第34話 魔術、の前のもっと前
そして始まったナギサの魔法教室、…まだその段階でもないけど…わたしとフラネは早速、魔力の認識とやらを試してみた
この間は身を守るため、精神への反応性が高い魔力が瞬間的に体内で活性化しただけで、平時に魔法を使えるようになるには、まず自発的に体内を巡る魔力の存在を認識しなければいけないらしい
「最初は目を閉じてやるとやり易いよ。意識を内側に集中させて」
うーん…ナギサに言われた通りにやってるし、一度出来た事だからと思ってたんだけど…意外と見つからない…
まあ、まだ始まったばかりだし、気長にいこう。頑張れば、今日中にはこの段階はクリアできるはず…
―――10分後―――
まだか……場所が悪いのかな…
かれこれ10分、全身に意識を巡らせて魔力を探しているが、まだそれらしきものは見つかっていない。一昨日は確かにその”何か”を掴んだ気がしたのだが…その感覚は未だ訪れない
「ふぅー…」
わたしは一度目を開いて、肩の力を抜いた。少し、疲れたな…。休憩しよう。思ったより見つからないのな…正直舐めてた。まあ、ゆうてまだ数分、どうせ時間はあるんだし
周囲ではそよ風が吹き、木の葉がさわさわと揺れている。実に穏やかだ。このまま昼寝でもしたいな
「ん…?」
…ナギサも、わたしたちの対面で座禅みたいなことしてるけど…何してるんだろう。それだけじゃなくて、何だか周りに白く光ってる玉とか、色も様々な光?とも言えないような未確認物体が浮いてて、見た感じ凄い神秘的…あれが魔力?
うわっいま動いた…ん?今度はアーチ型か…と思ったらさらに変形して……お?……おおお、すげー!……って、完全に魅入ってしまった。なんか、前世にあったLEDパフォーマンスだっけ?みたいで面白いな
そういえば、よく見たらナギサのイスだけでかくなってるし。丸い台座みたいな形。ナギサが魔法で作ったものだから、形とかも自由に変えられるのか
“その言葉の通り、ナギサは現在イス…というよりは、彫刻の台座のようなもの…の上で座禅を組み、魔力量と制御力を高める訓練をしているところだ
フィーネからしたら、ナギサが顕化させている魔力の動きが面白いようで、我に返った後もすっかり夢中になって目で追っている。その行動は、集中しているナギサとフラネールには見えていないが”
ほうほうそういう……あ、いかん。駄目だダメだ…訓練中なのに、こんなことしてる場合じゃない。だけど、なんだか具体的なイメージがついた気もする。今ならいけるかも?
その前に、わたしもその姿勢真似してみよ。何か効果あるかもしれないし…それに座禅って一度やってみたかった、よいしょ……あ、ちょっ………このイスだとやりづらい…
座面の小さいイスの上で若干苦労しながらも…あっているのかは定かではないが、ナギサと同じくあぐらを組んで、再び意識を己の深部に向けた
もっと深い所なのかな…。あの
ん…?お、こっちか? あ…何だか柔らかな温かみを感じる。それ自体は、最初からどこからともなく感じられたものだけども…なんか、近い気がする
――――—―――――――――――—―
―――さ―――—―――――…――
―――…―――—…—―――――
―?―――――ん―——―
――――あった―――――――—―
「―あった―」
「…二人とも、一旦休憩しよー」
「え――あ…」
あった!…と思った瞬間、寸前でナギサの声が挟まってしまったもんだから、集中が途切れてしまった。それだけなら良かったけど…同時に魔力の感覚も急速に遠ざかっていった
「…?」
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよお!ありそうだったのに…」
あとちょっとだった…本当にあと少しだけ…そりゃナギサもわざとじゃないだろうが、にしてもタイミングが悪かった。わたしの声にびっくりしてるけど、これはしょうがない
「え?でも見つけたって…」
「そうだよ。見つけたけど、集中が切れた」
「あ…ごめんなさい…」
…ちょっと言い過ぎた
「ああいや、いいんだよ…」
「フィーネ、大丈夫?」
「ああ、うん。平気、感覚は分かったから、次こそ見つかるよ」
「…良かった…」
「いや、わたしも当たって悪かったよ。それに、見つかったのもナギサの魔力を見たあとだから、むしろありがとう」
「う、うん?どういたしまして…?」
「…なに、それ」
「あ、見てない?綺麗だったよ、なんかこう…光がクルクル、グナーンって…」
「?」
「おねーちゃんは見てたの?魔力を上げる訓練なんだけど」
「ちょっと小休憩中に目に入って。やっぱり、あれが魔力?」
「そうだよ。…あ、もしかしてありがとうって、そういうこと…?」
「まあ」
こんな直ぐに感覚を掴めたのも、間違いなくあれを見たおかげだろう。それに、あれは中々のパフォーマンスだった。訓練中じゃなかったらずっと観続けてたよ、なんならアンコールしたい
「そうだ。魔力の感覚を覚えたら、二人にもあれをやってもらおうかな」
「え、やるの?」
「そもそも何の話…」
「フラネにも後で見せてあげる」
「わかった」
「ねぇ、《あれ》やんなきゃいけないの?」
何してたのかは分からなかったけど、絶対難しいことしてたと思う。とにかくわたし、できる気がしないんですけど
「別に難しくないよ。魔力も魔術と同じようにイメージと感覚に依るから、慣れの部分もあるけど」
…心を読まれた?
