出会い
愛空ゆづ
猫との出会い
3月にしては強すぎる陽射しを感じながら僕は帰路に就く。退屈な毎日に木々も少しばかりうなだれているようだ。僕はその陰をありがたく歩いていく。並木のある街道を外れて角を曲がった瞬間、急に差し込んだ陽射しに思わず目を閉じてしまう。
ゆっくり目を開けるとそこには一匹の猫がいた。その猫は強い日差しを全て飲み込むような深く美しい黒色であった。陽射しなどは気にも留めない様な涼しげな顔をしている。
黒猫はこちらに首を凭れて、ついてこいとでも言うかのように歩き出す。なぜだか、その猫の行き先が気になってしまい、追いかけることにした。いつもの道を外れ、路地を進んでいく。知らない商店街を抜けていく。自分のいた世界ではない別世界に来たような気分である。徐々に道が狭くなり追いつけなくなると、こちらをチラッと確認して止まってくれるが、一定の距離まで近づくとまた先へと進んでいく。
どれだけ歩いただろうか、ここは一体どこなのだろうか。少しずつ木々が生い茂り、涼しくなってきたのが感じられる。
ふと猫が足を速め、木々の隙間に消える。急いであと追うと、そこには一人の女性がいた。艶のある短い黒髪がとても美しい。僕はあまりの美しさに見惚れてしまい、言葉が出せなかった。どうしてこんなところに人がいるのだろう。そしてあの猫は何処に行ったのだろうか。たくさんの思考が自分の中でグルグルと回る。女性がこちらに顔を向けて涼しげな顔で笑うと、風が吹いて木々が揺れ、眩しい陽射しが目に飛び込んでくる。
目が眩しさに慣れた時、もうそこには誰もいなかった。
僕は毎年この時期になるとその事を思い出す。
出会い 愛空ゆづ @Aqua_yudu
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