第43話 対面

 その日の夜


雲は見えるものの、イルミネーションのような星々が空を席巻し、輝いている。日本の田舎でも似たような光景が広がっているのをテレビで見たことならあるが、それよりも星一つの見え方が大きく、また色も多種多様な気がする。この惑星との距離が近いのだろうか


また、ナギサ達は既にベッドで寝息を立てている。ここはその真上で、我々は窓辺に座っているようなイメージだ。…実体はないし人型でもないため、厳密には違うが…


≪おい、誰だこんな事考えてるやつは≫


〈前にドキュメンタリーかなんかで田舎の夜景が…〉


≪もう1個は≫


【それは多分私…ってそんなのどうでもいいでしょうが】


≪主人格?の発言って、全員の考えが反映されんだな≫


【そうみたいね】


{ここは地球で見える星座とかはないのか?}


[僕はあんまり詳しくないけど、ないんじゃない?異世界だし]


{俺がいたとこは北極星があったぞ}


そこにあるのは、実に他愛のない、普通の会話である。…それを発しているのは普通の存在ではないが


≪一言余計だ≫


【あんたもいちいち反応しなくていいでしょうが。ほっときなさいよ】


≪こいつも俺らの一つだろ≫


【一応自律してるらしいけど、半分AIみたいなものらしいわよ。意思はあるけど、基本的に私たちの考えを統合するって言ってたから】


{俺はそれ聞いてないが}


【あれ、そうなの?じゃあ、副人格の私にだけ教えたのかも】


〈あ、フィーちゃんが苦しそう〉


物音1つしなかった部屋で、いつもの通りナギサの抱き枕のようにされて眠っていたフィーネだったが、寝苦しそうに唸っている。逃げようとしているのかモゾモゾと動いているものの、ナギサは全く動いていない


≪ナギサは普通より力強いからな。てかお前のそれ誰だ≫


〈いちいち『フィーネ』って言うの面倒じゃない?サラちゃんにもそう呼ばれてたし、だからフィーちゃん。『ナギサ』はなっちゃん〉


≪文字数的にはむしろ長くなってる気がするが…≫


〈こっちの方が呼びやすいって〉


≪俺は普通に名前で呼ぶぞ≫


〈それくらい勝手にしなさいよ〉


[ナグーは?]


〈…それは謎ね〉


≪使わねーのか≫


〈ちょっと…流石にあれじゃない?初見だと誰のことか分からないし…〉


【そんなことを言ったら、サラが少し可哀そうではあるけれどもね…でもたしかに、流石にあれじゃないかしら】


[使えー]


{やめとけ、別に好きに呼べばいいだろう}


[だよねー]


≪いやお前が言い出したんだからな?≫


【そんなことより、いつも思うけどこれでよく起きないわね、2人とも】


≪それもそうだな。というか、少し力強過ぎな気もするが…骨折れるんじゃないか?≫


〈でも起きないから、まだ大丈夫でしょ。それより悪い夢でも見てそうで心配〉


≪そうか…お、諦めた≫


〈あたし、それよりも酸欠になったりしないかも心配になるんだけど。あと睡眠不足〉


≪もう毎日同じ様なことになって、慣れたんじゃないか?あと、エーテルとかいう謎物質だし、大丈夫なんじゃね≫


〈そんなのあったわね〉


{俺も聞いたこともなかったんだよな、それ}


≪まだ何かありそうだよな≫


[ねえ、そういえばいつからこうやって寝るようになったんだっけ]


【確か、2人が出会って2日目だったかしら。ナギサが無意識にだったわ】


≪へー、そうだったのか≫


 静かで、かつ和やかな雰囲気である

 それは時間帯が夜であるため、全員が自然と声を潜めているということもあるが、やはり一番は目の前で眠っている姉妹の存在だろう。誰でも、子供の前では丸くなるものなのだろう


[かわいい寝顔だねー]


【変態】


〈同感〉


[ちょっ…ただの感想だって、他意なんかないよ!]


【それが気持ち悪いって言ってるのよ】


[早とちりすぎるって!]


{…2人を見てると、小さかった頃の娘を思い出すな}


〈おっさん娘いたの?〉


{ああ、1人な。この2人みたいに可愛かったもんだ。…その娘より先に死んで、しかも異世界に飛ばされるとは思わなかったけどな}


〈…そうなんだ〉


{おい、そんなしんみりした空気だすなよ。気にするな、あいつだってとっくに自立してるさ}


【……】


[ほら、あのおっさんだって似たようなこと言ってるじゃん。なんであれはいいのよ、僕との扱いの差が…]


【うるさい、空気を読みなさい。この人とあんたじゃ、『人』としての『格』が違うのよ】


≪流石の俺でもどうかと思うぞ≫


[そんな…こんな粗暴そうな奴にまで…]


≪そういうところだってんだよ!俺は粗暴じゃねぇ!!≫


【あれ…?ねぇ、おじさん】


{なんだ?}


【『異世界』ってことは、おじさん転生者なの?】


{え?ああ…そうだが…}


[僕も転生者だよ]


