◇分岐した過去

 今朝、ナギサの抱き枕にされた状態で起きて、朝の支度をして、朝食を食べるまではいつも通りだった

 しかしその後、ナギサが一人で外出してしまった。どこに行くのか、何しに行くのか聞いてもいわく「おねーちゃんにはあまり関係ないことだから」だそうで…


 正直意外である。いままで、何やかんやわたしから離れようとはしなかったから…もう姉離れ?早いなぁ…

 なんて冗談はさておき。そうして置いて行かれたおわたしちゃんは今、手持ち無沙汰に部屋の中でただぼーっと窓の外を見つめている…どこ行ったんだろうなぁ…ナギサ…


 はっ、いかん。これではわたしが寂しいみたいになってしまう。いや、みんなも気になるよね?ナギサが誰と何処に何しに行ったか。誰かー、知っている方はおられませんかー…………いないだろうな



 その答えは知っているが、現実世界に対して一切の干渉権を持たないためフィーネに話しかけることはできない。まことに遺憾だ



「認めるしかないのか…」


 何を認めるのであろうか


「それにしても、まだ1週間か…」


 1週間だっけ?…2?2だっけ…わたし時間にはアバウトだからいまいち思い出せない。でも取り敢えず、前世千秋の記憶が目ざめて、さらに言えばナギサが現れてから、まだちょっとしか経っていないのか

……そう考えると、長い2週間だったな…


 前世を思い出して早々、村の外でたかがネズミ(魔物とはいえ)相手に怯えて死ぬ思いをして、危うくゴブリンに(ある意味でも)殺されかけ…なんか、神の子供みたいなのが妹になって熊に襲われたと思ったら同年代フラネとわたし自身が魔法の資質に目覚めて…経った時間の割に色々ありすぎなんだよ。超濃いめじゃん

 てかなんでこんな説明口調で喋ってんのわたし。…まあいいか


 たかが2週間やぞ?しかも肉体年齢を考えた場合、なおさら異常だ。…もしかするとこういうイベントは転生者の背負った宿命なのかもしれないな…とか、もはや思い始めてるよ

 ラノベで主人公たちに連続でハプニングが起こりまくってさ、(⁠ノ⁠`⁠Д⁠´⁠)⁠ノ⁠とか(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)とかしてる最中さなか、『対処できるんだし、別にええやろ。それより厄災級でも降ってこいやー』とか適当言ってました。非常に申し訳ない…分かる、平和が一番だよな、面倒な事したくないよな、うんうん…魔物は怖いしな、悪かったよ。これだけは言おう、あんたらは正しい(?)


…もうやめよ、こんなしょうもない思考。バカになりそう…で、さっきまで何してたっけな。…何もしてなかったのか。駄目だ、もう阿保らしくなっとる


 ええい、やることがないのが悪いんだ!…魔力訓練でもしよう。そんで寝よう


 そんなこんなで、宣言通りマジで毎日ナギサにやらされた結果、最近ではすっかり日課のようになってしまった魔力訓練(魔力操作訓練の略)を始めることにした。この数日で、これも大分慣れたもんだな。一昨日、初めて顕化に成功して、外界への魔力の放出とやらが出来るようになった。という感じで魔力操作のレベルも順調に上がりつつある。これは近いうちに、簡単な魔法くらいなら使えるようになるかもという期待がアリ






 それから2時間。フィーネは無心で操作と放出を繰り返した。しかし因果応報というべきかはたまた…。フィーネは魔力枯渇手前まで消耗して、…宣言通りベッドに寝伏すことになった



「…ぁー……」


 やり過ぎた。もうこれ以上声も出せないし、動く気力も全然出てこない。お昼ご飯は食べ終わった後だったのが幸いか…お母さんに心配されないで済むな


 にしてもやっぱり馬鹿なのかな、わたし。あんな勢いで出しまくってたら、こうなるに決まってるじゃん…。ほんとにぶっ倒れるつもりはなかったのに………

 いや、これは有言実行ってことだな、そう考えれば…うん、わたし偉い!…んな訳あるか!あっ………もう限界…



 ついに、心身共にベッドに沈み込んでしまった



「……ぁ…」


 たすけて…熊の件で同じようなことになった時はナギサが食事の補助もしてくれたな…ああ、もう。今日は1日中どことなく寂しい。何かが足りないような感じがする

 ナギサと過ごした時間は、この1週間と少し。それまでは…前世も含めて姉妹なんていなかったから、一人には慣れてるはずなんだけどな…


……いや…いたか、一人。姉妹ではないけど、姉妹のように接してきた親友が。まい…九條くじょう まい


 小学校で出会って以来、中学、高校とずっと一緒だった。流石に大学は別だったけど連絡は取り合ってた。たしか、短大の観光学部みたいのに入ったって言ってた気がする。あんま詳しくは覚えてない


 思い出した、事故にあった日、あれの次の日は芽と5か月ぶりくらいに会う予定だった。駅前から少し離れた所にあって、中学の時「なんか隠れ家みたいな雰囲気あるー」って言いながら入って以来よく通うようになったカフェで…懐かしいな…でも、事故に遭っちゃったからな…


 芽だけじゃない、前世は両親も生きていた。………わたしが死んだとき、みんな泣いてくれたかなあ…なんて自分勝手な――あれ…

 何か、液体が頬を伝う感触がする。だけど、動けない今はそれを拭うことができない



 涙と言わないのは、フィーネの最後の意地なのだろうか。顔は既にぐちゃぐちゃで、傍からするとひどい有様になっているが、本人はまだ、それに気付く余裕すら無さそうだ



 前世で、わたしは自分の大切な人たちに何もしなかった、してあげられなかった

 なのに突然会えなくなって…小さい頃散々泣いて困らせておいて、孝行も少しもできずにごめんなさい…お父さん、お母さん。…それに芽も……最期に約束の一つも守れなくて…ゃば…これ以上は何も出てこない…


 いつの間にかすぐそばに来ていたその感情を、一度受け入れたら止まらなくなってしまった。ちゃんと謝らないと…感情がごちゃまぜで自分がいま何を考えてるのかわからない

 同時に学校の入学式、卒業式、多くはないながらいた友人、そのそれぞれとの思い出が止めどなく溢れ出てきた。その全てに心が宿ったみたいで…。今なら、通学の度に通りがかっていた公園、そこの2本しかなかった桜の木にさえ悲しいと思ってしまう


 前世において、夢らしいものはなかった。そんな大層なものなくて、進路なんて本当にただ生きることしか目標にないプログラムのような道が待っていたかもしれない、薄っぺらいものだった

 それでも…この転生は、果たして本当にわたしの運命を良いものにしたのだろうか



…運命などといった決められたものは無い。結局は全て、自分が創り上げた因果の結果でしかない。しかもそれは容易に変化しうる、不安定な産物だ。そんなものに受け身でいるのはとても人らしい生とは言えない



…だめだ、今日はどうも調子がでない。この感情がどこから現れたかもわからないな…何の話してたっけ…

 もういいやぁ…このまま身を任せよう。ずっと苦しいのは、余計にいやなものだからな…



 …もう戻らない、受け入れたはずの運命。しかしそれでも…かつての暮らしを名残惜しみ、静かに涙を流した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る