オトモの態度が変わっても私の大事は変わらない

和登

オトモの態度が変わっても私の大事は変わらない

わたしはサッチ。わたしは大事にされている。いつも大事にされている。

わたしにはいつも一緒にいてくれるオトモがいる。力強いのと柔らかいの。

彼らはわたしをいつも満足させてくれた。


お腹が空くころにご飯がでてきて、眠たくなるころに布団があり、着替えもいつもきれいなものを召し替えてくれた。


目を開ければオトモはいつもいて、もしいなくても声を出せばすぐ駆けつけた。力強いのは素早く召し替えてくれて、柔らかいのはいつも笑顔だった。


彼らはわたしが何をしても喜んでいた。食事をして良くできました。着替えをして良くできました。あなたはいい声をしているね。伸びて来た髪がきれいだね。

大事にされているにだから当たり前である。


だが聞いてほしい。

彼らの態度はだんだん変わっていったのだ。

今のわたしは大事じゃないのかもしれない。


ご飯はスプーンを一緒に渡されて自分で口まで運ばなければなくなった。オトモチャンは両手を合わせたと思えば先に自分たちで食べ出してしまう。うまくいかなくてもじっと眺めては「ガンバレ」「アトスコシ」「ウマイウマイ」と言うだけで食べさせてくれるのはずっと後なのだ。


つらくて声をあげるとたまにこれまでのようにしてくれたが、その回数も少なくなった。だが大事なわたしはそこで終わらなかった。オトモチャンにしてもらわずに自分ですると嬉しいことに気づいたのだ。これまでのわたしとはバイバイした。


着替えは好きな桃色の服を選ぶことができ、眠る時は好きな猫の本を布団の持っていって読んだ。ご飯はスプーンいっぱいに乗せたご飯を大きく口を開けて頬張るとほっぺたがぷっくり大きくなって面白いのだ(オトモチャンは困った顔をしたけれど)。



自分でするようになって彼らは「すごい」「よくできたね」「えらい」と言うことが増えた。そう言われるとわたしはおもわずエヘヘと笑ってしまう。




今の好きなものはバスだ。大きく、速くて、四角い。オソトに行くときはオカアチャンとオトウチャンに乗りたいといつも言っているけれど「もうすぐ乗れるからね、きっとサッチが好きな桃色のバスだよ」と返すばかりだ。


バスに乗るためにはセイフクを着るらしい。スカートがかわいい服で、寝たら明日の朝に着るのだと言う。オトウチャンが何度も何度も話してきてすっかり覚えてしまった。オカアチャンはおともだちといっぱい遊べるよと言っていて楽しみだ。バスにだってわたしはひとりで乗れるだろう。



4月〇日の日記

今日はさっちゃんが初めてバスに乗って幼稚園に行った。親としてまた一つ役目を終えたと言えるのではないだろうか。しかしひとり立ちしてくれるまではまだまだ先だし、私も親として成長する必要があるだろう。これまでのさっちゃんありがとう。幼稚園児のさっちゃん、これからよろしくね。


おわり

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オトモの態度が変わっても私の大事は変わらない 和登 @ironmarto

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