第35話 感覚

 おねーちゃんは認識も操作もできてたから、そのままそれまでの作業を続けてもらおう。それにしても流石エーテル体、認識のプロセスさえ越えてしまえば、もうつまづくようなこともないはずだ

 だから、一旦おねーちゃんには勝手に自主練しといてもらって、まだ認識を済ませていないフラネに付きっきりで指導することにした。ほぼノーヒント・短期間で認識できたおねーちゃんは流石だけど、でもまずはここを越えてもらわないと次に進めないからな


「よっ」


「おおおー…これが魔力…?」


「そうだよ」


 それにしても…私も考えが足りなかった。イメージが大事と言っておきながら、見たことないものをいきなり探せなんて…そりゃあ、むりな話だ…。というわけで、フラネにも私の魔力操作の訓練を一通り見学してもらった。これで動かすイメージもついたんじゃないかな


「すごかった」


「認識が終わったらフラネにもやってもらうからね、どんな感じだったか覚えておいて」


「う、うん。がんばる…」


 うんうん、気合十分なようで何よりだ


 おねーちゃんは難しいこととか、めんどくさそうなことには真っ先に否定から入るのに…それに比べてフラネは偉いよ

 まだ一緒に住んで数日程度だけど、おねーちゃんの性格はなんとなくだけど分かってきた。なんか…いろいろ夢とか、やりたいことは沢山あるみたいなのに、いざやろうとすると途端に消極的な姿勢になる傾向が、既に見え隠れしてしまっている。…ちょっぴり面倒なおねーちゃんだなあ…。おっと、いまは私の気持ちは置いといて


 フラネに魔力のイメージを教えて、改めて集中してみてもらってる最中なんだけど…見ていて正直、上手くいっていない


 この数分の間、フラネはまったく手応えもなにも無いみたいで、ずっとうんうん唸っているだけになってしまっている。それはそうとして、どうしよっかな…認識ができないと、先に進もうにも進めないのだけれど…

 あ、いい方法を思いついた。これでフラネにちょっと手出しさせてもらおう。…勿論あれじゃないから、今度は大丈夫





 全然わからない……


 わざわざ付きっきりで見てもらってるのに、その魔力の感覚を掴める気が全くしていない

 そもそも魔法っていう概念があることはママが昔、大厄災から国を救った英雄の物語を聞かせてくれたから、知っていた。でも、それを使う才能が必要で、それを持っている人は限られていることも、ママが教えてくれたから知っている。だからこそ、私みたいな普通の村娘が魔法を使う才能があるなんて、今まで思ってもみなかった。私がその一人…判明したあの日の翌日、やっぱり自分でも信じられなくて、目覚めて暫く自分の手を見つめるしか出来なかった。けれど、嬉しかった。しかも、その魔法を扱う才能だけど、ナギサが言うには『かなり高い資質』ということらしい


 でもそれに関する知識があるわけでもないし、秘密だから誰かに訊くことも出来ない。だからこそ、この教室で色々教えてくれるのはありがたかったけれど…やっぱり、具体的に考えたことがない力は、イメージ…?するのが難しい。実際見せてもらっても、自分がそれをできる姿が想像できないというか…


「中々苦戦してるね」


「あ…うん、ごめんなさい…」


「え?なんで謝るの」


「…やっぱり、無理かも」


 資質というのも、いくらそれがいいものでも、私には宝の持ち腐れだったのかもしれない…


「それは違う」


「…え?」


「不可能なんてあり得ない。100%の物事が存在しないように、0%もまたこの世には無い」


「…0も…?」

…励ましてくれるの?


