第25話 進化…変異……

 私はさっきに引き続き、風魔術でフラネの服を乾かしている


 途中、焦れったくなって、竜巻で一気に水分を飛ばそうとして、服が吹っ飛んでいくというアクシデントが起きて、今度は割りと本気でフラネに説教されてまた涙目になるという黒歴史が誕生したけど、もう忘れることにした


 人っていうのは、こういう小さな失敗を繰り返して成長するってことだからさ

 その失敗を活かして、今は温風で乾かすことにした。…それはあんま関係ない?

…そっか


 それにしても、早く乾かないかなぁ…。帰らなければいけない時間までは、まだ結構余裕があるけど、こういう地味な作業は私苦手かも


「まだかなぁ…」


「…さっきみたいなのやったら、また説教するから…」


「はーい…」


 もう私はフラネには逆らわないよ。だってさっきのフラネ、凄く怖かったんだもん。少なくとも、ギガートトルネロスよりは迫力があった


 ギガートトルネロスは風のように動く、3m位の人型の魔物のことだね。多分、この世界にはいないけど、今の私だと勝てないと思う。だから、それ以上のフラネにも勝てない


 お姉ちゃんも飽きてきたらしく、こんなことを提案してきた


「諸々は明後日ってことだったけど、今なら時間もあるしさ、わたしたちの事もっとお互い知ろう?特にフラネとナギサはほぼ初対面だし」


 それは良い提案だ。私も、この地味な作業にとっくに飽きてたけど、話す話題が見つからなかったんだ


「それもそっか。じゃあフラネ、聞いてくれる?」


「…いいよ」


 それから私は、第6始祖神ナギサ・メトロンの分体としては創られたこと、そのために普通には知り得ないことも知っていること、能力も普通より高いこと、そしてこれからはお姉ちゃんの妹としてこの世界で生きていきたいことを話した


 こうしてみると、割とこの短期間で大分色々変わった気がするなぁ。それでまあ予想はできたけど、フラネは驚愕という感じで聞いている


「じゃあ…ナギサは神様…?」


「いや、基になってるのは神だけど、私は神じゃないよ。…だから、ちょっと引き気味にならないで?」


「…がんばる」


 本当にお願いだから…これで「友達やめる」とか言われたら、立ち直れない


 するとお姉ちゃんが、意を決したような感じで話しだした。そしてその内容に私も少し驚いた


「フラネ、わたしからも1個、伝えておきたいことがある」


「…なに?」


 これまでずっと仲がよかった同年代の、何か重大そうな雰囲気にフラネは自然と姿勢を正して聞いた。それに釣られてこっちの背筋も伸びる


「ずっと内緒にしてたけど、実は…わたしは前世の記憶がある」


「…はぇ?」


「え」


「前世は22歳で、瀬戸内千秋っていう名前だった。地球っていう別の世界で生きていて、事故で死んだところをここの管理者…まあ神みたいな存在に拾ってもらったんだ。その時に、全ての魔法を使う資質っていうのをもらったから、わたしは普通より魔法が得意…なはずで、それでナギサに魔法を教わろうとしてた」


「は…え…?」


「待って待って。フラネちょーっと待ってて」


「え…なに…」


 それはいまここで話す事じゃない。理解が追いつかないポカーンとした顔のフラネを置いて、私はお姉ちゃんを引っ張って来た






「何よ」


「それはこっちのセリフだよ。何でそれ話すの?」


「えぇ…?」


「突然すぎるって」


「でもさ、お互いのことを知ろうって話だったじゃん」


「飛ばしすぎ」


 一体何のつもりなの。そういう意味じゃないよ。いや、お姉ちゃんはそういう意味で言ったのかもだけどね?

 私の場合はそれが全てだから、仕方ないじゃん。でもお姉ちゃんはそれまでフィーネとして普通の人間として生きてきたんだよ。それがいきなり転生やら異世界やら言い出したら混乱をきたすのは当たり前だ


