第11話 並歩

 そんなこんなでお互い、粗方の経緯だとかは伝え終えた


「大体納得してくれたかな」


「わたしの神様のイメージが崩れたけど…納得した」

そんな頭を抱えるような話してないでしょ


「私自身は神じゃないっていうのに」


「…そう。でもわたし、まだあなたに心を許したわけじゃないから」


「そっかぁ」


「ところでわざわざ同じくらいの見た目にしたの?」


「そのほうが周りから見て自然だと思って。あと距離を縮めるにも都合が良さそうだし」


「ふーん…」


 フィーネはまだ私に訝しげな視線を向けてくる。でも、それも最初より柔らかくなって、それよりもこちらに興味を持ってくれているみたいで何よりだ

 ところでフィーネが話を続けた


「でもさあなた、これからどうするの」


「ん?どうするって?」


「いやだってこの世界に住むんでしょ。どっかに家でもあるの?あなた何しに来たの?」


「取り敢えず君と仲良くなりに来ただけだけど…そういえば、どこに住もう?」


「いや知らないよ…え…?宛てもないの?」


「……」


 当然ながら、この世界に家なんて持ってない。そうかぁ…なるほど…………さて…どうしようか。少なくとも現状において大問題が発生した。いや、発生したというよりは、発覚?


「どうするつもり?」


「…仕方ない。フィーネん家泊めて」


「は?いや無理だよ?ゴブリンに襲われて幼女拾ってきて、親にどう説明したらいいのよ」


「そのまま説明すればいいでしょ」


「いやそうだけど!言い訳はどうする…ああ!そういえばやばい!そろそろ帰らないと心配される!」


「あ、そっちは大丈夫。この空間の外はほぼ時間が止まってるから」


「スペック高いな!?」


「ゴブリンは跡形もなく消してなかったことに…」


「なるわけあるか!!ザランには見られてんだから…そのいかにもなエネルギーを仕舞え!何て言えばいいんだ…」


 そう?どうせあとで始末しなきゃだけど

あれ、その言い方は…


「それでも泊めてくれるんだ」


「そんなこと…こんなとこに幼女ひとり置いていけるわけないでしょ」


「まあそれを言ったら今の君も幼女だけど」


「そういうのいいから…」


「でも、正直に助かるよ。じゃなきゃ、どっか適当な町に行くか、そこの森にでも住み着こうかと…」


「だとしても森はやめときなよ。危ない」


「そうだね。私も、わざわざそっちは選びたくない」


 とはいえ、やろうとすれば出来なくは無さそう。まあここは厚意に甘えて付いて行かせてもらうよ。一緒に住めば、色々都合も良さそうだしね


「言い訳は…あとで考えるとして、最初から思ってたけどその服はなに?すっごい違和感。なんか見づらいし…」


 服…これ?


「これが通常だけど」


 黒くて動きやすいだけの、普通の長袖長ズボンじゃない?


「それにしても黒いし明らかに現代的で怪し過ぎる。それが何かは置いといてさ、うちにくるなら着替えて…あ、でも着替える服がないのか。あの天界にいたときみたいなことができればな…」


「あれのこと?似たようなのなら、出来ないこともないけど。創造魔術で」


「この時止めといい何でもありだな…ん?待て覗いて」


「いずれ君でも出来るようになるはず…ほい。それじゃちょっと待ってて」


 私はとりあえず創造魔術でフィーネのと似た…まさしくの村人服を創り出すと、早速着替え始めた


「えっ!いや!何やってんのこんな場所で!」


「?なに」


「いや『なに』じゃないよ」


 慌てて私の服の裾をつかんで止める必要はないと思うんだけどな…


「いま動いてるのは私とフィーネだけだよ?」

 正確には完全にそうではないけど


「だからそういうことじゃないって!」


「ふむ…つまり、フィーネが私に手を出す気がある…」


「な訳あるか!!今更身構えるな…じゃなくて、恥じらいってのはないの?!」


「あるよ」


「ある人ならこんな草原の真ん中でいきなり服を脱ぎだしたりしないんだよ!とりあえず何かで隠して…」


「『トバリ』これでいい?」


「ああ…うん(もうなんでもいいや)」


 この『トバリ』は任意の狭い範囲に一定時間、暗闇を作り出す単純な魔術だ。こうした何かを隠すときには丁度良い


 そこまで言うとフィーネは引き下がって、裾をつかんでいた手も離してくれた。別に、ここならそんなに気にすることもないのに








 いろいろと横やりが入ったけれど無事、地味な村人服に着替え終わったので『トバリ』を解除して改めて話を切り出すことにしよう。この服、さっきと比べると着心地はかなり微妙だね。古いし


