第12話 新たな日常
村に近づいて来ると、村の全容も見えてきた。規模は小さめ?見た感じそのままのよくある農村のようで、村の周りは、魔物対策か丸太の壁で囲まれている。
また、更に近づいていくと入口に集まっていた村人たちもこちらに気づいたようで、残り20mにもなったところで集団から男女2人がこちらへ向かってきた
「フィーネか!?」
「無事だったの!」
「う、うんなんとか…」
ああ。多分両親だな
「さあ、村に帰ろう…と、その子は?」
まあそうなるよね
「えっと…ゴブリンに追われていた子供で…」
「…はじめまして」
実際は自作自演な訳だけど、ゴブリンに追われて来たという設定で、控えめな態度で臨むことにした
*
ふぅ…凄い適当な、中身も何もない言訳だったけど…真っ先に反応したのはフィーネの母親だ
「まあ…どこの村なの?お父さんとお母さんは?」
設定…結局話し合わなかったんだよね
「その…あっち」
村の場所なんか答えられるわけがない。なにせ初めから存在しないものだから。適当な方角を指差しておいた
「村に魔物の群れが来て、それで逃げてきて…お父さんお母さんは分からない…」
「そ、…そうなんだよ。だから…」
ちょっと。そんな変なところで詰まったら怪しまれるって。さっきこじつけてる時もだけどさ、私の言葉にいちいち「うん」とか謎のタイミングで相槌打つし、挙動不審。おかげで、その度に両親が「うん?」ってなるから、話が進まないし嘘がバレないか心配になるし…あそこまでいくとむしろ両親も分かってて言わないだけなんじゃないの
それはさておき。果たして…不安だなぁ
「そうなの…。ねえ、それならうちに来る?」
「「え?」」
「…いいの?」
いや率直に言って、まさか向こうからそう言ってくれるとは思わなかった。思考が既にリカバリーに回ってたけれど、なんか、大丈夫そうだ
「いいんだ…」
「ええ、帰る家がないんでしょう?まだ小さいのにかわいそうに。ここで会ったのも何かの縁よ。名前は?いくつ?」
フィーネのお母さん、優しいな。向こうからしたら私はよそ者。だから滞在を断られる可能性も考えてたけど…他の人も反対するようなことはないようだ
そんな人たちにうそをつくのはちょっと申し訳ないけど…この世界だと行くあてがなかったのでありがたい
それにしても、いくつ?か…単純に考えると神界総基準時で約一日で、でもこの世界の天界を介して来たから…
世界間での時差は存在するが、実際には同じ時が経っている。それが神界総基準時だ。そもそも本質的な時となると、それは存在しない概念を神々が無理やり言語化したものに過ぎない。つまりこちらの世界で1日が経っていて、また違う世界では2日が経っていたとしても、それはどれだけ圧縮されているかであって内部的には経過した時間は同じなのだ
……めんどくさいな。もういいや、フィーネと同い年で。そのほうが都合がいいこともあるだろうし。というか先急ぎ過ぎて名前すらまだだった
「ナギサ、4歳」
「あら!ちょうどうちのフィーネと同い年。仲良くしてあげてね」
「うん」
「あなたも良いわよね?」
「え…?あ、ああ、いいんじゃないか?」
完全に置いてけぼりだったお父さんの方は、いきなり話を振られて動揺しながらも承諾してくれた。うーん、あとここでもう一歩いっとこうかなぁ
「私も…お父さんお母さん、って呼んでもいい?…たぶん、本当のお母さんたちは死んじゃったから…」
「まあ…本当にかわいそう」
「わっ」
「…もちろん良いわよ。じゃあディーグはお父さんね」
「ああ…そうだな」
ちょっと…びっくりした…。急に視界が胸元に近づいたものだから…んー温かいなぁ
でも良かった。せっかくフィーネの家に住ませてもらう訳だから、私も本当の子ではないとはいえ、家族として認識してもらったほうがお互い気を張らずに済むだろうという考えもあったんだけれど
とりあえず拒否はされなかったので安心して、腕からは抜け出せないからこのまま、満面の笑顔で応えた
「ありがとう、お母さん!」
「!っ…!!」
「ぐぇっ…」
「リリー!?」
「お母さん!?ちょっナギサ何したの」
「…プハッ…いやなにも…」
私、何かしたの?苦しぃ…
