第8話 苦手な奴
「駄目だ」
「いいんじゃない?」
お父さんとお母さんの意見は真っ二つに割れた
わたしが魔法の練習をするにあたって、まず必要なものは基礎知識の獲得…とはいっても本とかは無いし、実践で試すしかないからそれはいいとして…そして誰にも見られない練習場所だ。使い方すら分かっていないのにってなると思うけど、例えば何か出ちゃったところを人に見られたりとか…ないとは思うけれどそれってフラグだし、仮にあったとしたら洒落にならない。騒ぎになるのは目に見えている。本来ならここに資質が含まれるのだが、わたしの場合そこは問題ない
それで、あの草原は昨日行ったときは周囲に人はいなかった。昨日のようなリスクはあるものの、人目に付きにくいという点では最適だと思う。だから、これなら薬草採取で家の手伝いという名目で、人に目撃されない練習場所を確保できるという算段だったんだけど…
ちなみに何故わたしがここまで人目に付きたくないとか言うのかと言うと…。これは朧げに覚えている、あの神様と話した時に聞いた内容で、どうやらこの世界で魔法の資質を持った人というのは、その大半が最終的に国家あたりに抱え込まれているらしい。……つまりどういうことか。これでわたしが魔法を使えるようになったとしても、国という面倒事がつきまとってくることが確定したわけだ…………やったね!?(絶望)そしてそれが、わたしがわざわざ人目の無い目立たない場所を求める第一の理由である
はぁ~…とりあえず自衛のために習得しようとしてるだけなのに、何故にこんな面倒が待ち構えているんだ…。国に縛られるのは嫌だ。だって、せっかくの転生で、特にしたい事とか決めてすらないけどさ、それでも自由にこの世界を歩き回りたいじゃん。絶対外に出してくれないじゃん
やっぱやめようかな…なんて、自由に動くというなら尚更自衛手段が無いとダメだよね…
っと、そんな間にも、うちの両親の口論は続いている
「別にいいじゃないの。将来も続けられる仕事よ?それにすごく助かるし…ディーグ、あなただって賛成してたじゃない」
「危険だからだ。昨日の話は聞いただろう、ビッグラットが木の実を隠していたということは、あそこは既に奴らの行動範囲の中だ。これからも遭遇する可能性が高い」
えっマジ?あいつ暫く見たくないのに
「あくまでも俺が賛成したのは安全だと思っていたからだ。だがいまはそれが分からん」
「でも、ビッグラットよ?」
「そりゃ、俺たちなら出会ってもどうとでもなる…あんなたかがネズミ。だが、フィーネはまだ幼いんだ。戦う力も無いし、逃げるのも難しいだろう」
うーん…たしかにお父さんの主張は正しい。無駄なリスクを避けるためには当然の判断だ
「少なくとも、安全が保障できない間は一人では行かせたくない」
「…なら、誰かに守ってもらえばいいじゃない」
「誰かって…俺は無理だぞ?この村の外敵からの数少ない防衛戦力でもあるんだ。そう簡単に外出するわけにゃいかない」
「そんなこと知ってるわ」
「じゃあなんだ、他に暇してる奴の当てでもあるのか?」
「うーん。そうねえ…ザランはどうかしら。あの子10歳であの狩りの腕はなかなかよ。あと確か成人じゃないから村の防衛戦力には数えられないとか言ってなかったかしらあなた」
ビクッ
「…待って、ザランはやめて」
「ん?どうした急に…」
わたしはザランの名前を聞いてめちゃくちゃ焦った
ザランは年が6つ離れた幼馴染みで、初めて会ったのはわたしが2歳になった頃だ。それで、わたしはあいつのせいで何度ひどい目に合わされたか…
うちとあいつの親は昔から仲が良くて、親に無理矢理連れられて嫌そうな顔してやってきた。それ以来、自分が親に言いつけられていた農作業をわたしに手伝わせて、誕生日にはわたしが嫌いなヘビ持ってきて「ほら、プレゼント」とか平然と言うし、おまけに「子供なんだから問題ないだろう。お前が井戸に落ちる方が心配だ」とか言って水浴びについてきたことさえある
…確かわたしが4歳になる少し前で、うちの親が二人共留守にするからザランがわたしの世話を任されただけだから、多分本当に下心とかはなかったと思うけど………でもそれはそれでムカツクし何より前世の記憶がなかったときでも人並みの羞恥心ぐらいあったわ!
普段は時間にアバウトなわたしが時期までこと細かに覚えてるくらいには大変な思いをしてきた。しかもあいつ、何が事をややこしくしてるって、行動の一つ一つに悪意がないから…!どうしようもなくて困ってるんだよ……
「あいつはイヤ」
絶対にわたしが余計な迷惑をかけられる
「お、おぅ……だが…守ってやれる人が近くにいないと、良いとは言えないぞ」
「じゃあほか…ほかにいないの?」
父は少し考える仕草をしたが、すぐにそれもやめた
「……いないな」
「……」
呆然
「大人はみんな自分の仕事があるし、未成年で弱い魔物程度なら倒せる奴となるとあいつしかいねえな」
選択肢はねえってか…勘弁してくれ…
「大人はダメなの…?」
「無理だ」
食い気味やめて。聞いたわたしも悪いけど
「ザラン君はとってもいい子よ?いつもあなたの面倒を見てくれたじゃない」
いつも面倒を被ってるんだけど
「まあ、なんにせよ条件を満たしてるのはあいつしかいないんだ。嫌なら薬草採取自体を諦めるしかないな。別にこれまで通りリリーに言ってもらえば、何とか家計は回せるからな」
お父さんにまで見捨てられた!ホントに⁉あいつが護衛やんの⁉
「でももしやってくれたら、仕事が大分楽になるのだけどね~。家業をしながらだと、移動が大変だから…だからお願いできないかしら…?」
あ、先回りされた…。自分から言い出した話でもある手前、お母さんからもこうまで言われては今更になって断れない気が…
「…頑張るよ」
「ありがとうね」
「うん…頑張るね」
何とかね…降りかかる
ということで
元々、家の手伝いのためにやらせてほしいと説明していたため、ザランが来るならやめるとも言い出せず…結局はそういうことで話がまとまってしまった。
そして朝食の後、お母さんが早速ザラン家に行ってこの話をしたところ…ザランの母親は大喜びで、もちろん快諾した
ザラン本人に確認しなかったが…まあどうせあの人は無理やり連れてくるのだろう。わたしとザランをはじめて会わせたときみたいに…あれ、そう考えるといまのこの状況の、根本の原因ってあの人…?
ま、まあいいか。それよりどうしよう。薬草採取はするけど、元々は魔法の練習…というか、手探りでの実践をするつもりだったのに、ザランがついてくるとなるとそれはできない。機会をうかがって逃げるか…?でもそれだと攫われたみたいになって大騒ぎされそう…。はぁ…もう解決策の方からこっち来てくれないかなぁ
*
ようやく動きだした。ところでこれ、私の視線合ってるかな。何処にいるの君達
合っていない。ついでに触ることも出来ない。そうして我々のやや右に視線を向けて喋っている少女は、ご存知ナギサ(分体)だ。これからは呼びやすさ重視で"ナギサ"とだけ言わせてもらおう。ここはフィーネが住む村、タイナで、ナギサが歩いている横にはこれからの薬草採取にザランの同行が決まって、昏い雰囲気をまとっているフィーネがまさに重い足取りで歩いている。母親とは既に別れたようで、いまは一人だ
「今は君たちにだけ認識阻害を無効にして会話しているよ。それで本体から聞いたけど、君たちはここ最近千秋…ちがうか、フィーネの方を見てたんでしょ?なら流れは分かるね」
ようやく、私の方も本格的に動き始められそうだ。フィーネの中の千秋の記憶も、無事目覚めたみたいだし、そろそろ接触を図ろうと思う。
この1日間は時間感覚とか、この辺りの気候とかに軽く身体を慣らすのに使っていた。神界と比べて1日が長くて余ってしまった時間の使い方に少し困ったけど。山と丘陵地帯、そして森に囲まれたこのごく狭い地域は比較的冷涼で季節の変化はありそう。地層の感じから、ここら一帯が高地になっていそうだ
さて、この新しく始まる感覚は700年ぶり…くらいの感覚だな。曖昧なのは、あくまで私の経験ではないから
