第7話 提案

「ここまでにしようか」


 4年の村上むらかみ和生かずきさんが、今日の終わりを告げた。

 黙っていた田之上たのうえ先生は、ニヤニヤしている。

 不気味である。

 今回は前回の続きの議論。

 明日は英語の勉強会。


「お前ら…予習しとけよ」

「「「はい」」」

「それとよぉ…」


 あっ、これは、もしや。


「今日の議論は、無駄だったな」


 否定された。

 薄々感じていた、昨日から議論している事柄。

 あーでもない、こーでもない。

 無駄な時間と思いつつ、1段落分は終わった。

 が、先生からしたら、無駄だったようだ。

 飛ばせ、ということか?


「各々、考えとけ」


 いつの間にか荷物をまとめて、上着を着て、出入り口のドアにいた先生。

 ワープしたのか?なんて疑ってしまうくらいに早い。


「んじゃ、後はよろしく。さいなら」

「「「お疲れ様でした」」」


 ドアが閉まり、足音が聞こえなくなった所で、村上さんがドアを開けて先生がいなくなった事を確認して、ドアを閉めた所で。


 全員脱力した。


「同じ話を違うメンバーで議論しながら進めて結論を出してるけど、毎年解釈は違うのは何でだよ!」


 3年の大八木おおやぎ健士たけしさんが言った。


「あの山に行って呼べば…」


 もう1人の3年の阿波あわ朋久ともひささんの、冗談のような本気度にビビッていると。


「イタコを頼るな」


 と大八木さんがツッコミ。

 雑談をしながら片付けをしていると。


「はーい、普通のお茶~」


 紅一点である4年の菅崎かんざき美鈴みすずさんが、全員にお茶を配った。


「美味しくないからごめんね」


 ニコニコと小首を傾げて言う菅崎さん。


「そんなことないっすよ」


 と大八木さん。


「美味いです」


 と阿波さん。


「ありがとうございます」


 と俺。


 菅崎さんは褒められると機嫌は良いので、皆絶対に褒めるのだ。

 一言でも文句を言ってみろ、大変なことになるのだから。


「かず君、みんな優しいね♪」

「美鈴、そんなこと当たり前だろう」


 村上さんと菅崎さん、仲良しだな。

 大八木さんと阿波さんは、この2人は付き合っている、なんて言っていたな。

 ただ同期だからってのもあるのに。

 因みに菅崎さんは、大八木さんのことを“やぎ君”。

 阿波さんのことを“とも君”。

 俺のことは“あっ君”。

 あだ名で後輩を呼んでいる。

 ゆっくりした所で、マグカップを片付けて、電気等の確認を終えた所で、全員出た。

 鍵を村上さんがかけて、ポストの中に鍵を入れた。


「お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」」


 解散となった。

 時刻は午後7時。外は暗かった。



 大学裏にあるスーパーで買い物をしていると、見覚えのある人を見付けた。


清瀬きよせさん」

「あっ、棚部たなべ君!」


 珍しい。ジャージ姿だ。


「買い物?」

「はい、冷蔵庫何にもなくて」

「ちゃんと何かストックしといた方が良いよ?」

「気をつけます」


 自然な流れで2人で買い物をしてスーパーを出た。


「ねぇ?」

「はい」


 アパートに2人で向かっている時だった。


「一緒に夕飯、食べない?」

「えっ?」


 思いがけない提案に、ドキッとしたのだった。

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