≪なら俺もだぞ≫


{おい、何だこの流れは}


〈え?それならあたしもだけど…えーと…どゆこと?〉


【私もよ】


{…なあ}


【何?】


{その前に…昼間から気になってたんだが、いつも通りみたいな感じで話してるけども、俺らって今日が初対面だよな}


≪…ああ≫


〈言われてみると確かに…〉


【…今日の朝だった?全員目覚めたの】


[あれ、そうなんだ]


≪いやお前は分かんないのかよ≫


[だって一番遅かった…]


【でも確かに、直接コミュニケーションが取れたのは今日が初めてね】


[あ、無視された…]


【一旦黙りなさい】


[はひぃ…。…誰も助けてくれないし…]


〈無理。というか嫌〉


【ちょっと、話進めていい?】


≪いいんじゃないか≫


【そうね…とりあえず、詳しい話し合いをする前に『おじさん』とか、『ロリコン』とか、呼びづらいから一旦自己紹介しましょうか】


{待て、『ロリコン』って誰のことだ。まさか俺のことじゃないだろうな。俺は何もしてないし言ってないぞ}


【違うわよ。おじさんはおじさんで自意識過剰よ】


{え…}


【そこの一人称が『僕』の奴のことよ】


[ちょおっ!僕も違うって!それはあまりにもひどくない?ねえ]


〈もうあたしたちの中での第一印象は決まっちゃったから。変更はできませーん〉


[ねえ―――!!]



【まあそんな冗談はさておき】


[僕からしたら冗談じゃないんだけど!]


【あんたはもう黙りなさい。そろそろ自己紹介いくわよ。じゃあ…年長者からお願い】


{…てことは俺か。俺は丁波日差てわひさし。会社員だったが、急性アルコール中毒で死んじまって…何故か転生した}


≪なんだ酒かよ≫


{うっせぇな。どうしてもやめられないんだよ。あの時はそんな多く飲んだつもりはなかったんだがなぁ…}


【丁波さんは転生する時、神に会ったりした?】


{ああ、会ったぞ。何と言うか、想像通りの女神様って感じだったな}


【スキルなんかは…】


{スキル?気になるのか?}


【あ、いや…私はあったから…】


〈そうなんだ?でもあたしもあった〉


{まあ、お前らはどうか知らないが、俺の場合は『侍』をもらったな}


≪すげえ≫


〈何で『それ』?〉


[日本人だから?]


{いや。実は俺、死ぬ前に剣術道場の師範やってたんだよ。}


≪それ繋がりって訳か≫


{そう言われれば、そんなことも言ってた気がするな}


【僕って言ってるやつ、あんた流石にそんな適当な理由だったら、ここにいる全員『侍』スキルになるわよ】


[え?ここにいる全員日本人なの?]


【え?それは知らないけど…。あ、でもそうみたいね、何となく皆が考えてることが読み取れる】


≪なんだそりゃ。…俺たちの心読んでるのか?≫


【ええ?違う…と言いたいけど、そうとしか言い表せないわね…。皆が言おうとしてることが、何となく伝わる感じかしら?】


≪へぇ…発言には気をつけよ≫


{それで、俺たち全員、日本人なのか}


【そうなのね】


[…はっ、もしかして読心それのせいで僕の印象が…]


〈そんなこと考えてるあんたが悪い。で、話戻るけど、結局『侍』ってどういうスキルなの?〉


{刀を使う時に、バフが乗るんだ}


【…もう少し具体的に言ってくれない?】


{あーとだな…切れ味が増したり、動きを自動でサポートしてくれたり…だったか?}


[何で疑問形?]


{あんま詳しくは分からないんだよなぁ…}


【自分のスキルを理解してないのは問題でしょ】


{でも、それで何とかなってたし…}


〈パッシブスキルってズルいわね〉


{いや、だが欠点もあってな。…このスキル、刀を使わないと発動しないんだよ}


≪普通の剣じゃだめってことか?≫


{ああ。木剣を使う模擬戦で突然発覚してな…あの時は焦ったよ。ぎり勝ったけどな}


≪勝つのかい≫


〈素でも強いのね〉


{これでも剣道7段で、師範だったからな}


[ねー、そろそろ次行こー]


