〈閑…「まt… 話ァッ!〉


「またこの場で書くの」


少しだけ黙ってもらってもいいか?メモの意味もあるのだ


“何なのだ本当に気まぐれで…”


 ナギサ・メトロンとの定期会合が終わって、余計な話を聞かされる前にとっととお暇したはずが、何故かまた強制的に呼び出された。しかも、ただでさえこちらは電車での移動中だったというのに、目的駅に着く前にもう一度とは…

 えてくれるというではないか!であれば、そんな興味深いことこの上ない話題…聞かない手はない


「でもそれ下書きだよね。最終的にはそれを公開するんでしょ」


そうだな。でもあとから推敲もするし、何よりこのまんまで世の中に送り出すわけないだろう


「そりゃあね」


まあ、それにしても、この現実と連動したホログラムパソコン?みたいなのを毎回用意してくれるのは有難い。自分は、アイデアなんかはしばらく置くと70%忘れてしまうからな


「私としても忘れられると困るけどさあ。これも一応実験なんだからね?」


それは最初に聞いている。だがそれってどういう…


「ところで」


最後まで話を聞け


「君達は会話に参加しないのかい?」


“…どこから介入すればよかったのだ”


「適当でいいんじゃない」


“はぁ…”


ところでナギサ・メトロン。が、言っていた例の者たち…であるのか?


「そうそう。君も何回か書いてるよね」


まあな。中々面白いから発言はなんとかして組み入れたいのだが、しかし如何せん物語の都合上、違和感のようになってしまうのが悩みだねなのだ


「勿体無い。ふむ、ちょっと考えておくよ」


ん?


“ナギサ・メトロンよ、我々にもこの白い人型のマネキンのような者を紹介してくれないか”


マネキンではない


“すまない。だが…そうとしか形容出来ないのだ”


自分はれっきとした人間だ。この姿は…この場所限定というか…とにかく、そちらのような形も無いような存在ではない。声だけ聞こえるのに、どこにいるのかも分からない


“その言い草は侮辱に相当すると捉えられるのでは?ここ限定の姿?そんなことは初対面の我々が知ったことではない。素性もはっきりしない点において、我々もそちらも大差ないだろう”


「会って早々に喧嘩なんて、大層気が合いそうだ。そうだね、君達は初対面だったね」


東京メト…


「3回目だよ?6回目には消すよ」


…おぅ…すまん(なんか知らんが口が滑った。怖っ…)。…あと3回、か…


「…フゥ。紹介だったね、このマネキンは―」


マネキン…?


「―この人間の精神体で、この人は六五区ろこく凡三ぼんみつ


六五区凡三だ


「知ってると思うけど、形式上紹介しとくね。こっちは『S116』を中核として、その他4名で構成する集合体だよ」


“本名なのか?”


いや、ペンネームだ


“ペンネーム?”


「うん。凡三君には、君達に録ってもらったナギサの行動の記録を基に、小説を書いてもらっているんだ。ラノベってジャンルになるのかな」


そうだな


“つまり小説家なのか?”


まあ、そこはなんというか…ラノベに少し興味があったところでこの神に目をつけられて、結果協力してるというか…。その実趣味程度でしか執筆出来ていないから、ただのアマチュアだ。


“なるほど。しかしメトロン殿の…我々の役目は記録まで、それをどう扱おうが勝手ではあるが…小説それは、どういう意図なのだ?”


それが、自分にもさっぱり…


「秘密。実験とだけ伝えておくよ」


……あ!


「ん?」


“どうしたのだ。そんなに驚いた顔をして”


この時点で、1200字を超えてしまった…!


“はぁ…?”


あ、1300…


“…そう言えば、メモをしながらであったな”


おまけに『ナギサ』の名前の由来を教えるとか言うから、電車中に爆睡してでもここに来たというのに…おまけに一話5000~6000字程と決めているというのに、肝心の名前について一文字もメモしていない…


“そんな事情は知らないが…”


そもそもこれは補完用の〈閑話その2〉なのだから、そこまで尺を伸ばすつもりも無かったのだがなぁ…メトロンの妨害で、その2も書けなかったし…


「はいはい、君もうるさい子だねえ」


あまりエピソードごとにムラは出したくないだけだ。…新参者ゆえ、それが中々難しいのだが


「まあ、君が気にするって言うんなら…お互い紹介も一応出来たことだし、たしかにもう本題でもいっかね」


お願いする


”我々としても特に異論というものは無いが”


