〈閑…

「なにしてんの。会話中だよ」


…せめてタイトルくらいは、書かせてくれてもいいではないか。


「いやいや君、たまに話聞いてくれないじゃん。その作業後でもいいでしょ?記録渡してるんだし」


はあ……そうか…


「君も君で、思い立ったら即時っていうのがまたね」


 偶にだけだ。思い付いたことを忘れない内に書いておくんだよ


 ナギサそっくりの見た目…お馴染みナギサ・メトロンである。今日は草の上で寝っ転がっているが…よく見るとその草は少し盛り上がっていて、低めのベッドにも見えなくもない。質感も柔らかそうで、明らかに普通の草ではないことが分かる

 そして…気付くと、なにやら小さな惑星のホログラムにも見えるものを浮かべていじっているようだが…。それとも見たことがないからはっきりとは言えないが、世界の管理中なのだろうか。

 しかしそうだとすると随分と不思議な世界だ。なんというか…あらゆる世界を寄せ集めて組み立てたような


「おっと、これは見せないよ。未完成だし、まだ全然その段階にきてないからね」


ふむ…少し、ほんの少しだけというのは?


「……」


…表情が止まっているが、何故こちらをじっと見る。どう…


「だめ」


じゃあ何の間だったのだ


「別に…」



“さてさて…今回は何が言いたくて我々をここに呼んだのか。おや、建込中か?”


「その面倒な感じやめてよ。それに用はもう済ませたでしょ。大した事ない雑談だし付き合ってよ。……行っちゃったか」


“何やら誰かしらと会話していたようであるが、その客(?)が丁度帰ってしまったところであろうか。メトロン殿のことだ、また何かその者と少々の揉め事でも起こしたか…”


「まあいいか…あ」


“あ…見つかった”


「そう君達。よく来てくれたね」


“呼ばれたのでな。それで、今回はまたどうしたのだ”


「あーっとねぇ…何だっけ」


“んん?もしや何用も無く…”


「無い無い。いやー、でもど忘れしちゃった。何だったか知ってる?」


“そんな訳が無いであろう。メトロン殿でもないのに”


「そうねー」


“…それで、もう帰ってもよいか?”


「あー待ってよ、思い出すから…そうだ、その間簡単にだけ、『虚果実記書イクステンション・メモリーアーカイブ』略して『EMU』のことでも聞いてかない?」


“まあ…少々気になっていたところだし、それ自体はいいのだが…”


「はーいよぉ。取り敢えず話し相手確保~」

 

“…もしやさっきの会話もそういう流れか”


「んー、なんの事だろうねぇ」


“やはり、こういう時にマイペースな神だと感じるなぁ”


「ハイハイ…ところで君たちは覚えてるかな、『EMU』」


“覚えてはいるが…まだ効果がさっぱり分かっていないのだ”


『うんうん。それを少し、君たちに先出ししとこうかなと思ってね。多少掴んでおいた方が、後で楽だよ』


“それは有り難い。それでは是非ともよろしく頼む”


「いいよぉ。『EMU』はその名前の通り、記憶や経験なんかを保存するものなんだけど…戦ったことのある魔物の名前や特徴、採取したことのある植物の性質とかね…その保存した記憶とかを辞典のように表示することもできて、この2つが主な機能」


“要はポ〇モン図鑑のようなものであろうか。しかし、そう聞く分には随分便利そうなものだ”


「でしょ~?実際便利だと思うけどね。でも、それ以上にずっと多機能だよ」


“多機能か”


「例えばねー」


“そう言って、ナギサ・メトロンが手を一度閉じて、開くと、昼間見ていた『EMS』とよく似た、ホログラムの本が現れた”


「これね、システムを起動すると、メニュー画面が表示されて、ここから様々な機能が選択できる。まあ、本というよりは、イメージとしてはタブレットだとかが近いかもね」


“中心に表示されているのがアイコンが、恐らく先程言っていた辞典機能だろうか。ただし『記書』とだけ書いており、さらに他には何も無い”


