第14話 繋がりは増えて広がる

「この子は、昨日この村の一員になったナギサ。これからよろしくしてあげて」


のナギサです」


「うんうん、よろしくねぇ。辛いこともあったようだけど、大丈夫よ。私達はいつでも、あなたの側にいるわ」


「ありがとうメルおばさん」


「うんうん」


 この包容力溢れる感じで私を抱きしめてくれたのは、この村最年長で、お母さん的存在のメルおばさんだ。ちなみに本名はメルバで、他にもメルばあだとかメルバさんだとか呼ばれているそう

 村唯一の雑貨店のような店をやっていて、村で使われている日用品や外部の食品は全部、ここで買ったものだ。薬の調合なんかもできるそうで、村の誰もがお世話になっている人らしい


 ただいま、メルおばさんで8軒目。本当に小さな村で、仕事に出ていて家にいなかった人たちを除くと、これで最後だ


「何か村についてわからないことがあったら、私に聞きにおいで。はい、これはお土産だよ。気を付けてお帰り」


「ありがとねメルばあ」


「ばいばい」


 そうして私たちは焼き菓子をもらって店を出た。焼き菓子はカップケーキのような見た目で、村で採れる小さいりんごのような木の実が練り込んであり、甘くておいしい


「ところで妹って部分、そんな強調する必要あった?」


「もちろん」


「そう…ん~〜やっぱりメルばあのホウソウが一番おいしい…。でもいつか違うのも食べてみたいなあ…」


「へー…美味しい」


 焼き菓子の名前はホウソウで、この村の子供なら一度は食べたことがあるもので、おねーちゃんも大好きなお菓子のようだ。先程のメルおばさんの話によると、ホウソウは地域によって練り込んであるものが違うみたいで、その地域の特色がよくあらわれるものなんだと

 ここのホウソウには、さっきのほかに何かオレンジ色の果物が練り込まれているようで、小さな村のお菓子にしては甘さも十分あって、食感も悪くない


 そんなところで。メルおばさんのところは最後に行ったので、一応これで挨拶回りは終わりだが、まだ日は高く、昼食まではまだ少しある


「ねえ、もう少し時間があるけどどうする?」


「そうね…」


「あー!メルばあちゃんのホウソウ食べてる!」


「ずるいー!」


 店先で次の予定を考えていたところ、前方からそんな声が聞こえてきた。3人の子供だ。そして子ども達はおねーちゃんのところに走って来る

 いまここで一目見ただけだけど、ニ人は明らかに溌剌とした印象を受けた。もう一人の子は…それと比べて大人しそう


「なんでだよ、俺たちにもくれ!」


「またか…でも、そろそろお昼ごはんの時間でしょ?」


「大丈夫!」


「そうだ。だからくれ!」


「…」コクコク


「しょうがないなあ…」


 なんだろう…なんか置いてかれたかもしれない


「半分だけね」


「「えー?!」」


「……?!」⁠





「まってまって落ち着いて…」





「そっちの方が大きいよー!」


「どこが―」


「ちょ、だから…止まれー!…あっ」


「「「!!?」」」





「結局もらいに戻るはめに…」


「うまいな!」


「おいしー」


「よかったねぇ…」


「ねえねえ、フィー。この子だれ?」


「ん?あー…ごめんそうだった」


 ブロンドのボブヘアーで、活発そうな女の子がこちらを指差して聞いた


 正直、おかげで助かった。さっきから一人だけ蚊帳の外だったけど、口を挟むタイミングが見つからなくて困ってて…結果、おねーちゃんの横でただ立っていることしかできなかった


「えっと、昨日村に来た子で…」


「妹?」


 昨日来たっていうとこに違和感を感じるのはわかるけど、そうだよ。なにか文句ある?


「ナギサだよ」


「初めて見るな」


「ナギサは昨日来たから」


「住んでた村が無くなっちゃったからここに来たの」


「…そうなのか」


「そうなんだー…」


「……」


 さっきまで興味津々といった様子だった子供たちが、納得したかのように黙ってしまった。即興で適当に決めた設定だったけれど…こういう話って多いのかもしれない。少なくとも、この子達からはあまり驚きとか、そういうのは伝わってこないから


「…」


 すると、今まで一言も話していなかった大人しそうな子が近寄ってきて―――服の端を掴んだ


「……」


「……」


 それだけ。ただ、本当にそれだけで、この子自身はなにも喋らないので感情が若干読みにくい。近くで見てみると中性的な顔立ちだけど、他の特徴を鑑みる限りでは…女の子かな?