【そうね】


≪じゃあ俺で。俺は鈴智金門すずさとかなと、陸上部の中学3年生で、水泳もやってたな。貰ったスキルは『鉱産加工』だ≫


{随分細かいとこまで教えてくれるな}


≪後で訊かれるのは面倒だからな≫


【…何で?】


≪あ?≫


【いや、なんでそんな突拍子も無いスキルが出て来たのかしらと思って…鉱山についてでも興味あったの?】


・・・・・・


≪…ねえな。そういや何でだ?≫


【こっちが聞きたいわ】


{まあまあ、そんなこともあるだろう…}


〈それより、『鉱産加工』っていうのはどういう効果なの?〉


≪金属を生み出したり、加工して武器にしたりできる。大体の武器は作ったことあるぜ≫


{刀もか?}


≪当たり前だ。やっぱ日本刀っていうのはロマンだろ≫


〈ねえねえ、魔剣とかは?あたし興味あったんだよね〉


≪魔剣か…俺は魔法とか、錬金術とかは全然だったんだが、魔物の素材とかの特殊な素材を使ってなら、あるな≫


〈へぇー、そういえばそんな使い道あった気がするわね〉


【あなた、本当に生産系だったのね…口調に似合わず。素材を生み出せるの?】


≪金属ならな。というかお前、それはただの偏見だろ。こう見えて俺は知的だぜ≫


[それ言っちゃってる時点でダメだよね]


〈あんたのことは嫌いだけど、それにはちょっと同感よ〉


[それも言わなくて良くない?]


〈うるさいわねぇ…〉


≪にしても…俺、おっさんに剣道教えて貰えればよかったのにな…≫


{ん?それまたどうしてだ?}


≪自慢になっちまうが、俺が作る武器ってめちゃくちゃ高性能だったんだ≫


〈本当に自慢ね〉


[うらやまー]


≪…そう言っただろ……≫


{それで、どうしたんだ?}


【あ、なんとなく流れ読めてきた】


≪そうか…俺、武器の扱いが絶望的に下手なんだ≫


{ああ…なるほどな}


[”宝の持ち腐れ”なら僕も知ってるよ]


≪うるせえ≫


[ねえ聞いてよ、僕学校の慣用句と故事成語のテストがあったんだけど]


【あんたのテストなんて興味ないんだけど】


[聞いてよ。なんと50問中、”宝の持ち腐れ”しか合ってなかったんだよ]


≪結局嫌味なのか、なんなんだ?≫


{なあ、実際に作った武器を使ってたときはどうしてたんだ?その様子だと魔物と戦ったりとかは無理そうだが…そもそもそんな機会あったのか?}


≪良い武器を作るには、それなりの素材がそれなりの量必要なんだよ。しかも冒険者どもは積極的には強い魔物を狩ったりしてくんねえからな…自分で採ってくるしかなかったんだ≫


〈そりゃあ…冒険者は命最優先だかんねえ。…夢しか見てない頭お花畑な新人を除いて。あいつらはマジで厄介〉


【どの世界にいっても、そこは同じなのね。…私も、見た目で勝手に格下に見られたりして迷惑被ったわ…】


〈あんたも冒険者やってたんだ。やっぱり、女だとそういうところが面倒なのよね…。ナギサたちも同じ経験するだろうな…絶対〉


【ええ…でも、仕方ないと言えば仕方ない部分はあるわ】


〈はあ…自分のことじゃないけど、ほんと嫌になる〉


[大変だよね]


【はあ?あなた、経験ないでしょ】


[まあ、皆僕の筋肉に怯んじゃって、喧嘩なんか吹っ掛けられた事ないね]


{なあ、例えば具体的にどんな相手に苦労したんだ?}


≪人型だな≫


{ふむ…ある程度技術が必要な相手はきつかったか。オーガなんかはどうだったんだ?}


≪ああー駄目だな、あいつらは体格がでかいしやたら力が強いから、魔導具の出力じゃ足りなかった。なんならオークでも苦戦する時は苦戦した≫


{ということは本当に基礎からもう不足してたのか}


【あなたたち、ここで授業始めてるの?】


{いや、まあ少し興味本位でな…}


〈そんなマッチョだったん?〉


[そりぁもうね、体格も君たちの2倍はあったと思うよ]


〈ほえー。ほんとかは知らないけど、それは凄いわね〉


[これは間違いなくほんとだよ]


≪まあ…そんな訳で、割と魔物と戦う機会は多かったな。常に武器の性能と、魔導具のごり押しだったが…今考えても、あれはひどかった≫


{そうか}


≪ああ。ただそんな戦法だから、手剛骨人しゅごうこつじんの目の前で魔導具の魔力が切れた時は、ほんっっとうに、死んだと思った…≫


[しゅこぅ…なんだって?]


≪手・剛・骨・人な。幸いそこまでの耐久性は無くて、咄嗟にでかい金属塊をスキルで創り出して、押し潰して勝てたけども…二度とあんな戦いはしたくないぜ…≫


{へえー、一回戦ってみたいなぁ}


≪おっさんな…人が嫌な思い出話してる時にそんなこと言うなよ…≫


{悪い悪い。まあ、なんだ、機会があったら教えてやるよ、剣の扱い。…俺も刀しか分からないが、いいか?}


≪ありがとな、おっさん。…この体じゃ無理そうだがな……≫


{……}


精神体、つまり実体を持たない上に人型でもない


[僕は武器なんていらなかったよ。己の拳こそが至高の武器だから]


≪聞いてねえよ≫

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