第6話 謎の場所

 コンコン、ガチャリ


 ドアをノックして開けた。


「失礼しまーす。お疲れ様でーす」


 挨拶をしてから入る。


 1番奥に、向かって左側に机と回転する椅子がある。

 回るとキイキイと音がする。

 その反対側には食器棚とポットがある。

 食器棚にはマグカップやら湯飲みやらがあり、その上にはコーヒーを淹れる道具が一式。

 いつでも淹れて飲めるように。

 話を部屋の中に戻すと、入って直ぐ、真ん中に長机が2つ、縦に置かれていて、丸椅子が右と左に3つずつ、計6つある。

 壁と椅子の隙間は1人分通れる。

 そこを通ると、右側にパソコンがある。

 そして小型のコピー機もある。

 左の壁には、ホワイトボードがある。

 前回、議論した内容が途中まで書かれていた。

 右の壁には、今年の目標と計画の一覧が書かれてある模造紙が貼られている。

 先生、いないのか。

 ここは教員棟のとある部屋。

 階段を上ると2階に到着して直ぐの所。

 奥にいかない。

 階段で2階に着けば目の前にあるのだから。

 この部屋の主は変人。

 他の先生方からも学生からも敬遠されている。

 ある意味、あまされている。というか、窓際のような。

 それでも、ほんの一部の先生方とは交流はある。

 ここにいないとなると、体育の男の先生とテニスかな?

 スポーツではテニスが好きらしい。

 よく体育の先生に電話している。

『なーおちゃん、あっそびましょう』

 なんて言って、茶目っ気たっぷりだ。

 テニスのお誘いでなくても、用事の時もそう言って話す。

 見た目は、眼鏡をかけていて、かの有名な動物大好きのムの付くおじいちゃんに似ている。

 性格は変わり者。酒と温泉をこよなく愛している。

 厳しいことも言うが、なんだかんだで優しいし、学生をよく見ている。

 何でもお見通しな感じで、逆に怖く思う。

 が、信頼は出来る。

 いうことを聞けば、なんとかなるんじゃないかと思ってしまうのだ。

 俺は荷物を隅に置き、パソコンを起動。

 開いたらまずはメールをチェック。

 特になし。

 電源を切ってから、ポットの中を確認。

 水が入ってあったのでスイッチを入れて、お湯を沸かす。

 その間にコーヒー豆を挽く所から始める。

 コーヒー豆をコーヒーミルに入れて。

 ゴリゴリ、ゴリゴリ。

 コーヒー豆の香りがしてきた。

 挽き終えて、今度はドリッパーにコーヒーフィルターをセット。

 サーバーも準備万端。

 ポットから『エリーゼのために』が流れた。沸いた合図だ。

 フィルターに挽いた豆を入れて平らにする。

 コーヒーポットにお湯を入れて、そっとドリッパーに円を描くように注ぎ入れる。

 少しずつ、ゆっくりと。

 サーバーに溜まる出来立てのコーヒー。

 部屋中に香りが広がり、心が安らぐ。

 2人分は出来た。

 さて、食器棚から自分のマグカップを出して淹れようとすると、ドアが開いた。


「喫茶店、始めたか?」

「お疲れ様です」


 主の田之上たのうえ先生が現れた。


「俺の分は?」

「あります」

「気が利くな」


 ガハハと笑って先生は自分の机に向かい、椅子に座った。

 用意しなきゃ何を言われるか分かんないからな。

 なんて、余計な事は言わない。


「他は?」

「遅れるそうです」

「そうかそうか」


 他とは先輩方のこと。


 ここは、先生が育てたいと思える学生しか所属出来ないサークルでありゼミである。

 学年は問わないが、俺の代でもう学生は取っていない。

 それは、俺の代が卒業したら、この大学から先生はいなくなる事を意味する。

 故郷に帰って隠居、だそうだ。

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