村での暮らし

第34話 並行して体力も

 ここは森の比較的浅い場所。そこに、その姉妹はいた


 一人は、岩の上に座って手持ち無沙汰といったように辺りをキョロキョロと見回している。そしてもう一人は…おや?姿が見えない。先程までは、そこの木の下にいたのだが…



「ねー、お姉ちゃん、この木の実って食べられる?」



 いつの間にか、木の上に登っていたらしい。その一人が、やけに角ばった三角形の木の実を指差してそう聞くと、下にいる一人は自らの記憶を探して考え込んだ後答えた



「ん?んー…それは確か……えーと、さ、さん…サンガククリョだ。たぶん食べられるよ。そのままで食べると苦いけど、茹でれば美味しくなるっていうフルーツだったはず」


「じゃあ持って帰ろう」


 そう言ってナギサはサンガククリョを集め始めた。結構高い所のやつも、軽々と登って採っていく…この眺めはなんだか少しシュールだ、読んだことある漫画にも、こんな少女はいなかった気がするぞ


 こないだも思ったけど、ナギサの身体能力凄いな…一応強化使ってるのかな。それでも凄いけども

 前世に引き続き運動神経が終わってるわたしには、全くできる気がしない。学生時代、体力テストの結果に毎回笑ったよ、もはやネタ



“もう分かっているだろうが、ナギサとフィーネである。因みに言ってみると、つい先程、森の目の前で…


『…ねえ、やっぱあんな事があった後だし、今日は止めにしない?』


『約束したのに駄目だよ…』


『いや、絶対分かってくれるって。だから止めよう』


『今更…それお姉ちゃんがビビってるだけでしょ』


『…いや、それはない…ない』


『そんなのお姉ちゃんだけだから。時間の無駄、さっさと行くよ』


『また何かあったら困るから!ま、待って…ああああぁー!』


…といった感じのやり取りの後、ナギサに抱えられて強制的に連れてこられた経緯があったりする。以上、閑話休題”



「てか、魔法でとったりできないの?そっちのほうが効率的だろうに」


「できるけど、こうやってエーテル特有の強化倍率の高さを活用して身体強化したほうが、魔力の消費が少ないんだよ」


「それ結局魔法じゃない?」


「いや、これは足に限定して純粋な魔力を流すっていうだけだから、魔法ではないよ。前もちらっと言ったと思うけど魔術を定義づける内部術式が存在しないから。そのおかげで消費が少ないってこと」


 でた、内部術式がうんたらかんたらってやつ。魔法じゃないと言ってもさ、それもそれで万能すぎん?さらに消費も抑えられる…なんであいつはこれを制限しなかったんだろう…


「お姉ちゃんもエーテル体なんだから、魔力操作ができるようになれば私と同じことができるはずだよ。特にお姉ちゃんはもう融和してるから…」


「絵面が想像できないな…」


そういえば今更だけど、わたしもエーテル体になったんだよな…当然ながら木登りもできないわたしが、あんなサルみたいに器用に、木の上をぴょんぴょんする画が全然浮かばない…


「…ん?待って、融和?なにそれ、初めて聞いたんだけど」


 そうだよ、サルがなんだとかじゃなくて融和ってなによ。はじめて聞いたんだけどそのワード?

 ねぇ、せめて悪いことじゃないよね?最近、体が(物質的に)変化しまくってるから(主にあいつのせいで)その悪影響とかじゃないよね?もしそうだったら、さすがにキレたいが


「あれ…言ってなかったっけ…」


「初耳だよっ!」


…あ、いかん。あいつにキレ散らかしてたら妹にあたってしまった

ああ、ちょっと怯えてるよ!「どうしたの…?」って目で言ってる…あの都営地下鉄め…いや、メトロだけども

 もしくはmetro.ed.jpか…?て違う、じゃないって、そんなのどうでもええわ


「いや、別に怒ってる訳じゃないよ。えっと…そう、ただ聞いたことなかったから気になっただけだよ」


「…ほ、ほんと?」


「ホントホント」


「そ、そう…」


 よかった、何とか誤魔化せた…。


 とりあえず、前みたいに泣き付かれるとわたしの肋骨も心配だから、こういう時はあまり刺激しない方がいい…でないと何故か、そういう流れになってしまうのだ。

 今のところあれ以降無いけど、いつ爆発するか…予測はできないからな。場合によっちゃ、本当に骨折しかねない…おかげで胸板が固くなった気すらする…いや、違うよ?そういう意味でもないからね?

