第23話 今後
うわあああああーーー!あーー!はあ~~………やってしまった…
私が迷子になって半泣きだった頃にそんなことが起こってたのか……いや、あの記憶は埋めよう。言っててすごく恥ずかしい…。あの時は正気じゃなかったんだよ、ほんとなんであんなことしたんだろ私……フラネもいたのに…
うー…「穴があったら入りたい」って言った人、その気持ち、今ならよく分かる
「…何してんの」
「穴を掘ろうと…」
「良く分からんけどやめなさい」
「うん…」
もし言いふらされたら、埋めてやる…。そうだ、聞いたことある…私は羞恥心と黒歴史を覚えた!……うー!
よし…早いとこ埋め立てよ…
「引きずってるの?」
「赤っ恥だよ…」
「そう…じゃあ、わたしは気にしないでおくよ。でもまだ子供ではあるんだし、そんな恥ずかしがることもないんじゃない?」
「おねーちゃん、うるさい」
「う、うるさい…」
慰めてくれてるのは分かるけど、そうじゃないよ
まったく、子ども扱いしないで欲しい。おねーちゃんはわかるでしょ?私たちは確かに肉体でいえば4歳だけど、思考は22歳と無量大数なんだよ
たしかあの神は、自分の年齢を無量大数に片足つっこんでると言っていたな。それを受け継いでいるからそうなるのか…?とも思ったが…それはないな。影響はあるだろうが、どう考えてもそうは見えない
フィーネは、ナギサの言葉に相当ショックを受けて狼狽している。妹の言葉にしっかりと反応を示すあたり、すっかりナギサの姉を自覚するようになったのだろうかとも思うが、些か過剰に反応しすぎではないだろうか…。前世で経験したことがないからなのか…
おねーちゃんのせいで話がずれた。二人からさっきまでに何があったかを聞いて、おおよそ現状が把握できた。その話の中で鹿と熊はどうでもいい。鹿はそこら辺にいるから出てもおかしくないし、この森に熊だとかの肉食動物がいることも、さっき身をもって知った
つまり…ここでの問題というのは、必然的に魔術ということになる。おねーちゃんとフラネ、両方の
「魔法を…私が…」
「聞く限りだと、フラネが魔術を使ったとしか思えないな。おねーちゃん、具体的な状況って覚えてる?」
「…え?なに…?」
え?…もしかしてさっきのまだ引きずってる?
ナギサも、フィーネのことは言えないであろうに
「悪かったって。元気出して」
「あ、うん。平気平気…」
だといいんだけど…無言ながらも、フラネにも気を遣われてるのを見てると、何か頼りないなぁ
「それで…どんな魔法だったかとか、覚えてない?」
「えーと…見てない」
「え?」
「いや…魔法ってのは事後の状況から判断しただけで、実は目を瞑ってて…」
「…フラネは?」
「……全然」
「なんで使った本人が覚えてないの…」
「ごめんなさい…なにも思い出せない…」
「あ、別に怒ってないからね」
「……」
これは言い回しが悪かったかもしれない
でも…うそお。じゃあ、決定的瞬間を誰も見てないし、覚えてないの?
「…まあいいや。魔術がどうだったかは、いまは重要じゃないし」
例の水の痕もまだ乾ききってないことだし、私もおねーちゃんのように推測すれば良いだろう
そして二人の事情とか諸々あるだろうけど取り敢えずの、私の結論
「いいんじゃないかな」
「「…何が?」」
「…ちょっと飛ばしすぎた」
「ほんとだよ。何がどうしていいんじゃないって事になったの」
「だって、今回の出来事でおねーちゃんは魔力の操作に成功した訳だし」
「まあ…たしかに元の目的は達成したのか」
「むしろ飛び越してるよ」
居合わせていないから実際のところは分からないとはいえ、もしかしたら
「そしてフラネ」
「う、うん」
「フラネも偶然の形とはいえ高い魔術の資質に目覚めた」
「高い…?そうなの…?」
「鹿を吹っ飛ばして、そのまま命を奪うほどだよ。正直言って、一番最初に使った魔術の威力じゃない」
「…あ…」
「そう。…気にしなくても良いよ」
命を奪ったことを引き合いに出した時、一瞬、思い出したような暗い表情が見えた気がする。でも本当に、そこはフラネが気にする部分じゃない
「ある意味事故だったみたいだし、そこでフラネに怪我された方が、私は嫌だよ」
「うん。うん…」
強い子なんだな。生物を殺したことを、素直にそう受け止められる
そういう基本的な姿勢を思い出した。私も見習わないとな
「…それで、ここまでをまとめたら、最高の結果じゃない?」
「いや、そう言ったらそうなんだけど……」
「?」
「たしかに魔法が使えたってのは良いことなんだけどさ、でもこれって……不味いよねって…」
「不味い?」
はて…そんなおねーちゃんが不都合に感じることが…
「うーん…どういうこと?」
思いつかない
「…国に抱え込まれるってやつ」
「……あ、あー!」
「な、なに?なんのこと…?」
「ね?ナギサは分かるでしょ?」