いやないか。思い返したら普通に、文脈的にそうなるわ。でもそれはそうとしても、魔法ってこれまでだけでもう結構無茶苦茶なんが多かったから、そんな魔法でも本当に存在しそうだなぁ…ん?そういや、
…でも、あんな
「おふっ…⁉」
なんだ!?魔力弾が腹に…
「ゲホッ…うぇ………」
危な、食道まで出掛かったわ…
「…あいつの悪口考えたね?しかも私の魔力使いやがった…」
地味にそんなしわよせが…いやわたしの方が重症だけどね
「…巻き添え、なくてよかった」
「ぐぅぅ……」
フラネもまた辛辣な…たすけて…
あいつさ…本当に痛いのだけがやめてくれないかな…?もう、仕返しの域を越えてるんだよ………いてぇ…
◇
回復に暫しの時間が掛かった後、ようやく作業を再開することが出来た
「ねぇ、魔力を認識したとして、そしたらどうすればいいの?」
「認識さえできれば、もう思考との同期は出来てるはずから、なんとなくで動かしてみて」
「どうやって…?」
「適当すぎない?」
「結局イメージなの。そのうち体内のもっと細かい所の流れとか、最終的には外界の魔力とかも明確に識別できるようになると最高」
「ああー、あの魔石みたいな?」
ナギサが倒した狼から取れた魔石、わずかに気配というか、似たものを感じた
「まあそういうこと。それに、例えばこの認識のプロセスは、気配の察知とかに派生する事柄でもあって、索敵能力は生存率にも直結するから」
「重要になるわけか」
「次にやる操作は特に、魔力を使う全ての工程に関与するから分かりやすいんじゃない?」
「もしかして、だから基礎から…?」
「ううん」
「違うの…?」
たしかに、そこはフラネ言う通りじゃないの?
「違うよ。だって、それに限った話じゃないから。何でも、基礎があればその上に成り立つ。無ければ破綻するか、どこかで綻びが生まれる…でしょ?」
「おー…」
「深いな…」
「いや…そうでもないよ」
基礎は重要だからな。『初心忘るべからず』の言葉通り、初めに誰でも教わることこそ、物事の中心原理になるからな
…そうか、創作に慣れ過ぎて、魔法という概念を思った以上に単純なものと思っていたのかもしれない。でも違うもんな。資質やら才能に左右されやすいかもといえど、魔法だって相応の練習の上で成長するもんだし、その方法…基本が間違っていたら、いくら頑張ろうと習得すら出来ない…出来たとしても、その後伸び悩むことも出てくるかも可能性もあるかもな
おっと。わたしとしたことが、ついそんな事を長考してしまった。さて、なんとなくか…。とりまさっきの場所をもう一回探してみるとするか…………あったな
本当にすぐ見つかった。さっきの難しかった感じが嘘みたいだよ。座標で言うと…胸のちょい右辺り?何だかいまのわたしの心の如く、モヤモヤとした感じの…何か。おそらくこれが魔力だな…ナギサは
というわけで、およそ身体の中心辺りにあるそれを、右に動かすように意識してみた。スッと動く。意外と簡単?じゃあ左…問題なし。あ、ナギサのあれ思い出して、形も変わるんじゃない?…んー……お、やっぱできた。球に正方形に多面体もできる…
「やっぱり、おねーちゃんはすぐ出来た」
「おおっ…びっくりした…」
「それはごめん」
いつの間に目の前に…
「あれ、というか…見えてるの?中でしか動かしてないけど」
「魔力を見る方法なんていくらでもあるよ」
もしかして、そういうのがさっきのにあった索敵能力なんかに関係しているのだろうか
「こんなに早いとは…融和させたのも影響してるのかな…」
「ずっと気になってたけどさ、その融和って結局なんなの?」
ナギサの小声に思わず訊いてしまった。前にも口を滑らしていた『融和』がどうしても気になって
「そうだね…もうここで教えてもいっか。フラネもついでに聞いてくれる?」
「ん…わかった」
わたしたちが聞く姿勢になると、ナギサは話し始めた
「それじゃあまず、魔力には親和性があることは、前提として覚えて」
「分かった」
「融和というのは魔力が完全に身体に馴染んだ状態、つまり親和度が100%に達した状態のことで、基本的に、魔力操作や制御が最もスムーズになってる」
「はい」
「質問?」
「基本的に、っていうのは?」
