第5話 前回とは違う

 なんで量力が感じられたのか、納得だ


 私は今、車の暴走事故現場にいるようだ。現場周辺は不自然な程密度が低く、しかしその外側は人により円ができており、人間が騒がしい


「きゃああああああ!」


「AEDを!早く!」


「警察です!下手に動かないで、落ち着いて!一般の方は離れてください!」


「うわあああんママああああ!」


 たまたま近くにいた人が恐怖から悲鳴をあげ、目の前で友人を轢かれた男性があまりの衝撃に呆け、子供が母親に駆け寄って泣き叫んでいる。自分から数センチのところを車が通りすぎた人は腰が抜けちゃったみたいで、周りの人間に助けられながらその場を離れていた

 都市部だからか、もう救急車のサイレンが近くから聞こえてくる。いくつかのサイレンが重なって聞こえる。対応が早いのは都会のいいところだ


 でも、残念ながら今轢かれた人たちは助からないと思うよ。見た感じほぼ全員即死っぽいし。けがの具合から見るに多分空中に跳ね上げられたんだろうね、そこそこスピード出てたのかな

 いや、私が治療するっていう選択肢もなくはない。けど、そんなことしたらここの《管理者》に怒られると思うんだよ


 神界ではほかの神が管理する世界に勝手に干渉してはならないっていう暗黙のルールっていうかタブーというか…まあそういうのがあって、即死の人間を生き返らせるってことはそれ即ち、この世界のに干渉することに他ならない。私は最高神の分体だけど、だからといって…いや、だからこそ正式なものではなくとも、ルールを破るわけにはいかないんだよなぁ




 ……でも今回はがある


 本来ならこのような事象は自然の摂理の一部、管理者から見ればそれは異常なことじゃない。だからあの子たちは手を出さない。今回もそう。でも私は面白くなりそうなところを見せてもらった今機嫌もいいし、見てたからには何とかしてあげようかなと


 というわけで早速実行だ。君たち、私が来たのが事故直後で良かったね。抜け道があると言った理由、それはまだから。これならぎりぎりまだ死んでないと言い張れるから、治療できる。対象は歩行者11人とドライバー1人の計12人。あ、1人は既にから、実際は11人か


 まずは身体を修復しようと治癒魔術を使うと、その人たちの状態が目に見えるようにわかった。外見も悲惨なことになってるけど、中は…うわー…わかっちゃいたけど、酷い状態だねぇ…。骨は砕けてるし、砕けた骨が内臓を傷付けてズタズタだ。一番怪我がひどそうな男の人なんか、肺あたりの臓器が潰れてしまっている。まあ、それでも問題ない。早速、治癒魔術で内臓の損傷とかの内部だけを治す。いくらなんでも目に見えてよくなっちゃうとマズイからね。ただ、ドライバーの人は運転席が衝撃で潰れちゃって、無茶な体勢になってたから、部分骨折が残っちゃったけど許してね?ともかく、これでのほうは問題なし。外傷はあんまり酷いところを緩和しただけで、他は修復していない

 あとは魂だ。抜けかけている魂を、1番解離が進んでいた1人を優先的にうつわへと押し込む。手で触ることはできないので、魔力でつくった手を使って少々強引にだ。そしたら治療は完了


 さて、かなめの部分はやっておいたから、あとは人間たちの方でよろしくね。さてと、次はあのを追おう…



 かくして、この10人の歩行者を巻き込んだ暴走事件は、軽傷者9名、骨折等の重傷1名、そして死者1名という、その悲惨さと周囲への被害とは不釣り合いな結果に終わり、一時期ネットでは"秋葉原交差点の奇跡”として世間の注目を集めたそうな







 騒動もとりあえずひと段落?したから、今私は神力を辿ってる。私みたいなのがいると思っていなかったのか、隠蔽もなにもしていなかったから、すぐに座標を特定できた。それ以前に、下界に神力を感知できる存在がいるとは思わないか

 それでここは…第86世界の天界かな。確か…管理者はスレイストスだった気がする


 まあ、それはともかく、あの子はどこだろう?……あ、いたいた。スレイストスもいるじゃん。なんでだろ?なんか問題でも起きたのか?でも、本体が直近で見た全通(全世界共通情報検索システム)には、最近この辺で何かあったなんてなかったけどなぁ…。まあそれも60年は前の情報だけど。世界ってそんなすぐに変化するもんじゃないんだし


 …あっ、でもそうか。思い出した。世界に変化を促す活動の一環として、約定を結んだ他世界より、生命を貰い受けることができるなんてのがあったね。地球は人気のある候補だしそれかもしれない


 ここだけの話、魔法がある世界では魔法技術ばかり伸ばして、他の技術が伸びない傾向が強いから、その関係で約定を結ぶ相手として程々に工業が発展した地球みたいな世界が多くなるんだ。それで、諸々の事情で約定はひとつの世界線につき一つしか結べないから、地球が基になった世界線が大量に創造されたっていう歴史があったりする

 地球で転生モノの作品が人気なのも、もしかしたら深層部分でこれに関係あるかもしれない


 とりあえずちょっと話を聞いてみよ


「―――――異世界人をこちらの世界の輪廻に組み込ませて頂く――」


 やっぱそれだったか


「――別に使命だとかはありませんから―」


 お、そうなんだ。そのタイプか、ふ~ん…。よし、この旅の当面の方針決めた


 私は向こうの話が終わって、千秋の転生が実行されたのを確認してスレイストスの元へ歩み寄っていった







「さて…予定より時間がかかってしまいましたね。せっかくですから、あの世界線の活動性でも見直しましょうかね…おや」


「はじめまして」


「確かに、私とあなたは初対面ですが。その紋章…第6始祖神殿のものですね?さて何者でしょう」


 さすがだ。すぐに私の髪の紋章に目を付けた


「私は第6始祖神ナギサ・メトロン…の分体だよ」


「やはり、ナギサ・メトロン殿でしたか…」


「私はさっき創られた分体だけどね」


「それはまた珍しい」


「本体と君は一度会ったことがあるよね」


「えぇ、まあ…あまり良い思い出ではありませんが。酷いものでしたよ、せっかく設置した、環境施設もシステムも破壊されて…」


「ああー…それはごめん」


 確かにそんな記憶があるような無いような…はっきりとは思いだせない、本体がどこ行っても同じようなことになってるから


「もういいです、既に過ぎたことですから。それよりも、貴方は何故ここへ?前と同じ理由とは言いませんよね?」


「…それが似たようなもので」


「勘弁してくださいよ…」


いやぁ、申し訳無い


貰命せいみょうの盟約?」


「250年に一度。丁度良い者が比較的早く見つかりました」


 条件に合ってたんだ、あの子


「しかし…そうするんですよね?」


「今回は大丈夫。何も破壊したりしないから」


「『お気に入りの子が怪我しそうになったから』とか何とか言って、ダンジョンを丸ごと吹き飛ばしたりしないで下さいね?あれ、創るのに57年も掛けたんですから…」


「分かってるよ…」


「だと良いですが」


 本体信用無さすぎだよ…。まあ許可も得られたし、問題ないか






「行ってしまいましたか…。やれやれです。あの御方も、今度は何を考えていらっしゃるのか」


そう言って、スレイストスが何やら小さく手を動かすと、その眼前に実体を持たない様なパレットが出現・展開した。そこには『管理要塔』という文字が見える


「何も無いと逆に、理不尽にも文句を言われてしまうかもしれませんね…」

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