第40話 鬼畜生め
今日はこのところより少し暑い気がするな…。ここの暦は知らないけど、そろそろ夏が近いかもしれない
「ふっ…ふっ…」
いまの時刻は朝の8時(たぶん)
今日も朝食も取って早々に外出したんだけど…ところでいま何をしてるか分かる?
正解は、エーテルに流れる魔力量を2:5で制限しながら全身運動で負荷を…
つまるところ体力トレーニングだ。現在村の周りを大きく回る経路で走っている。そして重要なのは、エーテル体の活動に必須な魔力の最低ラインしか供給していない省エネモードだってこと
これはエーテルの補助を最小限にするための措置だ。でないと『素』の身体能力を鍛えているとは言えないと思ったから
「はっ……思ったより、きついな…」
普段は自分が思っているよりエーテルの特性…魔力による活性に頼っていたみたいだ。見たところ、私は素の身体能力値も普通の子供よりは高いみたいだけど、飛び抜けて高い訳ではなかった。だから活性状態でないと92.7㎞/hなんて出せない
ちなみに、92.7㎞/hっていうのは、トレーニングを始める前に『ウォッチャー』という何かを計測するための魔術を使って調べた結果分かった、私がいま出せる最高瞬間時速だ
「理想、よりも…大分低かった…から、がんば、らないとな…はぁ…」
これが発覚したときは、それなりにショックだった。こういうひとり言が出ちゃうくらいには
超活性エーテルの固有能力『超活性』…要は『活性』上位互換…の状態になってもこの程度だ。いまの私は弱すぎる。別に強くなってどうこうということはないけど、自分を、そして周りを、どこから出るかもわからない脅威から守るためには力が要る
…昨今の狼騒ぎは反省している。ちゃんと振り切ったか確認せずに2人のところに戻って、そのせいで怖い思いをさせてしまった。しかも弱体化は分かっていたといえど、本当にあの程度の魔物で傷を負うほどとは思わなかった
走る速度が段々と落ちてきた。そろそろ限界が近いか…
『超活性』を使えば今でもそれなりに強い。でもそれにも相応の魔力を消費するため、用途はあくまでも瞬間的な超強化だ。『魔力生成』があるって思ってた?『魔力生成』での回復速度は通常と比べたら何十倍も早いけど、それでも数分で回復する…とかいう訳じゃない。ある程度の効果が現れるには、最低でも数時間はかかる。いざというときにあてにはできない
その上、脅威のなかでも特に魔物は無茶苦茶なやつが多い。力、速さ、硬さとか、あくまで一般的な基準でだけど、人ではどうしようもないスペック差があるときもざらだ。この世界だとどうかは知らないけど、多分そういうのもいるだろう。だから、そいつらにも渡り合えるようになりたいんだけど…いまは理想値の半分にも達していないそして、そういう場面で『超活性』に頼り切りのようじゃ話にならないということだ
「はぁ…ふぅ…は〜…」
疲れた…。まだ走り始めて25分しか経ってないのに……道のりは遠いな
そろそろ速度が落ちてきて視界もぼやけてきたので、若干おぼつかない足取りで近くの木の下まで行き、一度休憩を取ることにした。呼吸を整えて魔術で生み出した水で水分補給…
「ぷはぁっ…もう足が重い…」
素は全然ダメだな…私
その木の下まだ上がってる呼吸を落ち着かせて、攣ったりしないように、足を伸ばしたりしてた。はっきりしてないけど本体の性格上、多分普通の人に起こることは、私でも起こると思うだろうから。攣るとすごい痛いらしいね。狼にやられた時なんかに思ったけど、やっぱり痛い思いはあんまりしたくないものだ
「……ふぅ」
しばらく座ってたら周りを見る余裕もでてきた。よく見たらこの木、お姉ちゃんも薬草採取の帰りにこうやって座って考え事してた木だ。そういえば薬草採取も行っておきたいな、知識はあって困ることはないし
そんな知識とは違って、力は一朝一夕では身に付かない。それは分かってるから、肉体の鍛錬も魔力訓練と並行して続けようと思ってはいるけど…それにしても自分は思っていたより弱い。まだ子供なのに焦り過ぎなのかな…でも自分の身を守る力は最低限必要なものだと思う
「まあ…想定してる敵があまりにも強すぎるってのも問題か…」
そのせいで余計に気が急いて…仕方ないんだよ。あくまでも私が知ってるのは、本体から継承した知識だけなんだもん。そのせいで、ある程度以上強いやつしか印象に残ってない
国を(物理的に)飲み込んだ大怪獣とか、不死みたいにしぶとい魔力生命体とか…ほんと何回思い出してもろくなものがない。そういうのじゃなくても、どれを取ったところで今の私が出会ったら即死するレベルだ
それはさておき。継続は力なりなんてあったし、これから普段意識して省エネモードを保って生活しようかな。よくよく考えれば、省エネでも生活に支障は一切ないし、もしかしたら体力づくりにも一役買ってくれるかも
「ランニングはもういいか…次はどうしよう、筋トレでもしようかな。……あれ?」
いやガッツリ長距離走しといて今更だけど、体力づくりとか言っといてあれだけど、ふと思ってしまった
……私の身体って成長するのか?
