村での暮らし
第33話 並行して体力も
ここは森の比較的浅い場所
2人の少女のうち一人は、岩の上に座って手持ち無沙汰といったように辺りをキョロキョロと見回している。そしてもう一人は…おや?姿が見えない。先程までは、そこの木の下にいたのだが…
「ねー、おねーちゃん。この木の実って食べられる?」
いつの間にか、木の上に登っていたらしい。その一人が、やけに角ばった三角形の木の実を指差してそう聞くと、下にいる一人は自らの記憶を探して考え込んだ後答えた
「ん?んー…それは確か、えーと…さ…そう、サンガククリョ。多分食べられるよ。そのままで食べると苦いけど、皮を剥いて茹でれば…」
「じゃあ持って帰ろう」
「…最後まで聞こうね」
そう言ってナギサはサンガククリョを集め始めた。結構高い所のやつも、軽々と登って採っていく…この眺めはなんだか少しシュールだ、読んだことある漫画にも、こんな事をする少女はいなかった気がするぞ
こないだの時も思ったけれど、ナギサの身体能力って凄いよな…一応強化使ってるのかしら。それでも十分凄いけども、前世に引き続き運動神経が終わってるわたしには、全くできる気がしない。学生時代、体力テストの結果に毎回笑ったよ。もはや完全にネタなんだよね、こっちは真面目にやってるのによう…
“現在2人とも穏やかな空気だが、因みに言ってみるとつい先程、森の目の前で…
『…ねえ、やっぱあんな事があった後だし、今日は止めにしない?』
『約束したのに駄目だよ…』
『いや、絶対分かってくれるって。だから止めよう』
『今更…それお姉ちゃんがビビってるだけでしょ』
『…いや、それはない…ない』
『そんなのお姉ちゃんだけだから。時間の無駄、さっさと行くよ』
『また何かあったら困るから!ま、待って…ああああぁー!』
…といった感じのやり取りの後、ナギサに抱えられて強制的に連れてこられた経緯があったりする。以上、閑話休題”
「…ねぇ、魔法で採ったりできないの?そっちのほうが効率的なんじゃない?」
「出来るよ。けど、こうやってエーテル特有の強化倍率の高さを活用して身体強化したほうが、魔力の消費が少ないんだよ」
「それ、結局魔法じゃなくて?」
「違うよ、これは足に限定して純粋な魔力を流すっていうだけだから。前もちらっと言ったと思うけど、魔術を定義づける内部術式が存在しないんだよ。そのおかげで消費が少ないってこと」
でた、内部術式がうんたらかんたらってやつ。未だに何の事か分からないんよな。それに魔法じゃないと言ってもさ、それもそれで万能すぎん?さらに消費も抑えられる…なんであいつは、これを制限しなかったんだろう…
「おねーちゃんもエーテル体なんだから、魔力操作ができるようになれば私と同じことができるはずだよ」
「そうかなぁ」
「だったら、いまここで教える?特に、おねーちゃんはもう融和してるからすぐ…」
「正直、絵面が想像できないな…」
そういえば今更だけど、わたしもエーテル体になったんだよな…当然ながら木登りもできないわたしが、あんなサルみたい、いやそれ以上に、器用に木の上をぴょんぴょんする画が全然浮かばない
「…ん?待って、融和?」
「え?」
「え?いやじゃなくて」
Ok,Goggle、融和とは?