そうだった忘れてた。この世界のこの国だと、諸々の関係で魔術師って王家とか貴族に仕えることが多いって話ね?それでおねーちゃんはそんなのは嫌だから、なるべく秘匿したいっていうのが前提にあるんだった。そういえば、さっきそれでおねーちゃんに「大丈夫なの?」って自分で聞いたのに、にも関わらずすっかり失念してた
「いや、そうだった。でもね…それって悪いことじゃあないよね。多分だけど、普通より遥かに高い給金に衣食住、加えてそれなりの立場が約束されるってことでもあると思うよ。官僚も同然。全然、好待遇じゃない?」
「……」
何故そうなるのかと言えば、資質や教育などの事情から戦力になる程の魔術師が少なくなる背景が必然的にあるからだ。貴族とかも、なにも理由も無く人を縛り付けておけるだけの余裕がある訳ではない
多分、おねーちゃんの前世は特定の存在に直接目に見える形で縛られないのが普通だったから、何となく宮仕えとかに抵抗があるんだと思う。けど世界が違えば当然、勝手は異なる
「別におねーちゃんの考えも否定しないけどさ。私だってあまり仕えたくないし。でも例えば…フラネはどう思う?」
「え?」
「宮仕えは、嫌?」
「あ……嫌、じゃない」
「ね?お姉ちゃんは嫌かもしれないけど、普通なら大出世だよ。それも物語になるくらいのね。もしオファーが来たなら、断る方が珍しい…というか聞いたことない。特にこういう田舎で」
「…まぁ、そうだけど、でも……」
もう…区切り悪いな。別に否定してる訳でもないから、普通に嫌なら嫌でいいのに
「もしくは…寂しいだけだったりするんじゃないの?」
「え」
「ん?フラネとかと離れ離れになりたくないだけだったりするんじゃないの?って」
「えぅ…」
「あれ」
反応が変だな…?もしかして?
「フィーネ、そうなの…?」
「あ、いや違くて…いやそうじゃない…うぅ~…」
「本当だったの?」
「じゃないと言うか、…そうだとも言うか…はっ、もしかしてカマかけ?引っ掛かった…」
そんな顔隠して…本当に偶々だよ。まあ実際適当言っただけだったけど、意外な気持ちも知っちゃったな
「ふふふ」
「…からかってる?」
「まさか」
私も今、おねーちゃんと離れ離れになることになったら多分、何としてでもついていこうとするだろうから。…思えば、私はすでに、おねーちゃんに対してなんとなく、親愛のような感情を無自覚ながらに抱き始めている節がある気がしている。じゃなきゃ、あんな無防備で情けない姿を見せるなんて…だとしてもあれは恥ずかしいが…ぁぅー、一回埋めたのに自分で掘り返しちゃった…。ともかく、それはおねーちゃんがフラネとかに持つ感情と同じようなものだろう
私は詳しくは知らないけど、出発前の会話からしてもこの二人は同年代の中でも特に仲がいいというか、深いというか…まあそんな感じがする。そこに国レベルの話なんてのが挟まったら、もういまみたいな関係は保てなくなるのは目に見えている
でもそれは別として、うーん…少し真面目に。たしかに、フラネほどの魔術の資質があれば村の内外問わず、すぐに有名になるだろう。そうなれば、恐らくは戦力として、魔法使いを求めているだろう国や、それに限らずその他組織があったとしたらそれら全部、黙ってはいないはずだ
そして、それに伴う他の懸念点として……おねーちゃんや私の魔術も、意図せぬところで人に知られる可能性があるということでもある。発達した情報網がないこの世界では、人伝で情報が伝わるから、その過程で、フラネがわざわざ漏らすとも思えないけれど予期せぬ形で明るみに出てしまうかもしれない
最初に会った瞬間から何となく察していた。おねーちゃんの、もしかせずとも世界最高レベルの資質に加えて、文字どおり一部人智を超えた私の知識諸々。これらが世に知れた場合、果たして世間がどういった反応を示すか…ということも、懸念点として無視できない
どのみち私たちとしては非常に都合が悪い。会話からして、二人は事をそこまで深く考えてないだろう。ここまでの結論としては、そういった事情から王宮仕えは普通に止めたい。ただ…
「ねぇ、しっかりして。…さっきのって、どういうことなの?」
「いや…だからそのー…」
何やらモゴモゴ言っているおねーちゃんを意図せず問い質してるみたいな様子のフラネがチラッと見えた。…そろそろ勘弁してあげたら?これ以上はおねーちゃん、茹で上がっちゃいそうだ
で、うん…まあ魔術が使えるということは、そういう道も当然ある。単純な話、もしフラネ自身が望むならば、こちらの都合でそれを止めるのもどうかと思うんだよなぁ…。でもさっきの通り、それには若干のリスクや疎遠も絡んできてしまう
なんか…いい落とし所はないものかな。……フラネって磨けば光ると思うんだよね……磨く……なるほど
いい案を思いついて、思わずにやけてしまった。それを、たまたまフラネにばっちり見られていて、率直な疑問をぶつけられた
「…どうしたの」
「いや?……ねぇ、フラネ。フラネはさ、今後どうしたい?」
「?どうするって…別に……?」
質問の意図をわかっていないね。さて、ここからは交渉の時間だ