「それでさっきの話なんだけど。泊めてもらうにも、無償でっていうのは良くないと思ってさ。対価は何がいい?」


「別に気にしなくてもいいんだけど…」


「…何でも差し出せるよ?」


「……」


「冗談。その目は辛いよ」


「…そういう気でもあるの?」


「無いない…だとしても、困ってる事とか」


「困ってる、か…別に、田舎暮らしは不便だけど案外、特別困ることもないしなぁ」


 そりゃそうだよね。戦争してる訳でもなし、いくら辺境でも生活には困らないよね。他に何か…生活関連じゃなくても…あった。フィーネの困り事、思い出した


「…フィーネ。困ってる事、あるよ」


「え?」


「使い方、分からないって言ってたよね?」


「?…………………あ」


 昨日ストーキ…盗み聞…近くを歩いてた時に聞いた独り言を思い出したんだ


「私を家に泊めてくれるお礼に、魔術の使い方、教えてあげる」




「いや待て。何でその事を知ってるんだ」


「たまたま…」


「たまたま?」


圧……


「ねえ」


「……」


 その後のちょっとした詰問の末、結局正直に話すしか無くなった。そんなにダメなのかぁ…あれ









 そんな一節もあって今は『クリップ』も解除した元の穏やかな平原を、村に向かってのんびり移動中だ


『クリップ』を解除した時の話なんだけど、覚えてたかな、外では処理しなかったゴブリンがいること。私は覚えてたよ。で、当然襲ってきた。一度仕舞った魔力砲でご退場してもらったけど


 だからフィーネはあんなに怯えなくても大丈夫だったんだよね。前世の記憶もあるのに…いや、だからこそかな。地球に魔物なんていなかったもんね。まあ世界線によっては普通にそれっぽいのがいたりするけど、別に教えなくてもいいか

 それにしても年相応に魔物に怯えるフィーネは中々おもろ…可愛かったよ。腰が抜けちゃったみたいで、涙まで浮かべて悲鳴を上げて。語末に向けて声が小さくなってくのがなんとも……なんとなく守ってあげたくなった


「はぁ……忘れてた…」


「やっぱり、あの時始末しといた方が良かったでしょ」


「いや、あの時はなんか先にやんなきゃいけないことがあったような…無かったような…」


 自信ないんだ


「ところで、さっきのも魔法?」


「一応」 


「へぇ…?」

 

「それよりザランとかいう幼馴染はどこいったんだろ」


「知らんけど、もう村に逃げ帰ったんじゃない」


「ドライだねぇ」


「あいつは究極のKYだから。わたしを置いて真っ先に逃げ出しやがって…あ、でもよく考えればあの時はあれが普通の反応なのか…」


「これまでの私の?経験上は、君が言う通り常識的に判断して間違ってないと思うよ。足手まといを二人守りながらは、未成年には難しいよ」


「…じゃあちょっと悪い事言ったな」


「そうやって受け入れられるの、偉いよ」


 さっきまでのちょっとした?騒動とは打って変わって穏やかな草原だ。ここまでの道のりも特に何事もなく進み、ついでに会話を通して心なしかフィーネとの距離も縮まった気がする


 もうしばらくして、代わり映えのしない草原に次第に壁らしきものが見えてきた。多分あそこがフィーネが暮らす村だろう。遠目だけど、入り口には数人の人が集まっている


「ここがわたしの暮らす村、タイナだよ」


「NPCみたいなセリフだ」


「他に何を言えと」


「さあ?…フィーネはさ、自由に、とことん、この世界を楽しんでね」


「…なに…」


「なんでもー」


 そんな横顔に浮かべた困惑と微笑は、これから来る日々への期待か、はたまた


「…で、親にどう説明しようか」


「……ね」

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