「転生者が正体を隠すのは、大抵は身を守る為だよ。仮に事実が露見した場合、下劣な思考の人間に無理にでも搾取される可能性が高いから…」


「……(下劣か…)」


「聞いてる?」


「あ、ハイ…」


「もう細かいのはいいや…で、何であんな簡単に言っちゃうの」


「…だって」


「ん?」


「…フラネに隠し事したくないよ」


「はぁ」


「ナギサも考えても見てよ、親しい人に、秘密を抱えながら接するの。たとえそれがどうでもいい事だったとしても、辛いよ…」


「……何かあったの?」


 あまりに突拍子の無い感じだったから、さっきの言葉通り、身を守るって意味もあって強めに当たっちゃったけれど、この感じは…


「…今となっちゃどうだっていいよ。転生もしたし…思い出したくもない」


 あったんだな、何か。何だかここまでのお姉ちゃんの言葉が真実味にも似た何かを帯びてきた


「そっか…」


「ごめん…いつか」


「…うん」


 自然と俯いて、顔を隠すお姉ちゃんに、何も言うことが出来なかった。だけど同時に「いつか」とも言ってくれたことに心の強さの様なものを感じた気もする


「とにかく…親友相手にこんな事、秘密にしたくない」


「ふぅ…色々あったのも分かったし、いまのお姉ちゃんの考えも分かった。しょうがない、…もう言っちゃったし今更どうしようもないね。悪いけど、フラネには他言無用って伝えとこう」


「…そうだね」


「ところでさ。それで言うとトーベルたちはどうする?」


「みんな親友だし伝えたい…けど…」


「けど?」


「あっちはフラネと違って、うっかり口を滑らしそうで怖いな…」


「あー…そういう感じか」


 たしかに、初対面の感じを思い出すと…調子が軽いというかなんというか、私も少し感じた。加えて、私より長く一緒に過ごしてたお姉ちゃんが言うならそうなんだろうな


「もうちょっと成長してからにする?」


「それがいいと思う」


「じゃあ…戻るか」


 少しと言って、随分とフラネを待たせてしまった。人って話したがったり、隠したがったり…まだ心を理解するにはほど遠いな







「お待たせー…」


 さてと、偶々姉の抱えるものを垣間見てしまったが、こっちがある程度状況を飲み込むための時間も取れたかな


「22歳…フィーネは、私よりずっと年上…」


…うん、大丈夫そうだな


「そこに引っ掛かってる…?じゃない、今は4歳だから。ちょっと魔法が得意な、普通の4歳児だから。お願いだから引かないで」


「今までタメ口ですみませんでした…」


「やめて!わたしフラネにそんなこと言われたくない!」


 切り替え早いなー…さっきのあの空気からこんないつも通りの口調

 でもそう言われるとそうかー。てことはお姉ちゃんは今世も合わせると26歳…


「ナギサ。何か変なこと考えてない?」


 声に出してもいないのに、お姉ちゃんが速さで反応した。その目がギランと光った気が…


「い、いや…」


「そう」


 …いまのやばかった、すごい圧だった。というか私何も言ってないよね…もしかしてお姉ちゃん、『シグナル・リード』でも覚えた?

 そう言えば、同じような境遇のアイナも、年齢関連の話では結構シビアだった記憶があるな…。もしかすると女の子とかはそういうのには敏感なのかもしれない。気を付けよ…


「フィーネさん…」


「いや、だから。フラネもそれはいいって…あとさっき聞いた事は他の人には教えないでね。フラネには言ったけど、大事な秘密だから」


「うん…お姉様」


「…それはちょっといいな…じゃなくて!」


「フィーネお姉様…」


「…もういいや」


 あ、お姉ちゃんが折れた。額に手を当ててすっかり諦め顔だ。でもお姉様っていいなぁ、ちょっと憧れる。まあ、私はお姉ちゃんの妹だから、それでいいけどね


 さてフラネ、君もお姉ちゃんの妹分になったのだから、存分に姉を敬いたまえ。でもお姉ちゃんの1番は譲らないから

 それにしても、お姉ちゃんって前から姉に憧れてたのかな。私がそう呼んだ時も、満更でもなさそうだったし、今回もフラネのこと割とすぐ受け入れたよね。…やっぱりそうなのかも


 あと一つ、お姉ちゃんの説明には間違いがあるかもしれない。…どうせ近いうちに確かめるつもりだったから、ちょうどいい


「お姉ちゃん」


「…ん?なに?」


「ちょっとここに来て、座って」


「…本当になに?」


「まあまあ…確かめたい事があるだけだから」


 お姉ちゃんは怪訝そうにしながらも、私の前に来て座ってくれた。そして……私はお姉ちゃんに抱き着いた


「ちょっとごめんねー」


「!?ちょっなにを…」


「…!?どうしたの…?」


 これにはお姉ちゃんだけなく、フラネも驚いたみたいだ。フラネは感情が表に出てきにくいタイプだけど、この時は普通に目を見開いている。あと、ちょっと顔を赤くしてるのはなんでかな…?


