第40話 内緒

 大体朝の9時頃、今日はまだ家の中にいる。とはいってもそろそろ出掛けるつもりだけど…


「また森?」


「うん。ちょっとやる事が」


 今日も今日とて森に出張らうつもりだけど、おねーちゃんに引き留められた


 私たちはまだ幼いとされる年齢のため、普段親の仕事を手伝っていたりはしない。だからというか…昼間にやることも出来ることもあんまり無いから、正直言うと村にいると暇でしょうがない

 そういえば…おねーちゃんは今まで森に行くことはほとんど無かったって言われてたけど、だとしたらその間、何していたんだろう?


「ふーん、まあ気を付け」


「行ってくる」


「いってらっし…あ、待って」


「?」


「ちょっとこっち向いてくれない」


「いいけど……?」


「………」


「えっと…」


 え、なに…?


「………」


 だから…どうしたの…?そんな首をかしげながら人の顔ジーっと見て。なんかおかしな所でも?

 顔を触ってみたりしても、特にいつもと違うところはない。と思う…わかんない


「……何?」


「気のせい…じゃない」

 だから何が?(3回目)


「ねぇ、何かあるなら言ってよ」


 なにか勝手に思考に耽られても反応に困るし、なにより気になるでしょ


「ああ、分かった…あのさ」


「うん」


「目の模様消えた?」


「うん…は?」


 目を見てたのか…ん?その発言はなに…?


「…ほんと?」

 

 それは多分、『始祖神の紋章』のことだよね


「ほら右…じゃなかった左目。こないだまであったよね」


「えぇ…?にしてもよく見てたね…」


「初対面の時から妙に印象に残ってて…」


 自分の左目を指差してそういうおねーちゃんの言葉に、ベッド横のサイドチェストの上に置いている手鏡で確認してみた

 因みにこの鏡もただの鏡じゃない…いや、物自体はただの普通の鏡だけど、朝起きた時とか、水浴びで髪がある程度乾いた後とか髪をすくのにちょっと手間取ってたんだよ、なにせ見えないから。そこで私がこれを創造したのだ。でもこれまで無かったのを鑑みた通り、この文明では鏡って割と繊細で難しい製品だから、面倒が起こらないよう私たち二人でこっそり使ってる


 って、そんなのは今どうでもいいんだ。紋章は…


「ない……」


 気付かなかった。あくまでハイライトだから分かりにくいけど、確かにあったそれが無い


「…だいじょぶ?」


 どうして…というかどうしよう、結構大事なやつというか、相応の意味があるものなんだけどでも何かの拍子ひょうしで落とすような代物でもないし、直近の出来事でなにか原因らしいこと…


…「?」……………………………………

……………………………………………………

……無い、訳でも無い…どれ…?………………

……………………………………………

…………「おーい?」……………


 んー………


「(なんか考え込んじゃったぞ…)」


「いつからだろうね…こうなったの」


「(あ、喋った…)さあ…」


 うーん、そもそも前の紋章は………あ


「気付いたのもさっきだしね」


「もしかすると、あの時かも」


「心当たりあるの?」


「それは最初あったんだけど…多すぎて、どれかに絞れなかった」


「そういう感じ…?」


 これは変化時に自覚があるものではなかっただろうから、そもそも何か特定のきっかけがあったかどうかも定かではないし…


「だけど、一番可能性が高いのはあれかなあ…って」


「ほぅ…?」


「多分、私が個として本体から独立した時だと思う」


「あー………」

 その様子は覚えてないな


「狼に襲われた後」


「…ああ。あの、使徒がどうとか言ってた時だよね?」


「そうじゃないかな。実は、前の紋章は始祖神の象徴となる印で、本人と縁を持つ存在以外は使用が許されないから………」(13話参照)


「つまり『個立』して、分体じゃなくなってその縁が無くなったから自然と消えたんだと思う」


「へー、あれ…」


「え?」


「いまだって使徒じゃん。それは縁ではないの?」


「あーっとね、違う。『縁』というのはもっと狭い意味で、人間でいうところの血族…その中でも特に一親等に近いの。それに対して、使徒はあくまでも上司と部下、許諾さえあれば誰でもなれる立場だから」


「はえー、それまた興味深い。じゃあ結構あれ、レアなんだ」


 レア…縁のことね。うん、まあ…紋章の希少さでいったならば、間違いない。神の中でも始祖神しか、あれは持てないからな…その6柱ごとでも、少しずつデザインが違うし


「まあ、ね…でもあっても無かったとしても、プラスもマイナスもないからさ、変わんないよ」


「ほんと?」


「…知らない」


「じゃあ駄目じゃん」

 まあ、平気じゃないかな…駄目…?


