第26話 訳が違う
『じゃ、君は今日からナギサね。人生頑張って』
「(言い方かる…)」
『名前そのままなの?普通『個立』の際に主だった者から、新しい名前をもらうもんだったと思うんだけど…』
『そうね。でも面倒』
ねえ
『メトロンさえ外せばから良いでしょ。他にナギサって名の子も居ないし』
『適当すぎん?』
『それで話を戻すけど』
『名前…』
適当に流された…。でも元主にそう言われると従わざるを得ないんだよなぁ…
「本当なんて奴だ…」
『一応、意味もあるよ』
『なに?』
『教えない』
この野郎。なんなんだ
「大丈夫、ナギサはナギサだから。名前じゃないよ」
おねーちゃん…ありがとう
『
…ちょっとだけ口を出さないことって、出来ないのかな?
『ところでさ、
『…それが?』
「…ごめんナギサ、接露魔力法って?」
「昨日の検証のこと。魔力で自分の能力を調べるってやつ…」
「ああ、それなんだ。そんな名前があったのか…」
『…で、本体。そうだけど…まだ何かあるの』
『ずっと気にしてたよね』
『そりゃそうでしょ。まずは自分から知らないと何も始められないよ』
『問題だ』
『は?』
『…理由を言うよ。あそこに書いてある能力値は平均以下に書き換えた。隠したのは、もし君が私の目的に気付いて、そこら辺で歪みが生じると困るからだね。やっぱりエーテルだから老化はしないけど、その他は人間に限りなく近づけたよ』
『…はい?ちょっと待って?』
いや薄々というか、自覚してたけどね?いつからか知らないけど何か弱くなったなって。まあたしかに隠蔽も本体しかあり得ないよね、というかさっきから全部あり得ないよね。理由も伝わってこないな、詳しくいける? ねえ、本体…?
『…ナギサにもなんかやってたのか』
『もう隠蔽は解いてる。気になるなら後で視るといい』
ああ、うん…本当に何がしたいんだろう、本体は…。人の体勝手にいじくりまわして…
『人聞きが悪いなぁ、…うん、『
『なんでよ。許可も得ないで、弄るのが問題な訳でしょ』
『それが私の目的にも沿ってるんだよ』
『やめて?』
『ナギサ…君、私の分体だったんだけど』
『『…………あ』』
あ…
『私の手足の一つ。本来なら、多少の理不尽も受け入れなければいけない立場なんだけどね』
『……』
やばい。本体は私の上司でも、私はその部下でもないんだ。本体は…私の魂そのもの。……
『…というのは冗談だよ』
『あれ…?』
『それは
「あ……」
「そうか…もう管理下では無いのか」
『鈍くなった?』
『💢』
『おお』
癪に障り放題…ふれあいパークちゃうわ。さっきから上げては落として右に飛んで、なんなんだお前
『壊れた』
『💢💢』
『www』
『&%。/@"#ーー!!?』
「どこで「w」を覚えたんだ…ナギサステイして…」
「ユル@せn!」
「どうどう…」
「馬じゃないよっ!」
「分かってるって、落ち着いて…」
「はー…はー…ぜぇ」なんか疲れた…
『体力も無いと』
「—――!」
『ふふっ念話で話しなよ』
『――…―――!』
『あんたもいい加減にせい!ナギサが燃え尽きるわっ!!』
『はいはい、まだ自分を制す段階から始めないといけないひよっこだからねー』
『—――kag@rl:'5;.lbmlmsmnHGFatg0^7おpいjg-おあぁgh9il hng9ynu90音hb8wmjjgqgmolnwoigh3q89ty3qymjiんうg
「一言一言に対するもはや異常な感度ぉっ!ナギサアアア、ステエエエエエイっ!!!」
◇
…じゃあおねーちゃんの言う通り、これからは勝手な事はしないで』
「ぜえ…ぜえ…」
『了解』
…何をしていたかさっぱり覚えていないけど、おねーちゃん…なんかごめんなさい。何かはしてた気がする
『まあ、ちゃんと君のことも考えた結果だからさ。神の分体、神の一部だなんていう枷があっちゃあ、後々面倒なことになるかもしれない』
