第25話 刷り込み
「かはっ……」
「ごめんねおねーちゃん、大丈夫だった…?」
中に入れた自分の魔力を体外に放出し、流入も止めた
「…げほっ、は―――はぁ…ハア…だ、だい、じょうぶ」
「ダメだね。フラネ、ちょっと手伝ってくれる?」
「え?…ん」
荒い息を吐いて、地面に倒れ伏してしまいそうだったおねーちゃんを私が支え、フラネの手も借りて、近くの木の傍まで動かしたら魔術で水を出した
「口開けて」
「んっ…ふ……はぁ!…はぁ…ありがと、楽になった」
まだ息も乱れて冷や汗もかいている、とても大丈夫そうには見えない。けど私たちを心配させないよう精一杯の気勢を張っているみたいなので、そこには触れなかった
「無理はしないでね。それで、今調べてわかったんだけど…おねーちゃんはもう普通ではなくなってるよ」
「……はい?」
素っ頓狂な表情と声…でも残念ながら本当のことだ
「体がエーテルに置き換わってる。具体的に言うと活性不可変エーテル」
「………………ちょっとまって理解が追い付かない。わたしいつの間にナギサと同類になったの」
追いつかないと言いながら理解はや
「同じエーテルでも私は超活性可変エーテルだから、厳密には違う…というか悪い事みたいに言わないでよ」
「ああ…ごめん。でも、大体同じようなもんだよね?」
「うん…」
なんだか問い詰めるかのようなおねーちゃんの口調に、少したじろいでしまった。フラネには、私たちの会話がチンプンカンプンなようで、目に見えて頭に?が浮かんでいる
「ああいや、別に怒ってなんかないよ…それでその、ふかっ…なんとかエーテルって?」
「フラネにも説明するね。まずエーテルっていうのは、元々魔力と対になるように、第1始祖神アスカによって創られた物質の総称で、魔力に反応して様々な変化を起こすことができる」
ここまでだと、まだ二人とも難しい顔をしている
「それで、いくつかの種類があるんだけど…超活性可変エーテルは、エーテルの中で最も魔力への反応性が高くて、変化の度合いも大きい。その気になればこの姿形も変えられるくらい」
「えっ、見た目も変わるの?」
「やろうと思えば。あんまり必要ないから普段はしないけど」
「すごい…」
「見たい?ちょっと大変だけど…」
「いや、ならいいよ。また今度、時間がある時にお願い」
「うん…」
「そっかあ、分かったよ」
考えてみれば、いまは諸々の能力が低下してるから、そもそもそんなことやろうとも出来なかったかもな
「それじゃあ…おねーちゃんの活性不可変エーテルっていうのは、超活性よりは反応性が低くて、姿形を変えることもできない」
「まあ…どっちにしろ、人ではなくなったわけか」
「それは…また魂の指向性だとか適合精神だとか色々あって違うと思うけど…生物としての格は上がったと思う」
「それもあんまよく分からんが…」
まあ、その辺は今はいいよ。ちなみにもう落ち着い…
「何となくは分かった。他になにか影響はある?」
…てるね、ずっと。なんか…心配するまでもないかも。思ったより受容早いな?
「えっと…身体能力が上がる」
「うん」
「魔力での身体強化の倍率が桁違いになる」
「「うん」」
「魔力の成長が早くて限界値も常人より高い」
「「んー…」」
「その他諸々…」
「「ん…?…それで?」」
……息ぴったりね
「そして寿命がなくなる」
「うん…ん?……最初の3つはまだいいとして、最後のはなに…?死なないの?」
「まあ…平たく言えば」
「化け物じゃん…」
「いや、肉体が破壊されれば多分死ぬよ。ただ寿命で死なないだけで」
「それはもう≪だけ≫じゃないのよ…」
「…死なない…?」
『寿命がなくなる』というのは流石に許容値を超えたみたいで、呆然自失といった感じで空を見つめている。フラネも既にフリーズしていた
でも何か…良かった気になってしまった。さっきからおねーちゃんの受け入れが予想以上に早くて、内心焦りすらあったんだけれど…正常な反応だよね?これが
いやそんな場合じゃなかった。正気に戻さないと