「なにそれ、初めて聞いたんだけど」
そうだよ、サルがなんだとかじゃなくて、融和ってなによ。初耳だよ?そのワード
ねぇ、せめて先に言っておきたいんだけど…悪いことじゃないよね?最近、体が(物質的に)変化しまくってるから(主に
「あれ…言ってなかったっけ…」
「知らないよ!」
「え…?ご、ごめん…」
…あ、いかん。
ああ、ちょっと怯えてるよ!「どうしたの…?」って、目で伝えてる…あの都営地下鉄め…いや、私鉄だけども。はて、もしくはmetro.ed.jpか…?て違う、じゃないって。そんなのどうでもいいのよ。何してんだわたし…
「いや、別に怒ってる訳じゃないよ。えっと…そう、ただ聞いたことなかったから気になっただけだよ」
「ほ…ほんと?もう平気?」
「ホントホント、ヘイキヘイキ」
「そ、そう…」
よかった。若干(棒)ではあったが、何とか誤魔化せたな
とりあえず、前みたいに泣き付かれるとわたしの肋骨も心配だから、こういう時はあまり刺激しない方がいい…でないと何故か、そういう流れになってしまうのだ。これ、予感
どんな流れにしろ、ナギサにホールドされてしまったら逃げ道はないから、そうなるにしても向こうが落ち着いてる時が良い…そう、こないだの時みたいにさ。まあ…あれもあれで体重が乗るわけだから、苦しいことは変わらないのだが…でもそれで死ぬことはない
予測は、出来ないからな…場合によっちゃ、本当に骨折しかねない。…いざそうなったらまた治してはもらえるのだろうが、そういったところで痛い思いをすること自体は同様…許容できるはずもない。既にこの数日間、あれらに限らずナギサの重みを体感している…おかげでこの短期間で、胸板が固くなった気すらする…まあ筋肉が付いたわけでもないが…いや違う、だからといってそういう意味でもない
元々…?それは…
そんなこんなを考えてる内に、落ち着いたナギサは採取を一度止めて、いつかの服の収納にも使用していた『ストッカー』に、それまでに集めたポケットいっぱいのサンガククリョを入れた。そして隣の木に移って、また作業を始める
それより、わたしがいま、何をしてるのか?いや…結局、ほとんど微笑ましく眺めてるだけなんだよなぁ…ナギサを。だって木登り出来ないし、この辺りの地面には役立つ植物なんかも生えてない。
うーん、なんだか我が子を見守るお母さんみたいな気分だ。表現として合ってるかは知らない。でもナギサの肉体年齢も低いし、何だか出会ってすぐの頃より、精神年齢も下がってる気しかしないから余計に…
そういや、実年齢はまだ1ヶ月くらいだっけ。あれ、だとするとこれってむしろ正常なのか?わたしの転生者の感覚がおかしいだけで。まあどっちにしろ、わたしはナギサの成長をこの目線で見守り続けるよ…なんて、いらないか…別に。お互いとっくに物心は付いてるもんな
自分でも趣旨を良く理解していないが…なんだか結論が出たみたいだ
そっちの方が落ち着いた所で…ホント、便利だなぁ…
漫画で主人公がアイテムボックスとかに物を入れるシーンで、同じように思ったことあるけど、服とか他の物と一緒に入れていいのか…いや、中では仕切りみたいので分かれてるのかもしれないな。でないといくら大雑把な性格でも、食料と生き物の死体を同じ所に入れようとするはずがないか。勝手に納得しとこ
◇
わたしには先程の通り特にやる事が無いので、森のうららかな風にあたりながら、相変わらず全然意味もない思考を巡らせていた。ただ、やっぱりこないだのことを思い出すと、また熊でも出てくんじゃないかとか…何だかそわそわしてしまって落ち着かない。…いまは、周りには何もいないな…?
そんな風に過ごしていると、ついに待ち人が
「あ、おはよう、フラネ」
「おはよ」
「おはようー。よいしょ…」
ナギサも採集を終わりにして、持っている分をまた『ストッカー』にしまったら、わたしたちのもとに降りてきた
目的地は例の川。そう、今日はナギサによる魔法教室だ
「じゃ、行こっか」
◇
「…やっぱり、こうなったか」
「「ゼエ……ハア……」」
…も…もう無理……
川に着いた頃には、フィーネは力尽きていた。精も根も尽き果て、もはやまっ白だ。ナギサとフラネール一足先にこの間の川へ到着し、フィーネはそれよりより5分ほど遅れて目的地に到着して直後、早々に地面に倒れ伏し、それ以降一言も発することはない
それも道中、ナギサがあえて速い速度で歩いたからだ。それと余裕がなかったフィーネは気づいていないが、ついでに言うとナギサは敢えて遠回りをしていた。何とかナギサのペースについてきていたフラネも、両膝をついて荒い息遣いだ
河原は、前と変わらない姿を保っていた。いや、ナギサの『リアライズリープ』とかいう魔術で元に戻した訳であるから、当然なのではあるが。強いて言うならば、フィーネとフラネールのせいで倒れた木が少し元気がなさそうだが…一度倒れたからだろうか。あの魔法は時間を巻き戻してる訳ではないとのことであったことだし