「そうだねー」


ありがたい。と…ん?…これは驚いた


 目の前で喋っていたにもかかわらず、ふと気付いたらナギサ・メトロンがそこに居なかった。どこへ行ったのかと、何となく声がした気がした方を向いてみたら、本当の本当にいつの間にやら…先程まで寄り掛かっていた大樹の、それもかなり高い位置の枝に腰を掛けていた…。

 目の前で、特に目を離した自覚も無かったのであるが…


「なんにせよ、君達が進んで話し相手になってくれて助かるね。これで今日が乗り越えられる」


 何か言っているみたいだが、距離があって声が通りづらい。なぜこのような事をしたかは置いといて、一先ず…自分はメトロンのいる所までどうやって登ろうか…


「…よいしょっ」


おわっ…!


“おお…急に引っ張るでない”


驚かすな…。にしても結構高いな…


「高いとこは駄目?」


正直、得意とも言えない…が、まあ…下を見なければ大丈夫であると思う。

それで、なんでわざわざ場所を変えた?


「興が乗ったんでねー、ちょっと話過ぎてあげようと」


”…珍しい”


ようやく本題か


「そうしたいところだけど」


えぇ…


「無駄話じゃないよ。『ナギサ』を考える前に、まず知らなければいけないことから」


ほう。


「神系類共通意語の起源から」


 何やらホワイトボードもどきまで取り出して…どうやら歴史の授業が始まるようだ




「第1始祖神考案の下、他始祖神全員で体系化して、成立した。現在、神界の関係者の間で共通の言語として使われる神系類共通意語に対応する文字は存在しない」


文字が無い?


「あくまでも、意思伝達のツールに過ぎないからね。具体的には思想を直接表示して会話する言語で、それに文字は含まれない」


神界の関係者は全員使っているのか?


「偶に、身内間の言語ツールを使用する子もいるにはいる。けど特に公共な場面だと基本的には」


“待て、だとしたら、あれは何なのだ?時たまそちらも使っているだろう”


「んー…これかな?」


 そう言うとメトロンは、自身の横に何やらボードのような見た目の、これまた非常に無機的なものを展開した。そこには、自分の知らない文字の長蛇な羅列と、植物か何かのこれまた本物に見間違えるほど鮮明な写真が映されている


“そうそれだ”


これは…図鑑か何かか?


”以前に数回だけ開いているのを見たことがあるが、ところでそれは何なのだ?”


「これは全世界共通情報検索システム、通称『WIS』、全通とも言われるかな。でも今は置いとこうよ、関係ないから」


 そう言うとメトロンは、既にその『WIS』なるものを閉じてしまった。自分は初めて見た…一瞬見た限りでも、かなり興味深いものがありそうなものだったな。また別の機会に聞けるとよいと思った。


「この文字は、神系類共通意字だね」


“文字、あるではないか”


「?これは文字で、さっきのはコミュニケーションツールだよ?」


”そうじゃない”


「冗談」


…ああ。そういうことか。確かにメトロンはさっき、『対応する文字は無い』と言った。しかし…別のところに気を取られてよく見ていなかったが、羅列されていた文字は神系類共通意字だとも言った。…矛盾しているということか


「日本語に訳するとなるとそうなっちゃうってだけなんだけどねー。口頭の言語と対応する文語に聞こえても、実際2つは全くの別言語」


…中々面倒そうな予感…。普通に考えたならば、日本語の文字と発音の関係と同じものが成り立っていそうなものであるが…


「意語には発声がないんだよ」


あれ、そうだったか…?


”といっても結局、何らかの相互関係はあるのではないか?”


「あるといえばー…無いかもなぁ」


”…無いのか”


「意字はねー、意語ほどの緻密性と汎用性が無いのが玉に瑕なんだよねー。神系類共通意語の性質上、会話が全て頭の中で完結するから…一応、文に同じ機能を持たせようと作ったのが意字あれではあるのだけど、どちらかといえば別言語と捉える見方のが強いかも」


……分かるか?


”いや”


「いいよ、分からなくて。君達使わないでしょ」


いや、しかしだからといって分からないままにしておくのには勿体なさそうに思ってしまうと言うかなんと言うか…とにかくもう少し分かるように説明できないか?


「えー…頭的に入ってないものを理解させろって、大分面倒だなぁ…」


んん?…なんだろう、この矮小な脳みそで解釈できるだけでも十分侮辱的なニュアンスが叩きつけられた気がするな。


”お主…それはそれで意味不明だぞ”


「まあさ…必要になったらでいいよ…大変だから」


 自分からして誤魔化されたみたいでどうも釈然としない。

 ところでその思考…『普段の勉強をサボっておきながらいざ試験となって授業を聞いてないから試験勉強すらままならない』みたいな、悪い例の典型的なやつでは…。


「強情だなぁ…とはいえど、私が話し始めたのも事実な訳だし」


お?


「概要だけね。概要だけなら簡単だから」


“メトロン殿の『簡単』はあまり信用ならない記憶があるが…”


まあまあ、一応聞かせてくれるだけ有難いだろう。


 …後の詳細な部分はまあ、個人的に教えを請えばいいのだし、この場は一先ずすぐに分かる所だけでも教えてもらいたい。


”うーん…そうだな”


それじゃあ、神系類共通意字がどんなものか教えてくれ


「準備出来た?共通意字は、72種類の文字があって、それを基にプラスα、イントネーションで文型と意味を判別出来る仕組みになってる文字なんだな」


“…………簡単からはかけ離れているな»


「なんで?」


…S116に同感としか…既定の文字があるのにその形を変えるな


それと文字なのにイントネーションって。もはやこれを聞いた後で恐怖しか無いが…どうして音が関係してくるのだ…?


「文字の周りに付く6種類の記号と、その位置12か所、数から判断するんだよ。たった6種類と、12か所だよ?」


それだけで何通りのパターンがあると思っているのだ


「ざっと138億4128万7201通りかな?」


“それと72文字と形とだろう?”


一体何通りあるというのだ…


「形が一字につき大抵3種類だから、また単純計算で415億2386万1603通り」


数字が大きすぎて…まはや何通りなんだ


「だから415億238」


分かった、それは聞いた。


「私には足りないように思うんだよね。この場でもう2万パターンくらい増やそうかな」


一旦踏み止まってくれ。……しかし天文学的な数とはまさにこの事だろうか?


“そんな事よりも…これは普段使いできる文字なのか?ナギサ・メトロンに限らず、神界関係者はみな使用するのだろう…?”


そうだ、こんな悍ましい言語、使用に適していないぞ


「あんまり神を甘く見るんじゃないの。まあ…人間とか、他の生命体から神に昇華した子なんかは、最初は苦労するかな。けど時期に慣れるね」


その者たちも大概突出した存在なのだな…


「神、だからね」


 そういうメトロンの表情は、さも当然かと言わんばかりだ。文字だけでこれでは、どうにも理解できそうにないが…果たして神という存在も、自分らが思うよりずっと超越的な存在なのかもしれない


「そうそう、君にはもう翻訳の特定技能スキルを付与したのだけど」


…いつの間に


「念じれば発動できる。…いま試しても効果は実感出来ないと思うよ」

 

…そうだな。文字も何も無い


「でも、神系類共通意字にだけは使わない方がいい」


それまたどうしてだ


「脳が爆発する」


……………………


”…………………”


「スキルと言っても、結局は君の肉体を媒介する必要がある訳だからさ」


……何というか、そんな言われ方をしてしまったら、とんでもない爆弾を背負わされたような気分になってしまうじゃないか…


“…イカレているぞ”


…全くだ


「で…これが神系類共通意字で書いた『ナギサ』と、『ナギサ・メトロン』」


 空中に黒い文字が2つと4つ、並べて浮かび上がった。…当然ながら、そう言われたところで分かるはずもなく…どの角度からどう見たところで、何一つ情報が読み取れない

 その上、日本語とアルファベットしか知らない自分からすると、いきなりこれを見せられたとしたら、文字と認識できるかすら危うい。……意味不明過ぎて、以前漫画で見たヘブライ語?なんかにも見えてしまうな…いや、双方分からないのに下手な事は言えない。そもそも、先程の通り立体の線やイントネーションを表すらしい記号の存在からして、言語として別次元だ。…たしかにここは神界だ


「つまんない、それ」


心のナレーションに口を出してくるな!


