第36話 何に使おう
一人で森まで来た。いや、おねーちゃんと別行動の時だってあるよ、当然。おねーちゃんはまだ家にいると思うけど、なにをしているのかは分からない
それで、一人で何をしているのかというと。体力を鍛えるために運動をしている
ランニング、筋トレ、森での歩行訓練等々で素の身体能力を高める。それにおねーちゃんがついていけるとは思えないからね。いずれはせめて森歩きには慣れて欲しいところだけど、まずは自分を鍛えておくべきだと思って。更に言えば、これはフラネも誘わなかった理由にもなるのけど…おねーちゃんは魔術による遠距離攻撃が主体になると思うから、そこまでの身体能力は必要にならないはず。まあ、いざ緊急時のための近接戦闘術もあった方がいいとは思う。けどそこまでやるにはまだ時期尚早かな
でも私は違う。この数日間で結論が出た、私は例の《制限》のせいで、基本的に魔術を攻撃手段として使えない。使用できる魔術を攻撃に転用するにしても、正直効率が悪いから、ただでさえ燃費が最悪な現時点では実用的ではない
ほんと、戦闘中だと身体活動の維持にほとんどの魔力のリソースを割かなければならない計算になるからさ。攻撃目的でない魔術の、じゃあ例えば重力で相手を圧し潰そうとした時、元々それ用じゃないから、その強度を高める必要があるよね。そうなると、専用の攻撃用術式を使えば消費が47なのに、それと同じ効果を発揮するのに軽く79ぐらい使う
エーテルを昇華させて、魔力のQ対比—消費魔力に対する、実際のエネルギー比率、もしくはその逆のことね—が改善されれば、カバー出来るようになるかもしれないけど、少なくともそれまでは物理攻撃に専念した方がいいだろう
あと、まだ何なのか分かっていない『EMS』も、まあ…あの見た目だし、恐らく攻撃手段としては使えないような気がしている。という訳で、やっぱり私に残されたのは物理による前衛だけだ
まあ、それも良いかもしれないと思っている。だって、考えてみればパーティー全員魔術師、後衛っていうのもバランスが悪いし
という経緯で今に至る。結構奥まで来た事だし、そろそろ丁度良い場所でも探すかな
「あー!ナギサだ!」
「え?」
後ろから人の声が聞こえてきた。しかし何となく覚えている声な気がする…振り返ると、その人物はすでに私の近くまでかけよって来ていた
「ねぇねぇナギサ、サラのこと覚えてる?サラだよ!」
足が速い…しかもサラだけじゃなくて、遠くにトーベルもいる
「う、うん。サラね、もちろん覚えてる」
「ほんと!?やったー!あたし、ずっとナギサと遊んでみたかったの、ねぇさっき何してたの?このあと遊ぼう?」
「えっと…」
ちょっと、勢い強くない…初対面のときも思ったけど、いまのサラは何故か興奮している上に、距離も近い。これどうすればいいの?
「おいサラ!勝手に突っ走るな!見失う…て、お前」
「あ、やめて…こんにちは…」
「…なんだナギサか」
サラもだけど、二人は意外と私のこと覚えてくれてるんだ。あの一回しか会ったことないのに、ふつうに嬉しい…じゃなくて
「トーベル…お願い、サラを…」
お願いだから、サラを何とかして…。正面から会話するとその勢いに圧されるため、背中を向かせて体の正面に抱えるようにして立たせたサラだけど…未だに「ねぇ、ねぇ!」って感じで私に話しかけてきている。腰が反り返りそう…
ちょ、ほんとに助けてくれない…?私じゃこの子を落ち着かせるなんてできない…。落ち着いてくれないと話が出来ない…なんでこんなにウッキウキなの?
