第2話 始まり
「それは、今から君達に考えて貰おうかと思ってる。何かして私の暇つぶしに付き合ってくれない?」
何故上に!?意識を外したつもりはなかったというのに…
「君達程度なら、こんなもんだよ」
今でも健在ということか…。それにしても、ただ暇つぶしに付き合えなんて…何をすればいいか明確にしてほしいものだ
「でもその前に、問題です。私は今何をしているでしょう?」
本当にいつの間に登ったのか、島の中央にある大樹の枝の上で幹に寄り掛かり、我々を見下ろしている。ただ寛いでいるようにしか見えないが…言い様からして、そんな事はないのだろう。
それと、普通は不可視の我々を見ているので、はたから見れば虚空を見つめているように見えてしまっている
「正解は体に無力を巡らせて内在エネルギーの上限を上げながらそのエネルギーをそれぞれ全属性の術に変換してそれを
どうやらぼーっとしているように見えて彼女の中では無数の動きがあったようだ。しかし、我々はまだ何も言ってすらいなかったにも関わらず、先に答えを言われてしまった…
「これが大体毎日やってる私の日課だよ。どうかな」
どうと言われても、反応に困る。ナギサ・メトロンが暇を持て余しているのは、数万、数億では到底足らない時を生きているためであり、そうなればそれも仕方のないことではある。…ところで、その日課とはどれくらい前から行っているのだろうか
「さあ?別に知らなくて良い事でしょ。さてと、今日が終わるまで後17時間と42分くらいか・・・。明日になったところで何も変わらないけど・・・何をしようかな」
前回情報が足りないと言って、色々聞いたところによると、ここ神界では特に時間の概念はなく、朝昼晩もないらしいが一応基準となる時間の示準はあるらしい。1日が18時間で1週間1ヶ月という区切り方はなく、1年はおよそ486日・・・要するに1年の時間は、地球と大方同じのようだ。
「君達の基準でいろいろ考えてるみたいだけど、ここは神の住まう神界だから完全に重ねて考えないほうがいいよ。私たちの都合で、いくらでも変化し得る」
…そうか、訳が分からない
「それよりもさ、見て分かる通り暇なんだけど、どうすればいいかな?」
こちらが聞きたいところだ
「あっ、そうだ」
何か、思い付いたようだ。我々から視線を外し、何か頭の中で構想を立てているらしい仕草をしている。…何かは分からないが、おかしな事ではないことを祈る
一通り考え終わったらしい。ナギサ・メトロンは、目の前の虚空に手をかざした。
すると何もなかったはずの空間に、ナギサ・メトロンそっくりの少女が形作られた。…これは完全に予想の範囲外だ
それは僅か数秒の間に終わり、その少女は枝に軽やかに着地すると目を開いた。普通は逆なのではないか
「よし、成功」
「…そうみたいだね」
最初のはナギサ・メトロン、後のはナギサ・メトロンのような誰かだ。
声も全く同じに聞こえた。当然顔も同じなため、こうして並ばれるとどっちがどっちだか区別がつかない…というところだが、唯一ある差異のおかげで識別できる。ナギサ・メトロンには左前頭部の辺りにある紋様のようなものだが、もう一方はない
「あるよ」
そうなのか?ナギサ・メトロンはそう言うが、全く持って見当たらない…ん?…見つけた、左目だ。何とも判りづらい所に…
そこで、ナギサ・メトロンは再度我々の方に向き直った
「この紋章は、あんまり目立たない方が良いと思ってね。それで、この子も私だよ。ただ超活性可変エーテル体で作った、依り代に私の精神の一部を写して、いろいろこねて、記憶とかを継承させた精神体を擬似生命核として入れただけ」
…はい?
「さて、何がしたいのか聞きたいんでしょ、いいよ教えてあげる」
いや、それもだが…もっとその人物について言及してくれないだろうか。なんちゃらエーテルの時点から理解が止まっている
「これはいわば私の分体で、現在この分体は私の意思の下に自我を持ってる。それで・・・長々と喋るの好きじゃないから結論だけ言うと、この私にいろんな世界を自由に旅してもらおうかと思ってまーす!」
自分の分体の肩に手を置いてやや早口で話している。テンションもやや高い。
「…ねぇ、さっきから誰に向かって話してるの?」
と分体
「ああそっか。今の君には中位神の最下級程度の力しか与えてないんだっけ。なら仕方ないか。えっと、あの辺から覗いてるから、そこに向けて説明してるの。君も意識の片隅にでも入れといて」
「何が…て、あれか。了解」
「自分との会話は楽だね」
何やらこちらを指差して会話をしているが…
「そうだね~・・・あの人たちもいるし最初は地球にでも行ってあげたら?」
「まぁ…候補としては悪くないかな…分かった、それじゃあ行くね」
「いってらっしゃーい」
そうするとすぐに、ゲートのようなものを開いて、そこに入っていった
「よし、君達もついでだから見に行ってみれば?丁度暇つぶしにもなるだろうし。分体の行動データの提供の中継も君達に任せるね」
何が何だか全く理解が追い付かないが…とりあえず行こう。急がなければゲートが閉まってしまいそうだ
「とりあえず地球にある私の家…んー懐かしいねー?海も変わらずきれい…いや、よく見たらゴミが浮いてる」
これはあまり良くないな。ここでは、他の世界の生物も暮らしてたりするし、何が起こるか分かんないよ。本体が昔、この島の近くでだけ生息できるようにしたせいでね
「もう…仕方ないなぁ」
記憶では、食べたとしても死ぬとは思えないやつらばっかだと思うけど、なんか突然変異とかしたら面倒だから、念のため取り除いておこう
網目の細かい魔力の網を島から半径1㎞の海中につくってゴミやらなんやらを引き揚げた。魚も取れちゃったけど、そいつらは逃がした。そして引き揚げたやつは火魔法で燃やす
プラスチックを燃やしたら環境に悪いんじゃないかって?大丈夫、魔術だから。
「さて、家の方は…よかったちゃんとあるね。いや、『保存』《キーピング》の魔術かけてたから当たり前だけども。今更なんだけど、私…正しくは本体が、確か3京年くらい前になんとなくでスローライフみたいなことやってて、これはその時のやつ。ここは太平洋?のどっか」
恐らくだが、我々に向けて解説してくれているのだろう。但し、我々が見えていないせいで、全く目が合わない
ナギサ(仮称)は島を一周りして不思議な植物が茂っていてもはや小さな森のようになっている畑や、見ても何も分からない家の地下にあった魔法陣などを見ては懐かしいと言っている。所々手入れをした方がよさそうなものもあったが本人曰く、
「いまは使う予定もないから」
だそうだ。なら何のために来たのかとも思うが、昔の名残を見に来ただけなのかもしれない。
そしてあらかた見て回ったところで満足げな表情でこう言った
「よし次いこう」
……
「…なに?」
こちらの「…それだけ?」という不満げな雰囲気を感じ取ったのだろうか。こちらに来てかがんで、これまた不満げな顔でこう言った
「君達は何を期待してたの?私が地球に行くとなるとここしか用はないんだけど………仕方ないなぁ、適当に秋葉原にでも行っとく?たまにアイデアを仕入れにいったりしてたみたいだから」
そう言うとナギサは立ち上がって転移魔術を使った
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