第37話 人たち

…?なんだこの感覚


「ん?なにしてるんだ」


「いや…何でも…」


 誰かいる?…周りを見ても、トーベルとサラ以外に誰もいない。第一、ここ地下だし。…まあいっか


 とにかく。この二人の手掘り計画のせいで初っ端から若干こけた感じがあるけど、逆に、ここから色々な広げ様があると考えれば悪くない。本当は止めたほうがいいんだろうけど、どうせ止まらなそうだし…なんなら私が知った時点で、途中まで進んでたし。なにより私のパッションに火がついちゃったので、このまま進めることにした


 それにしてもホント…トーベルとサラの、計画というのにとんでもなく無計画なところが意図せず判明してしまった。あれ?計画とは言ってなかったっけ。まあどうでもいいよ

 

 さて、私が協力するからには本気マジのモノを造ろうと思う。そうだよ、トーベルも言ったよね、「作るならでっかく」って。

 そのためなら魔術の使用も辞さない。勿論こっそりとではあるけど…あ~言いたいなぁ…二人にも魔術の事もう伝えちゃいたい、そすれば思いっきり、遠慮なしで使えるのに…。でも、フラネたちと話して、この二人はまだうっかり口を滑らしそうってことだから言わない方針は3人で決めたんだし、そこは守らないと

 それはそうとして、自分たちで創り上げる、可能性に溢れ秘匿された地下世界…やる気出てきた。用途も、後から考えれば色々あるだろうしね。そこは後回しで大丈夫


「よし、やるよ」


「なに言ってんだ。もうやってるだろ」


「……」

…ただの独り言だっての


 その言葉通りに、私たちはすでに地下道を掘り進めている。全員が終始無言だったから私の声も響いたのだろう


 実は、既に全員に、こっそり『体力増強』を使ってスタミナを強化しているため、この1時間ほど休みなく作業を続けていられる…のだけど…特にサラが色々と凄い。渡した道具をすぐに使いこなして、常に最小限の動きでひたすら土壁を切り崩してる。しかも無なんだ

 何言ってるか分かんないでしょ?ホントなんだよ。今の今までずっと、なんの感情もなく機械的に動き続けてる。瞬きすらしているか怪しい。この上なく効率的。けど、けどね…隣で作業してて普通に怖いんだよね…


「……」


 試しに視線を送ってみても反応が全然帰って来ない。ていうかこうやって凝視してたらさ、突然ホラー映画みたいにグルンッ、ってこっち見ないよね。想像するとあれ、地味に怖い…視線を送るのはやめた

 出発前のあの凄まじい勢いとか、謎の「ナウー」は何だったの?…本当に何なのか聞くべきかもしれない…あだ名なのは分かるけどさ


 ちなみに現在地はというと。ここ東の基地から、既に造設済みという山側の基地までの地下道で、工程の6分のⅠくらいの場所。魔術で確認したところ、今いるのは地上から3m程の場所のようだ。これくらいならまあ…魔術で強化すれば、何かの重みで地面が崩落、なんてことにはならないかなぁ。あ、ちょっと進んでる。ではでは『平均』アンド『堅化』


 『平均』で周りの壁と床を均して、『堅化』で固める。掘ったことで出た余分な土を堅化に使うという作業を、私は裏で魔術でやっている。壁と天井は思いっきり固めたけど、床は歩きやすいように土本来のやわらかさをある程度残した。因みにこの作業は二人にはまだバレていない。まあ…後ろを見れば、熊手もどきでガリガリやってるだけにしては、天井壁床があまりにも不自然な程きれいに仕上がってるんだけどね…


「……ふぅー…。そろそろ休憩するか…」


「はーい!」


「うおっ」「っ…⁉」


 トーベルの言葉への、サラの驚くべき反応速度


「いきなり大声を出すな」


「お昼~♪」


「はぁー…」


 無いはずなのに、なんだか心臓がバクバクしたよ…


 そうして途中昼食をはさみながらも、1日中穴掘りを続けたのだった……はて…ところで私、最初は身体を鍛えるって言って来たんだよね。…まあ、いいか。この作業も多少は効果あるだろう