「当然。…むしろ私の方が謝りたいよ」


「そんなこと…」


「だって、年単位の時間が掛かることもあることを、たったの3歳で、一日でやらせようとしてるんだからさ」


「そう、なの…?」


「そうだよ、頑張ってるだけで偉い」


「……」


 それは…ちょっとだけ言い過ぎなんじゃないかな…。でも、そうだった。まだまだ焦るには早いし、そうじゃなくともきっと、二人は待ってくれる。今のナギサの言葉も、フィーネも今までずっと私たち友達に優しいし、心遣いもできて凄いと思ってた。だから、そんな気がしてる。信頼がおける


「でも、一人じゃちょっと難しいかもね。少し手助けするよ」


「あ…うん」

…さすがに苦戦しすぎたのかも


「でも、どうやって?」


「んーとね、フラネが感覚を覚えないと意味がないから…私が先行してフラネの形継を探して、そこに『マインド・リーダ』で誘導するよ。そしたらそこにあるなんというか…エネルギー!って感じのやつを意識して、中で動かしてみて」


「??わかった……?」


 難しい。それに自力で出来なかったのは、正直情けない気もするけれど…こんなところで躓いてるのも時間の無駄だし。素直に頼ることにしよう


「ナギサ、それってあれじゃないよね…」


「…おねーちゃん。いつからいたの」


「なにか、フラネにしようとしてたから」


「違うよ。大丈夫、フラネにあんな辛い思いはさせないから」


「それだとわたしならいいみたいに聞こえるんだけど…」


「やるよー、フラネも準備しといて」


「誤魔化した!うう…お姉ちゃん、そんな子に育てたおぼえはありません…!」


「ちゃんとあの事件を糧に、別の方法を試すんだよ」


「えっ…え?」

 なんだか急に混沌としてきた


「同じことを繰り返さないように言ってるだけ。じゃ、始めるよ」


「…え?あ、うん…」


 一体何の事か分かんないけど、早くこの空間から抜け出したいからさっさとやるこ

とにする…


「ちょっと待っててね、いま探すから…」


 そう言うとナギサは私の前のイスに座って、私の手に自分の手を重ねた。正直何をしてるのか分からない……それから5分ほど待った


「見つけた。それじゃあ準備はいい?」


「何が始まるの…?」

 私は目を閉じた


「誘導するからついてきて『マインドリーダ』」


 なにかが、私の意識の中で光った。その温かみのある光に従って、自分の意識を奥深いところまで沈める

 そこに、淡い水色の光が在った


「……」


…え…これ?えっとえっと…どうしよう…動かすんだっけ?あれ…どうやってやるんだろ、イメージ…?う~ん…


 とりあえず、適当に動いているところを想像してみることにした。ナギサがやっていたみたいに…ん、ちょっと動いた?けど…なんだか重い…

 一応、もともとの目的は達成したので、一度目を開けて意識を浮かべた


「出来たね」


「そう…?」出来てた?


「出来てたよ。あのイメージで大丈夫」


 本当に出来たんだ。じゃあ…認識したってこと?


「あれが魔力…?」


「うん、ただ操作は惜しかったねー。次からはあれをスムーズにできるように、練習して慣れてこ」


「魔力、なんか…ひんやりしてた」


 誘導してくれたナギサの魔力?は、近くにあるとポカポカして温かかったのに、なんで…

 あ…そういえば、精神の影響を受けやすいとか言ってた。…そんなつもりないのに…ショックだ…


「あと、さっき気づいたよ」


「…なに?」


「フラネの資質は水属性とばかり思ってたんだけどね、どうやら氷属性の傾向が特に強いみたい。それと、やっぱり余程高い資質みたい。それで属性の性質が強く出てたから、ひんやりしてるように感じるのは多分そのせいじゃないかな」