「フラネはさっき、水属性の資質に目覚めた。しかも、あれほどの資質はなかなか貴重で、望めば王宮ででも働けると思う。ここまではいい?」
「うん…」
フラネにはまだ現実味がない話なようで、返事にも熱が籠っていない。まあ仕方ないか。なにせ突然だったみたいだし、おおかた自分が魔術を使ったっていう事実も、まだ飲み込めていないんだろうな
「それで…。実の話を言うと…私も魔術が使えるんだ」
「…!」
「しかもかなり珍しいもの…それこそ、使えるのはこの国…いや、世界でも私くらいのを」
すごく重大な秘密を明かしたことを、表情で察したのだろう。フラネの
「それで、私はおねーちゃんに魔術の使い方を教え始めたんだ。ここで一つ提案」
私は一拍、間をおいて…
「フラネも、私たちに付いて来ない?」
「……?」
「おねーちゃん、この世界の成人っていくつ?」
「たしか…12歳だったかな」
「ありがとう。私たち、12歳になったら王都に行って、ハンターになろうと思ってるんだ」
「え…そうなの…?」
「え、そうなの?」
ちょっとおねーちゃんは黙ってて
「それでどこか適当に旅でもしようと考えてる訳だけど…それについてこない?ってこと」
「……」
そんなすぐには決められないか、まあまだ8年は先の話だし。この村での生活も面白いけど、一生ここに住むのはもったいないと思う
「ねえ聞いてないんだけど」
「ハンターはあくまで形式上の職業。ほかの職より自由がきくよ」
「む…」
お姉ちゃんだって、せっかくファンタジーな世界に来たんだから、いろいろやってみたいこともあるだろう。私の言葉に、割りと真剣な顔で考え込んでいる
そして私も、いずれの話だけど、おねーちゃんとこの世界の全てを見に行きたい
さすがに分体として、本体の元の目的である旅…は無視出来ない、だからお姉ちゃんに付いて来てもらう形になるのは仕方ない。偶然出会い、姉妹となり、…そして、それまでナギサ・メトロンの分体でしかないと思っていた私に、私という『個』に気付かせてくれたおねーちゃんとこれからも一緒にいたい。これも何かの『縁』ってやつだと思うから
「私たちはこれから、魔術以外にもたくさんの知識や技術とかを身に着けて、その準備をするつもり。もし、フラネが私たちについてくるなら教えるし、衣食住は絶対大丈夫。危険は…あると思うけど…でもなんとかなるよ。そして…おもしろい毎日は約束できる」
「・・・」
私の気持ちは伝わったようで、フラネもより真剣になった。そして少し考えたあと
「……」
「……」
「……」
おねーちゃんはあとで説得してもいい。だから、フラネの返答しだいだ
「…行く」
…意外とこの子、冒険心があるのかもしれない。『おもしろい毎日』の部分で、急に目が輝き出した気がしたからね
「改めて、これからよろしくね」
「…ん」
私とフラネは握手でお互いの決意を確かめあった
「…わたしも行くのか」
「もう…準備にはまだ8年はあるんだから。それに、何十年もこの村にいたら絶対飽きるよ。その時にはもう遅いんだよ」
「あー…まあ……。もうどうにでもなれ!」
「…っ?」
急に大声を出すから、ビクッとなった
「…フィーネ、うるさい」
「はい…」
「ふぅ…それじゃあまずは今の状況を何とかするよ。さっきのことは二人ともまだ黙っといてね」
「……」コクコク
「それで、知識の共有とかするために定期的に集まろう。次回は明後日ね」
「分かった。それよりナギサ、この鹿と熊はどうすんの?ついでにこの木とか」
「そうだねー…」
うーん、鹿と熊はそこにほっとけばいいけど、木はどうしようか
「鹿と熊はいいよ」
どっかの動物が食べてくれるだろうから。ただ、この惨状だけはどうにかして何とかしないとか…
「んー…仕方ない『リアライズリープ』」
物を元の状態に戻す魔術だ。これによって破壊された木が、見る間に元の森に戻っていく
「え、うわ…」
「…すごい」
「もう隠すこともないしね。これでいいか……それじゃあ今日は帰ろう」
「うん…正直に言うと今結構だるい…」
「怠い?ちょっと待って…魔力使い切ってるじゃん。おねーちゃんは次から配分を考えないとダメだよ。歩ける?」
「村まで?…無理」
もうー
「仕方ない、私がおぶっていくよ」
「えぇ…それは、ちょっと恥ずかしいな…」
「歩けないって言うからでしょ。そういうなら置いてくよ」
「それは勘弁」
「…あの、私の服は…」
「え?あ…」
……ごめん忘れてた。あぶない、このまま歩き出してたら全裸のフラネをこんなとこに放置して行くところだった。いや、濡れてるけど服自体はあるから、そうはならないか…?
でもひとまずは
「…乾かしてから行こうか」
「しっかりして」
「ごめんなさい…」
怒られてしまった。本気ではないけど、そのジト目が結構痛いよ……いや、ほんとごめん
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