『おかげで理解が面倒な事態になってるよ』
『そんなことない。結局のところ、目的はただの暇つぶしから変わってないよ。今後はこの連絡手段は使えないから、そのための術式を送っとく。何か面白そうなことがあったら連絡するよ』
『え…待って。…本体は、本当にこれでいいの?』
……これからも連絡は取るんだ。そこは本体らしいな。いや、そこだけじゃなくてさ
『いいよ。それと、もう本体呼びじゃなくてもいいんだよ。今の君は私の使徒ってことにしたしさ。そっちも好きにしな』
『本体って結構呼びやすかったんだけどなあ』
本体でいいや。私の基であるのは間違ってないし…
『まって、今よく分からない言葉が聞こえた気がするな。使徒?』
あ、ほんと?ごめん聞いてなかった…おねーちゃんが復活した
………あれ?待てよ…厄介ワード…
『落ち着いて。これからも繋がりを維持するための形式上のものだよ』
『それって必要なの?』
『あるある。それに影響もエーテルの機能微上昇くらいしかないから』
『一応そんな影響はあるのか…まあでも、その程度なら…』
『おねーちゃん。こいつはそんな甘い奴じゃないよ』
『は?』
『絶対他に何かあるか、その程度が壊れてるの』
『安心していいよ。常識の範囲内だから』
『……』
これまでにいろいろとやってるから、イマイチ信用できない。そもそもあいつの中の常識は、ネジが一つも付いていない
『それ以前に、おねーちゃんは『使徒』って知らないでしょ』
『…たしかに』
『使徒っていうのは、読み通りその神に仕えるってことだよ。こっちも恩恵は受けられるけど、その代わりに少しの支配を受ける』
『「仕徒」ってことか』
『そう書くこともある』
『そういうものなんだ。なんかよくは分からないけど面倒そう…その称号、いまからでも返上できない?』
『ダメ、許可しない』
『あーあ…こうなっちゃった時点で時すでに遅しなんだ…』
『あ…そう…』
『何もしないって。まったく、私を何だと思ってるの』
『非常識的悪魔』『身勝手の極致』
あ、被った
『確かに、好きに言ってとは発言したけどね?…まあ、君達の邪魔はしないから。それと恩恵について言っとく義務があるんだけど、特にフィーネとフラネールかな?』
『は、はい…!』
『ん』
そういえば、フラネってこの会話中、一度も発言しなかったよね?なんか緊張かでガチガチだし…
『近くの人は協力者として、一部恩恵にあやかれるよ。まあ後で自分で試してみてよ。それと最後に…頑張ってね。じゃあ』
「は?ちょっ…切られた」
「でも…とりあえず終わったな…」
使徒か…向こうからしたら、干渉に入らないのかな…。もういいや…あいつは常識なんてものじゃ収まらん。使徒ってのも前向きに考えるしかない。今後何かに使えるかもしれない
それにしても。本当、本体を知ってると神っていうものにやばいイメージしか湧かなくなる。私はなまじ生まれた時から色んな知識があるから、知らない方が良かったな…っていうこともあるけど、それは特に本体のことと言わざるを得ない
で、さっきの本体の言葉だと、私は好きに生きていいってことだったよね。『個』として独立したってことは、分体として振る舞う必要はない…じゃあもう本体の目的とか考えなくていいのか(⁰▵⁰)
「いやー…なんだったんだあれは」
「…ね」
「怖い…」
「うん。なによりもおぞましい存在だよ」
「マジかぁ」
…どうせ時間もあるし、もう少しのんびりいこうかな…そうは言っても方針が変わるわけでもないけれど。なにせ、ずっとこの村に居続けるのも難しいから
おねーちゃんは特に気にして無さそうだったからさっきも言わなかったけれど、いわゆる不老不死だと、必ず直面する現実だ
まあそれはさておき…目の前に問題が待ち構えてそうな言葉も残したんだよなぁ
「は~~…疲れた…あの感じは