「じゃあ使徒ってのは、何かあったりするの?」


「あるよ。仕えるってことと並んで重要な要素で…それが『恩恵』」


 恩恵は主たる神が従なる使徒に与える力。その種類や影響は、主人である神の裁量と、その神の特性で決まるのが基本的だ


「…なるほど。じゃあ、あいつのは?」


「知ってる限りだと、エーテル体の総合的な強化だけ…」


 なんだけど…そう言えば本体の使徒って、思い出せる限りだと今までいたことがないから、どういう影響が出るのかイマイチ予想出来ないんだよねぇ。なんなら本体のことだから、隠しておく以外にも後付けで何か追加する可能性すらあるから、実質的に対抗策はない…あいつより優れた生命体はいないから誰にも、悪魔にも神にも祈れない。…他の始祖神であればまだあるかもしれないけど、アイツがやる気になった場合怪しい

 とにかく、ただでさえ現状把握もまだしっかりできていないのに、これ以上は何も無いと願いたい。神…そうだった…もう誰でもいいや、アイツ以外の誰かに祈る


「他に何かあるって?」


「分からない。けど、魔術の制限の時もそうだったでしょ?」


「…理解したわ。油断も隙も無いと…」


 特に何か悪影響がないか心配だ。いや、正常な神の加護で悪影響とか言ってるのが、ほんとおかしな話なんだけどさ


「もう、しょうがないしさ…心構えだけしとこうよ…」


「諦めてる?」

 そう言ってもさ


「気を張るだけ無駄だよ…?」


「あ、こりゃ駄目だわ」


 だってぇ…相手がなんだもん…


「あ、おねーちゃんは大丈夫?」


「わたし?」


「思い出してみれば体いじられてるじゃん。今更だけど、何ともない?」


「」


「それじゃあそろそろ行くね」


「あ、鏡わたしも使いたいからちょうだい」


「髪をまとめるの大変だよね、はい」


「ありがとう。…無駄に髪長いから、ほんとこれ助かる」


 鏡も、更に言えば束ねる作業とかも全て魔術で代用出来れば、楽ではある。けれど、もう何度も引き合いに出している、未だ解決しない燃費問題、魔力量問題によって実践できないでいる


 本来なら、そこを補えるために『魔力生成』があるはずなのだけど…こちらはこちらで、やっぱり解決しときたい課題がいくつかある。最近なんやかやで使う機会が多い『魔力生成』ではあるけど、本音を言えば出来るだけ使いたくない

 特に今気にしてるのが、落とし穴があったりしそうで怖いということ…。接露魔力法で視えたプログラムが滅茶苦茶にがさつで理解不能、そして…よくよく考えれてみれば、魔力とかの生成…つまり『創造』というのは神の領域だから…それを私が出来るというのは、どこかしらに矛盾が生じていそうに感じてしまう


 そういうことで、必要であれば使わざるを得ないけど、『魔力生成』にはあんまり頼りたくはない。そうなると魔術を普段使いとか…出来なくも無いけど、あまりするべきではない。魔力は文字通り、エーテル体の生命線だから


 そういう訳で、魔術は普段使わず普通の人と同じルーティーンを送っていることになる。その中で、こういうくしとかの有難みを感じる…


「…あ忘れてた。それじゃ、行くね」

 外出しようとしてるんだった


「あ、うん。引き止めてごめん。昨日の雨で滑りやすくなってるだろうから気を付けてね」


「はーい」





「ナギサは今日も森かなあ…」



 ナギサはここ最近、2日か3日に一度くらいの頻度で一人で外出している。気になってドーマンさんに訊いてみたところ、例のトレーニングか、トーベルたちと遊びに行っているということだけ分かった

 あの二人は、少し不安なとこあるけど…それでもあいつらは慣れてるからな。むしろあいつらが調子に乗って変なこと計画してないかだけ心配


 さて…やる事が無いということは


、やるか」


 前なら、こういう時は魔力訓練をするしかなかった。けどわたしは、新たな趣味を見つけた…いや、可能にしたのだ。いまは魔力訓練とそれを平行して行っている

 それっていうのが何かというと


「前回氷魔法だったっけな。じゃあ、今回は雷にしよ」


 なんと、魔法研究である


 正直飽きたんだよ、ずっと基礎ばっかっていうのも。そりゃ基礎も大事だとは思うけどさ、ぶっちゃけわたしはほぼ完璧に出来てるる感じするし。思ったんだよね「もうここまできたら魔法使えんじゃね?」って



 そんな訳で…前世でも今世でも魔法はイメージって言うっしょ、まずは定番の『火球』…だと火事になるから、『灯火』あたりから始めようと、実際にやってみたらなんと!………………その現場では、松明ほどの灯がわたしの人差し指にいきなり付いてめっちゃ焦っていた、燃えてはなかったけどね。まあ、つまるところ……………………拍子抜けするほど簡単に成功したという話