◇
そんなこんなでお母さんがふわふわになったところで、立て続けの出来事に混乱から冷めやらぬという様子のお父さんから
「まだまだ聞きたいこともあるが…一旦村に戻ろう」
との言葉で、全部一旦村に戻ってからということになった。たしかに、結構立ち話してたからね。向こうで数人待たせてるみたいだし、流石にこれ以上は後回しにした方がよさそうだ
「これからはナギサって呼んでもいいかしら」
「いいよ」
「ありがとね。…あら、不思議な模様…ナギサ、これ何か分かる?」
お母さんは私の左目を指して聞いた
「これは……生まれつき。だからわからない」
「そうなのね」
まさかこんなに見つけずらい小さな紋章をよく見つけたものだ
本当は意味はある。6つ並んだこの模様は、6柱在る始祖神の象徴のようなものだ。規則正しく…と言うには少々偏った方向にそれぞれ向く、氷柱を象ったような、外を向く6つの図形の下にある小さいダイヤは、神系類共通意字で、始まりの特異点を指し…神界では『メトロン』と呼ばれる。わざわざ教えることでもないし、広まるとちょっとマズイ事態になる可能性すらあるから正直に言う必要はないだろう
さて、それはともかく、私たちの中だけで話が決まっちゃったから、他の村人にも説明しなければいけない…入口はすぐそこだし、集まっていた村人にもこっちに配慮して近づいて来ないだけで、話は聞こえてたと思うから、スムーズに………進むといいなあ
◇
「ナギサのこと、案外あっさり受け入れられたな」
「こういう世界じゃ大抵の場合魔物に村が襲われて孤児に、とか珍しくないだろうからね。この世界に関しては知らなかったからそこは賭けだったけど」
あのあと、先に村に逃げていたザランとその両親が出てきて、フィーネに謝り倒していた。あれが普通の反応とはいえ、フィーネを置いて真っ先に逃げたもんね。そりゃ謝罪の一つや二つあってもいいだろうな
あとその時のフィーネ、すごい悪い顔で笑ってたからザランのことどれだけ嫌いなのかも分かった。土下座してたザランの頭を踏みつけそうな勢いだったよ。さすがにやらなかったけども
いやーそれにしても、お父さんに「ゴブリンからどうやって逃げたのか」と聞かれた時は軽く焦ったな。だって考えてなかったから。でもそこはフィーネが機転を利かせて「草の中に隠れていたら去っていった」ということにしてくれた
お父さんは若干納得いかないって感じだったけど、「そうか…」とだけ言って済ませたので、これまた助かった。お父さんの方は、流れで連れてきたけどまだ信用してない、みたいな感じだなぁ
そして今はフィーネの家の、フィーネの部屋
フィーネの家は…まあ、王都からほど近いとはいえ、魔物がいる森からも近い小さな村らしく、それほど広くなく、部屋も2つしかなかったため、私とフィーネは同じ部屋となった。
部屋の方も特に何かがあるわけでもなくこじんまりとしていて、簡素なベッドがあるくらいだ
「なにもないねー。あっ、このベッド固い」
「まあね…。片田舎の家だし、地球の人間工学に基づいて作られたやつらと比べるのはかわいそうだよ」
「いや、さすがにこれじゃだめだよ。私もここで寝るんだから、こんな腰が痛くなりそうなベッドじゃ作業効率も落ちちゃう」
「昼なにもしないよ?」
「細かいことは気にしないの…『リアレンジ』」
こんなベッドじゃ1日の疲れも取れないだろう。それに子供は元気に外で遊ぶもんだよ。次の日の活力にも影響するんだから…私寝たことないからそんな細かいこと良く分かんないけど
そんなことを考えながら創造魔法も併用して、今私が思いつく最高のベッドを作ってみた
「…なんか変わった?」
まあフィーネが疑問を持つのもしかたない。なにせ、見た目はほとんど変わっていないから
「ちょっと大きくなったくらい?」
「見た目はね。とりあえず乗ってみな」
「…ん?おおっ?」
変化は一目瞭然だ。…見ただけで分かる訳じゃないけど、一度触れば、ね。フィーネも夢中になって、ベッドの上でゴロゴロ転がっている
「これすごぉ…ふわふわで…体に吸い付いて…こんなの日本でもなかなかないよ」
「私の魔力で創った、本当の意味でのオンリーワンだよ」