前にもそれっぽいことを言ったかな。本体はこれまでにも似たようなことをしたことは何度かあったんだ。あれは気に入った子の成長の手助けをするみたいな建前だったと思う。だけど、あの時は何かが違った、虚しかった…のだと思う
「…私が神体でないのも、だからなのかもな」
それはどれも神としてやったことだった。だからそのために、神という立場に縛られていたからだと、"私"は結論づけた
あれからわずか700年で、またこうしてわざわざ私を介した旅を始めたのは……これ以上のことは理解しようとしなくてもいいな。それは、私の役割じゃない
「あ、話の途中だった。目的から外れた思想っていうのも初めてで…うん、進めるか。接触はなるべく早いタイミングが望ましいから」
この世界では何をしようか
*
憂鬱だ
いやだー!やだー!行きたくなーーーい!――――――ハッ!嫌すぎて幼児退行していた…いや、まだ4歳だけどもこの身体
今は朝の遅い時間。8時くらい?わたしの家で、薬草採取に行くべくナイフやらグローブやらを準備しているのだが、なんとそれだけでなく、皮鎧なんかもあった。でもただの薬草採取に防御力が必要なのだろうか…?
それにそもそも何故、家にこんな装備があるのか。なんでもお父さんは若かりし頃、ハンターになりたくてこの装備を買ったが、依頼ではじめて魔物に出会ったときビビッて逃げ帰ってきたらしい…お父さんごめん、聞いたときちょっと…心の中で爆笑した
わたし?んーそういう職業にはゆうて興味ないかなぁ…いや見てみたいとかそういう興味はもちろんあるよ。ラノベとかでは定番だしね。けど自分がやるとかはちょっとなぁ…って感じ。だって冷静に考えればさ、普通に命の危険とかある訳だし、少なくともか弱い女の子がやる職業じゃない。危ないよ。異世界を楽しむなら、それ以外の方法もあるはずだ
それはともかく
その後はこの村に帰ってきておとなしく家業を継いだらしいが、装備はずっと持っていたそうだ。体格が大きくなって着けられなくなっても、息子ができた時ハンターになりたいと言い出した時に渡すためだったんだって。そんな男の子なら、皆が皆ハンターになりたいなんて本当に言い出すのかとも思ったが、男なら一度は憧れる職業なんだと
「自らの身一つで魔物をなぎ倒し、迷宮に潜って一攫千金!功績を立ててランクを上げれば全てのハンターのあこがれの的!そしてモテる!男の夢とロマンが詰まったまさに我らが天職…」
というのは父談で、多分どっかの英雄譚から切り抜いてきたものだろう
「失敗者74%」
「なんてこと言うんだリリー!」
「安心して。あなたは多数派だから」
「……」
さっきも言った気がするけど、ライトノベルとか漫画でいうところの冒険者みたいな者のことだろうな、っていう解釈で間違ってないだろう。そういう物語をたくさん前世で見てきたわたしからしても興味はあるが、お母さんの言う通り、現実的にそんな万事上手くいくはずがない
魔物と戦うのなら当然命の危険があるだろうし、迷宮ってダンジョンだよね?そんなの危ないところの筆頭じゃん。憧れ自体はあるとはいえ、あんまり危ないことはしたくないし、女のわたしからしたら、不安定な要素が多すぎてライフワークにはしたくない。……興味はあるけどね…?
そんなことを考えてこれから訪れるであろう現実から逃げていると、お母さんがわたしを呼びに来た
「フィーネー?ザラン君が来たわよー…もう着替え終わった?」
「まだー!って、勝手に開けないで!」
「あら、ごめんなさいね」
はぁぁ…ついに来たか…いざこうなってみると逃げ出したくなる
そんなこんなで急いで着替えを済ませ、腰にナイフと水筒をつって、まだあまり使われていないキレイな皮鎧をつけて玄関へ向かった。ところでこの鎧、サイズが合っとらんのだが…せっかくだが防具としての機能は期待できそうにないな…
「いってきまーす」
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