第41話 動物
「よっしゃー!」
「着いたー!」
「…ほんとに実現するとはね」
たった今、秘密基地計画の一節が完了した。具体的に言うと、地下道の建設が。
*
話を進める前に、我々がこれまでに起こったことを、簡単に説明しようと思う
まず最初に、あの訓練(永回ノックと我々は呼んでいる)は定期的に開催された。というのも、ナギサが鍛錬をする度に、あの神が乱入して勝手に弾幕を張っていくからだ。ナギサは、身体能力が高いという『個性』のおかげか成長も早かったため、本体の知識や経験も相まって、回避率が急速に上昇していき、それに伴って神の悪ふざけの度合いも上がっている。最近では、属性魔術も併用してきていて、はたから見れば殺しにいってるような攻撃が繰り出されていた。これには流石のナギサも焦って、必死の形相で回避していた。…どうせあの神のことだから当たっても痛いぐらいで済むようになっているのだろうが…そこは気の持ちようの問題である。因みに、何度もボコボコにされたナギサはあの神のことが決定的に嫌いになったようだ
その間、魔術教室も2回開かれた。あんなことがあった後だということもあり、毎回フィーネが森へ入るのを躊躇するという出来事もあったものの、他に丁度いい場所もないため、ナギサが魔術で拘束して担ぎ上げて行った。フラネールは平気そうにしていたことから、意外と肝が座っているのかもしれない
その進捗で言うと、フラネールの成長速度はフィーネやナギサと違って比較的普通であり、そしてフラネ―ルを置いて先に進むなどと言うことをあとの2人がする訳がないため、特に進展はない。…それでもナギサの言う通り本当に魔術の素質があるのか、十分異常なペースではあるが…
その他は、この秘密基地以外に特筆すべき点はなかった。そして鍛錬と魔力訓練の合間に、トーベル達とこの計画を進めてきたのだ。まだ終わりではないがナギサ達はみな嬉しそうな表情だ
*
「やったな…」
うん、いやぁ…できちゃったなぁ…。まず、私が最初に参加した南の基地からトーベルたちが事前に造っていた、山側にある北の基地まで。…いや、特に何もなかったよ、そこにも。南と同じように、小さないかにも手掘りって感じの空間があるだけだった。またちょっとがっかりしたのは内緒ね
…そうだよ、私が参加してるんだから、最終的にはすごい
まあ、それは置いといて、そこから南東方向に掘り進めて森の東側まで、ほんとは東側を探索してみたかったけど、それはまた今度にして、そこに簡易の基地を造ったら今度は南の基地に…といった感じで地下道を掘り進めていった
そうして今この瞬間、その工事が完了したのである。正直興奮してる。地下道が開通した時の、やり遂げたー、っていう達成感と満足感は素晴らしいものだった
「やったね!じゃあ、つぎは基地をひろげよう!」
「切り替えが早いなぁ…でも、そうだね」
このあまりにも狭い基地…というよりただの土の空間…はいけない。
「どれくらいでかく作るんだ?」
「とにかくでっかく!」
「…いや、ちょっと待って」
「ん?なんだ?」
ただ闇雲に広げるのはよくない
「ちゃんと計画的に進めよう」
「なになにー?」
図を書きながら説明した。まず最初に、各簡易的な基地を1つの部屋ぐらいにまで広げて、その下を一段掘り下げて、まず部屋を三部屋造る。私たち一人に一部屋だ
「おおー」
「俺たちに一つずつなのか?」
「取りあえずそれでいいでしょ。まあ、どのみちこの部屋をもう少し広げないとね」
特に反対意見もないみたいので、さっそく実行だ。この三人がようやく入るくらいしかない、しょぼい空間を拡張せねば
下の本拠地への入り口は隠し扉にするつもりだ。なぜそこまでするかと言うと…もしここが誰かに発見されたとしても、ただの地下通路だと勘違いしてもらうためだ。この基地を何に使うかはまだ決めてないけど、秘密は守れるようにしたい
部屋がある程度完成したら、空間系統と大地系統の魔術でも隠蔽措置を行う。…もはや自分でも何を想定してるのかわからないけど…ここまで来たらとことんだ
時間もまだあるため、それぞれが再び黙々と部屋の拡張作業を進めていたのだけど、そんな時ちょっとしたハプニングが
「ねぇねぇ〜みてみてー」
「なんだ?」
部屋の拡張工事の最中、サラが何かを見つけたようだった。それはサラの手の中に収まっている
「キュウー」
「えーと…モグラ?」
一瞬ネズミにも見えたけど、よく見ると小さいがモグラだった。あまりこちらに警戒心はなさそう
「かわいいでしょー」
「そいつ、どこで見つけてきたんだ」
「あっちー」
「はぁ…」
そう言ってサラは後ろを指さしたけど、要は作業してたら出てきたんだろうね。サラはそんなモグラを撫でたり、つついたりしている
でもそのモグラ、なんか見覚えがあるような気がするんだよな…
「あ…思い出した。サラ、それ魔物じゃない?」
「そうなのか?ナギサ」
「うん。多分ノールトマールっていうやつだと思う」
