがいいでしょ?名前。私たちも呼びやすくなるし】
[今度こそアズアズ…]
≪さっきより関係ねえよ≫
〈難しいわね…〉
…我の意見は無視のようだ。別に、今のままでも特段問題は無いというのに
【『S』に『1』だから、『シューイチ』とかどう?】
≪成る程≫
〈…微妙(ニュース番組?)〉
{ちょっと捻りがなくないか?例えば『シュイロ』とかどうだ?}
≪あー116だしな。中々いいかもな≫
〈うちらにしちゃ上出来かも〉
[おじさんやるねー]
{お?これで決まりか?}
【特に反対もないし…ボソッ時間も無いし】
『シュイロ』か…
〈主人格はどう思う?〉
別に悪くは無いと
{じゃあ思ったより早いがこれで決定だな}
[これからよろしくね〜]
“(自らの名をつけられるとは、想定外であったな…しかし、せっかくの厚意だ。ここは素直に受け取っておこう。それで向こうにメリットがあるならそれでいい)”
【よし、何とか時間内に終わったわね。流石にもう他ないわよね?】
≪あったとしたって、もう次回でいいだろ≫
〈じゃ、今回はこれで解散!〉
{ああ}
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうして、一度話に区切りは付いたのであるが…
【そう言えば、この後って結局どうすればいいのかしら…】
≪お前も知らないのか。…どうする?≫
{何か起きるまで待つしか無いんじゃないか?}
≪えー…≫
[それなら、ついでに僕の猫の話と筋肉自慢、聞いてく?]
〈猫だけでいいわ〉
[そうなんだ……じゃあ二葉ちゃんについてね]
{名前が猫っぽくはない}
≪なら、ついでに野村についても説明してくれ≫
どうやら人々が起きて自分達が眠るまで、もう少しこの時間は続きそうだ
世渡り千本 3本6個 @55112868612
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。世渡り千本の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます