幼少期

第13話 まずやるべき事は


………………………………………………………


…朝…7時くらいかな。まだ眠いけど…何だかもう眠れそうにない


「(とはいえ、寝起きでまだ体が起こせない…)」


 この世界では1日が23時間41分であるが、それ以外は地球とほとんど変わりないため、生活リズムもそう変わらないのだろう。部屋の外からは両親が動いているらしき物音が聞こえる


 そして私の横ではフィーネ、あ…おねーちゃんが気持ち良さそうな表情で寝ている。やっぱこういう時は年相応の顔だなぁと、寝顔を眺めていると、その目がゆっくり開いた。あまり焦点が定まっていない


「………」


「おはよう、おねーちゃん」


「…おはよう」


 反射的に挨拶は出来たみたいだけど、寝ぼけてるみたいだ。そんな頬をむにむにすると、少し煩わしそうにして私の手をどけた


「もう…ほら、顔洗いに行くよ…」


 そういってるけど、お姉ちゃんのほうがフラフラ歩いていて見ていて頼りない。ちなみにすごくプニプニだった





 その後向かった先は家の井戸だ。毎朝ここで顔を洗ってすっきりするんだそう。井戸水なだけあって、暖かい季節でもその水は冷たい


 冷たい井戸水で顔を洗ったことで二人ともさっきよりシャキッとした。そしたら一度部屋に戻って、昨日と同じ村人服に着替える。服はこれしか種類がないそうだ。必要ないから


「わざわざ同じベッドで寝なくとも、その創造魔法でもう一個創ればよかったんじゃないの?」


「…それじゃ、同じ部屋で寝てる意味がないじゃん」


「そうかなぁ…」


 まったく無粋な質問だね。私は元々おねーちゃんと仲良くなりに来たんだよ。せっかく今は姉妹ということしたんだしさ。これくらいはいいでしょ



「あ。そういえば…これ」


「ん?…ああ、最初に会った時の服か」


 私が取り出したのは光沢がなく、私身体にフィットするようにできているハイネックの長袖シャツと、同じく黒いズボンだ。ほとんど耐久性と動きやすさ諸々の機能性のみを追求したもので、どちらも模様などもなく、光沢もない、ただただ黒い見た目だ。結果無骨な印象となっているのだろう。昨日、取り敢えずフィーネの部屋のタンスに入れておいたんだった

 分体として生まれたときから着ていたもので、私の能力に合わせて創られたため、本体が着ているものの下位互換になるが

それでも、その特殊な機能は相当に優れていた


「ん-…まあ収納しとけばいいや。使わない」


「いいの?」


「少なくとも、今は必要ないかな」


 実のところ、今の私じゃ使ったところで大して意味がない。4歳の体にしたせいか分からないけれど、諸能力が大幅に下がってしまったからだ。今の私じゃ、昼間のあのゴブリン程度しか倒せない。それも、おねーちゃんに怪我でもされると困るから、念のため魔術で殺した…にしてもおかしいな…元々の体は、素でアーマージャイアントに勝てる程度には強かったはずなんだけどな…

 まあともかく、いまやこれはただの黒い服となってしまっている。そうでなくとも、村にいる間は使う場面もそうそうないだろう

 記憶が間違ってなければ、まあまあヤバい物でもあったから、収納場所は工夫しないとだけど


「…それに、いまの服ならおねーちゃんとお揃いだしね」


「そんな理由?」


 軽いジョーク的な?でも、口元が少し緩んでる。前世は兄弟も姉妹もいなかったって話だったから慕ってくれる人ができて嬉しいのかも


「『ストッカー』にでも入れておこう」


 『ストッカー』は空間系統の魔術で、その名の通り物を出し入れする魔術だ。機能自体はアイテムボックスとか、ストレージとかの能力と同様のものだけど、どの空間に収納するかは使用者の任意だというところが違いかな

