第12話 びっくりされた

「えー!?」

「うるさいな!」


 榮口さかぐち芳枝よしえにお茶に誘われて、予定が特になかったから付き合うことにした。


「静かにしろよ」

「だ、だって!」


 ぴょこぴょこと、ポニーテールが跳ねる。


「あんたとお祭り行く人いたなんて、びっくりするに決まってるじゃん!」

「失礼なヤツ」


 榮口からも祭りの誘いがあったから、即答で理由付きで断った訳だ。

 常に単独行動だからか、見かねたのだろう。


「どんな人?女の子?同じ大学?」

「内緒」

「教えてよー!」

「声が大きいぞ」


 ここはファミリーレストラン。

 休日だから、家族連れやカップルが多い。

 俺たちも、カップルと間違われているのだろう。

 うーん…嫌だな。


「あー、つまんなーい」

「何でだよ」


 榮口はうーんっと体を伸ばす。

 「んあぁ!」と脱力した榮口。

 そして、俺を鋭く見る。


「マジで教えてくんないの?」

「嫌だね」

「何で?」

「べらべら言うもんじゃないだろう」

「ふーん」


 ジト目、止めてくれ。


「尾行しよう」

「止めろ」

「大丈夫、バレないように尾行するから」

「怖いわ」


 なんなんだ、執念?を感じなくはないが。


「そんなに気になるのか?」

「うん」


 はぁ、と溜め息。

 頭をガリガリかいて。


「分かったよ」

「えっ?良いの!?」


 榮口の目に輝きが宿る。


「鼻の下を伸ばしていた時に遡るが?」

「あー、ベンチに居た時ね!」


 そう、出会いは、その時さ。

 清瀬きよせさん、ごめんなさい。

 守りきれそうになくて。


「さっさと話しなさいよ!」


 榮口の圧に負けて、ゆっくりと語った。



「そうだったんだー」

「それで、祭りは清瀬さんと一緒に行くわけさ」


 祭りの約束まで語り終えた。

 出会ってまだ日が浅いため、15分くらいに話は収まった。


「会ってみたいかも」

「会わせん」

「何でよ!」

「ぐいぐいの人、苦手そうだから」

「ぐいぐいいかないし!先輩を困らせないし!」

「どうだか」

「むぅ!」


 頬を膨らませて怒る榮口だった。



 まさか、出会いがあったなんて。

 このままだと、私、フラれる。

 でも、私のことなんて、眼中にないのは分かってる。

 どうしよう、困った。

 敦音あつととお茶する、という名目で一緒に居たけど、最後は私にとってモヤッとする感じになってしまった。

 彼は何とも思ってないはず。

 告白してフラれるまでは、彼の中には常に河嵜かわさきさつきがいた。

 今はフラれた後に出会った清瀬さんが、彼の中に居る。

 私なんて、入る隙間がない。

 河嵜さんがフッたから、チャンスと思っていたのにー…。

 とりあえず、どこかで会わなきゃ。

 清瀬さん、どんな人か知りたいし。

 敦音が鼻の下を伸ばしていたくらいだから、きっと可愛いのかな?

 もしかして美人かも。

 うーん…モヤモヤする。


「ゲーセン行こ!」


 ストレス発散しないと、耐えられない。

 私はゲームセンターのある方向に歩み出した。

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