「あ、ほら、これで私とお揃いになったよ?」
「うん…たしかにね…」
…私は最初から≪そういう存在≫として生まれてきたから、なにも疑問に思わなかったけれど、おねーちゃんは転生以外、普通の人ではあったからね
それにしても今この状況をどう処理しよう…何か安心させるようなことでも…
「あ、その体は普通に成長すると思うから、安心して!(?)」
「そっか…よかったよ……」
あれ…あんまり喜んでない…?むしろ余計に現実逃避に意識を向けてしまったみたいだ
さっきまではスイスイ受け入れてたのになあ…うーん…おねーちゃんのツボは分からないな
◇
どうしようか悩んでたんだけれど、そうしている内に暫くしたら普通に持ち直していた。やっぱそこまで心配しなくても大丈夫だったかもしれない
「はあ……でも一体なんで」
「そっちには、心当たりがある」
「ほんと?」
「…まあね」
無くはない。ただ、本当にそいつがやったと確信するにはまだ早いけれど…一番可能性は高い。だって、向こうがやったとは思えないしなぁ…まあどのみち訊けば分かる
「今から直接聞いてみるよ」
「その前に、その心当たりって誰…?」
おお、いつの間に復活してたのフラネ
「本体…つまりナギサ・メトロン」
「それって…」
私は頷いて返した。そうなんだよ、スレイストスの可能性も考えはしたけど、あいつはたしか真面目だから、こんな無駄なことはしないと思うんだよね
それに、
それで…他におねーちゃんと面識がある奴で、知らない内に勝手にこんなことをするのは…
本体はいつでも勝手に、相手からしたら堪ったものじゃないことをやってきたからね。記憶に残ってるよ…寝てる間に魔力回路に無理やり接外式沿循路を施したり、他にも数えきれないほど…相手に何を言われようが、懲りずに何回もやらかしてきた常習犯だ。だから≪これ≫にも関与してる可能性はある
………私も、いまようやく理解したよ、私の基がとんでもないやつだったんだって。寝て起きたら体が作り変えられてるってさ…普通に恐ろしい…いやおぞましい。私は≪あれ≫の分体だけど、ああいう思考回路にはなりたくない
あの軽い調子な紫髪の悪魔は…う、寒気がする。風邪かな………
ともかく、私は
「二人にも繋いでおくね」
返事はすぐにやってきた
『もしもしー。久しぶりだね
『いや、展開早いな…』
『心の声漏れてるよ、おねーちゃん』
『うそ!?』
『まあ、どっちにしろ
『それが普段通りの会話だからさぁ、気にしないで』
まあ、多分そうなんだよね。ほんと、神ってデリカシーもプライバシーもない
『それで、どうなの?本体』
『すぐに私に行き着いたねぇ』
『だって本体、前も似たようなことやってたでしょ。気に入った子に○○○○○とか……』
『異物混入事件ね。懐かしい』
『ねぇなにこれ、自主規制?』
した。ちょっとホラーだから、今世だとまだ18歳以下の2人に聞かせられない。…たしかそんな制限あったよね?おねーちゃんがいた
『それにしても…この短期間で、随分と染まったねえ』
そうだった心を読んでくるんだった
染まった?………染まった、か…そうだな、多分、そういうことを言いたいんだろうな。…自覚しようとも思わなかった
『…悪い?』
『いや、それで間違ってないよ。当初の目的の一つでもあったから、良い変化とも言える』
…最初からこれを想定してた?ということは肉体もわざわざ人間の様な感じにしたりしたのにも関係ある?
『ありゃ、そこ飛ぶか。まあ、それは置いとこうよ。それよりも、フィーネの変化について聞きたいんでしょ?』
『そうだった…。それで、結論は?』
『結論から言うと、私だよ』
呆れて思わず天を仰いでしまった、…やっぱり今回もやってたか…
『あのーなんで勝手に?あなた神様ですよね、こんなことしてていいんですか?』
…思ったよりグイグイいくね、おねーちゃん
『好奇心があるのは良いことだ』
『…答えてもらっても』
『その前に敬語やめてもらっていい?なぁんかむずがゆくてね』
『またそのパターンか…』
また?
