◇一本道
納得してと言われたけどもねえ………ていうかナギサからも言われたけど(言われてない)、わたしって既に人外なんでしょ?じゃあもう選択肢ないよなー…
いやそうだよ、もう選択肢ないじゃん…(2回目)。ほんと何してくれてんだか。しかも神の掟みたいなので、タブー的なことなんでしょ?イカれてやがるよ
ついでに、ナギサの方も個としての独立だかなんだか…とにかく、あいつのおかげで情報が大洪水で、整理できなくなってる。隣にいたフラネなんか、ナギサがわたしの診断(?)した時あたりからほぼ直立不動で、混乱からか一言も言葉を発しない置物と化しちゃって…可哀そうに…再起動にはしばらく掛かった
再起動後も、まるで何も聞いてなかったかのように…明らかな挙動不審をかましながらふらふらと歩いて帰ろうとしていた
いや流石に止めたよ。そして頑張って落ち着かせた。あんな状態じゃ何かあったとしても何もできなそうだったし、何より村と反対方向に向かってて不安だったから。でも、結局その後狼イベントだったんだよなあ…
まあ、そんな余談はさておき……要は不老不死な訳でしょ
ん~~…どうだかなぁ~って。……すごいとは思うし誰もが一度は憧れると思うやつ…そんで最終的には「なくてよい」結論に至る…いやいやそれだと一部の方々に失礼だな。医療とかの分野の発達も、そういうのが原動力になってたはずだ
まあそんな空想上の存在になってしまったのだが…うん、とりあえず実感はないね。そりゃそんなすぐに効果が現れるようなものでもない
あと何かタイミングが微妙じゃない?不老不死なんて代物が出てくる異世界ものだと大抵、転生するときに何か…そういうスキルとか…貰う流れみたいなのない?転生して、数日…あるいは4年ばかり過ごして急にねえ…何だか、何だろうなぁって…
あの管理者とやら…スレイストスとか言ったっけ、その全然関係ないところで、せっかく創ってもらった(かもしれない)身体を知らない内に作り替えられて…。
ところで神様ではなさそうと言っても、呼び捨てで大丈夫かな?でも『様』とかだと微妙だから…無難に『さん』がいいか
そもそもの話、スレイストスさんって、人間を不老不死にすることなんてできるのかね?…分からないけど、今思えば、出来たところで頼んでもやってくれなさそうではある
だって、よくよく思い出してみれば転生する時に貰ったのもスキルとかじゃなくて、あくまで資質だった。もしかしたらそういうズルみたいなのが嫌いで、「努力して身に着けろ」的な考え方なのかもな。それに関係あるかはどうかはさておき、不老不死なんかの明らかに現実にそぐわない代物も否定的かもしれない。まあそれをアイツがぶち破った訳だが…ほんとごめんなさい
まあ、もうどうしようもないから、それはともかく…この世界だと、魔法はそもそもの資質が無いと使えないっぽいから、それだけでも十分有り難かったけどね
でも創作物でよく見るチートとかに興味もあったり無かったり…そういやチートってズルみたいなニュアンスだったっけ…一度聞いてみても良かったかもなぁ
あ、待って
「痛い痛い……脇腹…」
「…え?何て?」
「ちょっ、一旦ストップ…」
手が食い込んでるんだよぉ……
そう言ったら、ナギサはわたしたちをそっと降ろしてくれた。そう、いま移動中なんだ…ナギサが、わたしとフラネを両脇に抱えて。つい先程あんなことがあって、しかもそれに対処もしてくれたのに悪いんだけど…話し終わってそろそろ帰ろうと立とうとしたら、全身に倦怠感が…「あ…」つって、本当に、一歩も動けなくなっちゃって…
フラネの方も、歩けない程ではなかったとはいえ足取りがおぼつかない感じだったから森の中を動くには心配で…
ナギサは「しょうがないなぁ…」って言ってくれたけれども、やっぱり重いだろうから申し訳ない
「あたた…」
「ごめんね」
「いやいや、だいじょぶ…」