「これは見本だよ。ところで、創ってるとき興が乗りすぎちゃってさ、色々足しすぎて…本物はちょっと複雑なプログラムになっちゃったんだよね。構築に思いの外リソースを割くことになったよ()」


“何か知らないが、あまり調子に乗ると碌なことにはならないぞ…

(特にこいつの場合、主に使用者が…なのが恐ろしい…)”


「あ、そうそう。その中でも、データに変換して保存…」


“…?何だ?途中で言葉を止めて…”


「…やっぱやめよ。これ以上は君達も望んでないはず」


“勝手に決めないでもらおう。その、余計に気になる言い方はやめてもらいたい。そこまで言ったのなら教えてくれ”


「やだ。教える気がなくなった」


“都合良くコロコロ変えるのも、本当にこの…”


「兎にも角にも、割と融通が利くからナギサ達に創意工夫してもらって…私の今後の参考になるような情報を提供してもらえたら僥倖かな」


“はぁ…まあそちらにそのつもりがないと言うのならば致し方がないが、そもそもの話はメトロン殿から持ち掛けられた気がするのだがなぁ…

ところで、まだ本題というのは思い出さないか?”


「もうちょっとだけ掛かるからさ、んーそうだね…これも話してもいいけど、聞きたい?」


“お好きにどうぞ。もうここまで来たならば最後まで付き合おう…”


「ほんと?じゃあ数日くらい延長し続ければ…」


“…笑えない冗談はどうかと思う”


「冗談じゃん」


“ああ…そうだな…”


「話戻すね。言いたいのは、『EMU』は私がナギサ達の動きを記録して、分析するための媒介としての役割も果たしてるってこと」


“…はぁ?いや失礼…しかしどういう意味だ。”


「他意も何も無いけれど」


“そうではない。記録それは、我々の役目なのではなかったのか?ついでに分析という言い方も気に掛かる”


「落ち着いてよ」


“至って平然だが。答えはどうなのだ?”


「…うん」


“…………その何の変哲もない表情で、何を表したい”


「まあ理由の一つとして、精度の劇的な改善が見込めるというのがある」


“確かにそうかもしれないが…精度が云々はともかくとして、また不穏な空気が流れ出したぞ…一体何を隠している…?”


「気にしなくていいよ、あくまで『予定』だったものだから」


“『予定』”


「そ、少しの間保留にしてたけど。あと分析してどうするのかって質問ね。そっちは答えてあげる。別にどうもしない。ただそうするだけ。現時点ではね」




“…………”

(考えれば、普通に監視とも言える行為であるが…この神の『当初の目的』というのは、本当に達成出来ているのか?ここまで聞いても考えがズラされているというか、読めない上に…最初からそうだったが、そもそも根本的に理解できない)

 少々露骨になってしまうが、ここは話を逸らそう。何となく、これ以上この話題を続けたくもない


“…いいであろう、分かった。それはそうとして、最後に少々訊いてみたいことがあるのだが…”


「なあに?ナギサの名前?」


“…理解が早いというか……まあそうだ。あんなに適当で、本人は一生関わっていかなければいけない名前が決定されるのは、いくらなんでも”




「じゃあ…やっぱりあの子も呼ぼ」


“は?”


…は?







“…聞いたらサッサと帰ってしまった”


「いいよいいよ。ちょっとずつ興味持ってもらおう。さてと…あ、そうそう、お開きにする前にもう一つ思い出した」


“それは、六五区殿には言わなくて良いものか?”


「んー、まあいいんじゃないかな。どのみち、いずれ記録として手に渡るから」


“そうか。して、その内容とは”


「それはね、なんでナギサは、あそこまでフィーネの《死》を恐れてるんだろう?ってこと」


“…聞いておいてではあるがそれはまた突然であるな。というよりそうであるのか?”


