第9話 交換

 学食で汁なし担担麺を頼み、出来上がったので取りに行った。

 近くにあった調味料の中から、ラー油を一回しかけて、七味唐辛子もたっぷりふりかけた。

 辛さは申し分ない。

 割り箸と冷たい水をお盆に置いて運ぶ。

 すると、遠くの方に清瀬きよせさんを見付けた。

 向かいには友達だろうか。

 なんて考えていると、清瀬さんは俺に気付いて手を振ってきた。

 会釈する。

 向かいにいる友達も俺の方を見た。


 あれ…先輩?!


 俺は早足で清瀬さんの元へ。


棚部たなべ君、こんにちは!」

「お疲れ様です清瀬さん」

「やぁ、あっ君♪」

菅崎かんざきさん、うっす」


 まさかの人と遭遇するとは。


「知ってるの美鈴みすず?」

「同じゼミだからね~♪」

「なるほど!」


 この2人、友達?


「菅崎さん、清瀬さんとはどういう?」

「ん~?知りたい?」


 頬杖をつき、挑発するような、そんな表情をする菅崎さん。


「美鈴、意地悪しちゃダメじゃない!」

「あはは、ごめんごめん♪」


 清瀬さんが菅崎さんに注意をしてくれた。


「友達だよ、高校から」


 そんなに長い付き合いなんだ。


「そうでしたか」

「あっ君、座りなさい」


 菅崎さんは向かいの空いている席を指差した。

 そろそろ座りたかったので、お言葉に甘えて着席。

 運んでいた汁なし担担麺の乗ったお盆をテーブルに置いた。

 腕のプルプルは治まる。ずっと持つと疲れるな。

 隣は清瀬さん。

 ベンチの時よりも近い。どうしよう。

 

「さらの事、詳しく教えてあげても良いよ?」


 知りたいような、そうでないような。


「変なこと言わないで!」


 恥ずかしい事でもあるのかな?


「さ、食べよ食べよ!」


 菅崎さんの前にはナポリタンと梅おにぎり1つとスープ。

 清瀬さんの前には、温かい天ぷらそばとツナマヨおにぎり1つ。

 どちらも美味しそうだ。


「棚部君、汁なし担担麺、だよね?」

「はい」

「辛そう…真っ赤だし…」

「そうですか?」

「「えっ」」


 清瀬さんと菅崎さんがギョッとした顔になっている。

 辛さは増し増しとはいえ、そんなに赤いのか?

 首を傾げてしまう。


「辛いの好きなの?」


 恐る恐る聞く清瀬さん。


「はい、辛いの好きですね」


 堂々と言った。


「私は辛いの苦手だから、羨ましいなぁ」


 なんか、そんな気がしていた。

 清瀬さん、イメージ通りだな。


「あっ君の知らない一面をさらは知った」

「ちょっと!」

「冷めちゃうよ~♪」


 ゼミの時の菅崎さんと今の菅崎さん、印象が違う。

 きっと人によって自然と雰囲気が変わるのかな?

 面白い人だ。


「さら?」

「何?」


 間を置いてから、菅崎さんは言った。


「あっ君と付き合ってるの?」


 ビクリと清瀬さんの体は跳ね上がり、一気に顔が赤くなる。


「違う違う!!」


 慌てるように言う清瀬さん。

 ちょっと傷が。


「連絡先は?」


 菅崎さんに言われて初めて気づいた。

 そうだ、連絡先の交換をしていない。

 交換しなくても、なんとなく、居そうな場所に行って会えていたから。


「まだだね」

「そうなの?なら今交換しちゃえば?」


 菅崎さんの一言で連絡先を交換した。

 早速俺はメッセージを送った。


 “よろしくお願いします”


 すると、ピロリンと鳴った。

 見てみると、返事がきていた。


“こちらこそ、よろしく♪”


 菅崎さんの仲介で、清瀬さんと連絡先を交換できた。

 嬉しいな。

 その後は、3人で談笑しながら、食事を楽しむのであった。



「あっ…」


 モヤッ…


 黒い感情が浮き上がるような感覚に、少し戸惑う。

 だけど、私は嫉妬した事を自覚する。


 あの綺麗な人と、また彼はいた。

 綺麗な人の隣の人はその人の友達だろうか。


 振った自分が、嫌いになる。


「さつき、早く座ろうよ」

「あぁ、うん…」


 友達の後をついて行くと、いつの間にか彼らの事を忘れた。


 もう見たくない、あの2人が一緒にいる所をー…。

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