『分かった。それで?』
「おねーちゃん、結構遠慮無いね」
『そうだねー。本当はあまり、よろしくはないね。部外者が他の神の創造、管理する世界を見るのは自由だけど、許可なく干渉するのはタブーみたいなものだから』
『なら』
『何であれ例外はある。今回は
「…ナギサ、何かやった?」
「い、いやいや…!何も…」
誤解だよ!ないない、やってない!それはそれとして、さっきおねーちゃん度胸あるなと思ったけど、よく見たら、混乱してるだけかもしれない。こんな感じにいつでも飛び火してきそうで怖いよ…
『私の分体だったからね。それを通じて創造神と
『こねくり回す…』
『本当に、まともな許可取った?』
『もちろん。始祖神だからね』
いや、本体の場合は職権…神権?乱用的な感じがあるんだよなぁ。大丈夫かなスレイストス…脅されたんじゃないかな…
『君も大概酷いね』
『自分の行い見返してよ』
『ねえ、それよりどうしてこんな事を』
『そうねー』
そこで、はじめて本体は少し考えて、静かに理由を話し始めた
『…これは
『あ…』
『……』
『思い出せるよね?』
本体にしては珍しい割と真面目な雰囲気が伝わってくる…私には寿命がない。そもそもとして、私は理論上不滅なように創られているからだ。一度肉体が滅んだとしても、時間が経ちさえすれば、魔力が溜まれば復活する
だからこそ……人間であるお姉ちゃんとずっと一緒にいることはできない。確かに薄々気づいてたことだけど…無意識に考えないようにしてた。けど今こうやって改めて言われると
『あ、そうか…ナギサもエーテル…』
『私お手製よ。理論上不滅』
『……』
『…いやいや、でもまだずっと先の話だって』
『まだ先だけれど、決まっている未来だろう?そっちの方が残酷だと思わないかい』
『…それはその時でもいいんじゃ…』
『結局同じ事ではないか。なら早い方が良い、身体の老化に引っ張られて活力まで衰えてしまう前にさ』
『全部バッサリやってくるじゃん…』
『あと、私がちょっと油断して眠ってたら、その間に死んじゃうかもしれないし』
『いやそこは気を付けてよ』
『そんなさ、私からしたら一瞬で消えちゃうような人間の命に、ずっと気を使っている訳にもいかないよ』
『……』
誰も何も言えない空気の中、ナギサ・メトロンは構わず続けた
『だから、そのための措置なの。
『『………』』
そう聞くと、よく分からない…なんだか余計、なんとも言えない
『何も言わなくていい。何も言わずにやったのは悪いとは思ってるけど、なんとかそれで納得してくれないかな?』
なにを、言えばいいんだよ。それにもう、どうせ後戻りは出来ないのに
「……わたしが死んだらナギサが悲しむ、ってことか…………はあ〜」
「本体がごめん」
『あーね。…分かったよ、約束しちゃったからね』
「約束…」
「これって、桃園の誓いみたいななのかな…」
「…?」なにそれ
でも、実質的な不死を受け入れるなんて…その約束って何なんだろ
だけど…なんか、私の中の取っ掛かりが取れたように気分が晴れた気がする。そうだなあ、まだおねーちゃんと出会って間もないのに、既に私はおねーちゃんから大切なものを沢山もらっているな
…貰ったものを思い出したんだけど…おねーちゃんって私のお母さんだったりする?いやいきなりなにって思うかもだけどさ、…もう本体が生みの親で、おねーちゃんは育ての親ってこと?
………………ま、まあいいか///。なんか気恥ずかしい気がしてきた…
『こっちとしてもその答えは有難いよ』
『ただ、次からこういうのはやめて。わたしは他人からの過度な干渉は嫌いだから』
『もちろん、というかそんな気軽に出来ないし。そうだ、
『なに?』
『言った通り、君は心を獲得して、それによって個別の生命とするに十分な要素が揃った。だから、これからは私の分体としてじゃなくて、一人の人間として生きて』
『……え?』
『要は『個立』だよ。なに、不満?』
『え…あ、いやそうじゃないけど…え…?』
え、それこそ突然じゃん…?いや、単なる分体としてじゃなくて、1つの個別の生命として認められるのはあまり無いことだしそれは素直に嬉しいと思うけど…それっていいの?私まだ自己すら確立されてないと思うんだけど
『そんなの、私がそうだと言えば問題じゃないんだよ。大体、個立ってそれで何かが変わる訳でもないんだから、一々気にするのも馬鹿らしい』
『いや、それ新たな生命の誕生と同義でしょうに…』
そんな軽々しく言っていいものじゃないでしょうが。なんて無茶苦茶な理屈だ…
それに思い出した。個立は何かの目的の下、私みたいな神の分体やそれに近い存在に与えられる無制限の自由裁量権的な解釈が一般的だ。一体何を企んでいるんだ
『ま、『育ての親』もいるらしいし、その時はその時だよ。宜しく頼むねー』
『育ての親?』
『あ、ちょ…』
しまった!また思考を読まれてるの忘れて迂闊なこと考えてたよ。…最後のは絶対おねーちゃんに向けてだよね。おねーちゃん、いいからね?こいつの言うことなんか気にしなくて全然そんなこと…
『……ああ、うちの両親のこと…』
『……』
…良かったぁ。流石の私もあんな事考えてたのバレたら恥ずかしい…けどね。うん
『…恥をかいてこその人生なのに。忍ぶことも経験しな?』
『?』
余計な事言わないで本体
『(それにしても、フィーネがね…ここでの親は義娘の形式上、ディーグとリリーじゃなかったっけ。
刷り込みかな?まあ、変質の切っ掛けはあの子だし、その認識も間違ってないか…フィーネは背負うものが増えただけかもだけど)』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます