第9話 交錯
「それじゃあザラン君、フィーネをよろしくね」
「はい」
「……」
わたしは玄関を出たところで挨拶の最中、相手はもちろん今日から薬草採取に同行することになった幼馴染のザランだ。相も変わらず10歳にしてはガタイがよく、背もでかい。4歳のわたしが横に並んでいればなおさらそう見えるだろう。実年齢よりだいぶ大人にみられる体は、前世なら高校生と並んでも遜色ないのではないだろうか…
まあでもそれ以外だと、例えば雰囲気とかは見た感じは普通の少年っぽく見える…が、こいつの本性をわたしは知っている。
こいつ、おそろしく空気が読めないのだ。大人たちが真面目な話をしていても関係なく首を突っ込んで自分の言いたいことを言って去っていく。最近だと、近所の農家のおじさんが「近頃腰が弱ってきてなあ、作業が遅くなって困ってるんだよ」っていう愚痴を漏らした時、あいつが通りかかって…
「別にいいんじゃない。他にやることないでしょ」
…と言うのを見かけた。あの時はおじさんもわたしも、苦笑いどころか口開けたまま呆然としてたんだから!
その時は流石にあとで「ごめん」と言わせたが…とまあこんな感じでナチュラルに失礼なこといったり、近くにいた相手を自分の都合に巻き込んだりするやばい奴だ。この薬草採取、何事もなく終わるわけがない。というかそれ以前にコイツそのものが厄介事。わたしがそんなことを思い出してザランを睨んだまま立っていると、奴は特に思うところもなくわたしに話しかけた
「おい、行かないのか?」
「…行く」
まったく…
◇
わたしがゲンノ草を集めている横で
「…なにしてるの」
「ビッグラットでも出ないかと思って」
でたら困るわ
「お、バッタ」
「…なんでわたしの頭にのっけるの⁉」
「なんとなく」
「やめて!ていうかそんなに暇なら手伝ってよ!」
「俺、薬草の見分けつかないんだよ」
「じゃあ、教えるから!」
「面倒」
お前の相手してるこっちのほうが面倒だよ⁉
はじまってからずっとこんな調子で、既にお昼を過ぎているが、今日はまだ昨日の半分も集まっていない。…あーもう!定期的にこっちの集中を乱すものを見つけてくるんだから勘弁してほしい。小っちゃいヘビを摘まんでいるのをもう3回も見た。今日はもう帰ろうかな…薬草採取関係ないところでどっと疲れる…
「ん?なにか来る」
「え?」
またなんか面倒ごとか?まあこいつ以上に面倒なものなんて無いが
「一応下がっとこう」
「うん…」
一体何が出るかと少しばかり緊張しながら待ち構えていると、ついにそれが草の中から飛び出して来た。それに合わせてザランが、腰に吊っていた剣を抜いたのだが…
しかしこちらに飛び込んできたのは魔物ではなく、濃い紫の髪をした、わたしくらいの女の子だった
「た、たすけて…!」
開口一番、面倒事確定
「え、わ」
なんか飛び込んで来たし。待って一旦落ち着いてくれない二人とも…
「ちょ、なに…?」
「……」
「ああ…!」
ん?だからどうしたザランお前まで。向こうを見て急に固まって…なんだ?なにが起きてるんだ?
「お、おい早く立て!」
「は?」
「ゴブリンだ、ここは逃げるぞ!」
「まって…」
ホント待って理解が追い付かないんだけど。ゴブリン?ってファンタジー御用達の雑魚モンスターだよね?あと逃げるまでの判断早すぎ。お前倒せないの?それに逃げる以前に謎の子供がしがみついて離れてくれないんだが
わずか数秒。しかしそのうちにザランは遠くまで逃げてしまい、わたしたちは完全に取り残されてしまった。ついでに起き上がれない。この子力つよくない?ザランもこういうところで自慢の運動神経発揮しなくていいから
そしてさらに数秒後そいつがやってきた
これがゴブリンか………緑色の体に頭には小さい角、それほど大きくはないが、姿勢も相まって子供のわたしからだと普通に見上げるほどだ
「ギギャ、ギャ、ギャ」
「きも!」
しまった、つい率直な感想が…いや、仕方ないじゃん。だってあいつ涎だらだら垂らしながらなんかキモイ顔で笑ってるんだもの。顔は…種族的なものだから仕方ないのだけども、なんか…それ以上になんとも生理的に受け入れがたい雰囲気がにじみ出てて…ってか、こいつよくみたらっ…⁉マジ⁉たしかにファンタジーだとそういうのもあるけど、本当だとは思わないやん!マジ?!やばい混乱してる
「ギャッ!」
「ひぃっ!」
「ギャアアアアア!」
なんか触ろうとしてきたから咄嗟に避けちゃったんだけど、なんかめっちゃ怒ってる!?ひいい!やばいやばい、さっきよりキモイ顔してるっ!どうしようどうしよう・・・
ファンタジー定番のゴブリンとかどうでもよくて、
――もう死ぬのか?
あのときはたまたま神様に拾ってもらえたからこうして新しい人生を送れてるけど、次は同じ事はないだろう。ここでもまだ4年しか生きてないのにそれなのにこんな―――体が動かない
当たり前か今はただ感覚が引き延ばされてるだけで、わたしの体がそれに追いつけるはずがない。くそ…せめてこいつのむかつく顔一発殴りたい
「『クリップ』」
声はわたしの胸元から
その瞬間、世界のすべてが置き去りにされた――この空間に
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