第20話 遊び場…

タイナは、山がちな場所にあって北を山地、村から南を全て魔の森で囲まれている。魔の森といっても、普通の動物だっている上、浅い所では強い魔物は出てこないため、大人が狩りや採集に行くこともあるそうだ。薬草採取に行く平原は東にあって、フィーネの時のように、弱い魔物が南西の森からそちらに来ることがあるらしいが、普段は平和だ


 そして、山の手前北から西にかけても森があるがそこは魔の森じゃないそうで、フラネールぐらいの子供の遊び場のような場所にもなっているらしい。今向かっている川はそこにある。その森を超えると、王都に向かう街道があるということも聞いた。フィーネが転生した後、ナギサが管理者スレイストスに教えてもらっていた



 村の北にある唯一の門から外に出る際、見かけたドーマンさんに挨拶した


「「こんにちはー」」


「…にちは」


「おう。なんだ、また川か?」


「まあ…」


「フィーネは外に出るとしたら、そこにしか行かんな。あ、そういえば草原にも採集に行くようになったんだって?」


「今日は違うよ」


「分かってるよ、リリーさんの方から聞いたんだよ。手伝いだって感心だあ」


「一人で行くの…?」


「ナギサもいるから二人かな。…あいつは知らん」


「すごい」


「そうかそうか。じゃ、足止めして悪かったな、気いつけろよ」


「はいはいー」


 そうして門…ただの壁が途切れている場所を通ると、その森は目の前にある


「なんだか陽気なおじさんだね」


「ドーマンさんはいつもあの場所にいるんだよ」


「一日中?」


「そう」


「へー。でも良さそうだね。誰かが帰ってこない時にすぐ気づけそう」


「実際、そういうこともあったらしいよ。おかげで暗くなる前に親が迷子を捜しに行けたんだって」


 そうなんだ、私もあのおじさんにはちゃんと挨拶しとこう。何かしら起こった時最初に気付いてくれるのって、ああいう『見てる』人だから


「…それで、森の真ん中で泣いてるところを発見されたのが、3歳のフィーネ…」


「…」


「へぇ?」

 気になるエピソードが…。その分かりやすく口を噤んだとこからして実話だね?


「私たちと一緒に入ったのに、はぐれた…」


「フラネたちって、2歳でもう森で遊んでたの?」


「みんな大体、そのくらい…」


 それは凄い。流石に何も知らない素人の助で森に入らせる訳はないから、つまりこの村では2歳くらいでそういう教育を受けるのか、はー

 人間の村でこういうのは珍しいと思う。神の都合で、種族的に森に住む事が多いエルフだとかでは普通のことが多いけど、人間でこんなに自然に積極的な暮らしは記憶にもあまりない


「…ま、あれは若かりし頃の失敗だから」


「今もまだ子ども」


「開き直るのは良いけど、そこから教訓を得てよ」


「『安易に森に入ってはいけない』という学びを得たさ…」


 間違ってないけど、それはあくまで一般的な考えだからね?多分この村だと『万全を期して森に入ろう』みたいな風潮だと思うよ?

 それはそれとして、私は疑問に思っていたことを二人に聞いた


「ねえ、いくら魔の森じゃないとは言ってもこんな深い森で子供を遊ばせていいの?実際おねーちゃんは迷ってるし」


「お願いだからほっといて…」

 そんな悲痛な叫びはほっといて、重要事項でしょ


「…みんなが何回も入って、道ができてるから…迷わず帰れる」


 なるほど。フラネの説明にシンプルに納得。たしかに目の前の入口にも草が無い場所は道のようにも見える。でも…目印があるのに、それなのに迷うんだ…


「…ん?」


「……」ジー


「いや、わたしは危ないと思ってるよ。魔物が出ないとはいえ森だし…」


 そうじゃないんだけど…


「…それ以前に、フィーネは運動神経が悪い。から、森には迷子以来ほとんど入らない。ほかの子より圧倒的に遅れてる」


「なっ……」


 ははーん。圧倒的かぁ、そんな情報まで出てきた…ほら、否定できてないよ?フラネにばっさり言われておねーちゃん、言葉が出てこなくて、ただあうあう言ってる


「いま運動神経それ関係ある…?」


「ある。フィーネは極端すぎ…いつの間にか、いなくなる」


「そんな…」


「どうやったらそうなるのか、分からない。…逆にすごい」


「えっふ……」


 うん、さっきの話にも繋がったな。その時もただはぐれたんじゃなくて、他の皆のペースに一人だけ付いて行けなくて置いてかれた訳だ、恐らく


「もういいじゃん…そんな細かいことまでさあ…」(⁠;⁠´⁠∩⁠`⁠;⁠)


 よろしくないよ〜、良いわけないよー。ホントに森苦手っぽいな…あの時にトラウマでも残った?


「でもさっきの言い様だと、川には何回か来てるんだよね」


「川までは…近いし、道も険しくない。だけど、私たちが入る奥には、絶対行きたがらない…行ったことない」


「なるほど」


 またまた納得

 にしても、これは良くないよね?フラネの話からしてもここに生まれた以上、森歩きの技術は欠かせないはず。しかもただでさえ下手なのに、それを改善しようとしてなかったという訳で。なんか小さく「トラウマが…」「黒歴史が…」とか聞こえるけど、よくわかんないから無視無視