「ただいまー…」


「おかえりなさい。先に手を洗ってね」


「うん」


 ようやく終わったー…今日の分が。結構重労働だった…腕と足腰が軽く筋肉痛になった。しかもいくら基央きおうの土魔術と補助魔術とはいえ私の低燃費も相まって、定期的に使い続けてたからそっちの消耗もまあまあ


 村に戻った時には思ったより遅い時間になっていて、ちょうどドーマンさんが帰るところだったので、一言挨拶しておいた


 私は家の裏手の井戸で手を洗い、ついでに服と身体に付いた土も軽くはたいて落とした。その過程で、ちょこっとだけ『清浄』を使ったから、既に体に目立った汚れは無くなってる。


 今日だけで大体3分のⅠくらいの工程が完了した。掘り進めた距離は実に1キロを超える

 …なんだ案外微妙とか思ってるならさ、考えてもみてよ。補助ドーピング有りとは言え人力で掘り進めたんだよ。じゃあ…約1000mに言い換えたら長く感じる?

 まあそれはそうとして。魔術で均したから、地下道は人力とはキレイな長方形をしていた。パッと見た感じでは僅かな歪みもない…いまの状態でも、さすがは私の制御力だ。色んな魔術を研究し尽くした本体の経験が活きてるね…いや、経験というよりは知識か。


 そのおかげで、小手先の技術の知識が結構多いから、基礎がまだ盤石でなくとも多少のリカバリーがきく。

 といっても、いづれは正しい技法を身に着けないといつか突然崩壊…ていう事態にもなり得るから、その辺を板に付けたいとゆうのが現時点の急務


「そういえば、本体は何のために土魔術なんて研究してたっけな…」


 その時、真下の地面に穴が空いた


「え?うわあぁぁ…!」


 なに、何事!?落ちてる!


「う…!」

 完全に油断してたから、受け身もとれずまともに尻から着地してしまった


「いったぁ…」


 強い衝撃が全身に響いてくる…それより一体何事?ここは…ん?

少し涙目の私の横に、土の文字が浮かび上がった


『面白いでしょ』


……?……そういうことか、性悪。悪口言ってなかったのに!イタタ…勘弁してよ…しかも絶対違うでしょその理由

 いや、あいつのことだからそんなふざけた理由も多少は含まれてるのかもしれないけれど…流石にそれだけじゃないはずだ。本当のことを教えるつもりは無い、ってことか…それはそうと、どこまでも人をおもちゃのように扱って…


 しかもこの穴、結構深いんだけど。普通の人ならさっきの尻もちで骨折してるよ絶対さぁ。…骨折はしなかったけど痛かった…ほんと。未だに立ち上がれない…怪我じゃないから治浄魔術でも治せないのもまた質が悪い


「よく考えたら、人ん家の庭にこんな大穴空けて…」

 まだあった物的被害


「私が直すしかないじゃんか…疲れてるのにぃ…」


 まず出ないとだし。イライラするなほんと、一発ぶん殴ってやりたい


「…ふぎゃっ!……なんで二重底ぉ…」


 文字通り底がスポーンと抜けて、さらに3mくらい落とされた。というか、さっきも打ったばしょぉ…⁠(⁠;⁠´⁠∩⁠`⁠;⁠)


 完全に涙目になりながら、静かに悶絶すること10分程。未だに治らないお尻の痛みを我慢しながら、やっとのことで上まで這い上がって、残り少ない魔力を出来るだけ温存しつつ穴を埋めた