「紹介するね。この自称ガキ大将がトーベル、これがサラで、そっちの深緑の子がフラネール。フラネは人見知りがあるけど、根はいい子だから」


「『自称』っていうのやめろ!」


「サラだよ~」


「……」


 そういうお姉ちゃんはサラにまとわり付かれて困り顔だけど、ここまででもこの子たちが悪い子ではないことは分かった。なんならフラネールは、人見知りながら故郷を失った(設定の)私を励まそうとまでしてくれた(のだと思う)


 出発前は面倒に思ったけれど、同年代の子供がいるならたしかにどこかしらで関わる機会も多いかもしれない。よそ者の私にも最初から友好的なのもこういう村じゃ珍しい…ともかく、いい子達だ

 というわけで一番近くにいるから、フラネールって子から改めて挨拶しておこう


「これからよろしくね」


「……」


「フラネールって長いから、『フラネ』って呼んでるの。ナギサもそれでいいかな、フラネ」


「……」コク


「サラも!サラって呼んでいいよ!」


「うん、よろしく」


「実はみんなより1個お姉ちゃんなんだよ。まあでも関係なく仲良くしてあげ…」


「はっ!?」


「えー!?小さいのに…」


「……!」


 小さくはない。たしかに年下設定の君たちと比べて若干視線が低いかもしれないけど同じくらいだよ。…だからか?


「早速…こら」


「だってー、みえなーい」


 そんな言うほど?でも体格差は本当にほとんどないから同年代というなら…


「これで…」


 どれで


「年下みたいだよー」


「と、年下…」


 なにゆえそうなる。…まさか生後1日程度しか経っていないことを、雰囲気で感じ取ったとでも…?いやいや、そんな馬鹿な


 あと何?どうしたの。急に初対面と思えない程グイグイ距離詰めてくるな…子供のノリ?あー、元々わんぱくなんだ…あ、急に触んないで…こそばゆいよ…ひゃっ!?ちょっと…一旦ヘルプ…






「だからやめてあげなって。いい加減にせい―よいしょっ!ほら、もう帰るよ!」


「「えー」」


 紆余曲折ありながらも、上々の初対面を迎えられたところで、「そろそろお昼ごはんの時間だ」となんとか話を切り上げることができたのだった


「あー…疲れた」


「にしてもおねーちゃん、フラネ達のこと紹介するの忘れてたよね」


「家には行ったよ?ただ居なかっただけで…でも、いい子たちだったでしょ」


「うん」


 初めて会った、よそ者の私に対して悪意をぶつけることもなく、フラネも最初から最後まで無口だったけど優しい子みたいだった


「村にはもう数人子ども…というより未成年がいるけど、わたし達より大分年上だし、同年代というとトーベル達だけだね」


「他の子達とは付き合いはないの?」


「あるけど…家の手伝いをしてるのも多いから、あの3人ほど親しい人は少ないかな…無くはないけど。あと何となく分かったと思うけど、トーベル達は1つ年下の3歳だよ」


「へー」


「ああ見えて、意外としっかりしてるよね」


「うん。まあでも…このぐらいの文明レベルの世界でも割と普通なんじゃないかな」


「そうなの?」


「たしかに、あの子たちは平均より意思が強いように感じるけどね」


「へー」


 ここでは色んな理由で、早く自立できないと生き残れない事も多いからなぁ。日本ぐらい文明が発達しているとそんなことはあんま無いだろうけど、代わりに教育が発達しているお陰で、そこの差異はそう無いように思う


「…平均寿命も短いしなぁ」


「なんか言った?」


「いや?それよりおねーちゃん、そろそろ帰ろ?」


「それもそうね。何気に結構時間掛かったな」


 出発してから立ちっぱなしで、さっき揉みくちゃにされたし思ったより疲れたよ

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