 そんなことを考えながら、私はお姉ちゃんに自分の魔力を流した


「!…うっ………」


「ちょっとだけ我慢してて」


 前回はお姉ちゃんの魔力を動かしただけだったから、詳しくは分からなかった。だから、今回は自分の魔力を使ってちゃんとする。前回ほどではないと思うけど、気分が悪くなってるだろうから早く終わらせないとな…



「……やっぱり。ごめんねお姉ちゃん、大丈夫だった…?」

 私はお姉ちゃんの中に入った自分の魔力を外に出し、放出も止めた


「かはっ…げほっ、は―――はぁ…はぁ…だ、だい、じょうぶ」


「だめだね。フラネ、ちょっと手伝ってくれる?」


「え?…ん」


 荒い息を吐いて、地面に倒れ伏してしまいそうだったお姉ちゃんを、私が支え、フラネも手伝って、お姉ちゃんを近くの木の傍まで動かして魔法で水をだした


「んっ………はぁ!……ありがと…楽になった」


 まだ息も乱れて冷や汗もかいているお姉ちゃんは、とても大丈夫そうには見えない。けど私たちを心配させないよう、精一杯の気勢を張っているみたいなので、そこには触れなかった


「無理はしないでね。それで、今調べてわかったんだけど…お姉ちゃんはもう普通ではなくなってると思う」


「……はい?」


 素っ頓狂な表情と声…でも残念ながら本当のことだ


「いつからかは分からないけど…遅くとも昨日の夜にはすでに、お姉ちゃんの体がエーテルに置き換わってる。具体的に言うと活性不可変エーテル」


「………………ちょっとまって理解が追い付かない。わたしいつの間にナギサと同類になったの」

 理解はや


「私は超活性可変エーテルだから、厳密には違う。…というか悪い事みたいに言わないでよ」


「ああ…ごめん。でも、大体同じようなもんだよね?」


「うん……」


 先程からの怒っているわけではないけど、問い詰めるかのようなお姉ちゃんの口調に少したじろいでしまう。フラネには、私たちの会話がチンプンカンプンなようで、頭にはてなマークが浮かんでいる


「ああいや、別に怒ってるんじゃないよ…それでその…ふかっ…なんとかエーテルって?」


「フラネにも説明するね。まずエーテルっていうのは元々魔力と対になるように、第1始祖神アスカによって創られた物質で、魔力に反応して様々な変化を起こす」


 ここまでだと、まだ二人とも難しい顔をしている


「それで、それにはいくつかの種類があるんだけど…。私の超活性可変エーテルは、エーテルの中で最も魔力への反応性が高くて、変化の度合いも大きい。その気になればこの姿形も変えられるくらい」


「えっ、見た目も変わるの?」


「やろうと思えばね。あんまり必要ないから普段はしないけど」


「すごい…」


「それで、お姉ちゃんの活性不可変エーテルっていうのは、超活性よりは反応性が低くて、姿形を丸々変えることはできない」


「…どっちにしろ、人ではなくなったわけか…」


「それは…また魂の指向性だとか、適合精神だとかいろいろあって違うけど…生物としての格は上がったと思う」


「あんまよく分からんけど…」


 まあ、その辺は今はいいよ。それより落ち着い…


「何となくは理解した。他になにか影響はある?」


…てるね、ずっと。なんか心配するまでもないかも、思ったより受容早くない…?


「えっと…身体能力が上がる、魔力での身体強化の倍率が桁違いになる、魔力の成長が早くて限界値も常人より高い、そして寿命がなくなる」


「うん………最初の3つはまだいいとして、最後のはなに…?死なないの?化け物じゃん…」


「いや、肉体が破壊されれば多分死ぬよ。ただ寿命で死ななくなるだけで」


「それはもう≪だけ≫じゃないのよ…」




 『寿命がなくなる』というのは流石に許容値を超えたみたいで、呆然自失といった感じで空を見つめている。フラネは途中から既にフリーズしていた

 でも何か…良かった。さっきからお姉ちゃんの受け入れが予想以上に早かったから内心焦ってたんだけれど…正常な反応だよね?これが。

 いやそんな場合じゃなかった。正気に戻さないと


「あ、ほら、これで私とお揃いになったよ?」


「うん…たしかにね…」


…まあ無理もないか。私は最初から≪そういう存在≫として生まれてきたから、なにも疑問に思わなかったけど、お姉ちゃんは転生以外、普通の人ではあったからね


 それにしても今この状況をどう処理しよう…何か安心させるようなことでも…


「あ、その体は普通に成長すると思うから安心して!」


「そっか…よかったよ……」


 あれ…あんまり喜んでない…?むしろ余計に現実逃避に意識を向けてしまったみたいだ。

 さっきまではスイスイ受け入れてたのになあ…うーん…まだお姉ちゃんのツボが分からないな

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