 まあ、こういう時は適当になだめて、あとは見守るしかない


 そんなこんなを考えてる内に、落ち着いたナギサは採取を一度止めて、いつかの服の収納にも使用していた『ストッカー』に、それまでに集めたポケットいっぱいのサンガククリョを入れた。そして隣の木に移って、また作業を始める


 …結局、ほとんど微笑ましく眺めてるだけなんだよなぁ…。なんだか我が子を見守るお母さんみたいな気分だ。合ってるかは知らない。でも、ナギサの肉体年齢も低いし何だか出会ってすぐの頃より、精神年齢も下がってる気しかしないから余計に…

 そういや、実年齢はまだ1ヶ月くらいだっけ。あれ、だとするとこれってむしろ正常なのか?わたしの転生者の感覚がおかしいだけで

 まあどっちにしろ、わたしはナギサの成長をこの目線で見守り続けるよ…なんて


 そっちの方が落ち着いた所で…ホント、便利だなぁ…魔法それ。でも確か教えてくれるって言ってたよね

 漫画で主人公がアイテムボックスとかに物を入れるシーンで、同じように思ったことあるけど、服とか他の物と一緒に入れていいのか…いや、中では仕切りみたいので分かれてるのかもしれないな。でないといくら大雑把な性格でも、食料と魔物の死体を同じ所に入れようとするはずがないか。勝手に納得しとこ





 わたしは特にやる事も無いので、森のうららかな風にあたりながら全然意味もない思考を巡らせていた。ただ、やっぱりこないだのことを思い出すと、何だか落ち着かない…周りには何もいないな…?


 そんな風に過ごしていると、ついに待ち人が


「あ、おはよう、フラネ」


「おはよ」


「おはようー」


 ナギサも採集を終わりにして、持っている分をまた『ストッカー』にしまったらわたしたちのもとに降りてきた


 目的地は例の川。そう、今日はナギサによる魔法教室だ


「じゃ、行こっか」







 …も…もう無理……


 川に着いた頃には、フィーネは力尽きていた。精も根も尽き果て、もはやまっしろだ。フィーネは、ナギサたちより5分ほど遅れて目的地に到着して早々に地面に倒れ伏し、一言も発することはない

 それも道中ナギサがあえて速い速度で歩いたからだ。それと余裕がなかったフィーネは気づいていないが、ついでに言うとナギサは敢えて遠回りをしていたこともある

 何とかナギサのペースについてきていたフラネも、両膝をついて荒い息遣いだ


 河原は、前と変わらない姿を保っていた。いや、ナギサの『リアライズリープ』とかいう魔術で元に戻した訳であるから、当然なのではあるが

 強いて言うならば、フィーネとフラネールのせいで倒れた木が少し元気がなさそうだが…一度倒れたからだろうか…あの魔法は時間を巻き戻してる訳ではないとのことであったから


「ニ人とも水飲む?」

 ナギサは水球を2つ生み出してそう言った


「「………」」


 それから暫しの休息…


「それじゃあ、そろそろ始めるよ」


 いま、わたしたちは地面から生えてきたイスに、ナギサと対面するような形で座っている。……そうだよ、んだよ…土魔術だってさ


 そこでわたしは気になった、「魔法じゃなくて?」って。いまさらながら思えば、ナギサはこれまでもずっと『魔法』ではなく『魔術』と言ってきた。なので何か違いでもあるのかと思って聞いてみた

 そしたら…


「どっちも同じだよ。でも、『術式』っていう言い方から分かる通り『魔術』の方がより正しい…いや適切だと思う。もうちょっと詳しくいうと、神の間で言う『術』を、魔力で再現したという意味での『魔術』。魔法は後から出てきた言い方なの。あと属性っていうのは魔力の性質のことだから、わざわざ魔術の総称には付けないかな…」


だそうです。たぶんこの世界で今わたしたちしか知らない豆知識だね。だってフラネの常識知恵袋にもない情報だったんだもん。地味にためになった


「まずは、基礎の更に前の魔力の認識と操作から…」


「え?ちょっと待って。操作はまだいいとして、認識はこないだできたんじゃないの?」


「たしかにそうではある…けど」


「けど?」


「あの時は生命の危機に、一時的に潜在能力が覚醒したような状態だったと思うからね。だからそれとは別に、平時でもしっかり認識できるようにしないと」


「なるほど…」


「まあ、一度できたことだから、すぐに感覚は掴めると思うけどね。じゃあそこで集中して、自分の中にあるエネルギーみたいなのを探してみて」


「…なんかコツとかはある?」


「コツかぁ…魔力は精神の影響を受けやすくて、人によって千差万別だから…………とりあえず全身に意識を向けて、どこかにあったかい何かがあったらそれが魔力だと思うから、辿ってみて」


「ん」


「わかった」


 かくして、ナギサによる魔法教室が始まったのだった………わたしは『魔法』で呼ばせてもらうよ

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