「深層心理から引き出した。どう思う?」


“気付かなかった我々に訊くのもどうかと思うが…見た通りなのではないか?どうやらナギサは、フラネールもそうだが、フィーネには特に強い情を持っているようであるし”


「ああ、いや、そうなんだけど…いくら何でも慎重になり過ぎなんじゃないかと思ってさ。魔術も、自衛の手段として真剣に教え込んでるでしょ?正味必要ないよね。君達みたいに、もっとぽやーっとしてても、問題ないと思うんだけどな」


“その言い草はどう聞いても我々を馬鹿にしたいだけにしか聞こえないが”


「間違ってはないよね?何事にも、自分の力を信じて、まともな考えも無しに突っ込んで行く」


“断じて否定したい。我々は己に自信はあったし…少々浮かれていた頃の自覚もあるがそれでも断じてそんな馬鹿みたいな真似は殆ど…”


「まあそれ自体はどうでもいいよ」


“我々の名誉という点で問題しかない”


「うるさいなぁ…どうやらナギサの容量だと、私の記憶を完全には受け継げなかったみたいなんだよね。ほら、エーテルって魔力と対になる物質でしょ、だから魔力との結びつきが強い」


“露骨に話を逸らして…それがどうしたと”


「それと、エーテルは肉体が損傷しても『理想』に回帰するだけだっていうのも、当然の知識だね」


“………”


「()その理由として…ねぇ、君達は魂の構造って知ってる?」


“…分からない”


「知らないか、まあ普通の事だから気にしないでいいよ。魂っていうのは、漠然的なプログラムを、記憶とかと魔力を混合した《生命力》で覆うつくりになってる」


“そうなのか。それで…”


「この生命力の、記憶と魔力の比率は凡そ6:11、つまり…」


“つまり…?”


「魔力が多分に含まれてるということ。もう、分かるね?…ナギサは私から受け継いだ知識の所々に欠陥があるみたい」


“…そういうことか。ナギサ・メトロンが言いたいことがようやく分かった。まさかエーテル体の構造から、そんな事実が見えるとは…”

ということは、現在ナギサがやっていることも、実はあまり意味が無いということになってしまうのだろうか…”


「それはないでしょ。ナギサの言う通り、自衛の手段は持っといて損はない。君達が言う『異世界』って、色々危ないからさ。それに、今はこれでいいけど、ずっとのほほんとしてるのは私の性に合わないし」


“その言い様、また何か企んではいないか?”


「いいや」


“絶対何か企んではいるだろう”


「なに、大した事でもないよ」


“今までそれで、ろくな事だった試しがないのだがなぁ”


「それで話を戻すけど、案外幸運かもよ?今のままの方が。何でも知ってるよりは、色々気楽なのは私が知ってる」


“誤魔化された…それにナギサはあんなに本気で取り組んでいるというのに、本当にこの神は…。確かにそれよりは楽しい人生を送れるのかもしれないが、どうしてもあの者たちが不憫に思ってしまう”


「よし、これで決定。これは全部あの子達のことを考えた結果の結論だから、君達も言わないでね。それじゃあ」





“そうして部屋の外に我々は押し出された。この、一見黒い球体にしか見えない部屋はかなり高い場所にあり、他に特段高い建物なども無いため、ここから神界の全体が見渡せる。周りにあるのはそれぞれ違った色や形の謎の物体が5つだけだ

 神界を見て回りたい気持ちはあるのだが…最初にナギサ・メトロンから『気分次第で消されるかもだから、止めときな』と言われたので、今までやったことはない

…今まで様々な場所へ行った記憶があるしその中には危険な場所も多くあったが、とはいえそう言われては流石にこの場所で、命の危険を冒す程の度胸はない


それにしたって、本当にあの神は…勝手というか何というか…。ナギサ達のためと言われると、従わざるを得ない部分もあるが、この調子では近い内に何か行動を起こしそうだ

 それと、毎回わりと重要というか、知らない情報を結構な数伝えてもらっているような気がする…おかげで報告に来ただけとは到底思えない情報量となってしまった”

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