喜んでくれたみたいで私もちょっと得意げだ。するとままから夕飯の支度ができたとのお達しで、ひとまず晩御飯の時間だ
◇
「おいしかったね」
「別に普通のメニューだよ。田舎だし」
「いやいや。愛情が隠し味、なんてうまく言ったものだと思ってるよ。フィーネは、両親によく愛されてるねー」
「えー…でもたしかに、転生する前は一人暮らしだったもんな。両親がいる暮らしは何年ぶりだろう」
瀬戸内千秋の時のことを少し思い出しているようで、ちょっと感傷的な感じで先ほどのベッドに寝転び、天井を見つめていた。そこからは悲壮感はないけど、郷愁のようなものを感じた
「せっかくいま両親と住んでるんだし、ちょっとくらい甘えてみたら?」
「えぇ…?いやぁ……」
「ま、あくまで提案だよ」
「そうね…」
私はフィーネの横に寝転がって掛け布団を二人とも入るようにかけた。この掛け布団や枕も私のお
「もしかして一緒に寝るの?」
「そうだけど」
「当たり前の顔して…そうなんだ…。んー、なんか照れるような気がするなぁ…」
「両親とかと一緒に寝たりしてないの?それとあんま変わらないはずだけど?」
「そんな……そんな記憶あんまないな。特に今世だと…ずっと前はそうだったかも…?」
それ年齢から考えて多分赤ちゃんの時だよね。そりゃそうでしょ。つまり慣れてないってことか。よく考えてみれば、まだ4歳なのに、当たり前に一人部屋で寝てるしな。記憶の覚醒はつい最近だから、元々のフィーネとしても似たような性格だったのかもしれない
「もう…こっち向きなよ。大丈夫、どうせすぐ慣れるよ」
「んんーそうかなぁ」
そもそもそんなに気にするものでもないよ。ふむ……あ、そうだ
「…ねえ?私、フィーネのお父さんお母さんから義娘と認められたよね?」
「え?何急に…」
「つまり、私たちは義理の姉妹になった…ってことだよね?」
「え…待って待って。いや…どうなんだろう…?義娘なの?」
「だって、『うちに来ない?』って言われたよ」
「そういう意味か…?」
そういう事じゃない?知らないけど
「それでいいんだよ。これで姉妹だから、同じベッドでも不思議じゃない」
「えー…あ、そういう…?」
「ね、お互いのこともっとちゃんと知るためにさ、今日はもうちょっと起きていよ?いいでしょ、おねーちゃん?」
そういうと私は手元にぼんやりとした、小さな光を作った。もっと明るくても良かったけど、寝る前だしこっちの方がいい気がする
「うーん…それについては一旦保留にしといて…あまり遅くまではだめだよ?」
「はーい。おねーちゃんは、前世は兄弟か姉妹いたの?」
「いや………」
そうして、これより義理の姉妹になった私たちは、その後も少しだけ話をしていた。やわらかいベッドに、やさしい光、そして人肌のあたたかさに、眠くなるのは思ったより早かったけど…
そういえば眠るのもはじめてだったな…。意識が浮かんでいくような、不思議な感覚だけど、悪くない
「…ん?…おやすみ」
んー……
* * *
やっと寝たか…
話しながらもうとうとするナギサは、昼間の掴みどころが分からない雰囲気とは違って…何となく、見ていて子供っぽくてかわいい表情だなって率直に思った
それはともかく。姉妹………神様と義理の姉妹か…いや、これは怒られそうだな。そもそもナギサ、自分は神じゃないってずっと言ってるんだし。はぁ…どの道ここまで連れてきちゃった以上、なるようになるしかないのかな…
転生して…前世の記憶が目覚めてまだ2日だけど、いろいろな事態が進展した…気がする。おかげここまでで感情に浸ってる暇もない。でも、今のところ急いでやらなきゃいけないことも、解決しなきゃいけない問題もない。結局、しばらくはいつもとそう変わらない日常が待っているだろう。この村での生活、まだ今のわたしの精神がまだ慣れてないことだし、一先ずは流れに任せるのが吉か…。
正直面白みはないけど、この小さな村で出来ることもそう多くないもんな。うん、準備期間にでも思っておこう
「ふわぁ…」
今日は疲れた…まぶたが重い…
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