「魔物…」
「へぇ〜」
本体の記憶にあった。結構メジャーな魔物で、戦闘力もそんなに高くないから、ダンジョンとかにいると、初心者の練習台とかにされてたはず。この世界にもいたんだ、というか、この森にもいたんだね。土の中にいるから、普段気づかなかった
でもそれはそうとして、おかしいな…
魔物は本能的に人を襲っている。魔物は元々、人類全体の敵として、神によって創られたものだ。それは、世界によって生命だったり、魂を持たない疑似生命だったりという差異はあるけど、文明を揺るがし、世界に常に変動を促すという存在意義そのものは全世界共通だ
だから魔物と聞いて、少し距離を取ったトーベルの反応は正しい
「でも襲われそうな感じはないなぁ…」
「キュウ〜」
「え?」
「ありゃ」
そのモグラが私の手に乗ってきた。そしてスリスリと頬を擦り付けてくる…かわいい
思わず撫でてしまったが、モグラは嫌がることもなく「キュウキュウ」と鳴いている
大きさからして、まだ生まれたばかりの個体な気がするな。そのせいで人間への敵意が薄いのかな?それとも私が厳密には人間ではないことを見抜いたか……いや、ないな。さっきサラとトーベルが触っても普通にしてたし。まあ、こちらに危害がないなら何でもいっか
「いいな〜懐かれてる」
「ナギサのことが気に入ったのか?」
「さあ…」
あ、もしくは魔物だから私が発する魔力を感じ取ったのかも。私は二人より魔力が多いから、それもあるかもしれない
「ところで、この子どうする?」
「はい!うちで飼う!あたっ…」
「なに言ってんバカ。魔物だって言ってただろ、危ないかもしれないのに、母ちゃんたちがいいって言ってくれるわけないだろ」
「こんなにかわいいのに…」
「だからって言ってもな…」
確かに、この子は魔物だから、いずれ私たちを攻撃するようになる可能性もある
……でも、それ以上に私の庇護欲が湧いてきちゃったんだよね…。いまになって手放したくなくなってしまった。うーん…何かいい案はないだろうか…
「あ、それじゃあここで飼うのはどう?」
「ここで?ひみつ基地でか?」
「そうすれば他の人に見られないし」
「それだ!みんなでここで飼おう!ありがとうナギサ」
「あ、うん。どういたしまして…」
ちょっ、顔近づけすぎ…
「おい、ほんとに大丈夫だよな」
「多分」
「じゃあ、この子のなまえ何にする?マール?」
「そのまんますぎだろ。ノートルはどうだ。悪くないだろ」
「トーベルもそのまんまじゃん!」
「そんなことないだろ、カッコよくないか?」
「ぜんぜーん」
「キュー」
…トーベルさ…ノールトマールのノールトの順番を変えただけだし、自分の名前に寄せてるよね。明らかにトーベルとノートルの響きが似てる
そんなこんなで一悶着あり…結局名前は二人の意見の間を取って『ノール』と言うことになった。終始二人の言い合いで、私は意見すら出してないのだけど…君が喜んでるなら私はいいよ…ノール
そんなノールとの出会いを経て、私たちは作業を続けたのだけど…なんとノールも手伝ってくれたので、進みは早かった
赤ちゃんとはいえ、流石はモグラの魔物、ガンガン土を掘っていた。しかもノールは賢くて、ちゃんと私たちの言うことを聞いて、掘らなくていいところは残している。感想としては…かわいいなぁ…。一生懸命掘ってるのかわいい
ナギサ達はその後、昼食を挟んで北の基地の拡張工事も進めた。因みに構図はどの基地も同じだ。ノールの存在もあって、工事は順調に進み、今日だけで北の基地の拡張工事も完了した。残りは東だけである
「……そろそろ帰る時間かな」
「…ん?ああ、そうかもな。帰るか…」
「わかったー、ばいばーい」
「相変わらずはやい…」
サラって、帰る時も異常に行動が速いんだよね…というか、今まで一緒にいた感じ、切り替えが速いってことな気もする
一足先に地上に戻ったサラを追って、私たちも坂になっているところを登って穴から地上に出た
「もういないし…」
ここ山側で、森の結構深いところなんだけど…まあいつものことか
「じゃあな」
「あ、うん。じゃあ」
トーベルも、そんな別れの言葉を残してさっさと歩いて行った。その背中が見えなくなったところで、私は基地に戻っていった。私は走って帰るから、もう少し遅くまで作業ができるんだ。今日のうちに東もやっちゃおう、二人がいないから魔術ですぐに終わる
そう考えて、私は身体強化系の中でも効率がいい『マナーストリクト』を発動し、狭い地下通路を走った。……この通路、もうちょっと広くしたいなぁ…なんて考えたが、今日の作業で既に魔力の3割を消費しているので、ボーダーラインの4割を見据えてそれはまた今度にした。帰り道に何かが起こるかもしれないしね。いざと言うときに備えるのは重要だ
私の日常の一コマ、ここ最近ではよく見る、何の変哲もない風景だ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます