第44話 友達の雰囲気

【…ねえ、話終わった?】


≪ん?ああ≫


〈無駄話が長いわ。もう次、あんたいきなさいよ〉


{長くて悪かったな…}


≪お前らもお前らで話し込んでたと思うが…≫


[はいはい、次は僕ね]


〈さっきから思ってたけどあんた、やる気を感じない声ね〉


[声は生まれつきだいって…。えっと、僕は石﨑実いしざきみのる、高校3年生で遠泳部だった。スキルは『筋力倍加』]


【『筋力倍化』って…分かりやす…】


≪遠泳部だと?≫


[そうだよ、僕は小学校も中学校も高校も離島にあったんだ。だから、ずっと遠泳部。金門君も水泳やってるって言ってたけど、スタミナだったら負けないよ]


≪別に競ってねえよ≫


[またまた…そうだ、生前も筋肉結構あったんだよ。腹筋はもちろん割れてたし…ああそうだ。転生して一番ショックだったのは、まさかの赤ん坊にスタートで、それまで鍛えた美しい筋肉が失われたことだったなあ…]


≪そんなに筋肉が大事かよ≫


【あなたは赤ん坊からだったのね】


≪たしかに、そういえばフィーネと同じだな≫


[懐かしい…あの日のもう戻らないビューティフルボディ…]


…おや?現在会話をしている我々の思念領域に、何やら絵のようなものが…


〈自画自賛か…って、イメージ画が!?〉


【うわっ、なにこれ!】


[ありゃ?もしかして、これってイメージも共有できたりするの?]


【それよりもちょっと何よこの写真は?ポージングが妙に気色悪いわ】


これは…海での写真か何かだろうか?確かにがっちりとした大胸筋と腹筋が見事に強調されている…


【ああ、うん。主人格もわざわざコメントしなくていいから】


〈今すぐ消して〉


[ひどいな、僕の写真に向かって。どうどう金門君、見てよ。中々の筋肉でしょ]


≪まあ…凄いっちゃ凄いけどよ…≫


[うん?聞こえないな。ねえ、ところでこの僕と水泳で勝負したらどっちが勝つかな?]


≪うぜえこいつ。てか実際にやりあったこともねえのにいきるな。…流石に、遠泳部に勝てるとも思えないが…≫


【速さなら勝てるんじゃない】


[君は、遠くまで泳ぐのに速度が必要じゃないと言うのかな?]


≪くっ…≫


[ふっふっふ、負けを認めたってことでいいね?]


≪ちげえよ。それより、お前は何で転生したんだ≫


〈露骨な話題反らし〉


≪…(黙っとけって)…≫


[あー…それはね。泳いでたら雷に打たれた]


{…はぁ?}


【アホに相応しい死に方ね】


≪いやいやどういう確率だよ。海だろ?≫


[そんなの知らないって。だって、自主練してたら急に天気が悪くなってさ、やばいな…って思って岸に戻ろうとした瞬間にドガーン!だったんだよ。流石の僕でもあれは避けれないよ]


{そんなの誰でも無理だわ。てか、もう逆に運良いんじゃねえのかそれは}


≪ほんとだよ≫


[筋肉の電気抵抗で何とかならなかったかぁ]


≪何言ってんだこいつ≫


〈コイツと話してると、会話の内容がアホらしくなるわ〉


【というかあんたも長くなりすぎよ。次はもっと簡潔にお願い】


[あれ、スキルについて聞かないの?]


{わかり易すぎて、今更聞かねえだろ。あんな脳筋スキル}


[言っとくけど、これにしたのはただ僕が筋肉が好きだったから、っていうだけだからね]


≪自分で選んだのか…≫


〈それはそれで違う意味の脳筋になりそう〉


【(もしかして、実は筋肉のことしか考えてないのかしら)…それより早く次いくわよ。一人にどんだけ時間掛けるつもりなの】


[なんなら、今からスキル紹介…もとい筋肉自慢大会…に変える?]


〈≪{【やめろ(て)(てくれ)】}≫〉


突然、意味の分からない願望を出してきた実であった



〈ねえ、次ってあたし?〉


【そうね、お願い】


{じゃああんたが最後か}


[オオトリ?]