 もういやだ…


 また落とされたら今度こそ私のお尻が潰れてしまうので、できるだけ急いで…でもヨボヨボの足取りで…部屋まで戻った



 散々な目に遭わされたけど、何とか軽傷で帰還できて一安心…いやまだ痛いけどさ


「ただいま…」


「………ん…?ナギサ…?」


 寝てたのかな。変な体勢だけど。私の声で起こしてしまったようで、のっそりと起き上がってきた

 起こしたなら、悪いことしたかな。でもそれはそれとして、まだ痛い…


「うん…帰ったよ」


 あれ…


「そう、おかえり」


 目元が赤い。心なしか調子もあまり良くなさそうに見える


「…おねーちゃん」


「……どうしたの」

 いやいや、こっちがそれを聞きたい


「何もないよ。それよりおねーちゃんは何があったの…?元気無いよ」


「…何の話?それより、もう夜ごはん?なら行かないとね…」


「待っておねーちゃん。絶対何かあった」


 本当は聞くまでも無かったはずだけれど…しかも誤魔化そうとするならば、率直に追求するしかない。絶対涙の痕だ。それによく見みたら、ベッドにうっすらだけど小さくシミが残っている


「1時間は経ったと思うんだけどな…」


 顔とベッドを交互に見る私を見てか、おねーちゃんは諦め顔で目元を擦って言い訳じみた事をこぼした。

 ついに白状したな。とにかく話を聞かせてほしい


「私がいない間に、何がどうしてこういう事になったの?」


「…ナギサには関係ないよ。それより夕飯いこ…」


「まだ時間じゃないよ」


「……」


「そんなので納得できる訳が無いじゃん」


 服の裾を引っ張って逃げられないようにしたら観念したのか、ボソボソと話し始めた。


「…ふと前世の親友を思い出してさ、ちょっと感傷的になっただけ」


「それだけ?」


「信用ないの…?ほんとだよ、突然死んじゃったからお別れも言えてないなーって…ちょっとだけ心残りでさ」


「じゃあ信じる」


「『じゃあ』って…まったく」


 そんな呆れ顔しなくとも、最初から信じてたよ。…けど、あんな沈んだ顔一瞬でも見ちゃったら心配じゃん。事が深刻じゃなくてホッとした…


「でも、前世に未練があったんだ」


「そりゃあねぇ…余程じゃなきゃ、生きてるうちは親しい友達の一人くらい出来るよ」


 それについてはその通りだ。もっと言えば親友や人に限らず大事にしていた物なんかでも懐旧の念を駆り立てるには十分…もっとも、多分それらを数えてたら枚挙にいとまがなくなるだろうけど。…けど『人』の記憶っていうのはしばしば残りやすい


「その親友の名前って?どれくらいの付き合いだったの?」


「え、知りたいの?」


「せっかくだし」


 無くなるものでもなし、…あ、いや、これは縁起が悪かったかもしれない…そういえば転生してもう会えないんだもんね…。

 前言は一旦撤回して…せっかくの機会だから、おねーちゃんの親友だったって人の話、少なからず興味ある。


「まあいいか…九条くじょう まいだよ。小学校から一緒に遊んでて…高校まで一緒で大学は流石に別れちゃったんだけど、その後もよく連絡取り合ってたな」


「へえー…」

 確か…小学校・中学校・高校・大学の順に進むんだっけ?


