第3話 気まずい

 いつものように、早く講義室に来た。

 誰もいない。

 いつもの席に座り、のんびりする。

 でも、心は落ち着かない。

 鼓動が激しくなる。

 スマホでゲームをして、なんとか落ち着かないかと、押さえ付けていると。


「おはよう」


 ビクッ。体が反応した。

 声のした方を見ると、あの子だった。


「おはよう…」


 俺の事をフッた女の子。

 河嵜かわさきさつき。

 学部は違えど、学年は同じ。

 腰辺りまで伸びた長い髪。

 小柄で小動物に見えてしまう可愛らしい容姿。

 目はくりっと大きく、余計に童顔に見える。


「隣、良いかな?」

「あっ…うん…」


 さつきは隣の席に座った。

 フッたくせに、何で…と思い、複雑な気持ちになる。

 気まずい。俺だけだろうか。

 彼女は一体、何を考えているんだ。

 理解出来ない。

 貧乏揺すりを自然とやっていた。

 不安、なのかもしれない。

 そして、イライラも。

 あぁ…離れたい。

 そう思っていた時だった。


「おっはよー!淳音あつと!」


 ピタリと貧乏揺すりが止まった。

 良いとこに来てくれた。


「おはよう、榮口さかぐち


 安心した。

 もうちょっとで、呼吸が止まったかもしれなかったから、助かった。

 榮口は俺の前の席に座った。


「おはよう、河嵜さん」

「おはよう、榮口さん」


 この2人、距離感あるなと思っている。

 緊張感が耐えられないこともある。

 なんか、分かり合えない、という雰囲気。

 馬が合わない、みたいな。

 同い年なのに、何で?

 さつきは要領よく上手く人付き合いは出来そうだし、榮口なんか誰とでも直ぐ打ち解けると思っている。

 だから、2人は話せば分かるのに、話せば話すほどに、心が離れている気がした。

 仲が悪いとか仲が良いとかではなく、ただ、互いに存在は認識している、に止まっている。

 本当に2人は不思議だ。

 榮口は俺とさつきを交互に見て、首を傾げた。


「なんか、変。どうしたの?」

「「えっ」」


 変に鋭いのが、たまに嫌になる。


「親しみの感じが、なくなってるから」


 マジかよ。頭を抱える。

 さつきは苦笑する。


「そんな風に見える?」

「見える見える」

「気のせいだよ」

「本当かなぁ?」


 怪しむ榮口。

 これ以上追及しないでくれ。

 と思っていると。

 ふと、辺りを見た。

 続々と学生が集まっていた。

 腕時計を見ると、そろそろ講義の時間が迫っていた。


「本当に、変なの」


 と榮口は言って前を向いた。


 ガラガラ…スタスタスタ…。


 先生が現れた。時間のようだ。



「今日の出席の番号は3で」


 先生の指示に従う。

 スマホには、出席登録の画面が映っている。


「準備は良いか?」


 ここにいる全学生の様子を見た所で。


「では、いきまーす。せーの!」


 一斉に決定と書かれた所をタップした。


「はーい、終わりまーす」


 講義が終わった。

 毎回、出席登録はスマホで専用ページにアクセスし、先生が言った数字を選択し、一斉に決定を押すのがルール。

 この時だけは、ピンと張り詰めた空気になる。

 タップし終えると、一気に緩む。

 解放感、とでも言おう。


「ちょっと淳音、河嵜さん、一緒に学食に行こうよ!」


 げっ?!

 これはマズイ、逃げないと。


「悪い、予定あるから」

「えー?!あり得ない!」


 そんな抗議に怯まない。

 俺は急いで席を立って、肩に鞄をかける。


「んじゃ、また」

「ちょっと、えっ!?淳音!」


 榮口の大きな声を無視して、講義室を後にした。


「何よ!全く!」

「ごめん」

「は?」

「ここじゃなんだから、行こう」

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