「…そうだったんだ」


 勝手に自虐的なこと考えて、勝手に凹んでたら、全然違う理由だった。性格じゃなくてよかった


「良かったじゃん、氷って便利だよ」


「便利?」


「水の派生だから、水属性魔術も使えるんだよ。実質的な2属性なの」


「はえー」

 そうなんだ


「ラッキーだね。因みに他だと土の派生で岩とか、光の派生で影とか」


「光で影…?そんなこともあるんだ」


「っ…まだ聞いてたんだ」


「なに、びっくりしたの?」


「…別に」


 ずっといたよ。ナギサの後ろだったから、見えてなかったのかな


「属性って、意外と多いんだね」


「そうどし、世界の設定でまちまちだけど、物理現象の数だけあるなんてとこもある」


「設定とはまたメタい…」


「メタい…?」

 とにかく、いっぱいあるんだな


「そもそも派生は一つに付き色々あるから。なんなら、派生属性から更に派生することもあるんだよ」


「じゃあ、氷も?」


「あるかもね。でも条件は派生先によりけりだから、意図的にはちょっと難しいかもだけど。もし試したかったら助言もするね」


「…ありがとう」


「条件って例えばどんなの?」


「そうだね…例えば、水属性の素質に加えて、豪雪地帯に滞在してたら知らぬ間に派生した…っていう事はあった」


「思ったより突拍子もないんだな…」


 どれも、全然知らなかった


 それと…魔力を認識したからかわからないけど、さっきからフィーネとナギサの魔力をなんとなく感じられるようになった。二人とも、柔らかいあったかさがある


「?どうしたの、じっと見て」


「ううん、なんでも」

 姉妹だと、似てるのかな?義理だけど


「ふーん…?それじゃ、お昼までもうちょっと練習しよっか。こういうのは、やればやっただけ上手くなるからね」


「ん、わかった」


「わたし少し休憩していい?」


「そこは自由にしてればいいよ」


 そこからは、お昼ご飯の時間になるまでずっと地味な反復練習だった。でもそのおかげで、魔力操作も少し上達したと思う。最初より思い通りに動いてくれるようになった


「フラネは上達が早いよ。資質だけじゃなくて素質も相当なものなのかも」


「そうなの…?」


「いやごめん、そこまではわからないけど…上達が早いのは本当だから、今日教えた体内巡環と、できれば顕化も、毎日出来れば早いけど…まあ時間があったら練習してみて」


「頑張る」


「ねぇナギサ、わたしは?」


「おねーちゃんは…さっきやってたことをやればいいよ」


「…なんか適当じゃない?」


「いまの時点で他にすることないよ。…それにこの訓練、終わりはないからね?おねーちゃんは毎日やってね、私が付き合ってあげる」


「最初のが本音だよね」


「まあまあ(できすぎる生徒も大変だな…)」


 私は毎日はできないと思うけど、何とか時間を見つけて練習しよう。早く二人に追いつきたい






 突然だが、この魔術教室は不定期開催することになった。もともとは3日に一度の予定でいたけど、考えてみたらこの魔力操作練習の段階では結局のところ内容として自主練の割合が多いってことだったから、逐次2人の進捗を確認する形でやっていこうと思う

 それに聞いたところ、フラネも家でやる事があるようだ。まあ都合をつけるのも簡単だし、最初から無理に定期的にやる必要もなかったかもしれない


「また今度ー」


「じゃあね」


「うん、また」



 そうしてフラネと別れた後は真っ直ぐ家に帰り、昼食を食べて、部屋に戻ってきた


「あー…疲れたな…」


「そうなの?さっきまでは平気そうだったのに」


「なんか気が抜けて…」


 見てなかったけど、もしかして結構魔力を使ってたのかな。だとしたら「気」というよりは『魔』が抜けて?いや、それだと違う意味になっちゃうか


 それにしてもだらしないなぁ…森に行ってきたのに、着替えもしないでベッドの上でぐでー、として。私?私は着替えてお母さんに洗濯してもらってるよ


「せめて部屋着に着替えてよ、その服汚れてるし」


「えー面倒。部屋着って言っても同じだしー」

 たしかに同じ村人服だけどさ


「屁理屈はいいから早く。泥が付いたベッドでは寝たくないから」


「はいはい…わかったよ…」


 その後は寝るまでダラダラして過ごした。他には特に何もしなかったから、これでおしまい。おやすみなさい

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