「まあ、一つの文字が複数の意味と読みを持つ点は日本語と同様、発音イントネーションで意味が変わるのは中国語にも似てると考えればさ、他の独自な要素を除けばあとは意外と身近に感じられない?」


“はぁー…まあ、そう言えなくもないか…”


確かに…見方次第であるな


「頭を柔らかくしとこうね」


“それで、これらがそれぞれ『ナギサ』と『ナギサ・メトロン』と書いてあるのか?”


「いや。そうじゃない」


それでは言っていた事と違うぞ


「正しくは、そうでもあるし、そうじゃない」


一体どっちだ…ところでそろそろ巻いてはくれないか。5000字を既に300字超過している…


“まだ気にしているのであるか…”


「ホント、そんな神経質になる事無くない?」


他の作家さんがどうかは知らないが、自分にとっては重要な部分なのだ。26話も6000字を大幅にオーバーしてしまっているし…


「なら気付いたら?いま君が一番文字数使ってるよ」


( ゚д゚)ハッ!…………見返すとたしかに


「その上で私のせいにするのは、お門違いじゃないかな」


 二人して、自分のメモを覗き込んで他にもあーだこーだ好き勝手言っているが…


“ふーむ…ナギサ・メトロンの長セリフもあるものの、確かに総じて俯瞰すると、会話も含めて六五区殿が高い割合を占めている気もするな”


いや…しかし…物語構成において必要な要素を蔑ろにするわけにもいかないだろう…


「それより、急いでほしいんでしょ。パパっと終わらせてあげるから」


ああ…まさか、メトロンに気を遣われるとは思わなかった。いや、これは自分が悪いか…反省だ。


「…共通意字は、実際の単語の音と、その意味を、文字だけで同時に持ち合わせる両面構造になってる」


ふむ

 …ところでこれくらいなら、既に授かったらしい翻訳のスキルを試せるのではないか…?メトロンはこの文字だけはやめろと言うが、流石にこの6文字なら…


「止めな」


…心を読みながら会話しているのだった。うっかり失念してしまう


「そこはどうでも良い。止めろと言ったよな」


っ……これだけでも、なのか…?


 …何だ、この空気感というより、雰囲気は…


「—ハァ、君も馬鹿だね」


何だと…


「たしかに、これが既知の言語であるなら構わないよ」


 そういって、目の前にある文字を示す


「だが君はについての情報を持っていない。要するに、これの解読に必要な言語情報全てを、一度インプットしなければならず、そのため発動すると意思に関係なく入ってくるその情報を、君の脳はカバーできない。いまは精神体でもそれをつたって、本当に、死ぬよ」


…了解した


“…今回は、ナギサ・メトロンの言い分が正しいだろう。我からも止めておく”


大丈夫だ、もうやろうとも思わない

 あんな雰囲気は、感じた事が無いからな…いつ何時なんどきでも


「それは良かった」


 …既に、それまでの軽い調子に戻っているが…流石と言うべきなのか…。まあ…しかし今回ばかりは本当に、全面的にこちらに非がある上、危険を事前に察知して制止してくれたのだから、感謝せねばならないな


「それで、これらは先に言った通り単語としては『ナギサ』と『ナギサ・メトロン』の音で読む。そこで、ここでの同じナギサの部分に注目してもらいたい」


“この、前2文字は文字そのものの形は同一に見えるが…記号が違うな?”


つまりイントネーションか?(…それだ!とでもばかりに指で示してくるということは、恐らく正しいのだろうな)


「実際に発音してみるから、良く聞いといて」


 一拍


「『ナギサ』、『ナギサ・メトロン』」

  →→↘  →→↗ →↓→↗


……ほう


“なるほど…”


「この違いで分かれる、単語の意味こそが、名前の由来になる」


“それは…?”


「ナギサ(→→↘)が表すのは…」


のは…?


「…代表的のものが3つ程あるから、その内の1つ」


―――全部じゃないのかい


「尺がね」


…自分のメモに気を遣ってくれているのか。別に、問題無いぞ。その部分だけ載せて、会話は切り取る


“やはり余裕はなさそうだな”


「それは中々に無理矢理だ。でも切り取るとしても、聞いてはもらうよ。それじゃあ意味…」


…む。…6536字か…


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