「はやく、早く行こ!」
「どこに…」
「悪いが、そうなったサラを鎮めるのは無理だ。波が去るのを待つしかない」
「えぇー…?」
「ベルー、なに話してるの?」
「お前だよ。いいから突っ走るな」
「遅いのが悪いんだよー」
「なんだと!」
「トーベルも落ち着いて…」
「いや、どう考えてもこいつだろ!俺は悪くない!」
そう言うんだったら、まずは声量を落として。熊が寄ってくるよ
それにしてもさ…じゃあ私、しばらくこうやってサラを抑えてなきゃいけないの?サラは嫌いじゃないけど、この勢いは苦手かもしれない
仕方ないのでトーベルに1個気になったことを質問してみた
「ところで、トーベルたちはなんでこんな場所に?」
「ん?」
「だから、なんでここにいるの」
「…そういえば、ナギサも何してるんだ?こんなとこで」
…マイペースか
「私が聞きたいんだけど…ちょっと運動しに」
「へー」
ここはあの森の北西寄りの地点で、草原が最も近いがそれでも徒歩だと2時間以上かかる
幼女にしか見えない私が、結構ガチガチのトレーニングをしてるのを見られたら不審がられると思って、ウォーミングアップも兼ねてわざわざこんなとこまで歩いてきたんだけど…トーベルたちがこんな深い所まで来る理由がよくわからない。普通、来るだけでも危ない場所なんだけどな
「で、そっちは?」
「ああ。……これは誰にも内緒だぞ、実は」
「ひみつ基地をつくるの!3つ!」
「先に言うな!」
「なんとなく分かった…でももうちょい詳しく」
あの一言で概要は理解できた。…それに正直に言って興味ある。一体なにをしようとしてるの?
「いいぞ。さっきも言ったけど、親とかには絶対に、絶対内緒だからな」
あ、1個質問
「おねーちゃんとフラネには言っていいの?」
「お姉ちゃん?…ああフィーネか。まあ、いいぞ。あいつらにも内緒だと言っておけよ」
「わかったよ。それで…」
「ひみつ基地だが、もう1つはつくったんだ、山の近くにある」
「できたー」
「あと2つはこの先と、森の西側にする予定なんだ」
「え?結構危ない場所に造るね…」
「やっぱり、どうせならでっかく作りたいからな!」
山側は熊とかの肉食動物もいるだろう森の奥の近く、森の西側に至ってはそこを通っていかなければいけないだろう。更にそこは魔の森も近いはず
「ここのをつくったら、穴を掘って東まで行くんだ。さすがに歩いては行けないからな…そんで全部の基地を穴で繋いだら完成だ」
「なるほど…」
そりゃ無理だよ。その上トーベルの話だと、普通の森でも奥の方になると…あまり強いのはいないし数も少ないが、魔物がいることもあるそうだ。まあ魔の森に隣接してるわけだし当然と言えば当然だけど
…ていうかさ、それを知ってながら森に子供を遊びにいかせる村の大人ってやばい?知らない…わけないよね、トーベルたちもその大人たちから教わったんだろうし…。ちょっとした闇を覗いてしまった気がする
……なんか深いような、深くないような闇がありそう…。話変えよ。という訳でトーベルたちの計画だけど
「でっかいよー!」
「そうだね、おっきいね」
…子供の遊びにしては大掛かりな計画だ。それに、地下道だと崩落の危険があるから特に手作りだと…あまりおすすめはできないな。けど、その発想自体はおもしろい
「ところで、造ってどうするの」
「え?どうするって、集まるときに使えるし…ただつくりたいだけだが」
つまり具体的な構想はないと。「造りたくなったから」は…まあ分からなくもない…かな?子供の遊びくらいで考えればいいか
でも説明聞いたら俄然わくわくしてきた。地下にある私たちだけの世界……ってことでしょ?おもしろそう。もう顔のにやけを我慢できそうにない
どうせ、止めたところでサラはもう私の腕を飛び出してしまったし、安全面は年上の私がなんとかするしかないな。…生まれでいったら、むしろ年下…?
「はやくいこー!」
「あ、おい!俺たちも行くぞナギサ」
「じゃあついでに競争しよー!」
「負けないよー!」
「おい!お前らまてー!」
そんなこんなで私たちはかけだした。調子に乗って先走った結果、道を間違え10分の道のりを20分かけた
◇
「ここ?」
「はやくはいろー」
さっきいた所から歩くこと大体カップ麺1個分…
“?”