「《しれない》じゃなくて、やばいんだよ。後で今までやってきた所業の数々を話してあげる」
「はぁ…緊張」
「でも、今のうちに慣れておいたほうがいいかも」
本体、また連絡するみたいなこと言ってたから。実際、そのためと思われる術式もさっき送られてきた
「むりぃ…」
「フラネの本気の泣き言…こりゃあ相当だよ」
「そうだったの…?」
フラネは多分初めてだよね、神と接触するのは
「それにしても、おねーちゃんは意外と物怖じしなかったね」
「ん?あー…言われてみれば確かに。でもナギサの本体と考えれば、案外悪いようにも思わなかったよ」
「あんなだけど」
「まあ…うん」
それに、スレイストスと会っていたっていうのもあるかも
「『頑張って』ってなんだ…いや、≪あれ≫のことだからろくな事ではなさそうだけど…」
おねーちゃん、もう≪あれ≫扱いか。一応最高神で、いまは私の上司でもあるんだけども。…まあ私は何も言わないけどね、それに関して
「一旦ここを離れる?」
「…それが良い、と思う」
「私も賛成」
だって、ここにいたら確実に何か起こるってことだもんね?本体の言い様だと。それに…おねーちゃんが心なしか調子が悪そうだし、フラネも同様に見える。何が起こるかは知らないけど、どのみち、ここは一旦村に帰るべきだろう
問題は間に合うかどうか、かなぁ…
「急ごう、何が何だか分からないから」
「そ…」
アオ―――――ン
「あ」
「はぁ~…」
「……っ」
ダメだったねぇ…
声は少し離れている。まだそこそこの距離はあるが…ここは浅場で木々の間が広いため、ある程度遠くまで見通しが利いたから、私の視力も相まって、離れた方に、生物の影が確認できた
私、数百mくらいの範囲内ならくっきり見えるんだよねえ。…人外なのは…そうだからさ。視野も軽く右0゜+147°上方75°下方80°、だったっけな。こういうどうでもいい、多分本体が変更を加えなかった情報は、隠蔽されてなかったから。接露魔力法で既に既知のものだった。ついでに私の目の構造って…あ、やばい、時間無いのにこれ、長くなる気がする
んんっ!…それでまあ、遠吠えの時点で予想というか、答えだったけど…相手は狼だ。背中に縦と横それぞれ赤いラインが入って交差している見た目が印象的だ
「あれって…レッドネッドヴォロフかな?」
「知ってるの…?」
「う…ん」
おそらくは。何となく、記憶の中から引っ張ってこれた。知ってるのよりラインが細い気がするけど、おそらくは同種のはず。狼にしては単独行動の性質が強く、少数のグループで狩りを行う。今回は見た感じ5匹のようだ
にしても、狼かぁ…。よりにもよって面倒な、2人もいるし…ってか、ん…?待てよ
「……」
「……」
おねーちゃんとフラネでも、もう見えてるかな。すでに顔を青くして黙り込んでしまっているけど。それより…
「でもいや…そんな…」
いや…そんなはずは無いと…思ったけど…
………やっぱりそうだ。あいつら、さっき私を襲ってきた狼と同じグループだ。走ってる時に一瞬だけ姿を見た。同じ種類で、そして先頭の鼻筋に傷がある
あそこから結構遠いはずなのに、こんなとこまで……やっぱり厄介としか言えないな
「…2人は逃げて」
「……」フルフル
「…一応聞くよ。なんで」
「大事な時ぐらい、素直になってよ…」
だって、その目には明らかな恐怖が浮かんでいるんだもん
「ごめん」
「なんで、ナギサが謝るの」
「あいつら、私を追って来た奴らだからだよ」
「え?……あっ、帰って来た時言ってた狼って、まっさか!?」
おお、勘がいい…言っときながらよく覚えてたね
「とにかく、私にも責任の一端がある…というかほぼ私のせいだからさ。逃げるなら二人が、ね」
「そんな…ない…」
「うん、それは今はいいよ。それよりも、そんな事言うなら3人で逃げられないの?」
「いいや、それは悪手。倒そう」
…え?この沈黙なに?