「性格はわたしとはちょっと違うんだけど、でも普通に素直で良い子だった…」


 最後、もう一度昔を思い出して言葉後ことばじりが弱くなっていた。けど、今度の顔には曇った様子は無かった。


「…そっかぁ。泣いてた時は、本体に酷いいたずらでもされたのかと思ったけど…そんなことなくて安心した」


「泣いてないよ…ないない。わたしも心配かけてごめんね」


「ううん。でも次何かあったら絶対言ってね、そしたら助けるからっ!」


「そんな、妙なとこで律儀じゃなくていいのになぁ…。

(とはいえ…わたしも抜けてたな。この世界にも大切な人はいる…か)…ありがとね」


 頭の上に温かい重みが乗った。


「?」


「…ん?別に何もないよ」


「…?」


 そうして、この事については一段落ついたらしいものの、夜ご飯まではまだ少し時間があった。


「おねーちゃんは、どうして転生を受け入れたの?」


「えぇ…?夢があるから…とか?」


 夢?…転生のどこにそんなものを見出したんだろう


「よくそんなんで転生したね」


「いや言い方がさ…。でもそうかなぁ…転生したいって、割とそんな感じかと思ってた」


「真剣に言ってるなら、正気を疑うレベルだけど」


「いやまあ生活とか考えればそうだけどさ…流石に言い過ぎじゃない?」


「ううん」


「…そう」


 現実的な事言って、落ち込ませてごめん…ても浅いよ、そんな表面的な問題なんかじゃない


「『転生』は生きる世界を変えるって意味合いも持つから、『転世』って書き方もあるんだよ。則ち元の輪廻を外れるってことで、その世界の全ての繋がりを断つという事。それのどこに夢なんてものがあるの」


「さあ…」


「だとしたら、『生まれ変わっても君を愛す』みたいな、あれの根源は何なの…」


「あー、あぁー…」


 規模が壮大すぎてイマイチ掴めていないようだけれど、これなら少し分かりやすかったかな?

 転生者たちは、なんだかんだ言っても前世、元の世界への情を捨て切れていない人が多かったけれど


「…おねーちゃんは、前の世界に未練はある?」


「そりゃあね…やりたい事もあったし、友人も、親も生きてたから」


「なら尚更どうして?転生は拒否も出来る。普通にその世界の輪廻を廻れば、記憶は消えるけど、やりたかった事に挑戦する機会も訪れたはずだよ」


「んー……」


…急にそう言われたところで、この世界に来た確信なんて、すぐに持てるもんではないのも確かだけどね。うーん…これは質問が意地悪だったなぁ…


 ところで今思えば、転生者たちがその世界に残した名残も、その心が現れているのかもしれない。あの人たちが歩んだ人生にも、それぞれ複雑な因果が存在していただろう。それらと縁を切ってまで来たくなるものなのかな、異世界は…と、私は純粋に疑問に思ってしまう。


「…でもさ、こっちに来ないと出来なかった経験もあると思うよ」


 ん?あのちょっと意地悪な質問で、何か思いついたの?


「それは、例えば?」


「そうね…以前、こんな田舎暮らしはしたことないよ」


「でも、そこは便利な都会の方がいいんじゃない?」


「それはそうだけど。でもこういうのは、経験しておくことが大事でしょ?」


「…うん」


「そして人」


「人?」


「転生しなかったら、この村の人とも出会ってなかったし、ナギサとも会ってなかったでしょ?」


「…まあ、たぶん」


 私が地球にいたあのタイミングで、スレイストスがおねーちゃんを選ばなかったら、私はそのまま別の場所に行ってただろう


「さらに言えば、まあ…あれだけど…神とも知り合ったし、ついでに魔法とかいう概念も知った。ね、こっちでしか出来なかった事って結構あったでしょ?」


「そう…だね…」


「だから未練はあっても、今さら後悔なんか意味も無いし、しないよ」

 

「…そっかぁ」


 おねーちゃん自身が良いならまあ、それが一番だけどさ。それと出来ることなら……いつか叶えてあげたいとも思う、その未練とかいうのも

 特殊な魔術がある。『ディメンズ・トリップ』、魔力と制御力が最盛期創造当時の3割…いや3.5割も戻れば、何とか使えるようになるはず


「ところで、ナギサは今日どうだったの?今日は珍しく一人で外出なんて」


「あー…それはね、身体を鍛えようと思って」


「身体を鍛える?」


「うんほら、私は攻撃魔術が使えないから、物理に頼るしかないでしょ?あの魔力操作の応用も、ある程度以上の相手には効果が薄いから」


「それはいいけどさ、一体何と戦うのを想定してるの…」


 それはほら、アルメゴアリアーとか…(※人型の魔鉱石でできた人形のような魔物である)


「備えあれば憂いなし、だから」


「ナギサが想像する強敵っていうだけで嫌だわ。再三言うけど、あんまり危ない事はしちゃ駄目だからね」


「まあ、善処する」


「そこは、うんって言ってよ…」


 新しい目標も増えたことでやることが既に山盛りだ。しばらく忙しくなるかな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る