 経験不足に、運動音痴、さらには自然体でのポンコツぶり…軽くまとめてみても問題が山積み


「本当にそのための教育受けた?」


「なんの…?」


「森歩きしかないでしょ。話聞いてた?」


「聞いてたよ…妹がなんだか辛辣…」


「みんな、受ける」


 それでもこのざまか。ふむ…ちょうど運動にもなるし、よく考えたらここなら多少派手なこともできるから、魔術の練習にももってこいだ。そっちも検討しよう


 そうしてナギサは、今後のことを想像すると少しいたずらっぽい顔でフィーネに宣告した


「おねーちゃん、今度から定期的に森に行くよ」


「げぇっ!そ、それは…」


「苦手を残しておくのはよくないよ。ここは森に囲まれてるんだし」


「奥なら…山菜とか、採れるよ?」


「さらに魅力的な情報が…」


「で、でもさ、そこまでしてまで…」


「フラネありがとう。おかげでいろいろ知れたよ」


「……わたしも…フィーネの運動音痴は何とかしないとって思ってた…。…だから、よろしく」


「や、やだ~~~!絶対に行かない!」


「覚悟が遅かったからだよ…おねーちゃん…ふん縛ってでも連行するから」


 やるべきことが増えちゃったな~(^^)。さーてどうしてくれようか


「俺も、フィーネはそろそろ森に慣れるべきだと思うぜ」


「ド、ドーマンさぁん…」


「じゃ、正式に決定ね」


「…それよりいつまで話してんだ、グダグダ言ってないでとっとと行きな!」


 あ、私たちがいつまで経っても門の前から動かないから、しびれを切らして話しかけてきたのか。いやあ、うちの姉が引き延ばすものだから…申し訳ない。わがままな姉の代わりに謝っとくよ


「うん!じゃあ行こっ」


「はぁぁ~……」


 まだ何も始まってないのに、疲れた顔するんじゃないよー





 そんな一幕を経て間の仲も少し深まったところで、変わらず森の話題でフィーネを中心にぎゃいぎゃい言いながら進みだした一行は雑木林を抜け、本格的に森の中に入った。森は当然ながら木が茂っているが、とはいえまだ浅いところなので、十分に日の光が入ってくる。木漏れ日が明るいので、普通にピクニックにでも来たかのような感覚にもなりそうだ


 そしてフラネールが言っていたことは本当で、この辺りの地面は明らかに人の足で踏み固められている。なので獣道と間違うこともなさそうである。森なので木の根っこがあったり、岩があったりして多少は険しい所もあるものの、特別難所と言うような場所もない

…しかしながら…一行はゆっくりとしたペースで進んでいた。その理由はフィーネだ。こちらもまたフラネールの言う通りで、細い木の根に足を取られたり、少しの段差を上がるのに苦労したりと絶望的なセンス…森の中だと考えれば、ほぼ平坦な道だというのに…


 一方ナギサはと言うと…浮かれていた。森に入った時からなんと言うべきか…本能的なものが目覚めたようで、ウズウズした様子を隠しきれずにいる。子供のようにきょろきょろと、あちこちに目を向けながらもどんどん進んでいて、こうしている間にも気が逸って、フィーネとフラネールを置いてさっさと行ってしまいそうである



「はあー…」


 さっきと比べて、森が深くなってきた感じがする。とはいっても、まだゆうて深い所じゃないから十分光が入ってきて明るい

 そして何故か分からないけど楽しい。森に入ってから妙に落ち着くというか…自分でも理解できない謎のハイテンションが続いてる



一方、他二人



「ぜぇ…ぜぇ……(待って…)」



 二人というか…特にフィーネの方は、息を荒げて今にも死にそうな様子で心配になってしまう。しかしそのか細い声はナギサには届かず、歩くスピードを緩めるような様子は見せない



「あれ、遅いよー…本当に体力無かったんだね。これは尚更生活を見直さないと駄目だなあ」

 ところでもう先に行っちゃダメかな?


「…勘弁、して…ぜぇ…」


「…ナギサ、はやすぎ…はぁ…はぁ」


「ええ?」


 フラネもなの?おねーちゃんより全然ましとはいえ、こんなに早くバテるなんて……まだ体感100mくらいしか進んでないのだけれど…


「…それと…川はこっち」


「あれ?そうなの?」


 フラネは南の方を指差して言った。進む速度の関係上、私が先頭を進んでいたけど、進む方向が違っていたみたい


「…落ち着いて」


「ごめんごめん」


「やすませて…」


 魂が抜けてそうな一人はほっといて、改めてフラネが言う方に進むとすぐに川にたどり着いた

 あったのは小川で、深さは膝ほどまでしかないので泳ぐことはできなさそうだ。そのひらけた河原に出た


「こんなに近かったんだ」


「…はぁ…ふぅー……」


「……」


「きれいな川だ」


 私が川の水をすくったりして眺めている後ろで、おねーちゃんは地面に仰向けで、表情が抜け落ちた白い顔で呼吸を整えていて、フラネもその横でしゃがみ込んでしまっている。着いたら早速何かしようかと思ってたけど、この状態じゃ無理だろうな


「一旦休憩にする?」


「……そうして」


「……」


 おねーちゃん……悪かったって、次からはもう少し遅く歩くよ。なんか気が急いちゃったんだ


「じゃあ…私はこの辺に何があるか見てくるよ」


「ぅん…あまり、遠くには…行かないようにね…」


 他にやることもないので、辺りを探索するついでに、体を動かすことにした

一度体を伸ばして、準備が整ったらそこそこ本気で…具体的には60㌔くらいで駆け出した。お姉ちゃんの「え…」って細い声が聞こえた気がするけど、次の瞬間には既に遠くまで来ている

 風を切る感覚が気持ちいい。森で足場が悪いからこの速度が限界だ。もっと上げることはできるけど、まだ本気で体を動かしたことがないからこれ以上は転んだりするかも…今日はここまでにしとこう



 途中あった大きな岩は飛び越え、先程の川の下流の方へと、木の上を枝を伝って進む。しかし、景色に大きな変化は見られないので、それまでの道を外れて、森の奥に進んだ。そこから更に走り続け………

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