 ん?横から視線が…


「……」


「…あ、いや…アイテムボックスみたいなもの?」


「いずれ、教えてあげるよ」


あと10分もすれば朝食の時間だ







現在、朝食を終えて部屋に戻ってきたところ


「これからなにしようか」


「とはいっても、今までも特にやる事とかなかったからなぁ…」


 先ほどの食卓でこのような話が出たのだ


「考えたんだが、一昨日、昨日と薬草採取に行くたびに魔物に遭遇していると聞いて流石に看過できなくなった。もしかしたら森で魔物の動きが活性化しているのかもしれない。村の防衛のためにも森の調査を村長に打診することにしたから、その間は薬草採取に行くのはやめてくれ」


というのは父談だ


「そうなの…?」


「安心しろ、安全が確認できればこれまで通り採集もできる。だが念の為だ、それまでは子供は草原に行くのは禁止した方がいい」


 昨日のは私の自作自演だったわけだけど、それを言うわけにもいかないため、私たちは黙って頷くしかなかった


 そんな訳でお父さんは今日の予定を全てキャンセルして、村長の家に向かったのだった。狩りの装備も持って行った上に暫く経っても戻ってこないから、許可かなにかをもらってそのまま出発したのだろう。おまけにおねーちゃんの話だとお母さんも昼は色んな場所を行き来するらしくて、家にはあまりいないそうだ。何をしているのかは知らないそう

 しかし薬草採取もしばらく行けなくなってしまったために、私たちは手持ち無沙汰だ。薬草採取に行くことになる前も、特にやる事はなかったというから、つまり本当にやる事がない


「ここに来てまで暇を持て余すことになるとは」


「仕方ないよ。なんならこんなとこに来たのが悪い」


「何でそうなるの」


 これじゃあせっかく暇つぶしに出掛けたのに、本末転倒だ。とはいえフィ…おねーちゃんの言う通り、どうしようも無いから、更に少しの間やり場もなくぼーっと寝転んでいた。おねーちゃんの方は慣れているんだろうか。何か考えてるのかは知らないけど、さっきから目を瞑ったまま動かない


 部屋の木窓からの景色も空と、森、農作業をする村人くらいしか映っていない。南向きで日当たりはいいけどむしろ眩しいかな。うちより南に家は無く、無駄に広い畑もほとんどが準備期間のようで味気が無い

 そんな素朴な感じ、嫌いではないけど、せめて体を動かしたい。視覚情報が少なすぎる


「ねー」


「ん?」


「あっちの森にでも行かない?」


「やだ」


「昨日の反対の森なら、魔物はいないと思うよ」


「いや…そうだけどなんで知ってるの?教えた覚えないのに…」


「会う前に周辺の地形とか軽く調べたんだよ」


「えぇ…?」


「まだ入ったことはないけどね」


「…どうゆうこと?」


「行こー」


「やだ」


 どうしてー


 はぁ。まずは暇をつぶせる何かを見つけないとかなあ


「あ」


「ん?」


 何か思いついた?


「そういえば…ナギサのこと、村のみんなに知らせてないよね?」


「んー」


…村の一員になったのって、つい昨日だし。むしろまだ誰も知らなくて当然だ。あ、ザランとかいうのとその家族、あと村長は別か。昨日あの場にいたから


「たしかに」


「よし、今日は顔合わせに行こう。小さな村だから、なにかあった時とか村人どうしで協力することも多いからさ、ナギサも顔を覚えてもらわないと駄目でしょ」


「うーん…それはちょっと面倒だなぁ」


 そういう形式的な挨拶は苦手かも


「そうも言ってられないよ。いざという時のためでもあるんだから」


「その時は多分自力で何とかなるけど…」


「村に住むなら、どの道やんなきゃいけないの。ナギサだけの問題じゃないからね」


「はぁー…コミュニティってのも大変だ」


 というわけで、今日の予定は村での挨拶回りとなったのだった。まあ、家に閉じこもってるよりはマシなのかな…

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