◇一方フラネール家
私はフィーネたちと別れた後、何ともなくだるい全身を引きずって、実際は緩やかなはずの坂を、自分の家がある方へ時間をかけて上った
いつもなら10分も掛からない道も、今日はやけに遠く感じる。もう夕暮れ時だったので、外で作業をしている人がいなかったのは、幸いだった。こんな姿を見られたら絶対に心配させてしまう
そうしてようやく家に着いたが、もう辺りは暗くなり始めていた。そうなると当然、パパとママに心配される…
「一体なにをしていたんだ!お昼には帰ってくることになっていただろう!?」
「ただいま…」
「どこか怪我でもした?なにがあったの?」
パパとママは、私が帰るのをずっと待っていたみたいで、家の前で立っていて、私を見つけると駆け寄ってきた。一瞬、怒ったように言ってきたパパに気圧されてしまったけど、ママのおかげで心配していた気持ちは伝わってきたので、私は全身のだるさを我慢して、ふつうを装った
「大丈夫。お姉様たちと川で遊んでただけ、なんでもない」
「お姉様?誰の事?」
「…お姉様はお姉様。それより、早く入ろう…」
呼び方がごっちゃになった。…もういいや、早く帰って、ベッドで横になりたい。ナギサが魔力枯渇って言ってたこれは…正直きつくて、いまはかなり無理をしている。気を抜いたらそのまま意識を失ってしまいそうだ
「それもそうね、晩御飯も用意できてるわよ。フラネールが好きなヤマヲトの焼き魚なのだけど…」
「…食欲がない」
「本当に大丈夫なのか?何か悪いものでも…まさかタケダケだとか…」
「あんなの食べるわけがない。遊びすぎて疲れたから、もう寝たい…」
タケダケなんて……あんな見るからにな毒キノコ食べるわけがない。そもそも食べてたらこうして歩いて帰ってこれる訳もない。ほんとうに、眠たいから…お願いだから寝かせて…
「でもせめてスープだけでも飲んでちょうだい。山菜をたっぷり使った、栄養満点のものだから…ね?これくらいは食べてくれないと心配になっちゃうわ」
「…わかった」
山菜は、集めるのが大変だから、いつもはこんなに使うなんてありえない。お祭りでも、記念日でもないのに…
いつもと違う豪華な食事に、少々力んでしまったが、ママを心配させるのも忍びないので、スープだけ急いで飲んで、すぐに自分の部屋に向かった。そして着替えもせずにベッドに飛び込んだ
「もうダメ…」
無理してふつうに見せるべきじゃなかった。さっきよりひどい倦怠感だ
すぐに眠気が迫ってきたが、私は少しだけ、今日の出来事を、私の決意を思い出した。我ながら漠然としている。でもいまはそれでいいだろう。まだ、自分が生きる道を決めるには、早すぎるから…
私じゃ私の
今思えば、ナギサとのちゃんとした会話は、これが初めてだった。最初会った時はフィーネとはまったく違った性格のように見えたけど、でも人を思いやるその根本はよく似た姉妹であった。あれ以来、私のことをよく気にかけてくれるようになったところでも、義理だけど、姉妹なんだな…と思えるきっかけとなった出来事であった
新しくできた目標のために、私もこの2人のいいところは見習おう。
……まずは、やっぱり人見知りを直さないとダメかな……やっぱやめとこ。知らない人を警戒するのは、間違っては無いはず
…随分と早い前言撤回だ。フィーネがかなり酷いことになっていたので、フラネールの様子も見に来たのだが、彼女のダメな部分を見てしまった
そろそろまぶたが上がらなくなってきた……。明日は、ゆっくり休もう…
私は強くなった眠気に逆らうことなく、意識を深い眠りに沈めたのだった
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