歩いてる時の振動で、抱えてる手がちょっとずれたんだろうな。むしろこっちこそ運ばせてごめんよ
「フラネは?何ともない?」
「ん…だいじょぶ」
「じゃあ、行こっか」
そういって、ナギサはまたわたしたちを抱えて歩き出した。…それにしても力強いなぁ…移動速度は遅いけど、もう15分はこの状態で歩いてるはず…そろそろ森から出るんじゃないかな
良く考えれば、4歳児の体格で同じくらいの子供を片手で抱えられるというのも奇妙な話だけどね。でも運ばれてる身としてはすごいなぁとしか思えないよ。詳細なんてとてもじゃないが聞けない
話が脱線した。…もうエーテルに順応してしまったのかね。正直不死とか、もうそんなに気にしなくていっかぁってなってる気がする。そりゃさっきは取り乱したけれど考えてみりゃ、そんなに悪いことでもないんじゃないかななんて思い始めてるんだよ分かってる限りだと、少なくとも害はなさそうだし…もう気にするだけ無駄かなぁ…って
ちらっと、わたしを小脇に抱えて歩くナギサに視線を向けた。ほんとに余裕そうだな…すごいなぁ…
実を言うと…
まだ2、3日一緒に過ごしただけの間柄…なんか義理の姉妹になってたけど…まだそこまで縁が深い訳でもない。
それでも…何となく気分良くないよなぁ。いや、自分の死を悲しんでくれるというのはありがたいことだ。でもそれはそれで気の毒とか申し訳ないとか…前世ではどうだったかな。普通に大学に通って、友達も居たは居たし、親子仲も悪くない…ちょっと鬱陶しい事はあったけども、自分でいうのもだけどわたし、親不孝娘だった訳でもない…ああ、また話がずれてしまったか。何だか、転生して心なしか考え事が増えた気がする。やべぇ、この空気はまた脱線する
結局、自分のせいで誰かが悲しむっていうのは、あんま望ましくないんだなぁって
というわけで、もういいや、これくらい。それに事後報告だったし、もうどうしようもないっていうか…次からは事前に教えてほしいもんだよ…いやいや、違う。むしろこういうのはご遠慮願いたい。マジで。おい、そういうことだからな?
「フリって何のこと?」
「ん?え、な、なんでそれを?」
「ぶつぶつなんか言ってたから」
……声に出てたんか?
「…どっから聞いてたの?」
「『わたしの顔は1度まで』だか何だか」
あ、良かった…たしかその辺では特に変なこと言ってなかった気がする。知らんけど。ふぅー、それにしても危ない危ない…まさかわたしが独り言漏らすタイプの人だったとは…さっきの想像聞かれてたら恥ずかし過ぎるわ
いやー別におかしなことも考えてなかったと思うけれど、なんか社会的な羞恥心というかなんか…ね?分からない?そう…
「で、そのフリって何?そもそも何の話だったの?」
「あー…えー…知らなくてもいいんだよ、うん」
「……」
…な、なに、そのよう分からん顔…
「…そんなこと言われたら余計聞き出したくなるじゃん。どうしようか、くすぐってでもみようか」
あ……
「………やめて?わたし本当に苦手だから…」
「ふーん…?」
あ…この雰囲気…
「待って待って、ホント、何でもないから。んで指わきわきさせんのやめてマジで」
ちょうど脇腹の辺り抱えられてるからやばいんだって。ホント、ホントに弱いんだって…ダメだ逃げられん、完全にホールドされとる…
「ちょっフラネ助けて…」
「こら、暴れないの」
君のせいなんだけどね?
「……」
フラネーー!緊急事態だから!この状況何とかしてくれー!
「……」
あ…待ってナギサ、それ以上はやばいって……て、ん?
「…なんかぐったりしてない?…あっ一旦タンマ、やめて…」
待ってって
「ん?なに」
いや、だってさ
反対側に、同じように抱えられて、手足を投げ出してるような体勢のフラネが目に入ったのだ。え、大丈夫?どうしよう、さっきまでなんてどうでもよくなってきてしまった。待ってそれ平気? え?