「ニ人とも、水飲む?」
ナギサは水球を2つ生み出してそう言った
「「………」」コク
暫しの休息
「それじゃあ、そろそろ始めるよ」
いま、わたしたちは地面から生えてきたイスに、ナギサと対面するような形で座っている。……そうだよ、生えてきたんだよ…土魔術だってさ
それにしたって、凄かったわ…2回目だけどさ、あのペースに付いて行くのは不可能に近い…何よ、自覚?—―――はあぁぁ…分かってるよ、わたしが森歩きが下手なくらい。流石にわたしだってそんな無自覚鈍感なわけないでしょ…
でもね?たしかにそうだけど…認めたくないけどそうだけど!あのフラネですら膝をつくんですよ。しかも、踏み固められた道があるってのにナギサったら、そこからわざわざ外れようとするんだよ。…なんで?おまけに、足場が悪いというのにも関わらずスイスイ進むし、そのくせ待ってくれないし…。全ッ然川が見えないから、方向は合ってるのか聞いても
「大丈夫、方向を間違えることはないから」
としか答えてくれない。だってナギサあんた、前科あるからね?あの時はフラネが止めてなかったら奥まで直進してたから。そんな訳でいまいち信用ならない
まあ…結果着いたんだけどさ
まあいいや…それはともかくとして、この状況だ
まずこの土魔術について、わたしは気になった「
「どっちも同じだよ」
「あれ、そうなの?」
「うん。指してるものは同じだよ。ただ『術式』っていう言い方から分かる通り、『魔術』の方がより正しい…いや適切だと思う。もうちょっと詳しくいうと、神の間で言う『術』を、魔力で再現したという意味での『魔術』。魔法は後から出てきた言い方なの」
「はえー…」
成程…たしかに、法式なんてのは聞かないな。魔法の方が後生まれなのか
「属性は…魔力の性質のことだから、魔術の名称として付けることはあまりないかな…」
…だそうです。~属性魔法みたいな言い回しも漫画とかであるから、この際に訊いてみたんだよね
「私は知らないけど、世界によっては無くは無いとは思う」
「やっぱ、そこはまちまちなんだな」
「そうだねー」
たぶんこれ、この世界で今わたしたちしか知らない豆知識だね。だって、フラネの
「さて、じゃあ始めよ」
「そうね」
「ん」
何が始まるかというと、まず何故場所が森なのか。わたしたちにとって共通の場所で、…人目にも付きづらいからだ
ここまでくればもう分かるであろう。今から始まるのは…お待たせしました、ナギサによる魔法講義…なんか堅苦しいな…魔法教室のお時間です。ナギサの持つ知識全て、基礎から学ばせてくれるそうだ。勿論、数回に分けてね。こちとらなんの知識も無い完全な素人だけど、魔法にもコツやらなんやらがあるらしい。そして、それが分かれば習得も楽な上に、そこから様々な分野に応用が利くらしい、というのがナギサによるまず第一の声明
「基礎的な魔術さえ使えれば、それだけで色々応用も利くのだけど…まずはその習得からだね?」
「「うん」」
「基礎の更に前、魔力の認識と操作から…」
「え?ちょっと待って」
「え?」
「どうしたの?」
いやさ…
「操作はいいとして、認識はこないだ出来たんじゃないの?」
「…あー」
そうじゃない?断言していいのか分からないけど、それでも熊撃退時に
その辺も状況説明の際に伝えてるから、その段階はスキップするもんだと思っていた
「たしかにそうではある…けど」
「けどって?」
「あの時は生命の危機に、一時的に潜在能力が覚醒したような状態だったと思うから。だからそれとは別に、平時でもしっかり認識できないといけないよ」
「あー…成る程そういうこと」
「やっぱり、出来た方がいい?」
「うん、あらゆる魔術関連の場面で、基盤になるよ」
「はぇ~…」
ねー?フラネ、そうなんだねぇ…
「まあ、おねーちゃんの言うように一度できたことだから、すぐに感覚は掴めると思うけどね」
「だといいな…」
「じゃあ早速集中して…自分の中にあるエネルギー、みたいなのを探してみて」
分かっちゃいたけど、抽象的だなぁ
「…コツとかはある?」
「コツかぁ…魔力は精神の影響を受けやすくて、人によって千差万別だから……」
「無い、ってこと?」
「…あると言えばあるんだけど~…」
「いやどっちよ」
そんなにはっきりしないもんなの?
「それが人によって違うから、私というか、他人が教えるのが難しいかな」
「…自分で、探すしかないんだ」
「取り敢えず、全身に意識を向けて、どこかにあったかい何かがあるかもしれない。そしたら、それが
「ん」
「わかった」
かくして、ナギサによる魔法教室が始まったのだった………わたしは『魔法』で呼ばせてもらうよ
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