【…そうね】


≪ん?何だ、なんか歯切れ悪くないか?≫


【…別に、なんでも】


≪んんー…?≫


{…(何か抱えてるのか?)…}


〈ねえ、今はあたしの番だと思うんだけど。そっちは最後でいいんでしょ〉


【そ、そうよ。じゃあ、早速よろしく】


[まあいいか。どうせあとで聞けるし]


〈さてと…んんっ…〉


[今のいる?]


〈うるさい脳筋〉


[石﨑実だっていったよね]


【じゃあ石﨑脳筋、一旦黙れ】


[あれ、意外と響きがいいじゃない…]


〈ああもう、なんなのこいつ…あたしは鬼越癒音おにこしゆうね。医療系の学部の大学1年生よ。スキルは『特光』〉


[鬼なのに癒やすんだ]


{医療系って何だったんだ?}


[ちょ…無視…]


〈看護学よ。ママが看護師だったから、身近で見る機会もあってね。それで格好いいなーって思って〉


≪なるほどな≫


[じゃあじゃあ、『特光』ていうのは?]


〈…あんた、普通の質問もできたのね〉


【ほんと】


≪ああ≫


[ねえ、僕だってそれくらいできるよ。当然でしょ]


【その当然が出来ない奴としか思えなかったんだけど】


[ひどぉ、君たちまともじゃないよ]


≪少なくともお前よりはましだ、KY≫


[ん?何それ]


≪知らねぇのか…ならそれでいいわ≫


[気になるんだけど。ああ…ここにスマホがあればゴーグル先生に聞けるのに]


【ねえ、そんな石﨑のKYなんてどうでもいいから、そろそろスキルについて説明してよ】


[ふむ…名詞か]


≪(形容詞だ)≫


〈それもそうか〉


[おじさんはKYって何か知ってる?]


{(このKYは…多分ネットの方の意味だろうな)さあ、知らないな。それより説明を聞い…っておい、なんだよ、近寄ってくるな}


[なんか知ってそう。ねー教えてよー]


{(要らんところで勘が鋭い…)こいつ粘着質かよ……おい、早く続きを…!}


〈わ、わかった。『特光』っていうのは〉


【待って。一回この脳筋を黙らせる】


[ほう、それはどうやって…ぷぎゃ。……]


≪おおう…ほんとに黙った…。助かったぞ≫


〈…何したの〉


【私も詳しく分かってないんだけど…副人格としての権能みたいなもの…?】


[……]


【まあ大人しくなったし、いいでしょ。続けよ】


〈そうね。といっても、あんま言うことないんだけどね…〉


≪そうなのか?聞く感じだと、光魔法ってとこだが≫


〈このスキルは…簡単に言えば光魔法よ〉


≪マジかよ≫


{それってスキルと言っていいのか?いや、練習しなくとも最初から使えるとすれば、まあ…}


〈一応、れっきとしたスキルよ〉


{ちなみに、光属性は貴重だったりとかしたのか?}


〈…たしかそうだった気がする〉


≪なら…ううーん、でもそれでも地味だな…他に選択肢はなかったのか?≫


〈転生するとき管理者とかいうのに、病気とか怪我が怖いなって話したら、こうなった。光属性は治癒とかも含まれてるらしかったから〉


{あーなるほどな。それなら光属性は妥当かもな}


〈あと地味だって言うけど、全然そんな事なかったわよ?〉


≪どういう事だ?普通に魔法だろ≫


〈それはそうなんだけど…実際に異世界に飛ばされたら森の中だったの〉


≪ほう≫


〈そしてらでかいヘビの魔物?に出会ったの〉


{ヘビか…俺苦手なやつだ}


≪意外だな≫


{小さい頃触った時のあの感触と、ウネウネ動くのが何とも言えなく嫌でな…}


〈あたしも…。それで咄嗟に光属性の攻撃魔法をぶっ放しちゃった訳なんだけど…〉


{けど?}


〈バスケットボール位の球1つで、周りの森ごと吹っ飛ばしちゃった…〉


【……チートね】


≪予想以上に半端ねえ…≫


{…伊達に『特』って付いてる訳じゃないってか}


〈あの時は、さすがに自分のことが怖くなったわ…。しかも普通の魔法と違って、発動と維持に補助が付くみたいで…便利だった〉


≪便利…だなぁ…≫


やはり、どのスキルも何処かしら壊れている部分がありそうだ


[――――]