いやいや。何言ってるのって、ゆうて私の場合かなり怪しいぞ…つまるところ、こういう物理的なトレーニングでエーテルって強化されるのか…?
記憶には…思い出せないな
それに関する情報が思い出せればそれで済むのに…こういう時に役に立たない本体の
……………まあ、一旦保留ってことにしとこう。いま、こうやってトレーニングして、何か損する訳でもない…うん
“ということで、一度不穏な動きがあったものの、ナギサは腕、足腰、体幹などなど…を鍛え始めた。…が、絵面があまりにも地味で代り映えないため言及は無し…ご想像にお任せする”
◇
「ふぅ…」
本日二度目の休憩中。さっきからランニングに筋トレと、ずっと地味な訓練が続いてる。いや、体力と筋力の増強が目的だから、当たり前というか仕方ないんだけどさ
「さてと、昼までもう少し時間もあるし…何か…あとは瞬発力とかいいかな。…反復横跳びでもするか…?」
まだそこまで重要でもないけど、いつでも瞬時に動けるようにという意味では瞬発力は大事。だけど、いまいち何すればいいのか分からない項目でもある
元々総合的に鍛えるつもりだったけど、この項目どうしよっか…
『じゃあ手伝ってあげるよ』
「!」
その声は…
「
『何か君、私に対しての当たりが強くなってるよね』
昨日の落とし穴、忘れてないからね!あとお姉ちゃんへの仕打ちも
『いやさ、ああいうスリルもあった方が面白いじゃん?主に私が』
「やめてよ!昨日の夜は仰向けで寝れなかったんだから!」
「ぷっ…あはは!もちろん観てたよ、君には悪いけど、痛がってる君は観ててすごい滑稽だったよ」
「悪魔!」
『まあ精神の修行とでも思っておきなよ。それより、私は今、協力してあげようとして出てきたんだけれど』
出来るかそんなの!それに出てきたと言っても、声だけだし。ちなみに『念話』にも近い、連絡術式だ。それにしても協力か…。あんまり良い予感はしない…
ただねー……んー……ただ、本体はなんやかんやで有言実行だからなぁ。今ちょうど、他に何するか思いつかなくなってたところだから、ここは試してみてもいいかな…?なんて…
「………それじゃあ一応話だけで、もぉっ…!」
攻撃…!?
正面から魔力弾が飛来した
『些事は省くよ。君は避けるだけでいい、早速本番だよ』
「は!?いっ…!」
なにこれ!?
正面からの一発を皮切りに、四方八方あらゆる方向から、魔力弾が私に向かって高速で飛来してくる
私は一発目を、体を反らして避けたため、次発は魔力を纏わせた手ではじいて、その場から距離を取った。しかし魔力弾はそんな私を追跡してくる
「どういうっ、つもり…!」
しつこいっ…!
