*リビング*
リビングでは、まだランプの明かりが一つ灯っている
「……今年は少し暑いのかもしれないわ」
「いや、どちらかというと雨季だろう。今度調整しないとな……薬草の方は?」
「んーぼちぼちといったところかしら……もう村長に渡したわ」
「そうか…」
暗闇の中に映るのはリリーことフィーネの母親だ。対面に座っているのは夫のディーグ
聞いた感じでは、フィーネ達が眠ったあとに報告会のようなものを設けているみたいだ。内容は畑の様子に、薬草の売上、狩りの日程などなど…そして…
「…二人とも、初対面のはずなのにもう仲良しね」
「ああ」
どうやら、ドアの隙間からフィーネたちの様子を見守っていたようだ
あらかた真面目な内容は話し終えたらしく、父親がコップのぬるま湯にようやく口を付けた
「安心したわ。ザラン君が村に駆け込んで来て、『ゴブリンがっ…!』なんて言ったときは不安で一杯だったけれど」
「うむ。…やはり大人に付いて行ってもらった方が良かっただろうか。一度、森の様子を見に行ったほうがいいかもな」
「そうね。でも、ザラン君だって倒せるでしょう、ゴブリンくらい」
「肝心な時に逃げ出しちゃ意味がないだろう。今回だって、あの後生きてしかも自力で帰ってきたのにゃあ正直驚きだ」
「あなたみたいにね」
「おい」
その言葉に父親は苦い顔だ。反対に、母親はそれを見てくすくす笑っている
「ふふ…でもまあ、そうねぇ…」
「まったく…それにしても子供まで一人連れて来るとはな…」
「流石の私も驚いたわあ」
子供というのはナギサのことに違いないだろう。ディーグはナギサに多少の不信感を抱いていそうな様子を見せていたし、何かしら思うところはありそうだ
「結局のところ何者なんだ?あの子供は」
「さあ…」
「念の為だ。いざという時の連絡先くらいは把握しておきたい」
「どうして?」
「え?どうしてって…」
「あなた、聞いてなかったの?両親はもういないかもしれないのに」
「…そもそもだ。正直なところ、俺はあの話が本当だとは思えない。あの様子は二人して俺たちに何か隠してるだろ。うちの娘が分かりやす過ぎて聞いてるの方が大変だぜ…」
やはりというか、フィーネのあの挙動不審っぷりは誤魔化しようが無かったであるか…
「それも正直な良いところよ。話を戻すけど、だとしてもなの」
「分かんねぇな……それこそどういう事なんだ?」
「んーとねぇ…私も確信してる訳では無いのだけど…もしかしたら、難民だったりするんじゃないかしら…って」
「難民?戦争は、最近近くで起こってない。飢饉なんてのも聞いてないぞ」
「たしかに、この国では無いわね」
「遠国ってことか?」
ここで、母親は一度間を空けて、おもむろにまた話し始めた
「村の方向を聞いた時、南東を指していたわ。『雑木林』がある方よ」
「…まさか」
「争いの渦中に生まれた子かもしれない。もしそうだとしたら、確かに魔物に襲われたっていうのは嘘かもしれないわね」
「…何とも信じがたいがな。それの存在自体」
「本当よ?私の目は嘘はつかないわ」
「そうだな…
「ごめんなさいね…でもあまり、良い話でもないから…。子供だっているし」
「あー、分かってる。悪いな、忘れてくれ」
何となしに、空気が重い
「草原…ということは、魔の森の東地域を抜けてきたのか?」
「多分そうじゃないかしら」
「偶然、密度が低いとこを通って来たんだな。いずれにせよ運が良い奴だ。土地勘もねぇのによ」
「逃げ出すまでに殺されなかったのも、運があったってことよ。…ニエーニズル様のお導きに感謝」
「…はぁ……」
「ねぇ…やっぱりうちで保護しましょ。いま下手に村の外に出したら狙われるかも」
「はぁ~………だよなぁ…そう言うと思ったよ。どうせお前のことだから、何を言ったって子供は守るんだろ?」
「もちろん」
「幸いここは『孤島』だ。はぁ…面倒なことになっちまったなぁ、ため息が止まらないぜ」
「ふふ…義娘ですって」
「こんな状況で喜んでんのはお前くらいだ…」
「明日は村の皆に知らせないとね」
「頼むぜ」
「こういう時の為のネットワークだしね。さて、ランプの油ももったいないし寝ましょ」
「ああ」
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