「冗談でしょ…あいつ、魔の森にいる魔物の中でもまあまあ強い部類の相手だよ?」
「前に遭遇した、人は…ほとんど殺されてる」
「フラネ…でもつまり逃げ切れた人もいるってことだよね、それ。ということは可能性はある。なんなら全員で助かるかも…」
「まともな追いかけっこで勝てる訳ないでしょ」
「「…真面目に言ってる?(んだよね?)」」
「あ」
そういえば、私が一度撒いた前提で話してるのか
「ブーメラン…?」
「特大だわ」
抜かったわ
「…もし、絶対無いけど仮に、おねーちゃんを囮に逃げたとしても。普通にやったら逃げきれない。相手は足が速い上に、場所も悪い」
「一度逃げ切ってるんでしょ?」
「フラネを連れてだと正直厳しい」
そもそもここまで追ってきてる時点で、逃げ切ったと言っちゃダメだよね
「そんなぁ…」
「…ごめんなさい」
「ああいや…気にする事なんてないよ…」
向こうからしたら私たちは全員、味と、狩りやすさの両方でおいしい餌だから、一人も逃がすまいと思っているはずだ。必ずこっちにも追手が付く
そしてここは、浅場とはいえ森。相手のテリトリーだ。それに加えて見通しが良いというのも、戦闘ならまだしも逃げに関しては不利だ
更に悪い事に、ほぼ全世界共通で、狼系の最も厄介なところは…その執念深さ
「…ということで、逃げても私たち全員が無事に逃げ切れる可能性は低い
「まあ、狼から走って逃げられるって方がおかしいかな…」
「私がおかしいみたいに言わないで」
「(おかしいんだよなあ)」
「なんだろう、失礼な雰囲気を感じる」
自分で言ってて、失礼な雰囲気とは?
「それに、逃げても村まで追ってくると思うよ」
「すると余計な被害が増える…」
「二人とも万全じゃなさそうだし…」
「そっかぁ。はあぁぁ…」
おねーちゃんだって、最初から本気では言っていなかっただろう
でも、こう見えて可能性は0ではない
「とにかく何とかしないと。放っといても被害が出そう」
「でも、どうする…?」
「もう言ったよ。私が殺る」
「だから、いくら何でも無謀なんだって」
「でも、他にないよ?選択肢」
「さすがに…無理だと思う」
「大丈夫」
結局どう生き残るか――戦うしか現状残ってないんだよ。まあおねーちゃんたちはそれが無謀だって言ってるんだろうけど
まあ、私だって馬鹿正直に殴り合いをしようって訳じゃない…
「っ!避けて!」
「え?ぐっ…」
「わっ…」
二人を抱えて横に跳んだ。先頭が飛び掛かってきたのだ。そして残りの4匹も動き出し、私たちは完全に囲まれた
「…話に夢中になりすぎた」
「う…」
「あ、大丈夫…!?お姉ちゃん…」
足に掠ってる…っ。出血は太ももからだ
「いや…大丈夫…っ。これぐらい……!」
どう見ても大丈夫じゃない。
傷自体は深くないから何とかなるけど、その前にお姉ちゃんが既に限界の精神状態に見える。余計、早急にケリを付けるべきだ
「『再生』」
「あ…痛くない…」
「今はまだ、しっかりしてて」
「うん…勿論」
「ともかく、これで逃げるっていう選択肢はなくなったね…」
奇襲に失敗したからか、狼達は一度動きを止めて様子を伺っていたので、その隙にお姉ちゃんを回復出来たものの…状況としてはこちらが絶望的に劣勢
「…ナギサ」
「なに?危ないよ、こっち来て…」
「震えてる…」
「え?あ…」
フラネにそう言われてようやく気付いた。自分でも知らないうちに、両手が微かに震えていた
「怖いの…?」
「いや…ううん、大丈夫だよ」
実のところ、分からない
ふと、思い出しちゃったな。どう考えてもいま関係ないけど、本体は少し前に『戦神の頂点』なんて言われていた時期があって、そこからも分かるように神の中でも、始祖神の中でもその実力は突出していた。たぶん、今でも衰えてはいないだろう
そして戦闘狂だ。面白そうだと思えば、どんな相手だろうが恐れずに喧嘩を吹っかけていた
でも左手を見る限り、私にそれは受け継がれなかったみたいだな…いや、むしろ良かったか、そうなってたら逆に困ってたか…
って、いやいや、そんなのはどうでもいいから、落ち着かなきゃ。いまは3人全員の命が掛かってる。深呼吸………………ふー…はあ…
「ここは森だし、風かな…」
魔力を練って、イメージを織り込む…術式の構築も正常に終了した。魔力の充填も完了
「…『地を
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