…ん?何やら実が我に話し掛けてきているようだが、何だろうか。話の邪魔をすると悪いため、一応会話をプライベートにしておこう


≪そう言えば、お前が会ったのは管理者なのな≫


【…あれ、そう言えば神と管理者って意味違ったっけ?】


≪あ?そんなの知らんが…≫


{じゃあ俺らが会ったのはどっちなんだ?}


〈あたしは管理者って言ってた…〉


[管理者は世界の管理をしてる人のことだよ。神がやってる時もあるし、違う人が代理でやってるときもあるんだって]


【…起きてたのか。ていうかなんで知ってるのそんなこと】


[ふっふーん。主人格が知ってたから、KYが何なのか訊くついでに教えて貰ったんだ。それで分かったよ、KYってのは危険予知のことだったんだね!それぐらいさっき教えてくれれば良かったのに]


{(そっちかー)}


≪(違うが…もうそう思わせといていいか…)≫


〈(ただの世間知らずの間抜けね)〉


【(離島暮らしだったせいで、ネットに触れてこなかったのかしら…?)】


 意図せず4人の思惑が一致している。因みに、さっき金門はああ言っていたが、この会話は実際には『念話』などとは異なるため、隠そうと思えばこのように言葉として浮き出てこないことから、発言の意図が無ければ考えが読まれることはない


【(これ以上脱線しちゃいけない)…よく考えたら、主人格はナギサ・メトロンが創ったんだったわね。その時にナギサみたいに記憶を移譲したのかしら】


≪ていうか実、お前なんで自分の知識じゃないのに偉そうなんだ。それとそいつ、俺らと個別に会話出来るのか?≫


[出来るみたいだよ?しかも、会話をプライベートにするとか、そんな事言ってた]


〈へー…じゃあ今から実を除いて4人…あ、主人格入れて5人で話そうか〉


【いい考えね】


[仲間ハズレ反対!だから何で僕を外したがるのさ]


≪わかったわかった。これ以上いくと面倒だから、さっさと続けてくれ≫


[ねぇさっきの冗談だよね?]


≪ハイハイ≫


〈ねえ、2人とももういい?〉


【実は最初からほっとけばいいのに】


〈そうじゃなくて、もうあたしの自己紹介は終わったわよ。次、あんたでしょ〉


【………え】


〈何よ〉


【あーいや……ちょっと時間が掛かり過ぎてるから、一旦本題に戻ってもいいかなぁって…】


〈本題何だっけ〉


【ええと…皆で話せたのは初めてだよねって…】


{そんでなんか流れで全員が転生者だって判明したんだよな}


【そうそう…】


≪何言ってんだ。そこで名前がわからないと呼びづらいから、って自己紹介を提案したのお前だろ。もう皆やったんだから、早くしろ≫


【えぇー…】


≪言えないことでもあるのか?≫


[もしかして犯罪者…]


【違うわよ!何でそうなるの!】




[秘密結社の構成員…いや、幹部…?]


{何で?}


〈ふむ、なるほど〉


{お前はお前で納得するな}




≪そういう理由がないなら大丈夫だろ≫


【いやー…ただちょっと言いたくないなーって…】


[はっ…!もしかしてどっかの神が僕たちの監視に遣わせたスパイ…]


〈あの神なら有り得そう…〉


【あんたたちはいつまでそんな事言ってるのよ!確かに、私はあんたたち全員の統括をあのナギサ・メトロンから頼まれてはいるけど!】


{頼まれてるのか…}


≪それ含めての副人格なんじゃないか?おっさん≫


{ああ、そういうことか}


〈どっちにしろ似たようなもんじゃない〉


[やっぱりか…]


【何がよ!違うわ!】


〈ていうかあんたもいい加減にしてよ!あたし、名前も教えてくれない疑心暗鬼なやつと一緒にいたくないわ〉


【そこまで言う……………わかったわよ…教える】


〈最初からそうして欲しかったわ〉


≪俺らと同じように名前と、持ってたらスキル、あと何で転生したかも教えてくれないか≫


【………わかった】


{そんな覚悟が要ることでもないだろう}


【私にとっては必要なことなのよ】


はてそういうことであろうか


【もうちょっと待って…】


{別に急いでないから、まあ落ち着いてからでいいぞ}


【ありがと、おじさん】


{ああ(やっぱり、おじさんだよなぁ…)}

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