「えーとね、それはあとで説明するよ。まずは融和から終わらせるね」
「了解ー」
「それとついでに、純粋に魔力を操作することを魔力操作、魔術を操作することを魔力制御って使い分けてる」
「へー…」
早速少し難しい話になったけれど、何とか付いていけるな
「この2つが上達すると、一緒に親和性が上がっていくから、さっきの私みたいな方法で訓練する訳だけど…フラネは知らないだろうけど、以前一度、おねーちゃんにはその親和性を人為的に高める処置をしたことがあるの」
「ああ…」
「どうしたの…?」
「あれはキツかった……もう思い出したくない…」
「悪かったよ…。まだ感情がなかったから、良かれと思ってあの手段を取ったんだって」
「よく分かんないけど…そんなに辛いの?」
「フラネは絶対やっちゃダメ。死ぬ(ほどやばい)」
「わ、わかった…」
フラネが万が一にも真似しないよう、わたしは念を押しといた。本当にあれだけはダメだからね
「話しを戻すよ。ここからはさっき聞かれたことも絡めて教えるね」
「お願い」
「エーテル体は、魔力を主成分に構成されるから、原理的に魔力をあらゆる原動力として消費する」
魔力を主成分…?
「…つまり、身体が魔力で出来てる、ってこと?」
「大雑把に言うなら」
「身体そのものが魔力…?…ごめん続けて」
「分かった。だから、生まれた時点で理論上融和状態になるようになってて…」
「うん」
「……」コク
「そうだな…ちゃんと説明すると複雑になるんだけど、簡単に言うと…そこからは、少しずつ最大魔力の上限を高めていくのが基本なんだ」
「へぇー…」
限界突破的な。ふむ、なんだかカッコイイ響きじゃない?ソシャゲなんかで、覚醒やらで元々のキャラのレア度が上がったりとかもあるが、似たようなものか?
「この最大魔力っていうのも大事な概念なんだけど、保有してる魔力の総エネルギー量だと覚えといて」
「ふむ」
「ちなみにいまの私は106%くらいだよ」
何その言い方、強そう
「じゃあその上限って、どうやって決まってるの?」
「単純に身体が元々持つ容積で、…水を入れる桶でもイメージしといて」
「てことはその容積を超えて魔力を持つことは出来ないよね。なのに上限を高める?」
「普通の肉体だとそうなんだけど、ほら」
「まさか…またエーテルか……」
属性盛りすぎじゃないこの物質
「エーテル群は不干渉物質に属するでしょ。実体を持たないから、同じく実体を持たない魔力とは、とことん相性が良いんだよねぇ。最大魔力自体、上がりやすいよ」
「相性の範疇でもないけどな」
それにしても、もしかして無限に魔力を貯められるとかある?だとしてら、それこそもうズルじゃないかな
「まあ…流石に底なしという訳ではないけど」
「あ…そうなんだ…」
よ、良かった…?いや、なんかさ、そこまでいくと逆に申し訳なく感じるとか…誰に?真面目に修行してる人間の方々に。…いやいや、なに言ってんだ、わたしだって人間だろ…誰だよ、エーテルとかいう謎物質体
「最終的な上限値は、エーテルの質で決まる」
「質かあ…いまどんぐらいなんだろ」
「さあ?でも人為的に昇華させる簡単な方法があるから大丈夫」
「結局無限やないかい」
チートや、グリッチや!
「だって、理論上の物質なんだもん」
だからって理論値が許されるとでも?…あ、そもそも人(の常識の)外なのか…。でも駄目だって、そんなの…物理界に生きる一般努力家が許してくれませんよ。ねぇ?…という建前よ、ありがたいね~…楽って素敵
「……」
「あ、ごめんフラネ。勝手にこっちで盛り上がって」
あ、そうだった。今の話は、エーテルじゃないフラネ全然関係ないもんな。口半開きにしてぽかーんしてるし
「ヘイキ。勉強になった」
「そう?なら良かった」
あんま真に受けない方が良いと思うよ、それ。次回にでも、もっとフラネのためになること教えてあげて
「さ、そろそろ訓練を再開しよっか」
「うん」
そうだね、結構話し込んでたな
「おねーちゃんは引き続き色々動かしてみて。フラネには先に魔力操作のお手本見せるからこっち」
さて…このあとどんくらいで魔法、覚えられるかな
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