第4話 プロローグ
いやー楽しい時間だった。アルバムを見てるときみたいに昔の思い出も思い出せて、なんなら人生でやってみたかったことの幾つかは叶えた気がする
ところで…私何してたっけな
「…もういいですかね」
え?
「はぁ…ここが天界で、時間軸がゆるいために多少の無駄な時間は許しましたが、流石にこれ以上は待ちませんよ。地球にすれば既に1時間が経過しています」
目の前に困り顔のイケメンがいた
あー…そうだった。何か大事そうな場面だったから、ちゃんとした服を着ようみたいな感じになったんだっけ
…そのせいで相手の目の前でふざけまくって、挙句の果てに1時間待たせたのか…もはや失礼のレベルですらない…。頭おかしいな私
「別に、今になって反省しなくとも結構ですよ。まだ許容範囲内です」
…ん?そう言えば、私何も言ってないのに会話が成立しているな。
………もしかしてだけど、私の思考を読んでたりする?
「そうですよ。正しくは、貴方から自然と漏れ出ているのですけれど」
マジか。えじゃあ…さっきの心の声全部聞いてた…?
「当然です。本当に、1時間ぶっ通しで思考できる貴方の想像力はあっぱれですよ」
うわー…まじかよ…。個人的な感想駄々漏れ…いや、その言い方だと垂れ流し…?
それとどうして気付かなかったんだ…今更ながら思えば、こういうのって漫画で主人公が転生するシーンそっくりじゃん。そんで心を読んでくる神様とかも半分お決まりみたいなところあったわ
でもやっぱりそれよりさ…え、恥ずかし。変な事考えてなかったよね…だとしたら恥ずか死なんだけど。普通に今こっから逃げ出したい
「その必要はありませんが…。そもそもここは現在、外とのつながりがありません。つまり入り口も出口も存在しませんよ。そんな空間からどう出るつもりで」
え……。…いや、その前にそんな場所に私を連れ込んでどうするつもり?まさか…
「そんな馬鹿な…。あなたをどうこうするなんてあり得ませんよ…」
あ、そう…。ただの勘違いか…
「むしろ、先程あそこまで思い至って、どうしたらそんな結論に行き着くのですか…。はぁ…まだ短時間しか会話をしていないのにも関わらず、既に頭が痛い思いです」
すまん、私も分からん
「もういいですよ。それで、そろそろ今の状況と、私について説明を始めますね」
あ、本題まだだったか
「はぁ…逐一脱線させているのは貴方ですからね」
悪かったよ。だとしても露骨なため息やめてよ
「では、始めますね。まずここはさっきも少し話したように、第86世界の天界です。ここでは、私を含めた数名の管理者と、使い…いわゆる天使が、数百もの世界線とそれを構成する次元を管理しています。そして時たま、世界の変化を煽り、進展を促すために、あなたのような方々をこちらの世界の輪廻に組み込ませて頂くという盟約を先方と交わしているのです。それで、なぜあなたがここに喚ばれたのかということですが…別段、深い意味がある訳ではありません。たまたま条件に合う方がいらっしゃったため、それを選ばせていただいた次第です」
なるほど、話が長い上に内容もよく分からん。ごめんいったん待って?転生って部分しか理解出来なかったから。
てかやっぱり転生だったか…。漫画とかラノベでよく見るシチュエーションだけど、実際体感してみると意外と実感とかないんだな。というかそれより、私ってそんな何となくみたいな理由で選ばれたのか…
まあそれはそれとして。えー、ここは第86世界っていう場所で?世界の進展を促す?変化を与えるって具体的に何すればいいんだろう
「今までの皆さんもおっしゃいましたが。別に使命だとか、やらなければならない事などを課すという意味ではありませんから、貴方は好きに生きて貰えば結構ですよ。変化を促すというのは我々の方でも色々と試行していますので、それだけでも十分効果が見込めますから」
そうなの?じゃあ、やったぜ!そう考えたら、この転生って就活とかの面倒なしがらみから開放された上に、自由の保証もしてくれるってこと?よっしゃ!ここは天国だぁ。そういえば天界だっけ、似たようなもん?
…ん?待てよ、自分達も動いているんだったら、そもそもそんな盟約は要るのか?まあ、保険的なものなのかもな
「あなたがこれから転生する世界は、ここ第86世界の271世界線。環境などは貴方がいた地球と大差はありませんが、理を歪め得る力、…まあ分かりやすく言うと魔法が存在します」
おお、魔法!こういう異世界転生には付き物だよね。私も使ってみたいなぁ…
「この世界の生物は大なり小なり魔力を持っていますから、生活魔法ぐらいなら練習すれば誰でも使えるようになりますよ」
そうなんだ。派手なのも使えたりする?例えば攻撃魔法とか
「もちろんです。ただ、こちらはどうしても資質に影響されますが」
えー…
「まあ本来ならばそうですが…」
お?なにかあるの?
「ええ。貴方のような方々にとって、この世界は過酷に感じられるそうですので、何がしかの魔術の資質を贈呈することにしています。その方が世界に寄与される利益も見込みが大きくなるようですし」
要は火魔法とか水魔法とかのことだよな…何が良いかな。火は日常でも使えるし便利そうだし派手な攻撃魔術とはちょっと夢がある…いや、でもどこからスタートするか分からないぞ、だとしたら最低限生きるのに必要な水か?しかしそれを言ったら他のだって気になる…。なまじ
…全部取れればなぁ…
「全部ですか…?」
あ、聞こえてんだった。やべえ、それだとちょっと欲張りすぎ…
「ふむ…まあいいでしょう」
え、……マジ?
「それ自体に問題はないでしょう。…『全部』だなんてことは初めてですが」
あ…やっぱり先輩方も言わなかったんですね…全部は。なんだか申し訳ない。でも言ってみるもんなんだなぁ…通っちまったよ、こんな暴挙が…有難く頂きます
「先ほどの通り、私としても初の試みですが…努力すれば全ての魔法を習得できるように調整しておきます」
いいなそれ。…それって成長系のスキルとかかな?
「スキルですか?違いますよ。271世界線にそのような概念は存在しません。もっと単純に、魔力的な相性などを調節するだけです」
あ、そうなんだ。相性とかもあるのか…まだよく分からないけれど案外簡単にはいかないかもしれない
「これはアドバイスですが、まずは魔力をある程度自分の意志で動かせるようにする訓練をすると良いでしょう。頑張ってください」
わかりました!ありがとうございます!
でもこのおまけはでかいぞ!よっしゃ、全ての魔法を習得できる可能性を手に入れた!
あ、あと…
「何でしょう」
もう少しお話って大丈夫ですか?向こうの世界の事とか、転生前に知っておきたいので…
「…ええ、構いませんよ。何から聞きたいですか?」
*
*
*
色々ありがとうございました
「どういたしまして。では、大方説明も終えましたので改めて…271世界線への転送処理を行います」
転送処理…始まるのか。大丈夫、心の準備も出来た。あとは、無事成功しますように…
男の声ははっきり聞こえるのに、姿は遠くなっていく。なんとも不思議な感覚だ
「確認ですが、あなたはタイナという村に生まれることになります。森に囲まれた不便な立地となってはおりますが、それでも考えられた土地です。生活に困ることもないでしょう。それでは、良き人生を」
特に理由はないが、自らの光っている手を男がいるはずの方向に手を伸ばして何かを掴もうとした。しかし、その手は何も掴まない。視界は真っ白だ
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