「ナギサ、無事か確認してくれない?」
「んんー…顔も見えないから分かんない」
「一回降ろそう。ねえ、フラ……?…あ…………寝てる」
「…スゥー」
ふと耳を澄ましてみたら、小さな寝息が漏れていた。あの短い時間で寝たというのか…よほど疲れてたのかはたまた…
「寝てるねえ…」
だねー…。
なんというか…こういうところは年相応な感じだなぁ…なんて思っちゃった今。というか、何気に普段しっかり者のフラネのこんな姿は、なかなか見れるものじゃないぞ。そうだよね、今日いろいろあったし、まだ3歳だもんね。いやぁ……………
……こう見るとかわいいなぁ、ほっこりする。わたしからだと横顔がちらっと見えるんだよね、そのほっぺたプニプニしたい
ナギサも思わず立ち止まってフラネを覗き込んでるよ。相変わらず顔は見えてないだろうけど。…あ、そういやナギサの意識がそっちに向いてくれたから、結果助かったわ
「疲れたのかね?」
「かもね。でも…気の毒だけど、どの道今から起こさなきゃいけないんだよね…」
「え?」
「ほら、そろそろ森抜けるから…」
たしかに、夕方で分かりづらいけど、木の密度も少なくなってきて、気持ち辺りも明るくなった気がする。
「…というわけで、二人ともここからは頑張って自分で歩いて」
「どういうわけで?…え、いきなり?」
「フラネー、寝てるとこ悪いけど起きてー」
「ねぇ、何でいまから?」
まだ動くの結構きついんだよな…。
できれば、このまま家まで運んでほしいなぁ…なんていうのは、さすがに欲張りすぎだと分かってるけども…
「あ、いま足攣ったから一旦…」
「降ろすねー」
…演技力が足りなかった
「演技力がどうとかじゃなくて…第一、さっきまで私が運んでたでしょ」
そんな…なんて無慈悲な…。しかもまた心の声がダダ漏れてるし。あかん、このままじゃ丸裸になってしまう
「フラネー」
…まあ、下手な演技を見破られて少ししょぼんとしながらも、わたしはおもむろに起き上がった。
そうこうしている間にもナギサは、地面にそっと降ろしたフラネに声を掛けている。ただ、意外と眠りが深いみたいで、中々目を覚まさない。
そうして数分ほど、わたしも体をゆすってみたけど、駄目だった。フラネって目覚め悪かったっけな?
「ほらフラネ、いい加減起きてよ―」
「そんなとこで寝てると風邪ひくよ…だめか」
「にゃー」
なんでだよ
「起きないよ~」
ついにナギサが飽きて、フラネのもちもちなほっぺたで遊び始めちゃった…さり気なくわたしも触ってるのは内緒…って、ああ、そんな引っ張っちゃだめでしょ、ほっぺた腫れちゃう。そんなこんなで、フラネの頬が伸びてしまわない内に、ナギサから引きはがした
…というかこれ、今更ながら門限…だいじょばないよなぁ…ああ~どうしよ~…
「『ラムネ』が良くなかったのかな…」
「ん…?」
おい待て。不穏な言葉を発するな
「あれって副作用でもあるの?」
「……ないと言えば嘘になるけど…」
ねぇさぁ…
「ちょちょっ…なにその目…。大丈夫だって、人によっては、解けた後もしばらく眠くなったりするけど別に…ごにょごにょ…」
はあ…まあその程度なら平気か…。あと別に責めてる訳じゃないから大丈夫だって
「ともかく。わたしはいいからさ、もうフラネはこのまま連れて帰らない?もうそろそろ暗くなるよ?」
「そうだね…」
最後に、起きないかな…と、もう一度頬をつんつんしてみたところで、起きるはずもなく。その後は、村の前までナギサがフラネを空いた両腕でおんぶして移動し、流石にそこで起きてもらった。なお、若干無理矢理だった上に10分ほどかかった。
たまたま門にドーマンさんが居なくてよかったと思う。まるで死にかけみたいに歩くわたしと、一向に目を覚まさないフラネと、そのほっぺで粘土遊びするナギサを、説明するのは困難を極めただろう…
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