 なんか…あっさり過ぎて、逆に感動とかが全然なかったのが釈然としない。思ってたんと違う


 ともかく、それで使えることが判明したので、1週間くらいかけて火、水、風、土の四属性。次に光、闇、氷と来て、今に至る


 この中だと、光と闇はちょっと苦戦した。そもそも何をイメージすればいいんだ、って所で悩んだんだけど…「分かりやすいやつ…懐中電灯!」てな感じで閃いて、既に明るいから効果の程が判りづらかったけど部屋中をてらしてたら、何となく光を操る感覚が掴めて、あとは大分自在に制御できるようになった

 闇は本当に悩んだ。前世でも闇を使った道具なんてない。1時間と、昼食を経て、諦めかけたんだけど…最近の記憶探ってみたら、その解決策は実はすぐ近くにあったことが判明した。ほらあれ、ナギサが使ってた『トバリ』。最近この目で見たものでしかも同じ魔法だからか、前世でも雷での停電の時でしか使ったことが無い懐中電灯よりも若干だけど魔法にイメージが乗りやすい感覚だった。あとは光と同じ流れでめでたく習得



 室内だから派手なやつとかは試せないのが少し残念だけど、まあいまは別にいいかなって思ってる。その代わりに繊細な操作を意識していたから、かなり細かい操作ができるようになった

 再現してるのは確かに物理現象なんだけど、あくまでも魔法だから、普通は有り得ないのができるから面白くて…色々試してる。因みに水魔法に火魔法を合わせても、やっぱり蒸発しないんだよね。火力が足りないのかなとも思ったけど、なんかそういう感じじゃない気がしてる。もしくはイメージかな…やっぱ具体的な科学知識があるとより面白い、さすが転生者(若干の自画自賛)


 まあ、その使い道はイマイチはっきりとしないものばかりなんだけどさ、…いつでも安全な飲み水を提供できます。あ、風魔法はドライヤーにも使えそうじゃない?だとしたら温風の研究するか…まず試すなら、定番の風×火かな。近いうちにこっそり試してみよう

 水浴びの後、髪を乾かせないんだよねぇ、タオルで拭いたら後は自然乾燥が普通みたい。でも、この世界基準だと当たり前であっても、機械文明を経験したわたしには濡れた髪のまま夜を過ごすのは辛い。この長髪、拭いても乾くわけないでしょ?


 そうだ!魔法の力で前世はできなかったこと…例えば、料理だってできるかもしれない。あの、上手い人がやってるみたいに、鍋ブンブンしてみたいなぁ…今度は『念力』とか覚えてみようか…なんてな


 ちなみにこの練習はナギサとフラネには秘密にしている。ちょっとしたサプライズみたいな?ある程度練習したら、2人の前で披露してビックリさせたいなって。だからこれはナギサが外出してる時だけしかやっていない



  今何時だ?体感30分くらい経ったか?

 何か、知らない内に話が地球一周ぐらいしてきた気がする。とにかく、今日は雷魔法の実践だ


「雷…つまり電気だから…真空放電とか?」


 真空は『操風』で再現できるとして、まずは回路のイメージか。両手を、それぞれプラス極とマイナス極にするイメージで…そしたら左手から電子を移動させる…


バチッ

「うわっ…結構怖いなこれ」


 手から手はやめよ、あんま電圧高くないと思うから普通に空中に向けてでいい気がする。実戦でも特定の空間に放出することになるだろうし


 わたしの場合、雷っていうよりはやっぱ電気のイメージの方が強い。よし、『操電』で行こう。…いや、この場合は『創電』かな?

 それにしても、いちいちこのイメージするのは面倒だな…普通に出ない?


バチッ

「うっ…いけるんかい」


 問題ないのか。でも、気持ち魔力消費が増えてる気がしないでもない。魔力訓練もまあまあ進んでて、それくらいは粗方であれば分かる。とはいえ、出来るだけ消費は最小限のが良いよね

 これまでからも考察して、イメージが具体的な方が魔力消費の負担を軽減できると仮定するならば…魔法だから、電気を発生させるのに電磁誘導なんかは使わなくていい、要は回路が確定してればいいんじゃないか?


「早速、…うっ……よし」


 魔力感知がそんな正確な自信は無いからあれだけど、良い感じじゃない?とりま他属性でもその方針で進めてゆっくり検証してくか


 それよりも、このいちいちビクッてなっちゃうのは直さないとな…。音が悪い、風魔法で真空に…それだと窒息する、なら空気の振動を止めるしか?

…なんかもう普通に慣れた方がいい気もしなくはない…

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