私は猛攻をなんとか捌きながら本体に訊いた
『え?何って、トレーニングだよ。それと悪いけど、君の魔力を使わせてもらってるよ。私が直接その世界に干渉することは許されていないからね。大丈夫、最小限に抑えてるよ』
何が大丈夫って…!そんなことはどうでもいいの…!魔力弾って、素の人間に当たったら、その部分吹っ飛ぶぐらいの威力はあるけど……やばっ、ふぅっ!
顔の目の前を魔力弾が通る。危なかった…顔も遠慮なく狙いやがって…。
…………これいつまで続くの?さっきまで運動してたから結構きつい…
『安心していいよ、当たってもちょっと痛いだけで、怪我はしないからさ。それと魔力残量がをある程度を切ったら止めるよ。だからそれまで頑張ってね』
嘘でょ…今日は省エネだったから、体は疲れてるけど魔力はまだ9割以上残ってるんだけど…。誰かこの地獄絵図から私を助けて…
『逃さないよー』
攻撃の手は全く緩まず、死角からも狙ってくる。一応トレーニングってことだから『超活性』も使わずに、魔力を手に纏わせるだけにしてるけど…これでもついていけてるってことは手加減してるんだろうな
その時、真横から鋭い一撃が…
「!……かはっ…」
『集中だよ集中♪』
あいつ、顔にも容赦なく当てやがった。感覚からして中身が詰まってない弾だったみたいだから、確かに吹っ飛ぶとかはなかったけど…それでもまあまあ痛い。例えるなら、硬めのボールに当たったくらい…痛い思いはしたくないって数十分前に考えたばっかなのに…!
しかしそれを声に出す余裕はない。私が避けれているからか、本体が変則的な動きも加えてきたからだ。今も、カーブするようにして思わぬ方向から飛んできた攻撃が太ももに当たった
『強くなりたいんでしょ。その程度の痛みはあって当然、我慢しないと。それよりも、目が慣れてきたみたいだから更に増やすよ』
「ちょおっ!」
やめろ!バカ!!
それまでテニスボール大だった弾の中に、たまにバスケットボール大のものも混じって来るように。弾くのは難しそうなため、念のために大きく避ける
しかしそれが罠だったようで、避けた先に集中砲火が
「ほんと質悪いっ!」
『実戦的でしょ』
何発か浴びながらも強引に突破した。そこからはそれまでと同じだが、緩急もついてるため、それまでより格段に避けづらい被弾も増えてきた
『ほい、これはどう?』
「!?」
でかっ!!
現れた魔力弾、その大きさ2m級。いまの私の身長の3倍近い。これは食らいたくない
「はあ!」
私は上に跳んでそれを避けたが、すぐに後悔した
(しまった…!)
空中は身動きが出来ない…!
『そうだよ。油断したね?』
予想通り、再度集中砲火がくるが、今度は避けることはできない
「ぐぅぅっ…!」
私は全弾を身体で受けて、地面に投げ出された。出来るだけ体を丸めて当たる面積を減らしたが、急所を外すぐらいの効果しかない
弾は全て命中し、私は地面に投げ出された
「はぁ…はぁ…」
『情けないなぁ』
うるさいなぁ…全身が痛い…。あざとかできてないかな…
『うーん、戦闘勘が鈍ってるね。やっぱり経験を継承するのは難しいか』
それどころじゃないよ……痛すぎて全然動けないんだけど…
『あざも出来てるけど、まあ治浄魔術も使えるし、大丈夫でしょ。もう動けなさそうだし、続きはまた今度ね』
「今度とか…別にいいから…」
『またねー』
連絡がそこで途切れた。…私もう怖いよ
突如始まった弾幕バトル(一方通行)のトラウマを植え付けられたところで、治浄魔術で打ち身やらあざやらを治して立ち上がった。今日はもう帰りたい…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「私としては、この期間は退屈なんだよね。強くなるのは大事だけど、はたから見れば地味じゃない?だからあんなゲームでもやってみたんだけども」
理不尽な理由である。確かに効果はあるのかもしれないが、自分に言わせればただの鬼畜だ
……正直、あまり面白い絵面ではないことは、否定できないが…
「でも書くのかい?」
それが自分の方針だ
「そっか」
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