第17話 きっかけ
………………ふぅ、これくらいにしとこうかな
私は瞑想状態を解いて、循環させていた魔力を空気中に放出した。だいぶ魔力を使ったみたいで少し倦怠感がある。まあ魔力自体はじきに回復していくけど
普通、生物は外界から魔力を吸収し、自身に最適になるよう変質させ、それを利用している。私も勿論この方法を使っている訳だけど、実は私はもう一つ、魔力を回復させている方法がある
それは『生成』だ。私の体は少し特殊で、超活性可変エーテルってものでできてる(本体によると)。そして本体から継承した知識によれば、それは魔力との親和性が最高レベルを超過していて、そのおかげで普通の人にはできないようなことで私はできるってことがあったりするんだけど…それは一旦置いといて
その代わりに、私の体は魔力が存在していないと形を保っていられない
もしそうなった時に、あるいは別の理由で肉体が消失したととしても、魔力が回復すれば自然とこの肉体が再構築されるプログラムがあるみたいだということは、今回の検証で深い所まで見たから分かったけど、そのプログラムはある程度の量、魔力がないと起動しない
そしてそのある程度、が、普通とはかけ離れている。多分だけど通常の方法で貯めようとしたら十数年くらいかかると思う。私ってそんなに燃費悪いんだなぁ…。魔力生成ができるようにしてくれた本体には感謝だね。だって、これができないと私って本来の力を長時間発揮できないだろうから
ちなみに魔力が生まれる仕組みは…わかんない。それにあたるプログラムがなかったから。いや、あったはあったんだけど、あんなのプログラムって言わないよ。なによ、『魔力―生み出す』って。生み出す量の調整とかはめっちゃ細かく決めてるに、肝心の部分がそれだけで、これじゃ理屈もなにもない
結構脱線しちゃった。とりあえず魔力関連はこのくらいにしといて、この肉体の能力なんだけど…なんか不可解な点が多い。というかほとんどわからなかった
前にも言ったと思うんだけど、今の私は人間の4歳児にスケールを合わせていて、それに応じて身体能力が下がってる。それは当然なんだけど…私ってもともと身体能力は相当に高いんだよ。だからいまのゴブリン程度しか殺れない状況は、さすがにおかしい
……今疑ってる?なに?本当はもともとそこまで強くなかったんじゃないかってこと?エベレストくらいならマリアナ海溝くらいまで抉れたよ?拳で
でもこれ以上は分かんない。プログラムが秘匿されてる。ああ、一応説明しておくと、プログラムってのは生命の形質、精神を含む魂レベルで決定された指向性とか限界とかだね
それにしても、本体はなにを隠したんだろう…あそこ、私の能力を統括する領域だから、すごく重要な情報があるはずなんだけど…。よく考えたら、都合よくその辺の記憶がないし。……なんだろう、すごい不安。生まれて初めての人間らしい感情がこれって…勘弁してほしい
って、検証に没頭してたらもう夕方!?
そろそろ夕食も近いし……。というかお姉ちゃん起きるかなあ…もう3時間ぐらいたったと思うんだけど。ずっと起きないってのは…
これまですっかり放置していたお姉ちゃんが未だに目を覚まさないことに、先ほどとはまた違った不安を覚えていたところ、それが通じたのかお姉ちゃんが目を開いた
「うーん…」
あ、ちょうど起きた。よかったー、起きなさそうだったら『シャウト』で無理やり起こそうかと思ってた
ちょっとした心配事がなくなってホッとしていると、お姉ちゃんも頭がさえてきたみたいで、起き上がって一度自分の体を確かめた後、こちらに目を落とした
「・・・」
しかしお姉ちゃんは意外という感じでこちらを見て、一言も言葉を発さない
「・・・」
「ど、どうしたの?」
「え?ああ、いや、ナギサもそんな顔するんだと思って」
「え?」
なんか変な顔でもしてたかな…?そう思って自分の顔をぺたぺた触っていると、お姉ちゃんはそれがおもしろいようで、笑って
「なんかやたら不安そうな顔してたから。今までのナギサは、外の世界の人みたいな距離がある気がしてたけど、いや実際そうではあるけど、でも今のナギサは素の表情で…かわいいところもあるなって」
「かわっ…て」
なんか…なにもないのに顔が熱い。なんでだろう?自分のことが分からないなんて初めてだ。でも
「……でも、そうなんだ…外の人、か…」
そっか…私、無意識のうちにお姉ちゃんとの間に壁を作っちゃってたのか…。私はお姉ちゃんと仲良くしようと、心の表面上で思ってて、心から信じ切れていなかった…ていうことなのかな
なんだろう…寂しい。どうしよう…どうすればいいんだろう
その事実を自覚した途端、今度は私の中でそれに気づけなかったことへの申し訳なさのような、不甲斐なさのような、しかしどれとも言えない負の感情が押し寄せてきた。上手く言葉に表すこともできなくて、一言
「ごめんね…」
とだけつぶやくように伝えた
「なんで?」
なんでって…
「だってお姉ちゃん、距離がある気がしてたって…。でも私は…」
そういっている間にも自分の中ではそうじゃないって、そんなことないって否定してるけど、現実は”そうじゃない”と認めてくれなくて…言葉に詰まって、息も詰まるような錯覚に襲われる
「うーん…。でも仕方ないよ、これは。わたしだって知り合ったばっかの人に、すぐ心を開くなんてできないから」
「そう…」
なんでなんだろう…忘れていたけど、私とお姉ちゃんは出会ってまだ2日だ。
私はまだ感情を理解しきれていないから、ちょっと馴れ馴れしくしすぎてたのかも…。それとも最初から私のことあまりよく思ってなかったんじゃ…私のせいでゴブリンに襲われそうになったんだしそれも当然かも…。それともなにかほかに…
「ううぅ…」
私はすっかり不安に飲み込まれて、いつの間にか涙を流していた。怖い、嫌われたくない、そんなネガティブな考えしか浮かんでこない。胸が締め付けられるように苦しい。自分を押さえられない、これもはじめてのことだけど、今の私にそれをかみしめている余裕はなかった
「……」
その時、柔らかいものが、私を包み込んだ
「…でも安心したよ。ナギサもちゃんとこっち側に生きてる、一人の人間なんだってわかったから」
お姉ちゃんは泣いている私をやさしく、しかし力強く抱きしめてそう言ってくれた
その時の私は、お姉ちゃんが離れていくのがただただ怖くて、自身への不安からお姉ちゃんを思いっきりしがみついた。相当な力であったため、お姉ちゃんは一瞬だけ苦し気な表情になったけど、それもすぐに押し込めてしまった
「…私のこと嫌いにならない…?」
そう言うとお姉ちゃんはよりしっかりとした、温かい目で私を見て
「当たり前だよ。ナギサは、わたしの妹なんでしょ?」
とはっきりと宣言した。私に絡みついていた何かが一気に解けて、それで……
「うあぁぁぁん………」
「あら…」
泣きじゃくった。恥も外聞もなく、まるで子供のようにお姉ちゃんにしがみついて、安堵の涙を流した
「あぁぁん…ぐずっ…ぐす……」
「まあいっか…まだ生まれたばかりなんでしょ?それに…事情を知ってるのはわたしだけだし。ほら遠慮なんかしないで、お姉ちゃんが全部受け止めてあげる」
「ぅん…ぐすっ、わぁぁぁん……」
その時、それまでよりずっと近くに感じたお姉ちゃんの全ては、あったかくて、やわらかくて、…そして私を安心させるものであったのだった
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