第15話 詰め込む
子どもたちを家に帰した後、私たちも一度家に戻って昼食を取った
ところで家に帰す際、みんな何だかんだでおねーちゃんから離れないから、ぞろぞろと大所帯で全員の家を回る感じで一人ずつ送り届けなければいけなかった。遊びふざけながらということだから歩みも遅くて、結局お昼ご飯には間に合わなかった。それでお母さんに少しだけ叱られた。でも実は一応、良い事もあって
何かといえば、お昼時ということは仕事中だった人も休憩に入るという訳で、一周目に挨拶出来なかった村人にもちゃんと全員、顔合わせができた。でなければ、今度いる時にもう一度回りに行くっておねーちゃんが言うから、その手間が省けたということだ
しかもこの村の人はみんな親切というか、友好的なのが正直驚きだ。小さくて閉鎖的な村ではよそ者は排斥されがちだし、村民の心理からすればそれも当然だ。素性が確信できないから、どうしても信頼関係とか、なにか災いを恐れて接触すらしないというのもざらにあった
その点、この村はそんな者がほんの1人もいなかった。もちろん最初は多少怪訝な視線を送られるのだけれどどういうわけか、自己紹介を終える頃にはそれも無くなってごく普通の反応が返ってくるのだから、他の事例を知る身としては嬉しいけれど、どこか逆に怖いとまで思える。…でも、そうは言ってもやっぱり、この土地に身を置く以上村民同士の関わりはあって損することはないから、その厚意は有難く受け取って、良い関係を築くのが最善かな
◇
*
今は部屋にいる。なんでも約束だとナギサがいうのだが…
「さて…一つ大事なことを忘れてるよね」
「そう言われても…最初からやる事なんて無いし、ご近所さんにナギサの挨拶回りも終わったのに、まだ何かあった?」
正直言って、約束と言われてもまったく身に覚えがない。いつの間にかとんでもない約束結ばされてたりしないよね…ちょっと怖くなってきた。しかし、わたしのナギサの返答はわたしの予想に反してごく単純なものだった
「しっかりしてよ。魔法だよ、ま・ほ・う。元々ここに住ませてくれる代わりに教えるって話だったでしょ」
「あ!そんなのあったけな…」
「結局本気じゃなかったんだ」
「だって対価として、っていうのも何だか気が引けるじゃん」
連れてきたのは、単にあんなところに一人置いていけないと思っただけで、それ以上の情報が多すぎてそんな約束気にしてもいなかった。何なら魔法自体忘れてた…いや、確かにこれはいかんな。ナギサの言う通り…それに危うく、自分の決意すらあやふやになるところだったかもしれん…。違うな、うん。全部ネズミと
「ネズミに襲われた時も『明日から…』とか何とか言ってやらなかったでしょ?自衛のためなのに」
「なんでそれを…!?」
「そこにいたから。『
「……ちなみにいつ頃から…」
「薬草採取に出掛けた時から」
わたし知らないうちにストーキングされてたの?こわっ
でもそれよりの問題として…
「てか、あの時見てたんだったら、助けてくれても良かったんじゃないの。多分ナギサ戦えるんでしょ?」
「…あの時には、もうこの姿で弱くなってた」
「それでもたかがネズミなんでしょ?」
「……確かに、あれぐらいならなんとかなったけど」
ちょっと
「なら…」
「それじゃあお姉ちゃんは成長出来ないよ。なにより、魔物への警戒心を養っておくのは自然を生き残るにおいて基本だよ」
「でも怪我しちゃ意味ないじゃん」
「……そうじゃないよ」
「え…?」
「良く考えてもみな。今のおねーちゃんは、あんな雑魚にも負けるっていう事実こそが、問題の本質なんだよ」
ぐはぁっ!?ブーメラン!!そうか……たかが雑魚に…負けるのか…。なんでだろう、目から汗が…。…そうして天を仰いでいると、さらにナギサの呆れた視線が突き刺さる…
やめてくれ…わたしのライフはもうゼロだ…
「理解してくれた?」
「うん…。…でもさ…今覚えなきゃダメ?」
「?どういうこと?」
「だって、当分薬草採取にはいけなくなって外に出る機会はないし、秘密裏に練習するのは難しいんじゃないの?」
そう。こんな後ろ盾もない小娘が練習して魔法を会得したとしても、それが世に知れた瞬間に、強制的に国やら貴族やらに仕えさせられるか、戦争にでも駆り出される未来すら見えるのだ。だから魔法の練習は人目に付かないように、誰もいないような場所でやろうと思ったんだけど…
「あー、国がどうのってやつ?」
「そうそう…何故わかる」
「それくらいの情報はスレイストスから聞いたよ。言わなかった?」
…そういや、初対面の時にそんなことを言っていたような。とはいえあの時のこと…何話してたとか、正直ほとんど覚えとらんのよな
いやぁー…それどころじゃなかったよ、あれは。ゴブリンに襲われかけてもうそれが既に得体も知れなく怖くて、なんか時止まるし幼女が突然訳分からんことを流ちょうに喋り始めるし…しょうがないと思う。せめて、もうちょい落ち着いた環境で話せればまだ良かったんだけどなぁ…止まってても、いくらナギサは大丈夫だったとしてもさ、あの顔が視界に入る状況で冷静に会話する胆力よ。少なくともあの時のわたしには無かった
今思えば、たしかに先に処理してもらった方が楽だったかもな。てことはその判断力もか…はぁ…
「なら…えーと、その考えは間違ってないんだけど…正しくもないというか」
「え?それはどういう…」
「だって魔術の練習って地味だよ、特に最初は」
「ん…?」
おい待て。なんだか雲行きが怪しくないか?
「後になるとまた別だけどさあ、最初にしなきゃならないのは魔力の認識と、その操作で、一般人が見ても何をしてるのか分からないよ」
ふむ…なんか知らんが重要そうなことを言ってる気がする。操作はいいとして認識?そこワンクッション挟むの?一般人が見てそれと分からないって、一体どういうものなのだろうか…ところでちょっと待って。それはさて置くとして、ほんの少し嫌な予感がというか…
「いや…あのさ、わたしが今までにしてきた根回しとかって、無駄…?」
ちょっと待ってくれ、そんなこと認めたくな…
「ん?…もしかして採集のこと?」
「そ、そう…」
「なら結論から言えばそうなるね」
…ぎゃああああああ!
……そんな…そんなぁ…
「…無駄、だったのか…」
…運悪くネズミなんかに襲われかけて、ザランの同伴というほぼ最悪の事態といってもいいたった1日の苦労が…こうしてみるとあんま苦労した感じないな。よく考えたら全部個人的事情じゃねえか
とはいえこれまでのことが徒労だったと知って、再びショックを受けてるわたしを、そんなの知ったこっちゃないといった様子で引っ張っていくナギサ
「まあまあ…魔術を使いたい人の9割方が勘違いしてることだから、そんなへこまないで。じゃあまずは魔力の認識から、という訳でここ座って」
そう言ってナギサは、ベッドに移ってわたしも座るよう促す
だってさ…そういうイメージない?秘密の訓練みたいなさ。…ん?いや…でもそんな悪い話でもないのか、取り敢えず場所の問題は解決したわけだし、むしろ向こうから情報提供が得られる…なんと。いつの間にか本当に、当初の解決策が目の前にいる
そういう訳でさっきまでの細かいことはすっかり忘れて、イスからベッドに移った
「普通は瞑想したり、普段の生活の中で勝手に目覚めたりするもんなんだけど…それは時間が掛かるし、更にそこから体内の魔力を完全に認識して操作するまでにもまた余分な時間が掛かってしまう」
そういってわたしをベッドに寝かせるナギサ……ところでなに?なにが始まるのこれ
「ちょっと荒いやり方になるけど…がんばってね」
え……ちょっと怖いな…
すると、ナギサもわたしの隣で同じく横になり、顔を近づけてきた…
……まっ!?え!?ちょっ何する気、ㇵッもしかして…いやわたしまだその扉を開くには早いというか、あっ…もうがっちりホールドされてる、逃げられない…。やっぱ待って!?こういうのは相応の覚悟ってものが…そもそも今姉妹だよねぇ!?こういうのって大丈夫なの!?
「それじゃあ…」
あわあわして顔も真っ赤になっているが、不思議と声がでない。体にも力が入らないし……もしかしてわたしってそういう気でもあったのか⁉いや、それ以前に何を考えてるんだわたしは
抵抗することもできずに…額と額がくっついたその瞬間
激しい吐き気と悪寒がわたしを襲った
「!?」
…ちょっ……うっ
これやばい。まるで頭の中がミキサーにでもかけられてるみたいだ。なにかがわたしを侵してくるような嫌悪感に意識が飛びそうになる…
「んー…?」
「かはっ…はぁ…はぁ…」
ようやく…解放された…
それはほんの数秒だったが……その感覚が途切れた瞬間に、わたしは意識を手放した
*
………おかしいな
おねーちゃんは眠ってしまった。まあこれは想定どおりだった。そのためにベッドまで移動したわけだし。でも想定外のこともあった…予定より早過ぎる
今やったことは見た目に反して至極単純で、おねーちゃんの中にある魔力を動かして体に馴染ませるという方法で、人為的に魔力との親和性を上げて魔力を身体に強制的に認識させるというものだ
これのメリットは、魔力を認識した時点で、ある程度体に魔力が馴染んでいることと、単純に他の方法と比べて認識までが早いこと
そしてデメリットは、さっきのおねーちゃんを見ればわかる通り、抵抗反応が起きる。本人の意思に反して魔力が体を循環するので当たり前のことだ。なにせ、親和度はまだ0%に近かったから余計に辛かっただろうということを今更ながら思い出した
補足説明。自身の魔力と身体の親和度が低いと、自身の持つ魔力でさえ強い抵抗反応が起こる時がある。だからさっきは相当やばい反応が起こってたのかもしれない。失念していた、悪い事したな
でもそれは一旦置いといて、問題…というより疑問なのは、本人が認識できるレベルまで魔力との親和性が上昇するのに数秒しか掛からなかったことだ
本当は最低でも3日、最悪1か月くらいかけて、確実にやろうと思っていたんだけれど…予想外なことに先程の数秒で完全に魔力が融和してしまった。これは体の魔力との親和度が100%に達したことを意味する。当然普通の人間ではあり得ないことだ。けど、本当に自然に、水がスポンジに吸収されるかのようだった
ただこれは特殊な事例だから、理由の候補は既にいくつか思い浮かぶけど……これは明日ちゃんと検証しよう
そういえば私も
そう心の中で話に結論を出したところで、私は自身の体を魔力で満たしていった
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