誰も何も言ってないのに、「?」って雰囲気をなんとなく感じる…?…3分くらい。カップ麺の知識は最初からあったし、本体の記憶には地球の一般知識はあったよ、地球が基の世界線ってとび抜けて多いから自然とそのくらいは集まる…
“しかし…最近のカップ麺は4分やら5分やら、色々な種類が出てきているから、一括して3分と言っても良いものか迷い所のように感じる”
そんなことを考えていると、周囲のものよりひと際大きい木の根元に子供なら通れるくらいの穴が空いているのを見つけた。サラはさっさとその穴に入っていったので、私たちもそれに続いた
「…せまいな」
「ちょっと、じゃまー」
「お前がいうな」
中は別に何があるでもなくベッドくらいのせまい空間があるだけだった。…うん、まあ子供の遊びだからこの程度だよね。なにを期待していたんだろうな私
「まだ始めたばかりなんだよ」
「こっから向こうに掘ってくんだよー」
向こう?『磁力向法』…サラが指してるのは北東?
「ちがう、こっちだ」
…北西か
「その前に、せまいから広げよう」
「それもそうだね」
「じゃ、さっそくやるよー」
「?道具は…なにで掘るつまり?」
待って二人とも、なに?その腕まくりは、嫌な予感が……
「?手でだが」
「?え?」
「「?」」
…だよね。そう言うと思った、でもね
「どうした」
「いやおかしいよ」
「??」
サラまで、そんな「何言ってるの?」みたいな顔して。君たちがおかしいんだからね…君たち、本当に計画に沿ってやってるの?素手でキロ単位の距離を掘ろうとしてるんだよ、疑問持とう?
「せめて…スコップとか無い?」
「これまでもこうやってたんだが…」
「だいじょぶだよ~」
「ああ、別に掘れるぞ」
「……」
だめだこれ。いやいやさすがにこれは看過できないよ…安全以前のさ、問題じゃん?正気の沙汰ではない
この二人、よくこんなんで地下に秘密基地造ろうと思ったね。二人には見せるつもりはなかったけど、安全、効率、そしてなにより服と手が汚れてしまうといったことを考えるとこれはやむを得ない
「……」
私はこっそり創造魔法を使い、熊手のように先が割れた小さい備中桑にもみえる形の、鉄製の道具を創り出した。その形にしたのは壁を切り崩すのだったら、どうやら横に進むみたいだからスコップとかよりこっちの方が楽だと思ったからだ
「なんだそれ?」
「おおー…重い」
どうやって出したかとかは気にならないんだね…。鉄だと、ちょっと重いか。でも、もし大きい石に当たった時に石製とかはすぐ壊れたりするだろうから、その辺を考慮&低コストで創造可能だったということで鉄が適していた
「それは土を掘るための道具だよ。これからは素手じゃなくてそれを使って」
「どうして?」
「その方が早いし、手も汚れないから……そんな心配になるようなことはやめてよ?それあげるから」
「はーい…。ナウーはフィーみたいなこというー」
「……ん?ナウ…now?」
「あ、堀りやすーい」
それはよかった。ところで「ナウー」って、私?私って「ナウー」?あだ名かな…まあいいけどね、それ自体は。…でもナウーとは…。
それと『フィー』はおねーちゃんのことかな…こっちは分かりやすく「フィーネ」からとってる。
そういえばトーベルのことも「ベル」って言ってたような気がする。もしかしてサラは皆をあだ名で呼んでるのかもしれない。…でも、ナウー…どこをどう弄くってその結果が出たんだろう…。
「だってフィー、あたしたちがあそんでるといつも『そんな危ないことはやめなさい。心配するでしょ』っていうんだもん。べつにサラはだいじょうぶなのにー」
「ほんとになー」
「……」
いや、それはサラたちが今回みたいに無茶なことしたからなんじゃないの?
……やっぱりおねーちゃんにこの
もしおねーちゃんがこの計画を知っちゃったら…心配で押しつぶれてしまいそうだ…わりと本気で
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